あるある060 「多額の借金を背負いがち」
俺達がキル達を保護した後、ゴロツキ達は尻尾を巻いて逃げて行った。
あの様子からするとアブダルにこってりと絞られたことだろう。
何せ手ぶらで帰って来たのだから。
そしてそれから3日後。
エレンは無事に回復を果たした。
まだ本調子でない顔をしていたが心配ないだろう。
さっそく俺達は荷物を纏めて旅立つ準備をはじめる。
「この宿にも長いことお世話になりましたね」
「住めば都。名残惜しいものがあるな」
「カイトだけ残っていくか?」
「何を言っているんだ。カイト軍団には俺がいないとはじまらないだろう」
「そうですわね。主役がいないと締まらないですからね」
「わかっているじゃないか、セリーヌ」
気を利かせたセリーヌの言葉にすっかり心をよくする、俺。
ようやくセリーヌ達にも俺の重要性が伝わって来たようだ。
なんて言ったてリーダーなんだからな。
俺がひとり得意気にしているとエレン達はそそくさと部屋を出て行った。
「ちょ、待てよ」
どこかで聞いたようなセリフを言ってエレン達の後を追う。
荷物を抱えたまま階段を降りて1階へと向かう。
すると、ミト婆さんが請求書を片手に待ち構えていた。
「今日が旅立ちかい?」
「長いことお世話になりました。おかげさまでゆっくり過ごせましたわ」
「それじゃあこれを払ったもらおうか」
ミト婆さんは請求書を俺の前に差し出す。
「金貨20枚だって!高過ぎやしないか?」
「何を言っておる。お前達の宿泊代、飲食代、酒代、おむつ代、ミルク代、ペット用のエサ代に延長料金そのたもろもろ。これでもまけておるのじゃぞ」
「それにしたって。普通なら金貨10枚が妥当じゃないか。それを金貨20枚だなんて」
「払わないつもりならば警察を呼ぶぞ」
俺の足元を見てミト婆さんが吹っ掛けて来る。
この婆さんも根性が悪い。
おばさんの成れの果てがこれならば末恐ろしい。
世も末だ。
「仕方ありませんわ、カイトさん。銀行で借りて来ましょう。当面の旅費も必要ですし、エレンさん武器も直さないといけませんからね」
「はーぁ。コロセウムで優勝していたら……」
「今更、言うか。そんなこと」
「お前は気楽でいいよな。リーダーにもなると責任が――」
文句を垂れる俺を遮ってエレン達は銀行へ向かった。
銀行はどの街にでもある便利な金融機関。
貯金をはじめ融資や投資も手掛けている。
投資や融資は金持ちや会社が対象だけれど。
ほとんどの人は貯金をするため利用しているのだ。
俺もセントルース騎士団学校に通っていた頃にお世話になったことがある。
旅立ちのおこずかいは俺達が学生時代に稼いだお金を貯金していたものだ。
まあ、でも、そのうちのほとんどが学校からの援助金なのだけれど。
「ここが銀行か。近代的な建物だな」
「銀行はお金持ちですからね。建物にも投資できるのですわ」
ゴルドランド銀行はフラットな造りで無駄がない。
ブロックを積み上げた建物で頑丈そうだ。
入り口には警備兵が立っていて入店する客をチェックしている。
「警備も厳重だな」
「不況になると銀行を襲撃する人も現れますから」
俺とセリーヌは警備兵に一通りチェックをしてもらって銀行の中へ入る。
エレン達は邪魔になるので外で待ってもらっていた。
銀行の中には受付が3つあり、たくさんの人が列を作っている。
ほとんどが金持ちそうな客ばかりでちらほら普通の庶民も混じっていた。
恐らく貯金に来たのだろう。
手には金の入った袋がしっかりと握られていた。
俺達は融資なので真ん中の列に並ぶ。
「カイトさんは銀行に来るのははじめてですか?」
「そうだ。普通に冒険していても銀行のお世話になることはないからな」
「そうですわね。大抵の冒険者はギルドの報酬ですませていますものね。私達が珍しいのかも」
「まあ、これも社会勉強だと思えばいいだけの話だ」
社会で生きて行くためにはいろんな経験をしなければならない。
銀行へ来ることもギルドへ通うことも宿屋へ泊まることも。
全て俺達の身になっていることなのだ。
そうやって一歩ずつ成長して行くことに意味があるのだ。
そんな話をセリーヌとしていると俺達の番がやって来た。
「次の方、どうぞ。今日はどんな御用でしょうか?」
「あ、あ、あの……」
「カイトさん、そんなに緊張しなくても大丈夫ですわよ」
極度の緊張から思わず声が上ずってしまう、俺。
背中からはどわっと変な汗が吹き出して来た。
「今日は融資をしてもらいたくて来ました」
「いくらぐらい御用入りでしょうか?」
「そうですね。宿代の金貨20枚と当面の旅費代を合わせて……。金貨25枚かしら」
「では、こちらの書類にサインと。身分証明書の提示をお願いします」
セリーヌは手慣れたように懐から身分証明書を取り出すと提示する。
受付の女性はそれを確認すると驚きの顔を浮かべた。
そして慌てた様子で番号を控えてからセリーヌに身分証明書を返す。
「何だ?セリーヌの身分証明書に何かあったのか?」
「それではこちらの書類にサインを」
俺の疑問を無視して受付の女性は先へ進める。
セリーヌは書類にサインをすませる。
「それではしばらくお待ちください」
そう言って受付の女性は融資の準備をはじめた。
「さっき、受付の女性がセリーヌの身分証明書を見て驚いていたようだが何かあるのか?」
「気のせいですわ。そんなことより準備が出来たようですわよ」
受付の女性は融資分の金貨25枚と借用書を差し出す。
「こちらがご融資の金貨25枚です。そしてこちらは借用書になります。借金の返済時に必要になるものなのでなくさないようにお願いします」
セリーヌは金貨25枚と借用書を受け取るとバッグに仕舞う。
この世界では借金を返済する時に借用書が必要になる。
借用書には融資の金額が記されていてハンコを押す欄が設けられてある。
借金を返済するたびにハンコを押して行ってわかりやすくしたものだ。
そして全て借金が返済を終えると借用書を銀行に返す仕組みになっている。
これもそれも借金を踏み倒す者を排除するためのシステムなのだ。
借りた金はちゃんと返す。
あたり前のことだが、それが出来ない人も世の中にはいるのだ。
「それじゃあミトさんのとことへ戻って支払をすませましょう」
俺とセリーヌはエレン達と合流しミト婆さん宿屋に戻った。
ミト婆さんは現金なもので金を受け取るなり上機嫌になっていた。
まあ、宿屋なんてそうそう儲かるものじゃないから嬉しいのだろう。
俺達は支払いを済ませてからエレン大剣を直すために武器屋へ向かった。
ゴルドランドの武器屋は大型店でありとあらゆる武器が揃えてあった。
剣や戦斧はもちろんのこと、槍、大槌、鎖鎌、鞭、刀、銃まである。
さすがはコロセウムを有している都市だけのことはある。
品揃えは確かなようだ。
俺は目の前に飾られてあった銃を手に取る。
「こいつはいいな」
グリップと手がしっくりと来て、かつ軽い。
これならば俺でも扱えそう。
小剣を止めて銃にでもしようか。
銃ならば敵とある程度距離を置いて戦うことが出来るし、魔法のような詠唱もいらない。
ミゼルが抜けたことでカイト軍団の間接攻撃を出来る者がいなくなっているからな。
真面目に考えてみようか。
と、そこへ武器屋の店主が現れた。
「お目が高いな、兄さん。そいつは最近仕入れたばかりの最新式の銃だ。軽い割には威力も高くて扱いやすいんだ。だから、女性ウケがいいよ」
「なら、初心者向きってことだな」
「銃ははじめてかい?」
「ああ」
「なら、こっちの銃の方がいいな」
そう言って武器屋の店主は棚から銃を取り出す。
「こいつは初心者向けのハンドガンだ。銃に比べたら威力は落ちるが反動が小さいのが特徴だ。しかも連射機能までついている優れものだ」
「へー。なかなか良さそうだな」
俺が真剣に武器屋の店主の話を聞いているとセリーヌがツッコミを入れる。
「カイトさん。今日はエレンさん武器を直しに来たんですよ。余計な買い物はしないでください」
「ハハハ、悪い悪い。ついな」
「武器を直すってどれだい?」
「これだ」
エレンがカウンターに大剣を乗せると武器屋の店主が具合を確認した。
大剣を太陽の光に翳して歯零れ具合を確認したり、折れた切っ先をじっくりと見ている。
「どうだ?」
「そうだな。1週間あれば直せるよ」
「1週間だと」
「この大剣は特殊な魔鋼石が使われているからな。魔鋼石を取り寄せる必要がある」
「もっと短く出来ないか?」
「無理だ。家には魔鋼石の在庫はないからな」
エレンは大きく肩を落としてガックリと項垂れる。
「仕方ありませんわ。武器の修理は後回しにしましょう」
「だけど、エレンの武器がないんじゃ都合が悪いぞ」
「なら、エレンさん。代わりの武器を探してください。特別に買いますから」
「買うって言ってもな。私は愛用しているこの大剣が好きなんだが……」
すると、武器屋の店主が店の中に飾ってあった鋼の大剣を持ってくる。
「あんたの武器の代わりになりそうな大剣はこいつだな。こいつは鋼製で軽くて丈夫なのが特徴だ。魔鋼石製のあんたの武器には劣るがな」
エレンは鋼製の大剣を受け取ると軽く素振りをして確かめる。
「こいつはちょっと軽いな。もっと重みがあった方が使いやすいんだが」
「贅沢を言うな、エレン。武器が買えるだけでもありがたいと思え」
「じゃあ、これにするよ」
「まいど~」
武器屋の店主は手もみをしながら嬉しそうな顔を浮かべる。
そして警戒に算盤を弾きながら金額を提示した。
「お代は銀貨5枚だよ」
「けっこう安いな。俺が小剣を買った時は金貨1枚はしたぞ」
「そいつは嵌められたな。武器の相場はだいたい銀貨5枚~8枚程度だ。金貨1枚だなんて魔鉱石クラスの武器が相当だぞ」
ちなみにエレンの大剣に使われいる魔鋼石も金貨1枚相当の価値があるとのことだ。
魔鉱石と魔鋼石は名前が同じだけれど別のものだ。
魔鉱石は魔鋼石や魔鉄石などの総称だ。
魔力が宿った鉱石は他にもたくさんある。
ここでは説明を端折るが。
「ちくしょう。あのトムジジイの野郎、ぼったくりやがって」
考えたらムカムカして来た。
俺が初心者であることをいいことに出し抜きやがって。
ぼったくり武器屋だって噂を流してやろうか。
「それじゃあお代です」
「まいど~」
セリーヌは銀貨5枚を差し出し、エレンは鋼の大剣を受け取る。
「こいつに慣れるまで時間がかかりそうだな」
「エレンでもそんなものなのか?」
「ああ。武器って奴は馴染むまでに時間がかかるものなんだ。何度も戦いを繰り返して少しずつ体に馴染ませて行く。そうすれば武器の効力を最大限活かせるんだ」
「なら、俺はまだまだってことか」
俺の戦闘経験は穴土竜駆除とコロセウムの予選しかない。
それだけでは武器を馴染ませるどころの話ではない。
もっと戦闘経験を積まなければ強くなれないのだ。
「まあ、カイト。そう気を落とすな。戦いなら私が教えてやる」
「エレンに教えられてもな」
「何だ。私じゃ不満だと言うのか?」
「不満と言うかエレンみたいな脳筋になるんじゃないかと心配しているんだ。俺は戦術を持って戦いたいタイプだからな」
エレンは大きな溜息を吐いて馬鹿にしたように俺を見やる。
「はぁー。だからカイトはダメなんだ。戦術なんてものは戦いには必要でないんだよ。戦いは体でするものだ」
「そんな戦い方をしていたからガイアに負けたんだろう?」
「それはあいつが私以上に強かったんだ。けっして戦術がなかったから負けた訳じゃない」
「まあ、そう言うことにしておいてやるよ」
ガイアを倒せなかったのは戦術がなかったからに他ならない。
ガイアの『魔法剣』に対抗できるだけの戦術を立てていれば勝てていたはずだ。
確かに地頭の差もあったのだが、エレンの『再現』でカバーできる。
ただ、『魔法剣』に魔力が関係していたことは驚きでしかないが。
まあ、エレンは知力が低いから魔力をあげるのは大変だろうけど。
「何だ、カイト。その目は?」
「いや、別に何でない」
俺は素知らぬ顔をしてエレンをやり過ごす。
「では、次は駅舎に向かいましょう」
「その前に食料と水を調達した方がいいんじゃないか?」
「そうでしたわね。では、商店街へ向かいましょう」
俺達は武器屋を後にして商店街へ足を向けた。
まず寄ったのはパン屋。
パンは保存がきくし主食にもなるから欠かせない。
コメや麦もあるが加工しないと食べられないので手軽なパンにした。
パン屋には色とりどりのパンが並んでいる。
総菜パン、菓子パン、食パンにライ麦パン。
キルは涎を垂らしながらパンを眺めていた。
「どれもうまそうだな」
「キルさんはパンを見るのは初めてですか?」
「うん。俺が食べていたパンは泥がついていたりカビが生えていたりしたからな。こんなうまそうなパンははじめてだ」
「なら、特別にキルさんに買ってあげますよ」
「本当か!」
キルは目を輝かせながらパンを選ぶ。
パンぐらいでテンションがあがるなんて、それだけ今までが酷かったのだろう。
奴隷の食事なんてあってないようなもの。
野良犬のエサのようにお粗末なものしか与えられない。
それでいて倒れるまで働かせるのだから酷いものだ。
俺達が守ってやらないとキル達は幸せになれない。
改めてそう思った。
キルはと言うとチョコパンに熱い視線を送っていた。
「俺、このパンがいい」
「チョコパンですか。甘くておいしいですよ」
「甘いのか。早く食べたい!」
セリーヌは一週間分のパンとチーズ、それにチョコパンを買うとチョコパンをキルに渡した。
キルは目の前のチョコパンに涎を垂らしながら深く深呼吸をする。
口いっぱいにチョコの甘い香りが広がったようで幸せそうな顔を浮かべていた。
「いただきまーす」
キルは大口を空けてチョコパンをほうばる。
そしてモグモグと咀嚼してから頬を丸くさせた。
「美味しいですか?」
「モグモグ。うん。甘くて美味しい」
「それはよかったですわ」
「でも、俺だけこんな美味いもんを食べるなんて……」
急にキルの顔が曇り後悔を滲ませた。
「ニムにもわけてあげたい」
「まだ、ニムさんには早いですわ」
「でも……」
するとエレンがキルの肩を叩いて励ます。
「キルは弟想いだな。ニムには私のおっぱいがあるから大丈夫だ」
「エレン」
「キルも飲むか?」
「な、何言っているんだよ。飲む訳ないだろう、おっぱいなんか」
エレンの冗談にキルは真っ赤な顔をさせて強く否定した。
俺達はその足で水を買いに市場へ向かった。
水は水屋と言う店がないので市場で仕入れることになる。
市場には他の街から運ばれて来た新鮮な水が大量に集まる。
ゴルドランド王都の地下にも地下水脈があるが、それはゴルドランド王都の市民が使うものとなっている。
だから、販売などはされていないのだ。
市場へ来ると例のごとくグスタフが声をかけて来た。
「久しぶりだな、カイト。元気にしていたか?」
「おかげさまでな」
「で、コロセウムはどうだったんだ?」
「ダメダメ。予選敗退だったよ」
「まあ、コロセウムに挑戦しただけでもすごいことだ。もっと自信を持て」
グスタフは陽気に俺の背中を叩いて来る。
「で、今日は用入りかい?」
「1週間分の水を買いにな」
「そうか。旅立つのか。なら、こいつも持って行け」
そう言ってグスタフは酒の入った樽を差し出す。
見るとリーガル産のラベルの入ったワインだった。
「これって?」
「ヨゼフジイさんが造ったものだ。この間の祝酒祭で見事ヨゼフジイさんのワインが選ばれてな。量産体制に入ったんだよ」
「へー。さすがはヨゼフジイさんだな」
「また、リーガルの街に寄ることがあったらよろしくと伝えておいてくれよ」
注文した水が樽に入って運ばれてくる。
「1週間ならこの樽ひとつで大丈夫だろう。ヨゼフジイさんの酒と合わせて2樽だ」
「これじゃ持って運べないな」
「私が馬車をレンタルして来ますわ」
「そうか。なら、頼むよ」
セリーヌはおぶっていたニムをエレンに渡して馬車をレンタルしに行った。
「そう言えばその子らは初顔だな。もしかしてあんたの子かい?」
「そう見えるか?まあ、私がお腹を痛めて産んだ子ではないが私の子でもあるな」
「いろいろと事情がありそうだな」
お察しの通り。
ここで正直に奴隷の子ですとは言えない。
もし、奴隷を連れていることがばれたら捕まってしまうからな。
奴隷問題は国でも力を入れていることだけに表沙汰には出来ないのだ。
キル達の服装もボロボロだ。
旅立つ前に服屋に寄って新しい服を新調しておいた方が良さそうだ。
「で、次はどこを目指すんだい?」
「まだ、決めていないよ」
「宛てもなく旅立つのかい?」
「それも旅だよ」
「まあ、世界は広いんだ。好きなところへ行けばいいさ」
そこへセリーヌがレンタルをした馬車を運んで来た。
馬車は2頭立ての馬力のある馬車だった。
さっそくグスタフの部下達が樽を馬車に乗せる。
「それじゃあこれでお別れだな」
「そうだな。カイト達と会えてよかったよ」
「俺もだ」
「また、ゴルドランドに来た時はここへ寄ってくれよ」
「わかった。またな」
エレンは馬に鞭を入れて馬車を走らせる。
途中、服屋に寄ってキル達の服の新調をすませて。
そして馬車はゴルドランドの門をくぐり抜けて旅立った。
新天地を求めて、新たな出会いを求めて。
俺達は終わりのない旅に出るのであった。




