あるある056 「バトルを楽しみがち」
翌日の決勝戦もたくさんの観客がコロセウムに押し寄せていた。
ガイアファンはもちろんのこと、ジーザスファン、エレンファンと。
それぞれのカラーが入った旗を掲げてそれぞれの客席に集まる。
ちなみにガイアは黒、ジーザスは青、エレンは赤だ。
「さあ、トーナメント戦もいよいよ決勝戦が残されるだけになりました。これまで激闘を繰り広げて来た挑戦者達の意志を引き継いで優勝を果たすのは一体誰なのか。黒騎士ガイアか、首狩りのジーザスか、はたまた剣士エレンか。それでは入場してもらいましょう!」
司会者の合図で東、西、南の登場門が一斉に開かれる。
東門より登場して来たのはエレン。
大手を降りながら東側に集まっていたファン達の声援を受ける。
圧倒的におじさんが多いのは気のせいだろうか。
次いで西門より登場して来たのはジーザス。
不敵な笑みを浮かべながらステージへ向かう。
こちらのファンは覆面を被っていて顔を見せていない。
自分の正体がばれるのが嫌なのだろう。
最後に南門から登場して来たのはガイア。
すると会場の喧騒をかき消すぐらい大きな歓喜の悲鳴が巻き起こる。
ほぼ女性ファンばかりだから余計に騒がしい。
そんな声を気に留めることなくガイアはステージに立った。
「これで最後の決勝戦。今年の優勝者は一体誰になるのか。それではトーナメント戦の決勝戦、剣士エレンVS首狩りのジーザスVS黒騎士ガイア戦をはじめたいと思います。それでは試合開始!」
会場に銅鑼の音が響き渡るとどっと観客席が盛り上がる。
それぞれが推している挑戦者に黄色い声援を送りながら気持ちを高めて行く。
「いよいよはじまったな」
「勝つのはエレンかな?」
「俺としてはエレンに勝ってもらいたいけど、戦ってみないとわからないな」
「私は俄然ガイアさま推しですわ」
「おいおい、セリーヌ。これには俺達の賭けがかかっているんだぞ。もっと真面目になれ」
「私は真面目です」
セリーヌは真面目な顔をして俺を睨みつける。
すっかりガイアの虜になってしまったようだ。
ガイアを見る目がほの字になっている。
恐らく心の中の恋人にしているのだろう。
ガイアも罪な奴だ。
「で、カイトはどんな戦術をエレンに伝授したんだ?」
「それはな――」
ステージ上では三人が睨みあっていた。
誰が先に動くのか、誰を先に攻撃するのかで対応が変わって来る。
三つ巴の戦いなゆえ戦略的思考が重要になるのだ。
「それじゃあ行かせてもらうぜ」
エレンが大剣を空に掲げると切っ先をガイアに向ける。
ガイアはチラッとエレンを見やるとスルリと剣を抜いて構えた。
カイトの作戦はこうだ。
まずガイアに先制攻撃をしかける。
そしてガイアを追い詰めて反撃を誘発させる。
そこへエレンの『再現』を発動させて技をコピーする。
後はカウンター攻撃で仕留めるといものだ。
エレン能力を最大限に活かすにはカウンタ―攻撃が一番なのだ。
しかし、それだとジーザスに隙を与えることにも繋がる。
だが、カイトの予想ではジーザスは不意打ちをして来ないとのことだ。
ジーザスは戦いよりも相手を拷問することに生きがいを覚えているかららしい。
その予想がどこまで当たるかわからないが、賭けで負けた以上、従わなければならない。
エレンは迷わずにガイアに向かって行く。
大剣を掲げて大きく振り上げる。
そして勢いのまま袈裟切りを食らわせる。
「食らいやがれ!」
ガイアはすぐさま反応して剣の腹でエレンの大剣を受け止める。
「まだまだ!」
エレンは大剣を振り回して乱撃をお見舞いする。
しかし、ガイアは冷静に対処しながら攻撃を受け流す。
まるでエレンに稽古をつけている師匠のような余裕ぶりだ。
その動きにはまるで無駄がなく、流れるような動作で一連の動きをしている。
一方でエレンの動きには無駄がある。
大剣を大振りしながらごり押しで攻めている。
「やるじゃないか。だがな!」
エレンは一旦攻撃の手を緩めると後ろの飛びのいて間合をとる。
そして着地すると同時に一気にガイアの懐に入り込み大剣を振り払った。
エレン仕掛けたフェイントにもガイアは着いて行き反応してみせる。
「こうでなくては面白くない!」
エレンは再び乱撃を繰り出してガイアを押して行く。
そんなエレンの猛追が効いたのかガイアはジリジリと後退しはじめる。
それでもいたって冷静で確実にエレンの攻撃を受け流す。
攻撃を繰り返しながらエレンの心はワクワクしていた。
何故ならば今相手にしているガイアが自分よりも強いからだ。
動きに全く無駄がなく、かつエレン攻撃を確実にかわす。
その剣裁きの巧みさもさることながら力の入れ具合が着実なのだ。
攻撃は無駄に力を入れても最大限の効果は生まれない。
その時々の状況に合わせた力の配分が重要なのだ。
ガイアはそれを体現している。
剣術ではまさに達人クラスにあたいする人物だ。
だからこそ倒すことに意義を感じている。
これはエレンに与えられたチャンスと言ってもいいだろう。
最強の名をほしいままにするための。
「私は面白いぞ。お前と戦えてな。体中が喜びに震えている」
エレンは攻撃の手を緩めることなく乱撃を加える。
その顔は喜びに満ちた喜福で溢れていた。
二人の戦いを傍観していたジーザスは舌でぺろりと舐めずる。
ここで攻撃を仕掛けてエレン達に不意打ちするのもありだと考える。
いずれにせよどちらかとは戦わなくてはならないならば不意をつける今がチャンス。
そこでどちらを先に攻撃するかだ。
圧倒的に強いガイアから仕留めるのが一番だが、エレンも油断ならないと考える。
とりわけエレンの『再現』の特殊能力は厄介だ。
ジーザスの持つ特殊能力を再現されてしまったら自分の首を絞めることにもなってしまう。
ならばおのずと答えは導き出される。
ジーザスはエレン達に向かって突進して行く。
そしてガイアに攻撃を仕掛けているエレンの背後に回り込むと。
「キョヒョヒョヒョ。まずは貴様からだ」
大鎌を掲げて勢いよく振り下ろした。
気配を感じたエレンは寸の所でジーザスの攻撃をかわす。
「邪魔をするんじゃねえ!」
エレンは振り向きざまに大剣をスイングさせて振り払う。
ジーザスは素早く後ろに飛びのいてエレンの攻撃をかわした。
「キョヒョヒョヒョ。簡単にはいかないようだな」
「お前とは後で遊んでやる。それまで引っ込んでいろ!」
「極上の意気の良さだな」
ジーザスは不敵な笑みを浮かべながら舌なめずりをする。
ジーザスにとって試合は名ばかりのもの。
コロセウムに参加したの目的は拷問ただひとつ。
とりわけ気の強い者を拷問にかけることに生き甲斐を感じている。
気の強い者は最後まで足掻く。
だからこそ、その心を壊すことに興奮を覚えるのだ。
エレンはまさにジーザス好みのタイプ。
だから確実に仕留めたいのだ。
「カイトの予想もあてにならないな。まずはこいつから片づけるか」
「キョヒョヒョヒョ。ここを貴様の墓場にしてやる」
「やれるものならやってみろ!」
エレンは目標をジーザスに変えて攻撃を仕掛けて来る。
すぐさま反応してジーザスは大鎌エレンの攻撃を受け止める。
間髪入れずにエレンの乱撃がジーザスを襲う。
ジーザスは軽やかなステップでエレンの攻撃をかわして行く。
「ちぃ、すばしっこい奴め!」
「当たらぬ。当たらぬわ」
ジーザスの狙いはエレンの心を乱すこと。
圧倒的なスピードを見せて攻撃をかわすことでエレンの中に焦りが生まれる。
焦りは苛立ちとなってエレンの心に隙を作る。
その心の隙間に刃を突き立てることが狙いだ。
そこまでが第一段階。
「ちょこまかと。動くんじゃねえ!」
「甘いわ!」
ジーザスの一撃がエレン体を掠めた。
「くぅ、やるじゃねぇか!」
エレンは後方に飛びのいて体制を整える。
すると、ブラの紐が切れてデローンと方乳が露わになった。
「「うひょー!」」
観客席の東側にいたエレンファンのスケベおやじ達が色めき立つ。
鼻息を荒立てて涎を垂らしながらスケベそうな顔を浮かべる。
それを受けて南側にいたガイアファンの女子達からブーイングが湧き起った。
「これは試合中止だよな」
「いいえ。試合は続行です」
「でも、あんな格好じゃ試合どころじゃないだろう」
「エレンさんを戦闘不能にするかエレンさんが白旗をあげるまで試合は続きます。それがコロセウムのルールですから」
これはいわゆるラッキースケベ。
エレンのたわわな胸が露わになって。
「こんにちわー!」と思わず挨拶をする。
この棚ぼた的なシチュエーションに喜んでいるのは俺を含めたスケベおやじだけ。
って、ちがーう。
おばさんの胸を見て興奮する訳ないだろう。
今のはノーカウントだ。
ハアハアハア。
俺がひとりあっちの世界へ行っているとキルが冷めたような目つきでツッコミを入れて来た。
「カイトってスケベなんだな」
「なっ!」
こんなガキにまでスケベ扱いされてしまった。
これでは俺の威厳が丸つぶれじゃないか。
マズい、マズいぞ。
これでは俺のリーダーシップがとれなくなるじゃないか。
ここは最もらしいことを言って誤魔化すんだ。
「ゴホン。お、俺はエレンの胸を見て喜んだんじゃない。試合が予想通りになって来たから喜んでいたんだ」
「予想通り?」
「そうだ。俺はエレンにまずガイアから攻めるように指示を出した。それはジーザスの攻撃を誘発させるためのものなのだ。ジーザスならば必ず不意を売って来るからな」
俺の言葉にすぐ反応してキルがツッコミを入れる。
「何言ってるんだ、カイト。ジーザスは不意をついてこないって言っていたじゃないか」
「そ、それは作戦の第一段階までの話だ。第二段階ではジーザスから先に仕留める作戦だったんだ」
「本当かよ。今、考えたんじゃないか?」
「チッチッチッ。これだから素人は困るんだ。作戦ってのはな、何段階も立てておくものなんだ。想定通りにならなかった時のことも考えてな」
「そのことはエレンさんは知っているんですか?」
セリーヌの全うな質問に俺は思わず口籠る。
「そ、それは何だな。俺とエレンの間柄だ。説明しなくてもわかっているさ」
今はそう言うことにしておこう。
どうせエレンのことだから作戦を無視して戦うはずだ。
まあ、それも想定内のことだけど。
要は勝てばいいだけの話。
エレンの活躍に期待しよう。
「キョヒョヒョヒョ。これはいい眺めだ」
「気持ちの悪い笑い方をするんじゃねぇ!」
ジーザスはニヤリと不敵な笑みを浮かべて舌なめずりをする。
第二段階は心を切り裂くこと。
圧倒的な力の差を見せつけて相手の心をズタボロにする。
立ち向かっても全く歯が立たなければ自然と絶望が湧いて来る。
絶望に心を蝕まれて行けば歯向かうことすら忘れるだろう。
それで第二段階は終了だ。
「では、次の段階だ」
「次の段階だと?」
「そうだ、これは貴様を処刑するための準備だ」
ジーザスは一歩踏み出して一気に間合いを詰める。
その速さは閃光の如く、一瞬でエレンの懐に入った。
「早い!」
そして大鎌を振り上げてエレンに切りかかる。
エレンは反応できずに遅れて大剣を振り抜く。
しかし、ジーザスの大鎌がエレンの体を掠めた。
「クゥッ」
エレンの肩に鮮やかな斬撃の痕が出来る。
間髪入れずにジーザスは大鎌の乱撃をお見舞いする。
エレンは回避行動もとれずにジーザスの大鎌の餌食となった。
「くぅ……ちっくしょう。こんな奴に」
「キョヒョヒョヒョ。弱い。弱い過ぎる」
エレンは片膝をついて痛みを堪える。
乱撃はエレンの体に無数の切り口をつけて鮮血を滲ませていた。
「まだ、これだけではないぞ」
ジーザスは再び攻撃に転じてエレンに乱撃をお見舞いする。
すぐさまエレンは反応するが防戦一方で押されはじめる。
この程度の防戦は想定内。
ただ、心を折るにはもう一押し必要だ。
通常攻撃でこれ以上の効果は期待できない。
ならば必殺技を繰り出す必要がある。
だが、注意しなければならないのはエレンの『再現』だ。
この一撃で確実に心を折らないと逆に反撃を食らってしまう。
まあ、たとえそうなったとしてもジーザスには奥の手があるのだが。
ジーザスはエレンの腹を一蹴りすると後ろに飛びのいて間合いをとった。
「これで終わりにしてやる」
「それは私の台詞だ」
ジーザスは大鎌を振り回しながらステップを踏みはじめる。
それはまるでダンスを踊っているかのように軽やかに。
「何だ?」
「行くぞ。『デス・マリオネット!』」
ジーザスは踊るようにステップを踏みながら大鎌の乱舞をお見舞いする。
それは淀みもなく流れる川の如く、無駄のない滑らかな太刀筋。
一振り一振りが確実にエレンを捉え、切り刻んで行った。
「グハッ」
完封なきまでに打ちのめされたエレンは片膝をつく。
斬撃の痕からは真っ赤な血が滲み出し血の海を作った。
俺達は目の前に映った光景に唖然としていた。
何故ならばエレンがピンチに追いやられていたからだ。
ジーザスの放った『デス・マリオネット』は完成された必殺技だ。
動きに全く無駄がなく、かつ、鉄を切り裂くほどの鋭さを兼ね備えている。
ジーザスのスピードと相まって、その鋭利さは格段に上がっていた。
「これじゃあエレンが負けちゃうんじゃないか」
「そうですわね。ここまでエレンさんが追い詰められるなんて……」
マズい。
非情にマズイ。
ここまでエレンが追い詰められるなんて想定外だ。
俺の計算通りならエレンがジーザスを追い詰めていたはずなんだ。
それをジーザスの奴……。
これじゃあ優勝賞金なんて手に出来ないじゃないか。
ちくしょう。
何としてでもエレンに勝ってもらわなければ。
「おい、エレン!いつまで遊んでいるんだ!真面目にやれ!お前の手には優勝賞金がかかっているんだぞ!俺達を借金まみれにするつもりか!」
そう声高に叫んでいる俺のことを冷ややかな目で見る、キル。
心なしか俺のことを蔑んでいるかのようだ。
それでも構わない。
今は俺の面子よりも優勝賞金の方が大事なのだ。
エレンは痛みに堪えながら俺の言葉を聞いていた。
「カイトの奴。好き勝って言ってくれやがる」
それにしてもジーザスがここまで手強いとは想定外だ。
実力は自分より下だと思っていただけにあげ足をとられた格好だ。
もう、すでにカイトの立てた作戦は意味を持っていない。
と言うよりもはじめから意味を成していなかったと言える。
最強であるガイアを先に仕留めるのは簡単には行かない。
そればかりかたとえガイアを先に仕留めたとしても、その後のジーザス戦で敗退を帰することになるだろう。
一番いいのはガイアとジーザスがバトルをしてお互いにつぶし合うのだ。
そうすれば体力も削られるし手負いとなるから仕留めるのも楽になる。
だが、それはエレンには受け入れがたい作戦でもあった。
エレンは戦いを楽しむタイプの剣士だ。
自分が不利になろうが追い詰められようが戦いが出来ればいいのだ。
だからこそ、ここでジーザスを仕留めることがエレンの目標になる。
「私をここまで追いつめた奴は久しぶりだ」
「キョヒョヒョヒョ。貴様は弱い。実に弱い」
「ククク。弱いか。そうか、弱いか」
「何がおかしい?」
「これが笑われずにいられるかよ。私は楽しんだ。楽しくて楽しくてしょうがないんだよ」
エレンは大剣を杖代わりにしておもむろに立ち上がる。
エレンがここまで追いつめられたのは何年ぶりだろう。
剣士として旅立ってからほぼ負け知らずの道を進んで来た。
セリーヌと出会ってからは片手で数えられるほどしか負けていない。
その経験があったからこそエレンは絶対的な自信を持つようになった。
エレンが自惚れているのも確かな背景があるからなのだ。
「お前みたいな強い奴と戦うのは私の望みだ」
「望だと?」
「そうだ。私は常に戦いに飢えていた。だから、強い奴を求めて世界を旅して来たのだ。そしてお前に会った」
「キョヒョヒョヒョ。ならば望み通りここを貴様の墓場にしてやる」
ジーザスは再びステップを踏み『デス・マリオネット』の構えをとる。
次に『デス・マリオネット』の直撃を受ければ、さすがのエレンでも確実にアウトだ。
だから、回避行動に移る。
そう考えるのは普通の戦士だけだろう。
エレンは追い込まれれば追い込まれるほど闘志を漲らせるのだ。
それに『デス・マリオネット』を打ち破る手立てもある。
さきほどの戦いでジーザスの『デス・マリオネット』を完コピしていたのだ。
エレンは大剣を構えるとジーザスと同じようにステップを踏んだ。
「何のつもりだ?」
「何のつもりもない。お前自身の必殺技でぶちのめすだけだ」
「キョヒョヒョヒョ。ただの猿真似ごときに負けるほど柔な技ではないわ」
「試してみるか?」
エレンとジーザスはステップを踏みながら攻撃のタイミングを見計らう。
どちらが先に動いても強い方が勝つだけ。
ジーザスの『デス・マリオネット』が勝つか、エレンの『再現』した『デス・マリオネット』が勝つか。
「『デス・マリオネット!』」
次の瞬間、ジーザスが先手をとる。
大鎌を乱れるように振り回しながらエレンに襲いかかる。
対抗するようにエレンも『再現』した『デス・マリオネット』を発動させる。
大剣を乱れるように振り回しながらジーザスに対抗する。
そしてお互いの『デス・マリオネット』はステージ上で激しくぶつかり合った。




