あるある053 「思わず口にしたことが仇になりがち」
翌日、トーナメント戦第七試合シドVSエレン戦が組まれた。
ここからは準決勝戦となるのだが2位、3位を決めないので普通のトーナメント戦と変わらない。
ただ、これまでの戦いで手の内が明らかになっているからより戦略的な戦い方が求められる。
戦術と技、そして心がしっかりしていないと勝つのも難しくなるだろう。
「ここがコロセウムか。デカいな」
「キルさんははじめてでしたね。あの中央のステージでシドさんとエレンさんが戦うのですわ」
「ワクワクするな」
キルは物珍しそうにコロセウムを眺めながら心を躍らせる。
俺もはじめてコロセウムに来た時は同じような反応をしていたな。
あの時はゲルトが邪魔をして来てさんざんだったけれど。
それでも予選ではじめてステージに立った時は興奮した。
結果は惨敗だったけれども俺の中で何かが変わった瞬間だった。
「さあ、いよいよトーナメント戦も中盤。ここで勝ち上がった者が決勝戦へ進めます。決勝戦の切符を手にするのは白髪の老戦士シドか、はたまた女剣士エレンか。それでは入場してもらいましょう!」
司会者の合図で東と西の登場門が開く。
東からシド、西からエレンが入場して来る。
すると観客席から割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
「すごい人気っぷりだな」
「準決勝戦ですからね。みなさんも興奮しているのですわ」
シドとエレンはステージの中央に来るとお互いに一礼をする。
これはコロセウムで戦いを繰り広げる戦士達のマナーになっている。
お互いの健闘を誓い、そして力を出し切ることを観客に示す意味があるのだ。
コロセウムは殺し合いの場ではない。
互いの力を発揮して戦いを繰り広げる場。
だからこそ戦士としてのマナーが必要なのだ。
「さて、エレンが宣言通り、5分でシドを仕留められるかだな」
「難しいでしょうね。シドさんは強いですから」
「カイト、やけに嬉しそうじゃないか」
「まあな。エレンの泣きっ面が浮かんで笑わずにはいられないんだよ」
俺は勝ち誇ったように笑みを浮かべながらステージ上のエレンを見やる。
シド相手に5分で勝負を決めるなんて無謀な挑戦でしかない。
エレンがどんな特殊能力を持っているのかはわからないが、シドの『颯刃』には敵わないだろう。
まあ、戦う前から結果が見えているけれどな。
「それではトーナメント戦第七試合シドVSエレン戦をはじめます。試合はじめ!」
司会者の試合開始の合図と共に会場に銅鑼が鳴り響く。
「それでは行かせてもらうぞ」
「望むところだ。5分だ。5分で決着をつけてやる」
「5分か。随分と舐められたものじゃな」
シドは刀の柄に手をあてて抜刀の構えをとる。
「お前の手の打ちなんてわかっているんだよ」
エレンは右足を踏み出して一気に間合いを詰める。
そして大剣を振りかざすとシドに向かって切りかかった。
シドはギリギリの間合いまで引きつけると瞬間的に抜刀をして『颯刃』を発動させる。
すかさずエレンは体を捻り衝撃波をかわした。
「やるじゃないか。ワシの『颯刃』をあのタイミングで避けるなんて」
「私くらいのレベルになると造作もないことさ」
エレンは余裕気な態度で大剣を肩に乗せる。
今のエレンの反応速度であればシドの『颯刃』は脅威ではない。
『颯刃』は瞬間的に抜刀して衝撃波を放つ特殊能力だから何より速さが肝心。
その速さに着いて来れているうちは『颯刃』をかわすことが出来るだろう。
ただ、シドが見せている『颯刃』はこれだけではない気がする。
「お主のような手応えのある戦士は久しぶりじゃ」
「手応えがあるんじゃなくてお前よりも強いんだよ」
「ぬかせ、ひよっこが」
シドは再び抜刀の構えをとる。
エレンの挑発にも冷静に対応しているのはさすがと言える。
心を乱してしまえば本来の力を発揮できなくなるものだ。
だから、戦士達は言葉でも攻撃を仕掛けて来る。
いかにして相手の心をかき乱すかに躍起になるのだ。
「おい、エレン。1分経ったぞ」
「まだ1分か。余裕、余裕」
エレンは大剣を構えると切っ先をシドに向ける。
そして再び一気に間合いを詰めてシドの懐に入った。
「間合いは十分。これなら!」
エレンは大剣を下段に構えて一気に振り上げる。
「遅いわ!」
シドは素早く体を横に移動させて攻撃をかわす。
しかし、抜刀の構えは少しも崩すことがない。
そしてエレンの背後に回り込むと至近距離で『颯刃』を発動させた。
「やるっ!」
すかさず体を捻って衝撃波をかわそうとするエレンだったが、間に合わず。
大剣の腹で衝撃波を受け止めて後ろに大きく吹き飛ばされた。
「外したか」
エレンは片膝をついておもむろに立ち上がる。
直撃は免れたようだがダメージは大きいようだ。
エレンは少し余裕ぶり過ぎていたようだな。
これで目を覚ましてくれればいいのだけれど。
「やるじゃないか、ジイさん。だが、この程じゃ私は倒せないぞ」
「無論、はじめからわかっとるわい。お主がただの剣士でないことぐらい見ればわかるわ。じゃがな、お主は自分の力に自惚れ過ぎじゃ。それは戦いの中では命取りになるってことも知っておくんじゃな!」
今度はシドから仕掛ける。
抜刀の構えをとったままエレンの懐に飛び込む。
あの間合いならいくらエレンでもかわせない。
シドはこれまでの戦いで受け身の戦術をとって来たが、それは基本形に過ぎない。
『颯刃』の力を十分に引き出せるのは攻めの戦術をとった時だ。
瞬間的に素早く抜刀して『颯刃』を発動させる。
エレンは回避行動もとれずに直撃を受けた。
「うわぁぁぁぁ!」
エレンは後方に大きく吹き飛ばされて転げ落ちる。
「エレン、やられちゃったよ」
「いいんだよ、たまには。あいつは口で言ってもわからないヤツだから身を持って知ってもらうのがいいんだ」
「カイトって冷たいんだな」
「リーダーだからな」
リーダーとう言うものは常に冷静でいなければならない。
戦局が不利になろうが勝利が遠のこうが。
その場その場に適した判断を下す必要があるのだ。
今のエレンはシドの追撃にあって追い込まれている。
そもそもそれはエレンが自惚れていたことが原因だ。
だからこそ身を持って自覚させることが必要なのだ。
自分の甘さを認め持っている力をいかんなく発揮する。
そうすることではじめてシドに勝てるものなのだ。
「おい、エレン。2分経ったぞ」
「2分か。やってくれるぜ、ジイさん。私に直撃を加えるなんてな」
エレンは大剣を杖代わりにして立ち上がる。
「そうでなくては面白くない。さあ、見せてみろお主の力を」
「ジイさん程度で私の特殊能力を使うとは思ってもみなかったが、いいだろう。見せてやるよ、私の特殊能力を」
そう言ってエレンはシドと同じように抜刀の構えをとる。
「なんじゃ、ワシの真似か?真似事程度ではワシには勝てんぞ!」
シドは再び抜刀の構えを保ちながら攻撃に転じる。
一気に間合いを詰めると瞬間的に抜刀して『颯刃』を発動させる。
同時にエレンも抜刀して『颯刃』を発動させた。
「何じゃと!」
二つの衝撃波は激しくぶつかって打ち消し合う。
エレンとシドは後方に飛びのいて間合をとった。
「あれがエレンさんの特殊能力ですわ」
「どういう事だ?」
「エレンさんは一度見た技を瞬間的に覚えてしまう能力を持っているのです」
「何だよ、その特殊能力は。反則的な能力じゃないか!」
前にエレンとアンナがバトルした時に見たものはエレンの特殊能力だったのか。
おかしいとは思っていたんだよな。
ただの剣士のエレンが炎を纏った剣技を使うなんて。
だが、エレンの特殊能力は強力だ。
いくら『颯刃』を使えるシドだからと言ってエレンに真似されたのでは敵わないと言うもの。
この勝負、エレンが勝つかもしれない。
「まさか、ワシの『颯刃』を真似るとはな。じゃが、『颯刃』はワシが長年使い続けて来た能力じゃ。偽物のお主の『颯刃』に負けるはずがない」
「なら勝負してみるか?」
エレンとシドは抜刀の構えとって攻撃体制に入る。
どちらが先に仕掛けても放つのは『颯刃』。
攻撃の『颯刃』か、受け身の『颯刃』か。
会場の緊張感が一気に高まる。
そして二人が同時に動いた。
「食らえ!」
「望むところじゃ!」
エレンとシドは一気に間合いを詰めると瞬間的に抜刀をして『颯刃』を発動させる。
エレンは大剣から繰り出す『颯刃』。
かたやシドは刀から繰り出す『颯刃』。
衝撃波の大きさはエレンの方が上回っているが鋭さはシドだ。
衝撃波は激しくぶつかり合いお互いに打ち消し合った。
「ワシの『颯刃』が効かないじゃと」
「私の『再現』の前ではどんな技でも同じことだ」
シドはショックを受けているようでしかめっ面を浮かべていた。
その気持ちはわからないでもない。
長年自分が愛用して来た特殊能力がいとも簡単に真似をされ受け止められたのだから。
こういう場合、本物が勝つものだがそうはならないのがエレンの特殊能力の凄いところでもある。
エレンの持つ『再現』の特殊能力は相手の技を真似るだけではなく本質さえコピーしてしまうのだ。
いわゆる特殊能力のクローンとでも言うべきだろうか。
特殊能力は唯一無二のものであるが絶対ではない。
『再現』が複製した『颯刃』も、またもうひつとの『颯刃』であると言えるのだ。
「そんな特殊能力があるなんてワシも知らなんだ。じゃが、ワシの『颯刃』はこれだけではない!」
シドは再び攻撃に転じて一気に間合いを詰めて来る。
ただ今度はエレンの懐に飛び込むのではなく、少し間合いをとる。
「お主にかわせるかな。ワシの『颯刃』の乱舞を!」
シドは素早く抜刀して『颯刃』を発動させる。
それは一度でなく何度も抜刀を繰り返して衝撃波を創り出す。
無数の衝撃波は乱舞となってエレンに襲いかかる。
エレンはたまらずに大きく横に飛びのいて衝撃波をかわした。
「今のは何だ?」
「『颯刃』と『乱撃』を組み合わせたのですわ。『乱撃』はその名の通り乱れるような攻撃をするスキルですわ。シドさんの『颯刃』とは相性がいいのです」
考えて来たな、シドの奴。
『颯刃』と『乱撃』の合わせ技なんて破壊力抜群じゃないか。
たとえエレンが『再現』で『颯刃』を真似たとしても『颯刃』の乱舞の前には敵わないと言うもの。
ちょっと待てよ。
エレンの『再現』って一度見た技を瞬時に習得できる能力だろう。
ってことは今見た『颯刃』の乱舞もマスターできるんじゃないのか。
「面白いジイさんだ。まだそんな奥の手を隠し持っていたとはな」
「ふん。戦士と言うものは常に奥の手を隠し持っているものじゃ」
「だけどな。ジイさんには私は倒せないぜ」
「ぬかせ!」
今度はエレンから攻撃を仕掛ける。
先ほどのシドと同じように懐に入る手前で間合いをとって。
そして抜刀を繰り返しながら『颯刃』の乱舞をお見舞いした。
「何じゃと!ワシの『颯刃』の乱舞を真似たじゃと!」
シドはすぐさま『颯刃』を発動させて衝撃波を打ち消す。
しかし、数発の衝撃波がシドに直撃した。
シドは後ろの大きく吹き飛ばされてステージに転げ落ちる。
「くぅぅぅ……まさか、奥の手も真似されるとは」
「だから言ったんだ。ジイさんには私を倒せないとな」
やっぱりこうなったか。
もう、シドにはエレンに勝つ術はない。
どんなに新しい技を繰り出したとしてもエレンに真似をされてしまうのだから。
この勝負、エレンの勝ちだな。
「さあ、降参しろ。これ以上戦ってもジイさんの負けは見えている」
「ぬかせ。戦士と言うのはどんな状況に追い込まれたとしても白旗は挙げないものじゃ」
これだけ追い込まれてもシドの気迫は消えていない。
ダメージはそれなりに追っているのだが気合で痛みを吹き飛ばしている。
さすがは幾度の歴戦を乗り越えて来た戦士だけのことはある。
「お主の特殊能力の凄さはわかった。じゃが、はじめて繰り出す技には対応できないだろう」
シドの奴、まだ奥の手を持っているのか。
しかも、今度はエレンに真似させることなく次で仕留めるつもりでいる。
エレンの『再現』は一度見た技でなければ習得出来ないのだ。
その弱点をシドはこの短時間で見抜いてしまったようだ。
シドは再び抜刀の構えをとる。
「面白い。受けて立とうじゃないか」
対抗するようにエレンも抜刀の構えをとる。
シドは深く呼吸をしながら意識を集中させて行く。
次の一撃に全てを賭けるように精神を研ぎ澄ます。
その鼓動が聞こえて来そうなくらい辺りは静まり返っていた。
そして時は動き出す。
はじめに攻撃に転じたのはシド。
一気に間合いを詰めてエレンの懐に入る。
「これで終わりじゃ!」
瞬間的に抜刀をして『颯刃』を発動させる。
今度は乱舞ではなく一太刀に全てを込めて。
そして生み出された衝撃波は鋭い刃となってエレンに襲いかかった。
「させるか!」
対抗するようにエレンも抜刀をして『颯刃』を発動させる。
エレンの大剣から生み出された衝撃波とシドの衝撃波が激しくぶつかり合う。
しかし、シドの衝撃波がエレンの衝撃波を真っ二つに切り裂いて行く。
シドが発動させた『颯刃』は『一刀両断』の必殺技と組み合わせた技だったのだ。
「くぅ、やる。だが!」
エレンは大剣の腹でシドの衝撃波を受け止める。
すると今度はエレンの大剣を二つに切り裂くかのように衝撃波が襲いかかる。
すかさずエレンは覇気を大剣に纏わりつかせて衝撃波を凌いだ。
「うぬ、ここまでとは」
「ハアハアハア。今のはヤバかったぜ」
エレンは大きく肩で息をしながら呼吸を整える。
さすがにあれだけ強力な攻撃を防いだのだ。
エネルギーの消耗も大きいのだろう。
エレンの大剣は真っ二つにされることはなかったが、刃先に亀裂が入っていた。
「これで私の勝ちだな」
「ムムム……」
さすがのシドもこれ以上の奥の手は持っていないようだ。
悔しそうな顔をしながらエレンのことを睨みつけている。
これでエレンの勝率が上がった。
シドが『颯刃』を繰り出して来てもエレンは攻略済みだ。
シドに勝機は残されていないだろう。
「エレンって強いんだな」
「確かに、ここまでやるとは思わなかったよ」
「だから言ったんです。エレンさんなら大丈夫だって」
だけど予定の5分はとうに過ぎている。
勝負は俺の勝ちだな。
これでエレンに作戦を飲んでもらうことが出来る。
今やエレンの特殊能力が明らかになった以上、作戦は必須だ。
決勝戦ではガイアが勝ち上がって来るだろうから対策を練っておかないと。
「おい、エレン。勝負は俺の勝ちだ。あとは好きにしろ」
「何だよ、もう5分経ったのか。ちくしょう」
「もう、ワシには勝つ術がない。じゃが、白旗は最後まで挙げんぞ」
「そう言うと思ったよ。印藤は私が渡してやる」
エレンとシドは再び抜刀の構えをとる。
これが最後の一撃になることは誰もが予想していた。
だからこそ、この一撃に全てを賭ける。
自分の持っている全てを集中させて覇気を練り上げる。
するとエレンとシドの周りにオーラが漂いはじめた。
「次で決める!」
「ワシは負けん!」
タイミングを計ったかのように二人は同時に動き出す。
そして一気に間合いを詰めると抜刀をして『颯刃』を発動させた。
今度はスキルや必殺技を合わせた複合技ではなく、ただ純粋の『颯刃』。
純粋であるからこそ乱れもなく鋭い衝撃波となってぶつかり合う。
辺りのエネルギーを吸い込みながらどんどん膨れ上がって行く。
そして臨界点まで達するとお互いを打ち消し合って消滅した。
しかし、二人の攻撃は終わっていない。
互いに大剣と刀を合わせて力比べをしている。
「勝つのは私だ!」
「認めんぞ!」
圧倒的に腕力はエレンの方が優っている。
シドはエレンに押されながら地面すれすれまで体を逸らす。
「あのおじいさん頑張っているね」
「勝負にこだわる男の生きざまだよ」
「カッコイイことを言うのですね」
決まったな。
セリーヌは俺に羨望の眼差しを向ける。
こう言うところで決めておかないと俺の威厳は保てないからな。
でも、これでエレンの勝ちは決まったようなもの。
シドがいくら白旗を挙げなくても戦闘不能と判断されたら負けなのだ。
「負けを認めろ!」
「まだじゃ。まだ!」
シドはブリッジをしながら必死に抵抗をしている。
エレンはここぞとばかりに全体重をかけてシドをねじ伏せる。
するとシドは耐え切れずステージ上に仰向けに倒れた。
「そこまで!」
すかさず司会者が試合終了の合図を告げる。
「ワシはまだ負けてはおらん!」
「いい加減に諦めろ、ジイさん。お前の負けなんだ」
「認めん!ワシは認めないぞ!」
ここまで来るとただの駄々っ子だ。
シドの勝負に対する情熱がそうさせているのだろうけど負けは負けだ。
諦めてくれ。
「トーナメント戦第七試合の勝者は剣士エレン!」
エレンは右手を振り上げて勝利のポーズをとる。
すると、会場から割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こる。
それはエレンとシドの健闘を称えるものに他ならない。
シドは最後まで納得していなかったようだが強制退去させられて行った。
「これでエレンさんの決勝戦の進出が決まりましたわね」
「想定通りだ。後はどんな奴が決勝戦へ進んで来るかだ」
「間違いなくガイアさまは進んで来るでしょうね」
となるとあと一枠はジーザスかダイドかのどちらかになる。
この後、ジーザスとダイドの試合だからしっかりと見ておこう。
とりわけジーザスは今だ手の内を見せていない。
どんな特殊能力を使うのか調べておかないとな。
「それじゃあ飯にしよう」
「賛成!」
俺達は興奮冷めやらぬコロセウムを後にして近くの大衆食堂へ向かった。




