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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第一章 邪魔するおばさん編
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あるある006 「悪ふざけが過ぎがち」

朝陽が差す頃に目を覚ます。

ボロ宿はすっかりお化け屋敷感はなくなって風情を醸し出している。

こう言う廃墟感を好む人もいるが俺は遠慮願いたい。

そこへネグリジェを来たセリーヌがやって来た。


「カイトさん、おはようございます。今朝は早いのですね」

「ああ、昨夜はぐっすり眠れたからな」

「それにしては目下が黒ずんでいるようですけれど……」

「朝陽のせいだよ」


俺は慌てて顔を隠しながら誤魔化す。

正直言うと一睡もできなかった。

出るかもしれないお化け屋敷の中で熟睡できる奴はいないだろう。

そんな奴は相当な神経の持ち主だ。


「今日は天気がよくなりそうですね」


セリーヌが廊下の窓を開けて外の空気を取り込む。

朝陽が容赦なくセリーヌを照らしてネグリジェの下から肌が見え隠れする。

セリーヌのサラサラの銀色の髪が風に靡いて香りを運んで来る。

その様子はまるで天使が空から舞い降りて来たような姿だった。


ゴクリ……。


これはこれでおいしいひと時だ。

セリーヌはおばさん達の中でも一番品があって美人。

おまけに一番の巨乳でたわわなおっぱいがネグリジェの下からでも伺える。

俺がまじまじとセリーヌを見ていると大部屋の扉が開いた。


「なんだ、もう起きていたのかセリーヌ」

「あら、エレンさんもお目覚めですか?」

「ちょいとトイレにな」


なんて品のない目覚め方なんだ。

セリーヌとおなじおばさんとは思えない。

天と地ほど差だ。

もっとデリカシーを持てよエレン。


「カイトもいっしょか」

「俺がいちゃ悪いか?」

「どうせ怖くて昨夜は一睡もできなかったのだろう?」


ギクリ。


なんて鋭い奴なんだ。

俺のビビりな性格をズバリあてるなんて。

侮れない。

俺はジト目でエレンを見やる。


「何だ、カイト。私に惚れたのか?」

「何言ってやがる。そんな訳あるか!」

「我慢しなくてもいいんだぞ」


エレンは俺の肩に腕を回してたわわな胸を惜しみもなく押しあてて来る。

その柔らかな感触に一瞬、クラッと落ちそうになったが。

遠のく意識を確かに持ってエレンを振り払った。


「我慢なんかするか!離れろ!」

「初心だな。カイトは」

「朝から元気ですね。お二人とも」


セリーヌは大きく伸び上がると深く深呼吸をした。


「元気なのはエレンだけだよ」

「カイトと違って昨夜はぐっすり眠れたからな」

「カイトと違ってが余計だ」

「図星だろ?」

「そんな訳あるか。俺だって熟睡したさ」


強がる俺を見透かすような目で見やるエレン。

湧き上がる尿意に急かされて慌ててトイレに向かう。


「そうだ。トイレだトイレ」

「朝から騒がしい奴だ」


俺達のやり取りを見ていたセリーヌはクスクスと小さく笑った。


「それで朝食は何時からなんだ?」

「朝食は8時からですわ」

「あと1時間もあるのか。散歩でもしてくるかな」

「なら、私もご一緒させていただいてもよろしいですか?」

「別に構わないけど」

「よかった。じゃあ、準備をして来ますわね」


セリーヌは部屋に戻ると薄いローブを羽織り戻って来た。


「さあ、行きましょう」

「恥ずかしくないのか。そんな格好で?」

「裸じゃありませんもの。恥かしくありませんわ」


おばさんにもなるとネグリジェ姿だけでも恥ずかしくなくなるのか。

まあ、セリーヌはローブを羽織っているものの男性の視線は集めそうだ。

もしかしてセリーヌはMなのか。

見られることで興奮するタイプなのかもしれない。

そんなあらぬことを考えているとセリーヌが俺の顔を覗き込むように見やった。


「どうされましたか、カイトさん。そんなに赤い顔をして?」

「べ、別に何でもないよ。さっさと行こうぜ」

「そうですか。なら、いいですけれど」


俺とセリーヌは一階に降りてボロ宿の庭に出た。

庭の中央に噴水があり石畳の道が十字に敷かれてある。

植え込みは幾何学模様をしており綺麗に刈り取られている。

ボロ屋の割には豪華な庭園だ。

俺とセリーヌは植え込みで出来た通路を歩いて行く。


「きれいな庭園ですわね」

「ボロ宿にしては目を見張るな」

「これが売りなのかもしれませんわね」

「庭園に金をかけるならボロ宿を何とかしろって言いたいよ。おかげでこっちは……」

「こっちは何です?」

「何でもないよ」


ポロリと零しそうになった本音を飲み込んで慌てて誤魔化す。

ここで”怖くて一睡もできなかった”といったら馬鹿にされるだけだ。

セリーヌはそんなことはしないだろうが、エレンの奴は水を得た魚のように弄ってくるだろう。

エレンはそう言う奴だと思う。


「カイトさんは勇者になりたいと言っていましたけれど仲間はいるのですか?」

「まだ、いないよ」

「そうですか。これから先、冒険をするならば仲間は必要ですわよ」

「わかってる。だからアインの街へ行こうと思っていてね」

「仲間ならセントルースでも見つかるのではありませんか?」

「それはそうなんだけど、アインの街の方が都合がいいんだよ」


セリーヌのツッコんだ質問に動揺しながら慌てて答える。

こんなところで特殊能力の話になれば馬鹿にされるのは目に見えている。

たとえ、セリーヌが上品であっても特殊能力のことは話してはならない。

きっと特殊能力のことを知ったら態度を豹変させるはずだ。

他の奴らと同じようにお腹を抱えて笑い転げるだろう。

俺は誰も信じない。

これまでにも親友たちに裏切られて来たのだ。

ガッシュもエミルも、それに弱虫のマルクにさえ。

とりあえず特殊能力の話になったら”チャーム”と答えておけばいい。

惹きつけると言う意味では同じだからな。


「カイトさんさえよろしければ私達といっしょに冒険しませんか?」

「へ?」

「カイトさんとはじめて会った時から何か惹かれるものを感じてしまって。恥かしい話なのですが、もっとカイトさんのことを知りたいなって」

「それって……」


セリーヌは頬を赤らめて俯く。

もしかしてセリーヌは俺に惚れているのか?

でなければ”もっと知りたい”なんて思わないはず。

セリーヌはおばさんだけれどそこらのおばさんとは別格だ。

美人だし胸は大きいし優しいし品がある。

恋人にするには惜しい。

しかし、はじめてがおばさんだなんて抵抗がある。

やっぱりはじめては2コ下の可愛いくて胸の大きい彼女が理想だ。

けれど、これはある意味チャンスなのかもしれない。

セリーヌ達の実力はまだわからないが、エレンの強さは本物だ。

これから冒険をはじめるにあたっても強力な仲間がいた方が心強い。

それにパーティーのバランスがとれている。

エレンが剣士で、セリーヌがプリ―スト、アンナが魔法使いで、ミゼルが弓使いだ。

遠近攻撃や魔法にも対応できる。

初心者には一番いいバランスのとれたパーティー構成だ。

アインの街に行って仲間を探すにしても特殊能力のことでつまずくだろう。

それならばセリーヌ達を仲間にして冒険をした方が都合が良さそうだ。

ただ、気になるのはセリーヌ達がおばさんと言うことだ。

いっしょに歩いているだけで人目を惹いてしまう。

同級生と鉢合せしたら間違いなく”熟女バーのオーナー”といじられるだろう。

どうするか……。


「カイトさんはお嫌ですか?」

「嫌なんてことはないけれど、ただ……」

「年の差を気にしていられるのですか?」


セリーヌは悲しそうな目をして俺を見つめる。

そんな目で俺を見るなよ。

それじゃあ俺が一方的に嫌っているみたいじゃないか。

正直、年の差は気になる。

気になると言うか、それが一番のネックだ。

セリーヌ達はどう見てもアラサーだ。

俺はピッチピチの16歳。

俺の倍も生きているおばさん達といっしょに冒険するなんて抵抗があるだろう。


「無理を言ってもカイトさんが困ってしまいますわよね。ごめんなさい」

「謝るなよ。セリーヌは間違ったこと言っていないんだから」

「けれどいっしょに冒険は出来ないのでしょう?」

「考える時間をくれ」

「いつまで待てばいいのですか?」

「明日、答えを出すよ。それまで待ってくれ」

「わかりましたわ」


これじゃあ恋人同士の会話じゃないか。

いつ俺はセリーヌと付き合ったんだ。

いやいや、そんなことより。

つい流れで約束をしてしまったが明日までに答えを出さなければならなくなった。

まずい。

そんな短時間で答えを出せるほど簡単な話ではない。

これは俺の名誉がかかっているのだ。

勇者になるには冒険が必要だ。

冒険には仲間が欠かせない。

しかし、俺の特殊能力のせいで仲間になってくれる奴はいない。

だけど、セリーヌ達は無償で仲間になってくれると言う。

それならば乗らない話はないだろう。

ここまではいい。

問題はおばさんと一緒に冒険を出来るかだ。

青春をおばさんに捧げることになるのだ。

簡単には返事を出来ない。

あと1日。

じっくり考えよう。





朝食はセリーヌとの話が議題に上ることはなかった。

昨日のことやくだらない雑談が中心だった。

セリーヌは終始、俺を意識しているような素振りを見せていたのだが。

エレン達には気づかれずに済んだ。

ここでエレンにでもバレれば強引に話を持って行かれただろう。

俺の意志よりも自分の興味の方が優先なのだ。


「何だ、カイト。私の顔に何かついているか?」

「別に何でもないよ」

「変な奴」

「それより今日はどうするの?」

「朝から酒でもやるか?」

「冗談は顔だけにしておけ、エレン。お前の介抱はもう嫌だからな」


エレンの言葉を受けてミゼルが本気のツッコミを入れる。

エレンはいつも酒に酔うとあんな感じなのだろう。

ミゼルの言葉には実感と言う重みがついているように聞こえた。


「やることがないならショッピングにでも行きませんか?」

「ショッピングか。悪くないわね」

「セントルースに来てから買い物はしていないからな」

「なら、決まりだ。ショッピングに行くぞ。カイト、お前はどうする?」

「俺は……」


エレンの誘いに迷っていると、アンナが強引に誘って来た。


「一緒に行きましょう。どうせすることないんだしね」


勝手に決めるな。

俺にだってやることはあるんだ。

まあ、でも考えてばかりいても煮詰まるだけだし気分転換にはなるだろう。


「で、どこへ行くんだ?」

「まずは服飾店だな。新しい服が欲しい」


新しい服って、エレンはそのビキニアーマーが一張羅なんだろう。

いつ服を着るつもりだ。


「それに装飾品店も行きましょう。流行りの商品を抑えておきたいわ」


おばさんが流行に乗っても流行の波に飲み込まれるだけだ。

”無駄なあがきは止めておけ”、と小さく呟く。


「装飾品もいいが私はお土産屋に行きたいな。せっかくセントルースに来たんだしセントルースならではのものが欲しい」


シブいな、ミゼル。

しかし、お土産って言うのはお土産を待っていくれている人に買って帰るものが普通なんだ。

自分でお土産を買っても虚しいだけだろう。


「私は占いの館に行きたいですわ。今後のことを占ってみたいです」

「占いか。いいな!最近、ツイていないからな。占いでご教授してもらうのもいいな」


ツイていないのはお前の酒癖のせいだろう、エレン。

ツイていないのは俺の方だ。

ぼったくられるわボロ宿に泊まるわで散々だ。

俺の人生はいつからこんな風になってしまったんだ。

セントルース騎士団学校にいた頃はこんなんじゃなかった。

リーダー格のガッシュに続く片腕としてクラスでは人気を博していた。

ガッシュほどの腕力はなかったが、その分、知性で差をつけた。

ガッシュが力ならばエミルは知性。

俺は二人を合わせたような能力を発揮していた。

バランス型とも言うべきか。

成績も上の中だった。

実戦訓練では特に際立った。

ガッシュをリーダに俺、エミル、マルクの4人のパーティーは最高のメンバーだった。

学生では難敵であるサラマンダーの討伐に成功したのだ。

サラマンダーは火を吐く大蜥蜴の一種。

まだ、子供ではあったのだが学生が倒せるモンスターではなかった。

運が良かったと言うこともある。

サラマンダーの子供は冒険者との戦闘で怪我をしていたのだから。

俺達は生き残りを狩ったと言う訳だ。

運も実力のうち。

そのことで学校から表彰されるまでに至ったのだ。

あの頃の俺は輝いていた。

しかし、今は何だ。

おばさん達に翻弄されてズタボロになっている。

これもそれもエレンに出会ってしまったからだ。

俺の運はエレンに飲み込まれてしまったのかもしれない。

この先に新しい未来が切り開けるのか占ってもらいたい。


「それじゃあ、まずは服飾屋からだ」





セントルースの服飾屋は豪華な装飾の施されたブランド店だった。

ラビトリス王国でチェーン店を展開している有名ブランドのひとつ。

ラビトリス城のヴィレッタ王妃がこの店の服を纏ったことで話題となった。

今ではヴィレッタ王妃のファッションを真似ることがラビトリス王都で流行っている。


「さすがは品揃えがいいな」

「これだけあると迷いますわね」


ガラス越しに服飾店の店内の様子を伺うエレン達。

目を輝かせながら煌びやかな服飾に目を奪われていた。


「何だよ、ここ。女ものの服ばかりじゃないか」

「何だ、カイトも買うつもりだったのか?」

「別に買う訳じゃないけどさ」

「なら、私達の服を選んでもらおうよ」

「何で俺が」


ひとり嫌そうにしているとエレンが茶化して来た。


「何だ、カイト。照れているのか?」

「照れる訳ないだろう。おばさんの服なんか見ても何にも思わないよ」

「それは残念ね。せっかく男子の意見も参考にしたいと思ったんだけど」

「なら、お前はここで留守番だな」


ハッキリ言うな、ミゼル。

わかったよ、俺はここで留守番をしているさ。


「せっかく来たんですし、カイトさんもいっしょに入りましょう?」

「セリーヌ、そんな無理を言うものじゃないわ。どうせカイトには私達の服の良さはわからないから」


誰がわかるかよ、おばさんのファッションなんか。

すると、エレンが俺の肩に腕を回して強引に店に引きずり込んだ。


「お、おい。ちょっと待て!」

「いらっしゃいませ」


店内に入ると品のある美人の店員が畏まったように挨拶をして来る。

さすが有名ブランド店だけあって店員もクオリティーが高い。

見た目もさることながら物腰がソフトでしなやかだ。

おばさんもこれくらい品があれば煙たがれることもないのだが。


「どのようなお洋服をお探しでしょうか?」

「パーティー用の服を新調しようかと思っていてね」

「パーティー用ですか。それならばこちらです」


美人で物腰の柔らかい店員に案内されて店の奥へ向かう。

すると、全部で100着ぐらいあるだろうか。

パーティー用の服専門のコーナーまでやって来た。

エレン達はすぐさま反応してドレスを手に取って合わせる。


「最近の流行りはヴィレッタ王妃が誕生祭でお召しになられた、こちらの桜色のドレスが人気です」

「素敵な色ね」


アンナは目を輝かせながらドレスを体にあてる。

まるで子供が新しいおもちゃを買ってもらった時のようなテンションだ。

洋服一つでこれだけテンションが上がるなんておばさんってのも結構チョロイのかもしれない。


「そのドレス、結構、胸がザックリと空いているな」

「このくらいセクシーな方が男性ウケけするわ」

「アンナ、そのドレスを着てみろよ」


エレンに急かされてアンナがドレスを持って試着室に入る。


「あのドレス、アンナさんに似合いますわ、きっと」

「アンナは着やせするタイプだからな」

「どれどれ」


エレンが試着室にそっと近づいてガバッとカーテンを開ける。

すると、そこに下着姿のアンナの姿があった。


「キャー!何するのよ、エレン!」

「何だ、まだ着替え中だったのか」

「何が着替え中よ。わざとやったでしょ!」


アンナはドレスで胸を隠しながら座り込んでいる。


「エレンさん、冗談が過ぎますわ」

「カイトも興奮しているぞ」

「だ、誰が興奮するかよ!」

「顔が真っ赤じゃないか」


エレンは俺の様子を見ながらお腹を抱えて笑い転げる。

こいつはじめからそのつもりで俺を店の中へ連れ込んだな。

なんて質の悪いおばさんなんだ。

しかし、ちょっとだけアンナの姿に興奮してしまった。

ちょっと、ちょっとだけだぞ。


「俺は外で待っている!」

「あ~あ、カイトを怒らせちゃったよ」

「あのくらいで怒るなんてカイトもまだまだ子供だな」


エレンは悪びれた様子もなく俺を子供扱いする。

まあ、エレンからしてみたら俺は子供なのかもしれないが。

頭ごなしに言われるとムッとする。

そんなエレンン言葉を耳にしてムカムカしながら表に出た。

そしておばさん達はショッピングを続ける。

俺はひとり店の外で待ちながら時間を過ごした。

しかし、いく時間過ぎようともおばさん達は出て来ない。

何かあったんじゃないかと心配しているそばでおばさん達の笑い声が聞えて来た。

結局、服飾店には1時間も滞在したのだった。


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