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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第一章 邪魔するおばさん編
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あるある005 「ちゃっかりしていがち」

駅舎へ行くと馬小屋でエレンが寝息を立てていた。

口をだらしなく開けて涎を垂らす姿はまるでオヤジだ。

俺達がやって来ても起きる気配もなく気持ちよさそうにいびきをかいている。


「エレンさん、起きてください。こんな所で寝ていると風邪をひきますわよ」

「ん、んぐぐぐぅ」


品のあるおばさんが優しく呼びかけるとエレンは寝返りを打って応える。

すると、気の強そうなおばさんがエレンを掴んで強引に起こした。


「エレン!いつまでそうしているつもり!起きなさい!」

「何だよ、人が気持ちよく寝ているのに……」

「何が気持ち良くよ。散々迷惑をかけといて勝手過ぎるわ!」


気の強そうなおばさんは苛々しながらエレンを捲くし立てる。

エレンは大あくびをしながら両手を空に掲げて伸びをした。

なんて自由奔放なおばさんなんだ。

仲間の心配なんて何とも思っていない様子。

おばさんともなると大根のように神経が図太くなるらしい。


「それじゃあ俺は行くから」

「おい、待てよ。お前には借りがある。このままさよならでは寝目覚めが悪い」


すると、プライドの高そうなおばさんが俺を呼び止めた。


「そんなこと気にするなよ。俺はあたり前のことをしただけだ」

「そうも行きませんわ。エレンさんを探し出してくれたのですから」

「なら、食事をごちそうするってのはどう?」


余計なことを言うんじゃねえ。

俺はさっさとおばさん達と別れたいんだ。


「よろしいですわね。ちょうどお腹も空いて来ましたし」

「なら、決まりだな。大通りにある高級料理店へ行くぞ」

「食事と言ったらすっかり目を覚ましちゃって。ちゃっかりしてるわね」


呆れたように強気なおばさんが愚痴をこぼすとエレンがすぐに反応する。


「何か文句でもあるのか、アンナ」

「文句なら大ありよ。いっつもエレンに足を引っ張られてストレスが溜まっているの!」

「それはこっちのセリフだ。お前がいっつも吹っ掛けて来るだろう。いちいち相手にするのも面倒だから我慢していただけだ」

「なら、ここで決着をつけましょう」

「いいだろう」


エレンとアンナは武器を手に取って睨みあう。

それを制するかのように品のあるおばさんが割って入った。


「いつまでも子供みたいなケンカをするのは止めてください。いい大人なんですから」

「そうだ。お前達といっしょにいると私達まで誤解される」

「何だよ、ミゼル。ケンカを売っているのか?」

「私はそんな挑発には乗らんぞ」


食らいつくエレンを押しのけるとミゼルはすっと背を向けた。

おばさん同士のケンカを見ても誰も得しないよ。

それより早く俺を解放させてくれ。

俺はお前らの保護者じゃないんだぞ。


「取り込んでいるようなので俺はこれで」


そっとその場を後にしようとするとエレンが肩を組んで来た。


「待てよ、カイト。お前には借りがあるんだ。それにちゃんと仲間達に紹介したいしな」

「借りなんて、そんなたいそうなことはしていないよ。だから解放させてくれ」

「遠慮をするな」


遠慮します!

これ以上おばさんと関わっていたら間違いなく誤解される。

ただでさえ同級生達には俺の特殊能力のことを知られているんだ。

被害を最小に抑えるためにも、このおばさん達とは早々に別れなければならない。


「俺、用事があるんでこれで失礼させてもらいます」


踵を返して強引に立ち去ろうとするとおばさん達が目の前に立ちはだかった。


「ごちそうをするまでは帰せませんわ」

「借りを作ったまま帰すなんて私達のプライドが許さないわ」

「諦めろ」


どう言う説得の仕方だ。

こっちの都合なんて全無視じゃないか。

別に俺はおばさんに貸しを作るためにエレンの場所を教えたのではない。

元を正せばエレンが俺の金で酒をたらふく飲んだのが問題なのだ。

けれど、お金は返してもらったしこちらからは何も言うことはない。

ただ解放させてくればいいのだ。


「それじゃあ決まりだな」


いつの間にか話はまとまり俺はおばさんに連行されて行った。





エレンが選んだ高級料理店はドレスコード制限があった。

何でも貴族御用達の料理店と言うことで一見さんはお断り。

中に入るには貴族の紹介状が必要とのことだった。

店へつくなりさっそくエレンは店員に絡みはじめた。


「何で私達はダメなんだ。ちゃんと金はあるんだぞ」

「これは決まりですので申訳ございませんがお断りさせていただきます」

「私達は客なんだぞ。何様のつもりだ!」

「そう言われましても……」


エレンの剣幕に店員はたじたじになっている。

すると、騒ぎを聞きつけて店の周りに人だかりが出来はじめた。


「みんな見ているぞ。どうするつもりだ?」

「入店は出来ません」

「こいつ。はっきりと言いやがった。おい、アンナやっちまおうぜ」

「私を巻き込まないでよ。仲間だと思われるのが恥ずかしいわ」


アンナは一歩離れたところからエレンを蔑むように見やる。

その態度に腹を立てたエレンはアンナの服にケチをつけはじめた。


「お前がそんな格好をしているからイケないんだ」

「それは私のセリフよ。露出狂みたいな格好をしてるエレンが悪いのよ」

「誰が露出狂だ!」


エレンに比べればアンナはまともな格好だ。

胸を強調させるようなデザインの服だがエレンのようなエロスはない。

どう考えてもエレンの格好がドレスコードに引っかかっているのだ。


「仕方ありませんわね。他のお店にしましょう」

「それがいい。こんな所で騒いでいてもいい見世物になるだけだ」


セリーヌとミゼルは踵を返して高級料理店を後にする。

俺もその後に続いた。

エレンは最後まで高級料理店の店員に文句を言っていた。


「恥さらしもいいところよね」

「どう言う意味だ?」

「エレンがそんな格好をしているからよ。もっとまともな服はなかったの」

「これは戦闘服だ」


どんな戦闘服だ。

動きやすいこと以外は何の効果もないだろう。

戦闘服ってのは防御力に優れた服を言うのだ。

そんな裸のような格好をしていたら危なくて仕方がない。

まさかエロスで敵の思考をかく乱させることが目的なのか。

だったらいい根性をしている。

おばさんのエロスで勝負するなんて無謀だからだ。

マニアックな人にはウケるけれど一般ウケはしない。

いずれにせよエレンの格好は目立つ。

他の店でも引っかかりはしないだろうな。

俺がひとりそんな心配をしていると大衆食堂へ着いた。


「ここなら大丈夫そうね」

「嫌だと言っても強引に入るさ」


俺達はテーブル席に座るとさっそくメニュー票を広げる。

大衆食堂だけあってメニューの種類が豊富だ。

各国の名だたる料理から家庭料理まで揃っている。

それに価格もリーズナブルなものばかりでお客さんウケがいい。


「さあ、カイト。好きなだけ注文していいぞ。私のおごりなんだからな」

「何を言っているのよエレン。支払は私達がするのよ」

「まあ、そんな小さなことは気にするな」


アンナの小言も耳に届かないような素振りでエレンは店員に注文をする。

都合の悪いことは耳に届かない典型的なタイプのようだ。


「とりあえずこのページの料理を全部頼む」


何だ、その注文の仕方は。

どこかの大富豪じゃないか。

それに、これだけの量を食べきる自信があるのか。

少なく見ても30種類はあるぞ。

俺がひとり呆気にとられているとセリーヌが教えてくれる。


「いつもなんですよ。エレンさん、ああ見えても大食いなのですわ」


それにしてはウエストがくびれている。

無駄なお肉もなく滑らかな曲線を保っている。

食べた栄養は全て胸に行っているようだ。

俺の見たところエレンの胸はHカップくらいあるだろうか。

それより一回り大きいのはセリーヌ。

Iカップはあるだろう。

ゴクリ。

マジマジとセリーヌの胸を見ているとセリーヌが気がついた。


「どうしたのですか?」

「な、何でもないよ」


ふー、危ない危ない。

セリーヌの胸に見とれていたなんて知られた日にはセクハラ大王にされてしまうところだった。

しかし、俺の視線を観察していたミゼルが蔑むような視線を送って来た。


「な、何だよ?」

「別に」


こいつは侮れないかもしれない。

おばさんと言うのは事細かいことに目が行がちだ。

俺の隙をついて弱みを握られるかもしれない。

油断は出来ないな。

気をつけよう。


「紹介がまだだったな。私は剣士のエレン。こいつが魔法使いのアンナ。その隣がプリ―ストのセリーヌ。そいつは弓使いのミゼルだ」


エレンの紹介でアンナ達が頭をペコリと下げる。


「俺は冒険者のカイトだ」

「カイトさんっておっしゃるのですか。よろしくお願いしますわ」

「見た所、初心者のようだけど、特種能力は何?」


来たー。

お決まりの質問。

おばさんを目の前に”おばさんを惹きつける能力”なんですとは言えない。

まがっても教えてはならないと俺の理性がそう言っている。

知られた日にはイジリの制裁が待ち受けているからだろう。

俺は適当に話を誤魔化す。


「そんなことより、エレン達は旅を続けて長いのか?」

「10年以来の付き合いだ」

「じゅ、十年」


10年間も同じ仲間でいられるなんて相性がいいのか。

にしてはエレンとアンナの張り合ようが気にかかるが。

ケンカするほど仲がいいとは言うけれど、おばさん達にはあてはまらないだろう。

おばさんは何かと根を持つタイプが多いからな。


「仲がいいんだな」

「腐れ縁よ」


アンナは意味ありげな視線を俺に送って来る。

これ以上、質問をするのは止めといた方がいい。

また、あらぬことに巻き込まれそうな予感がするから。


「カイトは何を目指しているんだ?」

「勇者だよ」

「勇者?ブッ!笑わせるなよ。そんなひよっこの勇者がいるものか」

「勇者だってみんなはじめはひよっこだったんだ」

「けどな、勇者になれる奴は元からセンスを持っているものだ。お前にはセンスすら感じない」


エレンの的を射た発言に俺は言葉を詰まらせる。

すると、見かねたセリーヌが助け舟を差し出して来た。


「勇者になるなんて素晴らしい目標ですわ。カイトさんならきっとなれますわよ」

「セリーヌ、そんな適当なことを言うものではないわ。ちゃんと現実をわからせるのも優しさと言うものよ」

「それは……」

「アンナの勝ちだ」


セリーヌ、もっと頑張ってくれよ。

俺の目標を馬鹿にする奴らになんか負けるな。

だけど、一番自覚しているのは俺の方だ。

最初から無理だとはわかっていた。

それでも目標があることで俺は立ち上がれたのだ。

こんなしょうもない特殊能力でも勇者になってみせると。


「勇者はともかくとして飯にしよう」


俺達が談話をしている間に次々と料理が運ばれて来た。

さすがにテーブルの上には乗り切らないので時間差で運ばれて来た。

エレンは話の通り次々と料理を平らげて行く。

どこに入っているのかわからないくらいシュッとしたままだ。

それでも料理を全て平らげるころにはお腹がポコリと膨れていた。


「ふー。食った食った」

「もう、食べれませんわ」

「余った料理はお土産にしてもらおう」

「ちゃっかりしているな」

「無駄を作らないのが今のトレンドなのだ」


何がトレンドだよ。

もらえるものならもらっておこうとするおばさん根性丸出しじゃないか。

しかも、タッパまで用意して。

恐るべし、おばさん。

アンナ達は手分けして余った料理をタッパに詰め込む。

その横でセリーヌがお会計をしていた。


「全部で占めて銀貨1枚になります」

「そんなに!」

「驚くことではありませんわ。いつものことです」


ひとり驚いている俺をよそにセリーヌは財布から銀貨1枚を取り出す。

いつもこんなにもたらふく食べていたらすぐに金欠になってしまうだろう。

銀貨1枚と言えば1泊2食付きの宿屋代にあたるんだぞ。

そんなことも気にせずセリーヌはお会計を済ませた。


「さて、また一杯やりに行くか?」

「また、飲むつもりですか?」

「エレン、少しは自重したら。また、エレンの介抱なんて嫌だからね」

「酒は嗜むぐらいがちょうどいい」

「寄ってたかってそう言うなよ。試しに言ってみただけだ」


いや、エレンは本気だったのだろう。

爪先が酒場の方へ向いていたからな。


「それじゃあ、俺はこれで」

「カイトさん。もしよろしければ同じ宿屋にしませんか?」

「もう辺りも暗いし、そうしたら。私達は全然構わないから」


同じ宿屋って言ってもな。

もしかして宿代も持ってくれるのか。

それならば断わる理由もないが。


「まあ、これから宿屋を探すって言っても時間もかかるし、そちらがよければ頼もうかな」

「なら、決まりですわね」


セリーヌはどことなく嬉しそうな顔を浮かべる。

俺のような珍客が加わったことで気分転換になったのか。

まあ、こちらとしてはタダで宿屋に泊まれるのだから歓迎だ。

そして俺を連れて予約していた宿屋へ向かった。


宿屋はセントルースの中でも最下級な部類に入る宿泊施設だった。

2階建てのボロい建物で所々にヒビが入っている。

見るからにお化け屋敷を思わせるような風貌だった。


「宿屋ってこれかよ?」

「眠るだけですからね。これくらいがちょうどいいのですわ」


節約志向にも程があるだろう。

これじゃあ馬小屋と大して変わりがない。

料理で奮発するからこう言うことになるんだ。

もっとバランスを考えろ。


「お嫌ですか、カイトさん?」

「べ、別に俺は」

「なら、決まりですわね。部屋は同じでいいですわよね?」

「ちょ、ちょい待て。俺は男だぞ。同じ部屋だなんて問題アリじゃないか?」

「何が男だよ。ちんちくりんなくせに色付きやがって」

「ちんちくりんとは何だ」


まあ、おばさん達から見れば俺はちんちくりんなのだろう。

だけど、男であることには間違いない。

曲がってもおばさんを襲うことはないが問題アリだ。

セリーヌ達がいいと言っても首を縦には振れない。

これは俺なりのプライドだ。


「そうですか。困ってしまいましたわね。お部屋は1部屋しか予約していませんから。今からでも変更は可能でしょうか?」

「お客様、ご安心ください。シングルの1部屋がキャンセルになったので空いています」

「それはよかったわ。それじゃあ、その部屋もお願いします」

「畏まりました」


受付のスタッフは簡単な手続きを済ませると部屋の合いカギを渡して来た。


「ご予約いただいた大部屋はお2階の角の部屋になります。シングルの部屋は反対側の通路奥になります」

「ありがとうございます」


俺達は荷物を持ってそれぞれの部屋に向かった。

軋む階段が余計に怪しげな雰囲気を醸し出している。

廊下に灯された灯かりは小さく薄暗い廊下を彩る。

ここでお化け屋敷をやったら間違いなく高評価を得られるはずだ。

今にでもお化けが出て来そうな雰囲気だから。


「本当に宿屋なんだろうな」

「何だよカイト。怖気づいたのか?」

「そ、そんな訳あるか!」


俺は強がって見せたが心の中では後悔していた。

さっさとおばさん達と別れて普通の宿にするべきだったと。

おばさん達は神経が図太いから平気かもしれないけれど、俺の繊細な心は小刻みに震えていた。


「怖いのでしたら同じ部屋でもいいですわよ」

「べ、別に怖い訳じゃないよ」

「強がるな、強がるな」


デリカシーの欠片もないエレンは俺の肩を叩きながら馬鹿にして来た。


「それでは私達は、こちらですから。おやすみなさい」

「おう、おやすみ」


セリーヌ達はそそくさと大部屋に入って行く。

俺はひとり廊下に取り残されたままセリーヌ達を見送った。


「怖くなんかない。怖くなんかない」


俺は自分に言い聞かせながら部屋の扉を開ける。

ギーィと鈍い音を立てながら部屋の扉が開く。

部屋の中は薄暗くて何だかジメーっとしていた。

俺は恐る恐る部屋の中へ入る。

と、部屋の扉が勢いよく閉まった。


「ギャァ!」


俺はたまらずに声にもならない声で叫ぶ。

すると、クスクスと笑うエレンが扉から顔を出した。


「ハハハ。笑える。やっぱり怖いんじゃないのか?」

「何を言ってやがる。今のは不意をつかれて驚いただけだ」

「強がらなくてもいいんだぞ。私達はいつでも待っているからな」


そう言い残してエレンは部屋に戻って行った。

質の悪い悪戯だ。

エレンが女じゃなかったらグーパンチしているところだ。

でも、この雰囲気には耐えられそうにもない。

やっぱりエレン達のところへ行こうか。

いいや、ダメだ。

男が一度言ったことなんだ。

取り消せるものか。

意地でも今日はこの部屋に泊まってやる。

朝まで数時間の間だ。

大丈夫だろう。

俺は服も着替えずベッドに潜り込むと頭まで布団を被って眠りについた。


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