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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第二章 激闘するおばさん編
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あるある059 「変な異名がつきがち」

エレンは三日三晩、眠り続けていた。

食事も水も一切とらずにただ眠るだけの日々。

様子を見ていた俺はエレンが死んだのではないかと思ったくらい。

それでも四日目の朝になるとエレンは目を覚ました。


「う、うん……」

「エレンさん?」

「セリーヌか」


エレンは静かに目を空けてセリーヌの顔を見やる。

その視線にはまだ力がなく虚ろ気。

セリーヌはそれを確認するとけたたましい声を上げて俺を呼んだ。


「カイトさん!エレンさんが目を覚ましましたわ!」

「エレンが目を覚ましただと!」


俺は慌ててエレンのベッドに駆け寄る。


「おい、エレン。大丈夫か!」

「何だよ、カイト。そんなに慌てて」

「慌てるも何もお前が死んじゃったのかと思っていたんだぞ」

「フッ。私がそう簡単にくたばるかよ」


まあ、それに相違はない。

そう簡単にくたばる玉ではないしな。

おばさん根性があるから死んでも死なないだろう。

おばさんは起き上がりこぼしのように何度も這い上がって来る生命力を持っているのだ。

とりあえず安心はした。


「悪いな、カイト。優勝を掴めなくて」


何だよ、随分素直じゃないか。

ガイアにコテンパンにされて心を入れ替えたのか。


「ふん。端からお前が優勝するなんて思ってもいなかったよ」

「でも、借金が残るだろ」

「それは問題だ。実に問題だ。俺達、カイト軍団はじまって以来の危機だ」

「いつカイト軍団になったのですか?」

「ネーミングセンスの欠片もないな」


俺のネーミングに文句をつけるセリーヌとキル。

その目は真深く呆れた顔を浮かべていた。

まあ、チーム名なんてものはわかりやすいのが一番だ。

粋な名前をつけるよりも覚えやすい名前の方がいい。

カイト軍団なら他とも被らないだろうし、何よりシンプルだ。


「実際に借金がどれくらいになるのか考えただけでも恐ろしくなる」

「宿代と飲食代が含まれますからね。単純に考えても金貨10枚はするでしょう」

「金貨10枚だって!そんなに借金があるのか?」

「これはあくまで推測ですけれどね」


それに加えてエレンの酒代がプラスされる。

考えただけでも恐ろしい金額になるはずだ。


「問題は借金の額ではなく、どう返すのかですわね」

「働くしかないだろう」

「そんな簡単に言うけどな働くってことがどれだけ大変なことなのかわかっているのか?」

「わかっているさ。俺だって奴隷で働かされていたからな」

「奴隷で働かされるのと汗水を垂らして働くのとは違うんだ。お前みたいなガキに労働者の気持ちなどわかってたまるか」


世の中のお父さんは大変なのだ。

家族のために汗を流して毎日毎日働き続ける。

上司に文句を言われようが部下からなじられようが必死に耐えて頑張っているのだ。

そんなお父さんたちの気持ちを簡単にわかったように言うこと自体、恐れ多い。

ましてや年端もいかないガキに言われるのは割に合わないのだから。


「何だよ、偉そうに。カイトは働いたことはあるのか?」


唐突なキルの質問に俺はきっぱりと答える。


「……ない」

「何だよ。カイトだって働いたことがないんじゃないか」

「だがな、俺は冒険を続けて来たんだ。わがままなおばさん達をまとめてな。それだけでもすごいことだろう」

「すごいって。エレン達の尻にくっついていただけだろう」


わかってない。

キルは全然わかっていない。

おばさん達をまとめることがどれだけ大変なのかと言うことを。

時間にルーズだわ、自分勝手な行動をするわ、しょうもない張り合いをするわで。

起きていれば何かと問題を起こすのだ。

まさにおばさんはトラブルメーカーなのだ。


「随分な言い方じゃないか、カイト。私達だってカイトのおもりをするのには手を焼いているんだぞ」

「生意気なことを言うな。俺はリーダーだぞ」

「口に出せばリーダー、リーダーって。カイトをリーダーだと認めた覚えはないぞ」

「そうなのか?」

「そうだ。カイトがリーダーだって言い張っているだけだ」


ムムム。

ここまで来てそれか。

だからおばさんは嫌いなんだ。


「エレンさんもカイトさんも落ち着いてください。今は借金をどう返すか話し合っていたのですよ」

「そもそも借金を抱えることになったのはみんなエレンのせいだ。エレンが体を張って返せばいいじゃないか」

「それは私に娼婦でもしろと言うのか?」

「そうとってもらっても構わない」


おばさんでもマニアにはウケるのだ。

コロセウムでエレンファンが出来たことだしエロおやじを相手にすれば稼げると言うもの。

それに体だけは一丁前に一人前なのだからな。


「カイトって奴隷商人並みのゲス野郎だな」

「ガキのお前が言うな」

「さっきからガキ、ガキってな。俺だってニムをひとりで守って来たんだぞ」

「そんなものは数のうちに入らない」


弟の面倒をみるのは兄の役目だ。

先に生まれたのだから当然のこと。

冷徹に言う俺を睨みつける、キル。

その目には憎しみが籠っていた。


「それじゃあ借金の問題は今後の課題と言うことで。それよりももうお昼です。食事にしましょう」

「そうだな。言い合いをしたら腹が減って来たしな」

「大衆食堂へ行くのならついでに酒も買って来てくれ」

「お酒ですか?」

「そうだ。アルコールが切れて元気が出ないんだ」

「ダメですよ。エレンさんは病人なんですから」


セリーヌは腰に手をあてながらエレンを嗜める。


「私は病人じゃない。見てみろ、この通り」


エレンはがばっと起き上がって何ともない素振りを見せる。


「それでもダメです。お医者さんから1週間は安静にしてくださいと言われているんですからね」

「そんな……1週間も禁酒をしなければならいのか……」


エレンはガックリと項垂れてベッドにダイブした。

まあ、これもそれもエレンのためなのだ。

これをきっかけにお酒を断ってくれたら万々歳だ。


「それじゃあいつもの大衆食堂へ行きましょう」

「お前も手伝えよ」

「わかってるよ」


俺達は大衆食堂へ料理の買い出しに出かけた。





昼食を終えて。

午後はキル達をどうするかと言う議題に移った。

キルには話を聞かれないようにトイプーの散歩を頼んでいた。


「俺はキル達を教会に預けるべきだと思っている。その方が俺達に負担はないし、キル達も安心して暮らせるだろう」

「だがな、教会は手一杯だと言う話だぞ。孤児が多すぎて手が回らないらしい」

「やはり一緒に連れて行くべきではないでしょうか。私達といれば安全ですから」

「一緒に連れて行くって言うけどな。それがどんなに大変なことなのかわかっているのか。ニムはまだ乳飲み子なんだぞ」


一番の問題はそこにある。

キルは幼いとは言え自分で歩ける。

しかし、ニムは歩けもしなければ喋ることすらままならないのだ。

そんな赤ん坊を連れて冒険など出来る訳もない。


「ニムの世話は私がする」

「私がするってな。モンスターと出くわしたらどうするつもりだ?ニムをおんぶしたまま戦うってのか?」

「それも悪くはないな」

「何を考えているんだ。そんな危険なこと出来る訳ないじゃないか」

「戦うのは私だ。カイトが心配することじゃない」


ダメだ、こいつは。

すっかり自分の実力に溺れている。

確かにエレンは強いことは認める。

だが、赤ん坊をおぶって戦うことは無理だろう。

もし、万が一のことがあれば取り返しがつかないのだ。

そんな危険なことはリーダーとして認められない。


「やっぱりキル達は教会に預けるぞ」

「カイトさんは本当にそれでいいんですか?キルさん達を教会に預けても馴染めるかもわからないんですよ。もしかしたら仲間外れにされるかもしれません。それにニムさんにはおっぱいが必要ですし、教会におっぱいをあげられる女性がいるとも限りませんから」

「……それは」


赤ん坊は女性のおっぱいじゃないとダメらしい。

なんでも人間のおっぱいには病気に対抗できる成分が含まれているとのことで。

だから母親は赤ん坊におっぱいをあげているのだ。


「これで決まりだな。ニムの面倒は私がみる。それでいいだろう、カイト?」

「……それでも俺は反対だ。キル達を危険な目に合わせる訳には行かない」

「カイトも頭の固い野郎だな。何をそんなに心配しているんだ?もしかして足手まといになるからか?」


本音を言えばそれが一番の問題だ。

赤ん坊を抱えたままじゃロクなモンスターと戦えない。

これから勇者を目指す上でレベル上げは必須なのだ。

ただでさえレベルが低いのに足手まといでもいれば思うように進まなくなる。

これは俺にとって死活問題ともなるべきことなのだ。


「カイトさん。勇者を目指すのであれば目の前で困っている子供達を見捨てるのはいかがなものかと思いますよ。勇者は人のために役立ってこその勇者ですから」

「けれど、俺はまだ勇者じゃないんだ。だからその理論は当てはまらない」

「カイトはどうあっても反対なんだな?」


俺は確かな意思を持って深く頷く。


「わかったよ。なら、ここで解散だ。私がキル達を連れて行く」

「それならば私もエレンさん達にお供しますわ」

「何を勝手なことを言っているんだ。俺達はカイト軍団なんだぞ」

「カイトは勇者を目指して新しい仲間を見つけろよ。私達は私達で冒険を続ける。それが私達にとって一番いいことなんだ」


本気かよ、エレン。

ここまで来てどうやって仲間を増やせばいいんだ。

頼りになる特殊能力はハズレだし、スキルも必殺技も覚えていない。

そんな奴の仲間になってくれる者なんて皆無だろう。

俺をひとりにするんじゃねぇよ。


「認めない!絶対に認めないぞ!俺達はカイト軍団なんだ。解散だなんて絶対に認めないからな!」


俺達の議論は拮抗して前に進まなかった。





その話を扉の前でこっそり聴いていたキルは決断をする。


「俺達がいるからカイト達はモメているんだ。ならば俺達がいなくなればいい」


キルは目に涙を溜めてトイプーを抱き上げる。


「お前はご主人様のところに帰るんだぞ」

「クーン」

「何だよ。慰めてくれるのか?」

「クーン」

「お前はいい子だな。また、会うことがあったら仲間にしてやるからな」


キルはトイプーを床に下ろすとニムが寝ている部屋へ向かった。

そしてニムを連れて宿屋を後にする。

荷物もお金も持たずに着の身着のまま。

行く宛てなんてどこにもない。

ただ今はカイト達から離れられればいいのだ。


「ニム、俺が守ってやるからな」


ニムは声にならない声で笑う。

その顔を見ていたらキルの張り詰めた緊張が解けて行った。

赤ん坊の笑顔には人の心を和ませる力がある。

それは不思議と感じるものでどんな悪党でも同じだろう。

この世界がもし、赤ん坊だけになったのならと考えると面白いものだ。

戦争は間違いなくなくなるだろうけど、世話をしてくれる人もいないから困ってしまう。

おっぱいもたくさん必要だし、おむつもたくさん必要になる。

誰かが泣いたらみんな一斉に泣くのだろうな。

そんなことを考えているうちに裏路地にある廃墟まで辿り着いていた。


「とりあえず今夜はここに泊まろう」


キルはニムを抱きかかえたまま隅に身を寄せる。

窓ガラスは割れていて扉も壊れたままになっている。

ノラ猫が寝泊まりするにはちょうどいいが人間が寝泊まりするには寒過ぎる。

ましてやキル達のような子供にとっては辛いこと他ならない。

キルは床に落ちていた襤褸切れで体を覆って夜風を凌いだ。





それからどのくらい時間が経っただろうか。

キル達は誰かの話し声で目を覚ました。


「何だ?」


窓から外を見やると奴隷商人達が何やら話をしていた。

キルは壁に身を隠してそっと外の様子を伺う。


「あいつらどこへ行きやがった?」

「ここへ逃げ込んで来たのは確かなんですけどね」

「何としてでも見つけ出せ。見つけ出して俺の所へ連れて来い」

「畏まりました。アブダルさま」


アブダルは部下達に指示を出してアジトに戻って行く。

キルはアブダルの顔を見たら身震いが起きた。

それは奴隷時代に植え付けられた恐怖が蘇ったからだ。

アブダル=恐怖の対象。

その構図がキルの中に構築されていた。

その時、キルが床に落ちてた空缶を蹴飛ばしてしまう。


「何だ?」

「あっちから聞こえたぞ」


奴隷商人達は音のした方向へやって来る。

キルは逃げることも出来ずにその場に蹲っていた。

殴られる、殴られる、殴られる。

暴行されていた頃の情景がフラッシュバックして何もできずにいた。


「見つけたぞ!」

「こいつは?」

「探していた奴じゃない。だが、これを見てみろ」


奴隷商人の一人がキルの袖を捲る。

すると、中から奴隷の刻印が出て来た。

奴隷となった者には右の腕に刻印が彫り込まれる。

それは洗っても落とすことが出来ない。

なので逃げ出した者は肌を焼いて刻印章を消しているらしい。


「こいつはこの間逃げ出した奴じゃないか」

「ガキがいるから間違いないな」

「これはとんだ収穫だったぜ。アブダル様のところへ連れて行こう」


奴隷商人はキルからニムを奪い取ると腹に蹴りを加える。


「ゲホゲホゲホ……ちくしょう。ニムを返しやがれ」

「生意気なガキだ!」


奴隷商人達はキルに寄ってたかって暴行した。

キルは丸く蹲って痛みに堪える。

こんなところで捕まってしまうなんてツイていない。

自分がニムを守るって言ったけれど全然守れていないじゃないか。

こんなんじゃカイトに笑われても仕方ないよな。

ちくしょう。

俺に力があればこんな奴らなんか。

キルの心の中は悔しさでいっぱいだった。





俺達はトイプーのおかげでキルがいなくなったことを知った。

キルが立ち去った後、トイプーは頻りに吠えて俺達を呼んでいた。

最初に気づいたのはセリーヌだった。

トイプーのただならない様子にピンと悟ったようだ。

俺達がニムのベッドに駆け付けた時にはベッドはまだ温かかった。


「まだ遠くには言っていないはずだ。探そう」

「でも、どこを探したらいいのでしょう」

「そんなもの行けばわかるよ」

「エレンも行くつもりか?」

「あたり前だろ。この一大事にひとりで眠っていられるかよ」


今はとにかく人手が多い方がいい。

エレンには悪いが頑張ってもらおう。

俺達は宿屋を飛び出して人通りのある大通りへ向かった。

宛てがあった訳じゃない。

人通りが多い方が安全だからと踏んだからだ。


「キルさん、いませんわね」

「ちくしょう。これだけ人が多いんじゃみつけようがない」

「仕方がない。他へ行くぞ」


俺達は大通りの脇道を通り抜けて裏路地へ足を向ける。

裏路地はほとんど人が寄り付かないからキル達がいるとは思えないのだけれど。

他に宛てもないので街をくまなく探すことにしたのだ。


すると、目の前から麻袋を抱えた3人の男が歩いて来た。

見るからにゴロツキであるような風貌をしている。

髭はモサッと生えていて肌も浅黒い。

俺達がゴロツキ達とすれ違った時、エレンが急に足を止めた。


「お前達、ちょっと待て。その荷物を見せろ」

「何だ、お前は?」


ひとりのゴロツキがエレンに絡もうとする。


「おい、止めておけ。今は荷物を運ぶことが先だ」

「ちぃ、仕方ないな。後で遊んでやるから覚えておけ」


エレンを無視して立ち去ろうとするゴロツキの肩をエレンが掴んだ。


「荷物を見せろと言ったんだ!」

「何しやがる!」


その瞬間、ゴロツキのひとりは荷物を落とした。

すると、麻袋がひとりで動き出してうめき声をあげた。


「くぅ……」


俺は慌てて駆け寄って麻袋を縛っていた紐を解く。

と、中からキルが顔を出した。


「カイト!」

「キルじゃないか」

「やっぱりこう言うことだったか」


エレンとセリーヌはゴロツキ達を取り囲む。


「バレちゃ仕方がない。お前達にはここで死んでもらう」


ゴロツキ達はナイフを取り出して構える。

ハッキリ言って分が悪い。

エレン達は丸腰だし何も武器は持っていないのだから。

俺はすかさず小剣を抜いてエレンに渡す。


「サンキュー、カイト。これでおあいこだぜ」


エレンは小剣の切っ先をゴロツキ達に向ける。

すると、ゴロツキのひとりがエレンに気づいて声をあげた。


「こ、こいつ。『方乳の剣士エレン』だぞ」

「何だと。『方乳の剣士エレン』だと!」

「マズいぞ。『方乳の剣士エレン』とやり合うなんて自殺行為だ」


ゴロツキ達は慌てふためきながらお互いの顔を見合わせる。

すでに戦意を喪失していたようで顔が青ざめていた。

それよりも『方乳の剣士エレン』って何だよ。

もしかしてコロセウムの戦いでついた異名か。

だとしたら恥ずかしいのにも程がある。

『方乳の剣士エレン』だなんてカッコ悪過ぎるからな。

しかし、当のエレンはまんざらでもない顔をしていた。


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