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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第二章 激闘するおばさん編
51/361

あるある050 「ピンチに陥りがち」

翌朝になってもエレンは戻って来なかった。

俺とセリーヌはどうしようかと話し合っていた。


「朝になっても帰って来ないなんてエレンさんに何かあったのでしょうか?」

「小さな子供ならまだしもエレンはおばさんだ。ほっておいてもそのうち帰って来るだろう」

「カイトさんは心配じゃないんですか?」

「エレンのことだからな。そこいら酒場に入り浸っているはずだ」

「お金もないのに?」

「色仕掛けで酒をねだっているんだろう。胸だけは一丁前にデカいからな」


そう言ってセリーヌの胸をがん見する。


「カイトさんは根っからのスケベなんですね」

「男だからな。デカい胸は大好きだ」


セリーヌは恥ずかしそうに両手で胸を隠す。


「それよりトーナメント戦を観戦しに行くぞ」

「今日はベルモットさんとキリアさんの試合からですね。どちらが勝つでしょうか?」

「圧倒的に近接攻撃のベルモットが有利だな。キリアは魔法使いだし苦戦を強いられるだろう」


魔法使いは魔法の詠唱が必要なだけに近接攻撃タイプとの戦いでは不利になる。

キリアがトーナメント戦に勝ち上がれたのもエレンが圧勝したおかげだ。

本来であれば勝ち上がれていなかったはず。

おそらく勝負も一瞬で決まるだろう。


「セリーヌは何か情報を仕入れているのか?」

「もちろん、抜かりなく」


そう言ってセリーヌは手帳のページをペラペラとめくる。


「ベルモットさんは『連撃』のスキルと『唐竹割り』の必殺技を習得しています。『唐竹割り』は『兜割』に近い攻撃ですが、『兜割』が対象を粉々に粉砕するのに対して『唐竹割り』は鮮やかに切り裂く技です。なのでパワーファイターでなくても大丈夫です。キリアさんは『早唱』のスキルを持っています。『早唱』は普段の倍の速さで魔法を詠唱出来るスキルです。それに加えて炎系の魔法を中心に覚えているとのことです。魔法は系統を増やすことも重要ですが、ひとつの系統に絞り込んで習得した方が早く習得出来ます」

「すごい情報じゃないか。いったいどんな手を使ったんだ?」

「どんな手って。私はいつも正攻法な手段しか使いません。けっしてカイトさんが考えているようなやましいことはしてませんから」


女性に対して色仕掛けなんて通じないはずだ。

まあ、同じ女性同士だから意気投合したのだろう。

今はそう言うことにしておこう。





コロセウムはいつものように観客で満席だった。

どことなしか女性の客が目立つのは気のせいだろうか。

セリーヌもいつもより身なりをちゃんとしているし。


「さあ、トーナメント戦も3日目です。今日はどんな戦いが繰り広げられるのか!それでは入場してもらいましょう!」


司会者の合図で東西の登場門が開く。

東からは戦士ベルモット。

西からは魔法使いキリアが登場する。

2人は歓声に応えながらステージまでやって来た。


「それではトーナメント戦第五試合、戦士ベルモットVS魔法使いキリアの試合を行います。それでは試合開始!」


司会者の合図とともに試合開始の銅鑼が会場に鳴り響く。

ベルモットとキリアは武器を構えて戦闘体制に入る。


「悪いがキリア。この勝負は勝たせてもらうわよ」

「そう言う訳には行かないわ。私も勝ちたい理由があるからね」


これまでにコロセウムで優勝を手にして来たのはみんな近接攻撃の戦士ばかり。

とっさの攻撃に反応出来ない魔法使いは近接攻撃の戦士と相性が悪い。

魔法の詠唱中を狙われて討ち取られて来たのだ。

それはキリア自信よく理解している。

だからこそ魔法使いである自分が勝つことで歴史を覆したいのだ。

魔法使いでも優勝できることを証明することは魔法使いの未来を明るくする。

それは魔法使い自体の発展にも繋がるだろう。

キリアはそのことを使命のように感じていたのだ。

だからこそこの勝負は負けられない。


「なら、実力行使するだけだわ!」


ベルモットは大きく踏み込んで一気に間合いを詰める。

戦斧を振りかざしキリア目がけて勢いよく振り下ろす。

キリアはすぐさま反応して横に飛びのいで攻撃をかわす。

そして左手でベルモットの背中を押すと大きく間合いをとった。


「そんな攻撃でやられるもんですか」

「やっぱりただの攻撃じゃダメなようね」


ベルモットは再び戦斧を構えて攻撃体制をとる。

キリアも杖を翳しながらベルモットと距離を保つ。

間合いを詰められたらベルモットの流れになる。

だから、その前に魔法を発動させなければならない。

ベルモットのスピードはそれほど速くない。

重い戦斧が枷となっているのか普通の剣士よりも動きが遅い。

キリアが習得している『早唱』ならば半分の時間で魔法を発動できる。

しかし、ギリギリのタイミングであることは間違いない。

たとえステージの端にいても、それは変わらないのだ。

それならば攻撃をかわしながら魔法の詠唱をするしかない。


「行かせてもらうわよ、キリア!」


ベルモットは迷うことなくキリアに切りかかって行く。

今度は普通の攻撃ではなく、『連撃』を発動させて。

無数の斬撃がキリアに襲いかかる。

キリアはステップを踏みながら斬撃を避ける。

同時に魔法の詠唱に入った。


「攻撃を避けながら魔法の詠唱に入るなんて。私も随分と舐められたものね」


ステップを踏みながら後方に退いて行くキリアに追い打ちをかける、ベルモット。

戦斧を大きく振り回しながら『連撃』の乱舞をお見舞いする。

身軽なキリアは後方に飛びのきながら攻撃をかわして行く。

しかし、数発の『連撃』がキリアの体を掠めた。


「くぅっ」


キリアは痛みに堪えながら魔法の詠唱を続ける。

ここで集中力を切らせたらせっかくの作戦も台無しだ。

キリアは闇雲に攻撃をかわしていたのではなく、ベルモットを誘い込むように誘導していたのだ。

そして炎の魔法を発動させる。


「熱き業火の柱となりて、かの者を永久の牢獄へ封じこめろ!『ファイアーウォール』」


ベルモットを取り囲むように炎の柱が競り立って行く。

それは炎の壁となってベルモットを封じこめた。


「これならばいくらあなたでも動けないでしょう」

「ちぃ。魔法を発動させられたか」


ベルモットは四方を見渡すが炎の壁で覆われていて逃げ道がない。

唯一残された逃げ道は上空だけだった。

しかし、炎の柱は5メートルほどの高さまで達しており飛び越えられそうにない。


「これじゃあ手の打ちようがないな。勝負はキリアの勝ちか?」

「まだわかりませんよ。ベルモットさんは特殊能力を見せていませんし」


すると、ベルモットが静かに目を閉じて意識を集中させる。

それは炎の壁の向こうにいるキリアを補足するためだ。


「これで終わりにさせてもらうわ!」


キリアは次の魔法を放つため詠唱に入る。

その声を聞き逃さなかったベルモットはキリアに向けて戦斧を放り投げた。

ベルモットの手から離れた戦斧は高速回転しながら炎の壁を突き破る。

そして魔法の詠唱に入っていたキリアの顔を掠めて行った。


「何っ!」


ベルモットの戦斧はブーメランのように回転しながらベルモットの所へ戻って行く。


「どうかしら。私の『トマホーク』は?」


『トマホーク』は戦斧をブーメランのように操れる特殊能力だ。

近接攻撃が主体のベルモットの攻撃の幅を広げる技でもある。

自分の動きが止められていても『トマホーク』ならば反撃も可能だ。

まさにベルモットに死角なし。


「まさか、そんな攻撃をしてくるなんてね。計算違いだったわ」

「私もこんなところで特殊能力を発動させるなんて思ってもいなかったけどね」


これで戦術ががくるって来た。

キリアはすぐさま思考を巡らせる。

死角のないベルモットを倒す最良の作戦を組み立てる。

ベルモットの攻撃を止めることは出来ない。

その代り動きはある程度、封じ込められている。

ベルモットに『ファイアーウォール』はくぐれない。

ならば『ファイアーウォール』の効果が切れる前に決着をつけるのが最良だ。

そのためには特殊能力を発動させないといけない。

できれば決勝戦まで特殊能力は伏せておきたかったのだが仕方ないだろう。


「次で決めてあげるわ」

「望むところだ」


キリアは『ファイアーウォール』の周りを回りながら魔法の詠唱に入る。

動きを止めればベルモットの『トマホーク』の犠牲になるからだ。

動いてさえいればベルモットとてキリアを補足出来ないだろう。

しかし、ベルモットはその先を越えて来た。

『ファイアーウォール』の周りをグルグルと回るキリアの動きを予測して攻撃を仕掛けて来たのだ。

ベルモットの『トマホーク』がキリアの目の前を横切る。


「危なっ!」


キリアは後ろに飛びのいて動きを止める。


「外したか。だけど、お前の気配は掴めたぞ」


ベルモットは再び『トマホーク』を発動させてキリアに仕掛ける。


「やらせるもんですか!」


飛んで来る戦斧を避けて今度は逆回りに駆け出す、キリア。

周期的な動きではベルモットに補足されてしまう。

ならばこちらも複雑な動きでベルモットから逃れなければならない。

キリアは『ファイアーウォール』の周りを行ったり来たりしながら複雑な動きをする。


「考えたな。だが、こちらにもチャンスはある。魔法を発動させる時は動きが止まるからな」


ベルモットは燃え上がる炎の壁を睨みつけながらキリアの気配を感じとる。

しかし、キリアが複雑な動きをしているので補足出来ないでいる。

するとベルモットは戦斧を構えながら攻撃のチャンスを待った。


そのことはキリアも重々承知していた。

魔法を発動させる時はどうしても動きが止まってしまうのだ。

そこを狙われたらキリアは確実に討ち取られてしまうだろう。

だからこそキリアは奥の手を考えていた。

キリアでなければ出来ない戦術を。

キリアはステージの端まで駆けて行くと観客席に向かって両手を翳した。


「灼熱の大地より生まれし炎、爆炎となりて大地に降り注げ!『ファイアーボール!』」


キリアの両手の前に赤い魔法陣が浮かび上がると無数の火球が飛び出して来る。

その火球は観客席の目の前を掠め飛んで行くと軌道を変えてベルモットに向かって行く。

ベルモットは上空より飛来する無数の『ファイアーボール』を回避する。

しかし、『ファイアーボール』はベルモットを追尾するように追い駆けて行った。


「何だ、これは!自意識でも持っていると言うのか!」

「どうかしら。私の『自動追尾』のお味は?」


キリアの発動させた『自動追尾』はその名の通り魔法が対象目がけて自動追尾して行く特殊能力だ。

対象が消えない限り、どこまでも追尾して行くので魔法との相性がとても良い。

とりわけ火球を放つ『ファイアーボール』や炎の槍を放つ『フレアランス』とは相性がバッチリだ。

しかし、どんな魔法でも合うとは限らない。

対象を閉じ込める『ファイアーウォール』や足元を灼熱の大地に変える『イラプション』のようなエリア魔法とは合わないのだ。


「『自動追尾』か。やるじゃないか。だが、これからだ!」


ベルモットは逃げることを諦めて向かって来る火球を迎え撃つ。

戦斧を大きく振り回して『連撃』のスキルを同時に発動させる。

するとベルモットの戦斧を包み込むように風の流れが出来はじめた。

それは衝撃波となって火球に襲いかかる。

ベルモットの放った衝撃波とキリアの火球がぶつかり合って互いに打ち消し合う。


「やるじゃない。でも、これからよ!」


キリアは次々に『ファイアーボール』を放つ。

そして生み出された火球は吹雪のように荒れ狂いながらベルモットに降り注いだ。

さすがのベルモットも全ての火球をかき消すことは出来ずに『ファイアーボール』の餌食となった。


「私の勝ちのようね」

「くぅ……まだだ」


真っ黒焦げになったベルモットは戦斧を突き立てて立ち上がろうとする。

しかし、ダメージが大きいようでなかなか立ち上がれない。


「勝負あったな」

「いいえ。まだですわ」


セリーヌの視線の先を見やるとベルモットがよろけながら立ち上がっていた。

すると、観客席から割れんばかりの拍手と歓声が湧き起る。


「そんな体で、どう戦うつもり?」

「どうって……こうするんだよ!」


ベルモットが残りの力を振り絞ってキリアに切りかかる。

しかし、戦斧はキリアを横切ってそのままステージに突き刺さった。

そしてベルモットは力尽きて倒れてしまったのだ。


「ベルモット。あなたは立派な戦士だったわ。あなたの意志を決勝戦まで連れて行くわ」


司会者が審判に合図を出してベルモットの状態を確認させる。

が、しかし、ベルモットは力尽きていたようで審判は首を横に振って応えた。


「試合終了!トーナメント戦第五試合の勝者は魔法使いキリア!」


司会者の言葉受けて観客席から割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる。

キリアは手を降りながら歓声に応えステージを去って行く。

ベルモットは担架で担がれて医療センターに運び込まれた。





「まさかキリアが勝つなんて思わなかったよ」

「これで魔法使いでも試合に勝てることが証明されましたわ。大きな一歩です」

「ベルモットも粘ったんだけどな」

「意識ある限り諦めないなんて戦士の鏡ですわ」


本当にベルモットには頭が下がる。

あれだけのダメージを負ってまで戦おうとするなんて。

それだけ勝負に命を賭けていたのだろう。

しかし、キリアもツイていないよな。

次に戦うのは間違いなく黒騎士ガイアだ。

戦う前から勝負が見えているようなもの。


「午後はいよいよガイアさまが登場しますわ。楽しみです」

「セリーヌ。顔がにやけているぞ」

「そんなことはありません。私は純粋にガイアさまのファンなんですから」


まあ、そう言うことにしておいてやろう。

イケメン好きはおばさんの専売特許だからな。

イケメンにならなくてよかった。


「それじゃあ飯にしよう」

「そうですわね。しっかり食べて応援しませんと」


俺とセリーヌはコロセウムの近くにある大衆食堂へ向かった。





食べること以外は鎖に繋がれたままのエレン。

いつも食事を運んで来るのはキルの仕事だった。


「おい、飯だ!」

「もっとマシなものを持って来い」

「我が儘を言うな。お前は奴隷なんだ。食べられるだけでもありがたいと思え」


すると、キルのお腹がグーと鳴る。


「なんだ、キル。腹が減っているのか?」

「俺は下っ端だからまともな物は食わせてもらえない。だから食べられるだけでもありがたいと思え」

「キルにやる。お前が食え」


キルは差し出したパンと野菜スープを見つめながら涎を垂らす。

しかし、ムクリと起き上がるとお盆をエレンの前に突き出した。


「そう言うことはできないことになっているんだ。勝手に食べればボコボコにされる」


キルは酷く怯えた様子で頭を庇う素振りを見せた。

おそらく日常茶飯事に暴行されているのだろう。

こんなに幼い子供を捕まえて奴隷にするなんて人間のやることじゃない。

エレンの中から怒りが沸々と湧き上がりはじめる。

すると、倉庫の鉄の扉が開きアブダル達が姿を現した。


「ご主人様!」

「まだ食わせていなかったのか。使えない奴め!」


アブダルはお膳をひっくり返してキルの腹に蹴りを加える。

キルの体はくの字に折れ曲がり鉄格子に叩きつけられた。


「ゲホゲホゲホ」

「キルに何をしやがる!」

「まだ、そんな元気が残っていたのか!」


アブダルは手を降り上げてエレンの頬を強く叩く。


「困りますよ、アブダルさん。せっかくの商品を傷つけては」

「上からファンデーションを塗っておけば大丈夫だ」

「それにしてもいい体をしていますね。これならたんまりと稼いでくれそうだ」


小太りの商人が手擦りをしながら、いやらしい目でエレンの体を舐め回すように見やる。


「確かに体だけは一丁前だな」


アブダルは弄るようにエレンの胸を揉み下す。


「おひとりで楽しむなんてズルいですよ、アブダルさん。私にも分けてください」

「好きにしろ」


小太りの商人はいやらしい顔をしながらエレンの胸を両手で揉み解す。


「それより、マットフ。いくらで買うんだ?」

「そうですね。この玉ならば金貨5枚は固いですね」

「私を舐めているのか?」

「いえいえ、滅相もございません。それでは金貨10枚としましょう」

「金貨10枚か。まあ、いいだろう。それでいつまでに金を用意できるんだ?」

「明後日には準備できます」

「ならば、明後日の昼に取引をしよう」


アブダルとマットフの交渉がまとまると、アブダルが倒れているキルに蹴りを入れる。


「いつまで寝ているんだ、野良犬!とっとと食事を片づけろ!」

「ゲホゲホゲホ。わかり……ました」


アブダルとマットは牢屋を出て行くと後を追うようにキルが出て行った。

エレンは煮えくりかえるような怒りに耐えながら自分を抑え込む。

今にでも飛びかかりそうなぐらい激しい怒りに燃えていた。

それはキルを虫けら扱いしていたからだ。

体が自由ならば間違いなくアブダルの首を刎ねていたところだろう。


「この貸は高くつくぞ」


それよりも今はここから出る方法を考えるのが先だ。

辺りを見回しても使えそうなものは何もない。

力いっぱい鎖を引っ張ってみるがビックともしない。

さすがのエレンでもこのピンチは逃れることが出来ない。





アブダル達が出て行ってからどれくらい経っただろう。

小窓の外から小鳥たちの鳴き声が聞こえて来る。

さすがのエレンでも手足の自由を奪われたら何も出来ることはない。


「ちくしょう……」


そこへキルがこっそりとやって来た。

顔には殴られたような青痣が出来ている。


「また、あいつらに殴られたのか?」


エレンの質問にキルは小さく頷いて応える。


「ちくしょう。ここから出れさえすればあいつらをぶっ倒すことが出来るのに」

「お前は強いのか?」

「あったり前だろ。これでもコロセウムに出ているんだからな」


エレンの言葉を聞いてキルが何かを決心する。

そして、思わぬことを口走って来た。


「ここから出してやる。その代りおっぱいをくれ」


と。


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