あるある058 「最後まで悪あがきをしがち」
ジーザスを打ち倒したことで勝利はガイアのものだと思われていた。
会場にいる観客達もガイアの勝利を確信していた、その時だった。
さっきまで倒れていたエレンが立ち上がりガイアに向けて剣を構えたのだ。
「まだ勝負はついていない。私がいる」
ガイアはフラフラになっているエレンを冷徹な目で見やる。
そして何かを考え込んだ後。
「……フッ。いいだろう。勝負を受けてたとう」
そう言って剣を構えなおした。
「その余裕ぶりが気に入らない」
エレンに勝機はなかった。
ダメージの大きさから考えると立っているだけでいっぱいなのだ。
ただ、この戦いを楽しめればいいと考えている。
ガイアの特殊能力も明らかになったことだし迷いなく戦える。
カイトの作戦ではないがカウンター攻撃が最適と判断していた。
だからこそ先手をとる。
「食らいやがれ!」
エレンは力を込めて踏み出すと一気に間合いを詰め切りかかる。
すぐさま反応したガイアは剣の腹で滑らせるように攻撃を受け流す。
そして剣の軌道を変えると逆にエレンに切りかかった。
「まだまだ!」
エレンは寸の所で後ろに飛びのいて攻撃をかわす。
さすがにこの程度の攻撃では『魔法剣』を見せて来ないか。
ならば追い詰めるのみ。
エレンは着地した足を踏ん張って勢いよく飛び出す。
大地を駆けるように低い体勢で突進しながら水平に大剣を構える。
その勢いのままガイアの横腹を掠め取るように大剣を振り払った。
「これなら!」
「甘い!」
ガイアは剣をステージに突き立ててエレンの斬撃を受け止める。
すると今度はエレンが大剣を逆回りに振り払ってカウンターを狙う。
これで確実に入れば大ダメージを食らわせることが出来る。
仮に外したとしても『魔法剣』を誘発させられる。
それだけ鋭い攻撃がガイアに入ったのだ。
しかし、ガイアは『魔法剣』を発動させることなく攻撃をかわしてみせる。
「剣を軸に飛び上がっただと!なんて身軽な奴なんだ」
エレンの驚きも無理はない。
ガイアの身のこなしはジーザスに匹敵するほど早いのだ。
鎧と言う枷がなくなったことでガイアが本来持つ力を発揮しているかのようだ。
ただ、それだけで戦いが面白くなって来たと言うもの。
エレンの心の中には焦りではなく喜びが溢れていた。
「面白い!とことん面白い奴だ。こんなに強い奴と戦うのははじめてかもしれない」
「お褒めにあずかり光栄だ」
「私はワクワクしているぞ。嬉しくて嬉しくて仕方がない」
エレンは溢れ出る感情をばら撒きながら手をワナワナさせる。
間違いなくガイアはこれまで戦って来た相手の中で最強と呼べる。
『魔法剣』もさることながら、その実力は折り紙付きだ、
だからこそ余計に燃えて来る。
既に勝敗などどうでもいいことになっていた。
ただ今は戦いを楽しめればいいのだ。
「見せてみろ。お前の『魔法剣』とやらを」
「それで私を挑発しているつもりか?」
「挑発?私はお前が強いか私が強いかはっきりさせたいだけだ」
その言葉にガイアは少し考え込んでから答えを出す。
瞬間的に思考を巡らせて戦術を組み立てたのだ。
「いいだろう。我が『魔法剣』を受けてみよ」
「そうこなくちゃな」
ガイアは剣を天に翳すと魔力を剣に集中させて行く。
するとガイアの剣が炎に包まれて煉獄の剣へと姿を変えた。
それを見るなりエレンは舌をぺろりと巻く。
ガイアが挑発に乗って来たところで結果は見えていたからだ。
カウンター攻撃で『再現』を発動させればガイアを倒せると。
だが、結果はそう簡単には行かなかった。
ガイアにはエレンの『再現』を打ち破る確信があった。
『魔法剣』は魔法使いと同じで高度な魔力が必要になる。
もとから『魔法剣』を使うガイアは魔力を高めて来た。
しかし、エレンはただの剣士なので魔力が低い。
『魔法剣』を完コピされたとしても形だけのものになるのだ。
確信がなければガイアは『魔法剣』を発動させることを躊躇っただろう。
エレンとは違ってガイアは戦術を組み立てながら戦う騎士なのだ。
「行くぞ!」
ガイアは一気に間合いを詰めると煉獄の剣を振り下ろす。
その太刀筋には炎の帯が出来て周りのものを消失させて行く。
すぐさまエレンは『再現』を発動させて煉獄の大剣を創り出す。
二つの剣は激しくぶつかり合い互いの威力を消失させる。
しかし、魔力で勝っているガイアの煉獄の剣はさらに炎を巻き起こしエレンの炎をかき消した。
「何だと!」
エレンは大きく後ろの飛びのいて体制を整える。
その顔には焦りの表情が浮かびあがり変な汗が流れていた。
「これが『魔法剣』を極めた者と偽物の差だよ」
「へっ、そうかい。私の『再現』が効かないなんてな。やっぱお前は本物だよ」
それでも手負いとなっていたことも関係している。
エレンの魔力は皆無だがパワーは本物だ。
もし、エレンが手負いでなかったらガイアも苦戦していたはずだ。
ただこれはコロセウム。
最後まで勝ち上がったものが勝利を掴む。
それは揺るぎない事実なのだ。
「それではこの辺で締めさせてもらう」
「そう簡単にやらせるかよ」
これ以上の戦いは無意味だとガイアは判断する。
ただ楽しむだけに剣を交えてもお互いの体力を消耗させて行くだけ。
そこに生まれるものなど何もないのだ。
ガイアが勝利に焦るのにも訳がある。
ガイアはもともとローマネック王国の聖騎士だった。
ローマネック王国はゴルドランド王国よりもはるか北にある王国。
最強の軍事力を誇る世界でも有数な軍事国家だ。
しかし内部は汚職だらけで政治的体を成していなかった。
現国王のヨハネス3世は独裁者で権力を振りかざして従わせる一面を持っていた。
それに対抗して来たのがナンバー2のゴリンドス枢機卿。
ヨハネス3世を暗殺するべく刺客を放ったのだ。
ゴリンドスの裏切りを知ったヨハネス3世はすぐさま対抗手段に出る。
しかし、気づいた時には既に遅くゴリンドスの放った刺客の手によって暗殺されてしまう。
政権を手に入れたゴリンドスはすぐさま反発者を締め出して息のかかった大臣達と入れ替える。
そして3日も経たないうちにゴリンドス政権を樹立させたのだ。
ヨハネス3世に忠誠を誓っていた聖騎士団も解散させられて追放される。
聖騎士団長だった当時のガイアは逸れた仲間を集めて反乱軍を結成する。
そしてゴリンドス政権とことを構えるのだった。
睨み合いは半年に及んだが弱体化させられてしまった反乱軍などゴリンドスの敵ではなかった。
すぐさま拿捕され処刑されてしまったのだ。
命からがら逃げたガイアは身分を隠し放浪の旅に出ることになった。
そして数ヶ月をかけてゴルドランド王国に辿り着いたのだった。
目的はコロセウムで優勝を掴むこと。
優勝賞金を元手に再び反乱軍を結成することが目的だ。
今のガイアの闘志は消えていない。
心の中で熱く煮え滾らせながら戦い続けているのだ。
「お前は戦って来た戦士の中で一番骨のあるやつだった。もし、出会い方が違っていたら同士となっていただろう」
「何だ同士だよ。お前となんて組むつもりはない」
「フフフ。そうだな。お前はそう言う奴だったな」
「何がおかしい?」
「おかしいんじゃない。嬉しいんだよ。本当に骨のあるやつだ」
ガイアの言葉にまんざらでもない顔を浮かべるエレン。
しかし、その闘志は意志を失わずにガイアに向けられていた。
ガイアの中で一瞬ある思いが過る。
このままエレンを仲間に加えれば反乱軍の戦力になると。
だが、それはガイアの都合のいい考え方でもある。
民間人であるエレンを他国の戦争に巻き込むなどあってはならないことだ。
ゴリンドス政権との戦いはあくまでローマネック王国の人間でやらねばならぬこと。
それがローマネック王国に対する誠意なのだ。
「つまらない話をしたな。ここで決着をつける」
「望むところだ」
ガイアとエレンは再び睨みあいながら攻撃体制に入る。
次の攻撃で確実に仕留めるならば雷の『魔法剣』がいいだろう。
雷撃の付加効果で麻痺も狙えるし、何より魔力が必要になる技でもある。
魔力のないエレンに『再現』で完コピされても確実に打ち破れるのだ。
ガイアは剣を掲げて魔力を集中させて行く。
すると雷が剣に纏わりついて雷を帯びた雷神剣を創りあげた。
「すみやかにとどめを刺す!」
「やってみろ!」
ガイアは雷神剣の切っ先をエレンに向けると一気に間合いを詰める。
そしてエレンの懐に飛び込むと雷神剣の刺突を繰り出す。
対抗するようにエレンが『再現』を発動させ雷神剣を創り出した。
ガイアの放った刺突はエレン放った刺突と激しくぶつかり合う。
轟くほどの雷撃を放ちながらお互いの魔力を消失させて行く。
しかし魔力で優るガイアの雷神剣が打ち克ちエレンの大剣の切っ先を折った。
「グハッ……」
エレンは雷神剣の直撃を受けてその場に倒れ込む。
ビリビリと小さな雷撃がエレンの体を駆け巡りながら光っていた。
ガイアは剣を鞘にしまいほっと溜息をこぼす。
ここまで追い詰められたのは久しぶりのことだったからだ。
だが、決勝戦に相応しい戦いとなった。
これで優勝は自分のものだ。
そう思った時、エレンがおもむろに立ち上がった。
「まだだ。まだ終わっていない……」
「何と!」
ここまで戦いにこだわるエレンは脅威に移った。
敗北を帰したとは言え諦めないこの執念。
この細身の体のどこからそれが溢れて来るのだろうか。
ガイアには不思議でならない。
しかし、エレンはフラついていて戦いどころではない。
今もよろけて片膝をつく。
「これ以上の戦いは無意味だ。負けを認めろ」
「まだだ。まだ……」
このガッツが反乱軍にあったのなら未来は変わっていたはずだ。
今頃、ゴリンドス政権を打ち破ってローマネック王国を取り戻せていた。
今も多くのローマネック国民達が苦しめられている。
だからこそ反乱軍を再結成してゴリンドス政権を打倒する必要があるのだ。
エレンが反乱軍の兵士でなかったことを後悔する、ガイア。
民間人にしておくには勿体ないほどの逸材だからだ。
「お前はよくやった。だからこそ、その期待に応えよう」
「何?」
ガイアは三度剣を掲げて魔力を集中させて行く。
今度こそ確実にエレンを仕留めるために『魔法剣』を放つのだ。
それは戦士であるエレンに対する礼儀であるとガイアは考えた。
戦士であるからこそ打ち倒して勝利を掴む。
それがコロセウムで戦う戦士達に共通した計らいなのだ。
「灰となれ!」
ガイアは炎が纏った煉獄の剣を振り上げて勢いよく振り下ろす。
避けることも攻撃を受けることもなく直撃を受ける、エレン。
炎に包まれながら、その場に倒れ込んだ。
「ふー。お前のガッツに称賛を送ろう」
ガイアは右手を掲げて勝利を宣言する。
すると、審判員たちがエレンのところへ駆け寄り意識を確かめる。
しかし、エレンはぐったりとしたままで瞳孔も開いていた。
「本年度のコロセウム決勝戦の勝者は黒騎士ガイア!」
司会者が勝利を宣言すると会場から割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こる。
それは手に汗握る戦いを繰り広げたエレン達を称えるものだった。
ガイアファン達はさらにも増して黄色い声援を送っている。
同じようにセリーヌもひどく興奮していた。
「鮮やかです、ガイアさま!私は感動しました!その生きざまに、相手に対する騎士道に!」
「あーあ。けっきょっくエレン負けちゃったな」
「これで優勝賞金はパーだ。これから借金地獄に襲われる」
俺はその場に崩れ落ちて頭を抱えた。
後にも先にも金はない。
あるのは多額の借金だけ。
エレンが優勝することを前提に借金をしまくって来たから莫大な金額になっている。
今、考えただけでも恐ろしい。
夢なら覚めてくれ。
これは悪夢でしかない。
「カイト、元気を出せよ。俺も働くからさ」
「お前は現実がわかっていない。俺達の借金はちょっとやそっとじゃ返せないんだぞ。あー、もうお終いだ」
これなら素直にあの金貨をガイアに賭けておくべきだった。
それだけでも少しは違っていただろう。
俺のバカ。バカ。バカ。
「カイトさん、そんなに落ち込まないでください。借金くらいどうってことないですよ」
「何だよ。セリーヌが体を張って返してくれるっていうのか?」
「何を考えているんですか、カイトさん!私はそんな破廉恥なことはしません!」
だよな。
せめてセリーヌが体を張ってくれたらすぐにでも借金が返せそうなものなのだが。
やっぱダメだよな。
俺はジト目でセリーヌに熱い視線を送る。
すると、セリーヌはムッとしながらそっぽを向いた。
「それより、カイト。エレンのところに行かなくていいのか?」
「エレンはほっておいても大丈夫だよ。すぐにケロッとして酒をねだるだろうさ」
「薄情な奴だな、カイトは。セリーヌ、俺達だけで行こうぜ」
「そうですわね。エレンさんの回復もありますし」
セリーヌはキルと一緒に慌てて救急センターに駆けて行った。
「それでは続いて聖杯と優勝賞金の授与式に移りたいと思います。みなさん、着席してください」
司会者の案内で会場が静寂を取り戻す。
「なお、聖杯の授与にはゴルドランド王国のナルセイユ国王が立ち合います」
司会者の合図を受けて係員達が授与式の準備をはじめる。
同時に観覧席で観戦していたナルセイユ国王がおもむろに立ち上がる。
するとすぐさま警備兵達が周りを取り囲んでガードをした。
さすがは国王だけあって警備は厳重だ。
こういうイベントごとでは襲撃される確率が高いので警備は万全の体制ととっている。
なにせゴルドランド王国はラビトリス王国とサイセルス王国と睨みあってるからなおのことだ。
警備兵達とレッドカーペットが授与式のステージまで敷かれる。
その上をゆっくりと踏みしめながらナルセイユ国王が登壇した。
観客席からは歓声が湧き起る。
それは大波となって会場を埋め尽くした。
「それでは優勝者の黒騎士ガイア。ステージに登壇してください」
司会者の合図でガイアはステージに登壇するとナルセイユ国王の前で跪く。
そして頭を垂れたままナルセイユ国王の言葉を待った。
「黒騎士ガイアよ。此度の戦いは大義であった。世は満足じゃぞ」
「ありがたきお言葉をありがとうございます」
「お主の強さにこそ聖杯は相応しい。受け取るのじゃ」
ナルセイユ国王の側近が聖杯を担いでガイアの前に差し出す。
それをガイアは受け取って聖杯を高く掲げた。
割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こる。
観客達はスタンディングオベーションでガイアを称えた。
「ちくしょう。本当ならあそこにエレンが立っているはずだったんだ。なのにガイアの野郎」
俺はハンカチを噛み締めながらキーッと悔しさを滲ませる。
「ガイアさえいなければ間違いなく優勝はエレンだったのに」
今さら後悔してもはじまらないが悔しくてたまらないのは事実。
優勝すれば夢のような生活が待っていたのだ。
それが無残にも目の前で崩れ去るなんて。
「ほんと。俺ってついてないよな……」
俺はガックリと項垂れながらコロセウムを後にした。
その頃、救命センターでは傷だらけになったエレンが運び込まれていた。
すぐに点滴処置が施されて傷の処置が行われる。
そこへ駆けつけたのはセリーヌ達。
看護師たちを押しのけてエレンのベッドに向かう。
「エレンさん、しっかりしてください!」
「うぅ……」
「全然、目を開かないよ。このまま死んじゃうのかな?」
「そんなことはありません。エレンさんはこの程度で死ぬような人ではありません。下がっていてください」
そう言うとセリーヌはエレンの傷口に両手を翳して魔力を込める。
小さく呟くように魔法を詠唱しながら回復魔法を放つ。
「聖なる盃より零れし雫、大地を潤す生命となりて、かの者を再生せよ『キュアレスト!』」
すると、エレンの傷口にキラキラとした粒子が集まりはじめる。
そして聖なる光を放ちながら傷口を再生して行く。
それを見ていたキルは驚いた顔で口をあんぐりと空けていた。
「今、何にが起こったんだ?」
「回復魔法でエレンさんを治癒したんです。これでひとまず大丈夫です。キルさんは回復魔法を見るのははじめてですか?」
キルは首を何度も振って頷く。
「キルさんも大人になってプリ―ストの道を選べば使えるようになりますわ。まあ、そのためにはどんな特殊能力を開花させるかで変わって来ますけどね」
「回復魔法が使えればどんなに殴られても大丈夫だな」
こんな幼い子供にそんなことを言わせてしまう世の中は間違っている。
人間の下に奴隷をつくるなんて傲慢な人間の所業の他ならない。
そんな世の中の風潮はセリーヌ達大人が変えるべきなのだ。
「殴られるなんて……。もう、キルさんは奴隷ではないのですから大丈夫ですよ」
「けど、カイト達と別れたらまた奴隷に逆戻りだ」
「安心してください。私がカイトさんに頼んでいっしょに連れて行ってもらうようにしますから」
「本当か?」
「本当です」
セリーヌが断言するとキルの顔に笑みが戻る。
「うぅ……うん」
「エレンさん。気がつきましたか?」
「ここは?」
「ここは救急センターです」
「そうか。私は負けたのか……」
エレンは悟ったように目を細めて遠くを見やる。
力が抜けているようで視線にいつもの鋭さはない。
「けれど、エレンさんは健闘しましたわ」
「そうだよ。エレン、本当にすごかったんだから」
「フッ。そうか。けど、これじゃあカイトに面目が立たないな」
「カイトさんもわかってくれますわよ」
「だと、いいがな」
そう言ってエレンは静かに目を閉じた。
傷口が再生されたからと言って体力が回復した訳じゃない。
体力の回復には休養が必要なのだ。
エレンは当面の間、休養に専念することになる。
医師が言うには1週間ぐらいあれば十分だと言うことだ。
その間、俺達はミト婆さんの宿屋で過ごすことになるのだった。




