あるある067 「暗がりを非常に怖がりがち」
丑三つ時。
キルはさっそく行動を開始する。
カイト達はぐっすり眠っていて起きる気配はない。
頂戴するのはカイト達の食料だ。
ひとりにだけ集中するとすぐにバレてしまうから、みんなの分を満遍なく頂いた。
「モグモグ……うまい」
こんなに美味しい食事をしたのは何時ぶりだろう。
カイト達と出会った時にごちそうしてもらった料理ぐらい美味しかった。
すると、不意にカイトが寝返りをうった。
「セリーヌ……そこだよ。もっと激しく……。そうそう……あはっ」
カイトはいやらしい顔をしながらひとり寝言を言っていた。
「どんな夢を見ているんだ、カイトは」
カイトの分だけ多めにくすねておこう。
これは自分をのけ者にした罰だ。
いつもリーダーぶって偉そうにしているからいけないんだ。
少しは痛い目を見てもらわないと割に合わない。
ついでに水も減らしておこう。
キルはカイトの水筒の水を辺りに振り撒いた。
「これですっきりした」
キルはカイト達とは離れた住居跡で夜を明かした。
翌朝、目覚めた俺達はさっそくカギを探し回った。
しかし、どこを探せどカギらしきものは見当たらない。
やはり生き残った島民が持って行ってしまったのだろうか。
「ないな」
「これだけ探しても見つからないなんて、もうここにはないのかもしれませんね」
「仕方ない。一度シーボルトの所へ戻ろう」
「結局、くたびれもうけだったか。カイトの作戦はいつもハズレばかりなんだよな」
エレンは気の抜けたような仕草で大きな岩に腰を下ろす。
「そんなことありませんわ、エレンさん。ここに何もないことがわかっただけでも大きな収穫です」
「セリーヌの言う通りだ。ダンジョンは気になる所だが、これで島の調査は終わりだ」
「これでやっと酒にありつける。長かったな……この3日間は」
「それじゃあシーボルトの所へ戻るぞ」
俺達は荷物を纏めてシーボルトのいる島の西側へ向かう。
森の中の樹々に印をつけて来たので帰り道は迷うことがない。
半日をかけてようやくダンジョンの入口まで辿り着いた。
「カイト、少し休もうぜ。疲れた」
「らしくないな、エレン。いつもの元気はどこへ行った?」
「体からアルコールが抜けて力が湧かない」
エレンはその場にへたり込んで両足を投げ出す。
そのだらしない格好にこっちまでやる気が失せて来る。
俺は力なく座り込むと水筒の水で喉を潤した。
今度からは酒は常備しておかないといけないな。
エレンのやる気を出すのは酒しかないようだから。
すると、茂みの中からカサカサと物音がした。
「ワン、ワン!」
トイプーはすぐさま反応して嬉しそうに茂みの中へ駆けて行く。
「おい、トイプー。あっちへ行けよ。バレちゃだろう」
キルは声を押し殺しながら呟くとトイプーを追い返そうとする。
しかし、トイプーは纏わりついて離れようとはしなかった。
「おい、キル。隠れていないで出て来い」
俺の呼びかけに答えてキルが茂みの中から顔を出す。
「何だよ、知っていたのか?」
「俺達の食料が減っていたし、水筒の水も少なかったからな」
「それならすぐに呼び出せばよかったじゃないか」
「気づかないフリをして泳がせていたんだ」
「ちぃ。性格が悪いな、カイトは」
「これもガキの扱い方のひとつだ」
そんな扱い方がある訳ではない。
ただ無鉄砲なキルを嗜めるには必要な方法なのだ。
「それでキルは満足出来たのか?」
「ただお腹が減ったこととくたびれただけだ」
「残念だったな。島の調査なんてそんなもんだよ。モンスター討伐になればもっと楽しいけどな」
「本当か?なら、俺も連れて行ってくれ」
「ダメだ。エレンも余計なことを言うんじゃない」
身を乗り出して来るキルの顔を押しのけてエレンを叱りつける。
「でも、カイトさん。いずれはキルさんにもモンスター討伐の経験を積んでもらわないといけませんわよ。今よりも強くなるには通らなければならない道ですから」
「キルにはまだ早い。それにキル達は虹の家で暮らすことになるんだ。ヤナックに戻ったらお別れだ」
俺の言葉にキルはシュンとして小さく縮こまった。
これは俺達のためではない。
あくまでキル達の将来のためなのだ。
キルが本当に冒険をしたいのなら16歳になって特殊能力を開花させてからでも遅くはない。
それまではマーベルの所でみんなと一緒に勉強することが一番いい方法なのだ。
「それじゃあもう行くぞ」
「カイト。それがダンジョンの入口か?」
「そうだ。だけどカギがないから開かないけどな」
すると、おもむろにキルが海岸で拾ったZ型の石を差し出した。
「カギってこれじゃないのか?」
「おい、それを見せてみろ」
俺はキルの手からZ型の石をはぎ取りじっくりと観察する。
鋭角に削られたZ型の石は青い光沢を放っている。
表面は綺麗に磨かれて滑らかだ。
形から察するにダンジョンの入口のカギである可能性が高い。
俺はダメもとでダンジョンの入口の窪みにはめ込んでみた。
すると、Z型の石はピタリとはまり込んでガクンと沈み込んだ。
そしてまばゆい青い光を放ちながら静かに1回転をするとガチャリとロックの外れる音がした。
「おい、エレン。そっちの扉を押してくれ」
「よし、わかった」
俺は右の扉を、エレンは左の扉を押した。
石の扉は鈍い音を立てながら静かに開く。
そしてダンジョンに通じる入口が姿を現した。
「やったな、カイト!」
「ああ、こんな所で幸運に恵まれるなんてな」
「これは俺のお手柄だからな」
「はいはい。そう言うことにしといてやる」
俺はダンジョンの入口から中を覗き込む。
しかし、中は真っ暗で何も見えない。
代わりにひんやりとした風が吹いて来た。
「本当に、この中に入るのですか?」
「そうだ。何か問題でもあるのか?」
「いえ、ちょっと気味が悪いなって……」
「セリーヌ、ビビッているのか?」
「そうではありません。妙に嫌な予感がするんです」
セリーヌはマジマジとダンジョンの奥を見つめながら身震いをする。
確かに暗がりを見れば不安が掻き立てられるものだ。
だからと言って、その先に不幸があるとは限らない。
シーボルトの言っていた通りお宝が眠っているかもしれないのだから。
俺は逆に、この暗さにワクワクが止まらない。
まだ見ぬお宝が待っているように思えるからだ。
「よし、俺とエレンとセリーヌはこのままダンジョンの調査に向かう。キルはトイプーといっしょにシーボルトの所へ戻れ」
「また、俺だけのけ者かよ」
「ダンジョンの調査なんてお前にはまだ早いからな。それにシーボルトに船を島の東側に回してもらわないといけないからな。お前は案内役だ」
「そんなしょうもないことばかり頼むなよな」
「何がしょうもないんだ。これば大事な役目だぞ。拠点を東側に移せば調査の時間を大幅に伸ばすことが出来るのだからな」
この判断は俺達にとって重要なことなのだ。
島の東側には水があるから、しばらく島に滞在できる。
しかも、海の生き物を狙えば食料にも事欠くことがないのだ。
その上、足手まといなキルを追い払う口実も出来るし万々歳なのだ。
「結局、カイトは俺が邪魔なだけだろう」
「俺達はチームなんだ。だから、みんながそれぞれの役割をこなす必要があるのだ。お前はダンジョン調査よりも生命線の開拓が向いている。まずはチームのことを考えて行動しろ」
「ふん。何がチームだよ。都合のいいことばかり並べやがって」
キルはひとりふて腐れて落ちていた石ころを蹴った。
石ころはカランカランと音を立ててダンジョンの奥へ転がって行く。
すると、ただならぬモンスターのうめき声が聞こえて来た。
「ひーっ!」
キルは思わず飛び上がってエレンにしがみつく。
それを見ていた俺は諭すように伝えた。
「わかったろ。これがダンジョンだ」
「い、今のは不意をつかれただけだ。だ、誰がこんなことくらいで怖がるものかよ」
「やせ我慢はよせ。膝がガクガクじゃないか」
「そ、そんなことあるかよ。こ、これは武者震いだ」
これでキルの仕事は決まった。
シーボルトと生命線の開拓だ。
俺達は縋りつくキルを押しのけてダンジョンへ入って行く。
灯かりがないので壁に手をあてながら前に進む。
もし、ダンジョンが迷路のような複雑な造りになっていても迷わずに出口まで行ける方法だ。
「エレン、セリーヌ。逸れるなよ」
「何でビビりのカイトが先頭なんだよ」
「それは俺がリーダーだからだ。お前に先頭を任せるとどこへ行くかわからないからな」
キルは俺達が見えなくなるまで見送ってからシーボルトの所へ向かった。
もちろんトイプーを連れてだ。
シーボルトが拠点を移してくれることは大いに力になる。
だからキルにはしっかり働いてもらわないといけないのだ。
ダンジョンに入ってからどのくらい歩いただろうか。
俺達は初めの扉の前へ辿り着いた。
「ここに扉がある。おそらくここからが本当のダンジョンの入口だ。心してかかれよ」
「そんな御託はいい。とっとと開けろ」
俺の制止を振り切ってエレンは初めの扉を開ける。
すると、中からただならぬ気配が流れ込んで来た。
「これは中に何かいますわね」
「やっとモンスターのお出ましか。腕が鳴るぜ」
エレンは肩を回しながら大剣を振り回す。
「お前はもうちょっと緊張感を持て」
「戦いを目の前にして緊張なんてしていられるかよ。久しぶりに暴れられるんだ。楽しみでしょうがない」
その強気な発言が裏目に出なければいいが。
そんなエレンとは打って変わってセリーヌはひどく怯えていた。
ただならぬ気配のせいなのか、いつものセリーヌとは違っている。
血の気が引いたような青い顔をしながら小刻みに震えていた。
「おい、セリーヌ。大丈夫か?」
「私はこの先へ進まない方がいいと思います。嫌な予感しかしませんから」
「なら、セリーヌはそこで待っていろ。私がモンスターを倒して来る」
ひとり先に進もうとするエレンの腕を掴んで引き留める。
「何だ、カイト。邪魔をするな」
「自分勝手な行動は慎め。俺達はチームなんだ。だからみんなで行動しないといけないんだ」
「また、それかよ。どいつもこいつもビビりやがって」
「カイトさん。私は大丈夫です。前へ進みましょう」
無理は言わないがセリーヌが決めたのだからそうしよう。
俺達は初めの扉を抜けてダンジョンの奥へと足を向けた。
通路はすぐに終わり下へと続く階段へ出た。
階段を下って行く度にただならぬ気配は強くなって行く。
それは気配だけでなく空気も淀んでいた。
「灯かりが見えるぞ」
地下一階に辿り着くと魔光石で出来た灯かりが辺りを照らしていた。
壁面も地面も天井も何かでえぐり取られたような形状をしている。
人の力では出来ないような状態だ。
それに枝葉のように道が分かれている。
魔光石で照らされている道を縫うように横穴が続いているのだ。
「この穴は人が造ったと思うか?」
「人が造ったものなら規則性がありますけれど、この穴にはそう言ったものを感じません」
「なら、モンスターだな」
「モンスターって言ってもどんなモンスターなんだ。穴を掘るなんて」
「土竜か何かの類だろう」
確かに以前駆除した穴土竜ならば地中に穴を掘ることは出来るだろう。
しかし、穴土竜のサイズから見ても、こんな大きな穴は空けられない。
ならば穴土竜を凌ぐモンスターがいるってことになる。
いずれにせよ危険であることには変わりない。
俺達は横穴を避けて魔光石が灯っている道を進んで行った。
「止まれ!何にかいるぞ」
急に前を歩いていたエレンが足を止める。
そして道の先を覗き込むように伺う。
すると、道の先から這いずるような音が聞えて来た。
「エレン、何か見えるか?」
「おいおいおい。こいつはデカいぞ」
目の前に姿を現したのは巨大な蚯蚓だった。
穴を塞ぐように広がって気持ちの悪い触手を伸ばしている。
その姿を見るなりセリーヌが悲鳴を上げた。
「キャーッ!気持ち悪い!こっちに来ないで!」
確かに見た目はグロテスクだ。
ぶよぶよとした軟体の体には粘液が纏わりついて異臭を放っている。
目はなくて代わりに口から黄色い触手が何本も伸びていた。
まるで獲物を弄るかのようにワサワサと動いている。
これはセリーヌでなくても気持ち悪いと思うのが普通だ。
俺もジリジリと後退しながら小剣を構えた。
「こんな狭い所じゃ戦いようがない。いったん引くぞ」
「敵を目の前にして尻尾を巻いて逃げるつもりか?私は戦うぞ」
「冷静に考えろ。こんな所じゃまともに戦えないだろう」
辺りを見回しても通路の直径は5メートルあるかないかぐらい狭い。
その上、大蚯蚓の大きさは通路を塞ぐほど大きいのだ。
背後に回り込むことも頭上に飛び上がることも出来ない。
そんな劣悪な環境の中で戦うことは無謀でしかない。
エレンがいくら強いからと言っても苦戦を強いられるのは目に見えている。
「状況が不利な方が燃えて来るんだよ。カイト達は下がっていろ」
「お前はドMか?」
「お言葉に甘えさせてもらいますわ。エレンさん、任せましたわよ」
セリーヌは怯えながら後退して距離をとる。
「仕方ない。俺も戦うぞ」
「カイトじゃ無理だ。下がっていろ」
「エレンの大剣よりも俺の小剣の方が狭い所では有利だ」
「ふん。遅れはとるなよ!」
エレンは大剣を中段に構えて大蚯蚓に向かって飛び出す。
そして大蚯蚓の黄色い触手を切り裂くように大剣を払った。
しかし、大蚯蚓は大剣が触れる瞬間に粘液を出して勢いを殺す。
エレンの攻撃は確かな感触をつかむことなく受け流されてしまった。
「ちぃ、やるな」
エレンは後ろに飛びのいて体制を整える。
「カイト、奴は思っている以上に手強い。気をつけろ」
「そんなの百も承知だ!」
俺は小剣を上段に構えながら大蚯蚓に切りかかる。
すると、大蚯蚓が臭い粘液の弾を弾き飛ばした。
俺は避けるまもなく粘液に包まれる。
「何だよ、これ。くせーっ」
粘液は俺の体に纏わりついて動きを鈍くさせる。
それよりも何よりも臭過ぎて鼻が捥げそうだ。
「ひゃー、やったなカイト。しばらくそこで見ていろ」
エレンは大剣を握り直すと切っ先を大蚯蚓に向ける。
ここまで見てわかったことは大蚯蚓の攻撃手段は粘液と触手だと言うこと。
粘液は体に纏わせることをはじめ粘液を飛ばすことも出来る。
身を隠せるところがない場所だけに戦い方も限定されてくる。
あの粘液攻撃は防ぐことは出来ない。
だから、粘液を飛ばされる前に攻撃をしかけないといけない。
しかし、攻撃を加えても瞬間的に粘液のバリアを作られてしまってはダメージも与えられない。
この環境では大蚯蚓は無敵と言ってもいいだろう。
大蚯蚓の弱点さえわかれば戦いようがあるのだが。
「戦いってのはな実戦で覚えるものなんだよ!」
エレンは一気に間合いを詰めて大蚯蚓の目の前に移動する。
そして閃光の如く鋭い刺突を大蚯蚓の触手を目掛けて放った。
大蚯蚓は瞬間的に粘液のバリアを作って刺突の勢いを押し殺す。
「くぅ、またか」
続けざまに大蚯蚓は触手を伸ばしてエレンを捕まえた。
「おい、エレン!」
大蚯蚓の触手はエレンの手足に絡みついてキツク締め上げて行く。
たまらずにエレンは大剣を落とした。
「この野郎、エレンを離しやがれ!」
俺は纏わりつく粘液を飛ばしながら大蚯蚓に切りかかる。
しかし、再び粘液の弾に弾き飛ばされてしまった。
「くぅ……。くせーっ」
これじゃあキリがない。
やっぱり撤退するのが一番か。
エレンは捕まっているし、そもそもセリーヌは戦意を喪失している。
ここはエレンに犠牲になってもらって時間を稼いでいてもらうのが一番だ。
「おい、エレン。撤退するぞ!」
「撤退ってな。私は捕まっているんだぞ」
「お前はおとりだ。俺達が安全に逃げられるまで時間を稼いでくれ」
「私を見捨てるつもりか?」
そうだ。
俺は無言のまま大きく首を縦に振って応える。
すると、エレンは呆れ顔でがっくりと肩を落とした。
これは仕方のない犠牲なのだ。
エレン、俺達の分まで頑張ってくれ。
俺が大蚯蚓に背を向けて立ち去ろうとした時、エレンが艶のある吐息をこぼしはじめた。
振り返ると大蚯蚓の黄色い触手がエレンの体をいやらしく弄っていた。
「なんとー!」
こいつは男子なら一度は憧れる触手プレイではないか!
しかも粘液にまみれていっそういやらしく見える。
エレンは触手にビキニアーマーをはぎ取られてほぼ裸。
大事なところはかろうじて触手が隠していた。
ハアハアハア。
俺は興奮しながら涎を垂らして惨劇を見守る。
心の中で小さくガッツポーズをしていたことは内緒にしておこう。
「ハアハアハア。カイト……こいつを……何とか……アッ」
エレンも感じているじゃないか。
大蚯蚓は意外にテクニシャンだな。
もっと俺を興奮させてくれ。
俺がひとり触手プレイに見とれていると後ろから冷たい視線が突き刺さった。
恐る恐る振り返ると死んだ魚のような目で俺を蔑むようにセリーヌが睨んでいた。
「セ、セリーヌ。これは違うんだよ。お、俺は作戦を考えていただけなんだ」
その後は言うまでもない。
セリーヌの往復ビンタが俺の頬に入ったのだ。




