あるある049 「人前で恥をさらしがち」
俺とセリーヌは昼食を済ませてトーナメント戦第四試合の観戦に臨む。
エレンはと言うとお昼だと言うのに戻って来ない。
いつもならいの一番に戻って来るのだが。
まあ、エレンのことだし心配することもないだろう。
トーナメント戦第四試合は戦士ダイドVS剣士フレッグ戦。
戦士ダイドは巨大な大槌を武器にしている珍しい戦士だ。
対する剣士フレッグはエレンと同じで大剣を武器としている。
見た目も体つきも似たりよったりで屈強だ。
俺の仕入れた情報ではフレッグは『兜割』のスキルを持っている。
重い大剣を扱うのだから破壊力は抜群だろう。
それ以外のことは調査出来ずにいた。
「セリーヌ。あの2人に関する情報は仕入れたか?」
「もちろん入手していますわよ」
セリーヌは懐から手帳を取り出すとパラパラとページをめくる。
「まずはフレッグさんですね。フレッグさんは『兜割』のスキルと『地裂斬』の必殺技を習得しています。どちらも大剣の重さを利用した技なので破壊力は抜群でしょう。一方でダイドさんは『三連打』のスキルと『岩石落とし』の必殺技を習得しています。見た目によらず『三連打』は脅威と言えますわね」
「よく調べたな、セリーヌ。それよりどうやって情報を手に入れたんだ?」
「それは秘密ですわ」
セリーヌは意味ありげな笑みを浮かべる。
まさか、また色仕掛けで情報を手に入れたのだろうか。
まあ、セリーヌもおばさんだ。
声を出すのも憚れるいやらしいことをしたのかもしれない。
でなきゃ、そんなに詳しい情報を得られるはずもない。
きっとセリーヌのことだから自慢の巨乳を使ったのだろう。
あんな事やこんな事をして……。
ムフフ。
「何ですか、カイトさん。そんなにいやらしい顔をして」
「別に―」
「言っておきますけれど、私は何もやましいことはしてませんからね」
「そう言うことにしておいてやる」
セリーヌは不服そうな顔を浮かべながら俺を睨んだ。
セリーヌはプリ―ストよりも諜報員の方が向いている気がする。
セクシーな諜報員は定番だ。
表向きは普通の人を装っていて裏では諜報活動をしている。
そしてピンチに追い込まれたら色仕掛けで乗り越える。
セリーヌの美貌を持ってすればどんな男も落とせるだろう。
そんなくだらないことを考えているうちに観客席のボルテージが上がっていた。
戦士ダイドと剣士フレッグはお互いの力を確かめようと激戦を繰り広げていたのだ。
「ふん。やるじゃないか。こうでなくては面白くない」
「お前も中々のものだな。相手にとって不足なし」
ダイドとフレッグは武器を構えたままお互いの間合いを計る。
「お前には本気を出さないと勝てないらしい。見せてやる。俺の本気を」
ダイドはその場で大槌を振り回すとフレッグに攻撃を仕掛ける。
フレッグはすぐさま反応して大剣の腹で攻撃を受け止める。
しかし、ダイドは『三連打』のスキルを発動させてフレッグをステージに打ちつけた。
フレッグはステージにめり込むように押しつぶされる。
が、かろうじて体制は保っていた。
「なかなか……」
「俺の『三連打』を食らって立っていたのはお前が初めてだ」
ダイドの攻撃は受け止めたがフレッグはそれなりにダメージを負っていた。
力に対して力で対抗するにはそれなりのエネルギーが必要になる。
本来であれば攻撃を避ける方法もあったのだがフレッグはそれをしなかった。
それはダイドとのプライドのぶつかり合いでもあったと言っても過言でないだろう。
お互いに同じような見た目で同じような戦い方をする間柄だからこそ。
どちらが一番なのか示す必要があったのだ。
「今度は俺から行かせてもらうぜ!」
フレッグは勢いよく大地を蹴ると天高く飛び上がる。
そして大剣を振り上げると落下のスピードに合わせて『兜割』を放つ。
ダイドもまた攻撃は避けずに大槌の柄で攻撃を受け止める。
するとダイドの周りのステージに無数の亀裂が入った。
「やるっ」
「俺の『兜割』を受け止めるとは」
見た目にはダイドにダメージは見られないが骨身に衝撃は走っていた。
石板で出来たステージに亀裂を入らせるほどの力が加わったのだ。
ただですむはずがない。
それでも立っていられるのはダイドが屈強の戦士だからである。
ダイドは普通の修行をこなしてはこなかった。
より実践を積むために苦行に励んだのだ。
苦行は修行のはるか上を行くきつい修行だ。
修業僧でさえ逃げ出したくなるほどのキツさで誰もしようとはしないものだ。
ダイドが苦行に身を投じたのは全てコロセウムで優勝を掴み取るためのものだった。
ゴルドランドで生まれた戦士だからこそコロセウムは聖地とも呼べる場所だ。
そこで優勝して聖杯を掴むことは戦士としてこの上ない誉となる。
ゴルドランドで最強の戦士と呼ばれ確固たる地位を築けるのだ。
聖杯は最強の証。
コロセウムを目指す者であれば喉から手が出るほど欲しいものなのだ。
「お前は俺に相応しい相手のようだ。ならば見せてやろう、俺の『岩石落とし』を」
「面白い。受けてたとう」
ダイドはステージを蹴ってフレッグの頭上に飛び上がる。
そして50キロはある大槌を振り上げて『岩石落とし』の構えをとる。
「行くぞ!『岩石落とし!』」
「来い!」
空中で大槌を勢いよく振り下ろしながら『岩石落とし』を放つ、ダイド。
落下のスピードと相まってその破壊力は増して行く。
フレッグは『岩石落とし』を真っ向から受け止めよう大剣を水平構えるが。
そのただならぬパワーに身の危険を感じて寸の所で身を翻して避けた。
ダイドの大槌はステージ上にめり込んで石板を舞い上がらせる。
「どうした?俺の攻撃に恐れをなしたか」
「ふっ、確かに。今のはまともに食らっていたらヤバかった」
ステージには10メートルほどの大穴が空いていた。
フレッグは大きく間合いをとって大剣を構えなおす。
「今度は俺の必殺技を見せてやる」
「面白い」
フレッグは大剣を垂直に天上に掲げると意識を剣先に集中させて行く。
そして大剣を大きくスイングさせながら地を裂くように振り上げると。
衝撃波が発生してステージを真っ二つに切り裂いて行った。
その衝撃波は地を這うように真っすぐにダイドへ向かって行く。
ダイドは大槌を振り上げて衝撃波を打ち消すように打ち下ろした。
「俺の『地裂斬』を打ち消しただと!」
「そんな子供だましの攻撃が俺に通じるとでも思ったのか?」
『地裂斬』は衝撃波で大地を切り裂きながら攻撃を加える必殺技だ。
衝撃波なので打ち消すにはそれ以上のパワーが必要になる。
それをいとも簡単にダイドはこなしてしまった。
ただでさえ重い大槌とダイドの力があってこそなせる技。
フレッグもそのことを計算にいれていたけれど予想をはるかに超えて来たのだ。
「大した奴だぜ。だがな、俺はこれで終わりじゃない!」
フレッグは大剣を構えると精神を一点に集中させて行く。
すると、フレッグの体から覇気がオーラとなって溢れ出す。
それは神の後光となってフレッグを包んで行く。
そして筋肉が増殖して行き、仁王のようなフレッグが姿を現した。
瞳は深紅に輝き、ダイドの心を突き刺す。
その瞳にさらされたものは誰ひとり立ってはいられないほどまでに。
「うむ。面白い。そうではくてはな」
「その余裕もどこまで出来るかな」
フレッグの特殊能力は『剛招来』。
『剛招来』とはエネルギーを集中させて一時的に仁王のような力を得る能力だ。
ただでさえパワーファイターのフレッグに拍車をかけるような特殊能力。
それはフレッグの風貌さえ変えてしまうほど強力なのだ。
ステージ上には仁王と化したフレッグが大剣を構えている。
その状況にダイドもただならる恐怖を感じていた。
「行くぞ!」
フレッグはステージを蹴って一気に間合いを詰める。
そのスピードは光の如く瞬きしている間にダイドの懐まで入り込んだ。
「なんと!」
フレッグは地を這うように大剣を下から切り上げる。
すぐさまダイドは大槌の柄で攻撃を受け止めるが大きく後ろに吹き飛ばされた。
間髪入れずにフレッグが追い打ちをかけるべく突進して行く。
そして転げ落ちたダイドの上から叩き切るように大剣を打ち下ろす。
しかし、寸のところでダイドが避けてフレッグの大剣はステージに突き刺さった。
「外したか」
「ふー。危ない危ない。少しでも反応が遅れていたら殺られていたところだ」
ダイドは両足でフレッグを吹き飛ばして体制を整える。
特殊能力は決勝戦までとっておこかと考えていたダイドだったがそうも行かない状況に追い込まれた。
フレッグが見せた『剛招来』は想像以上に強力だからだ。
今、目の前にしているフレッグは先ほどまでのフレッグではない。
仁王そのものだ。
「お前は俺に相応しい相手のようだ。なら、それに応えて見せよう」
先手をとったのはダイド。
間合いを一気に詰めてフレッグの前に立ちはだかる。
そして大槌を振り上げてフレッグに打ち下ろす。
しかし、『剛招来』でパワーアップしたフレッグにはその動きはスローに見える。
フレッグは素早くかわすとダイドの背後に回り込んで大剣を振りかざす。
ダイドは何の反応も出来ずにフレッグの一撃を背中に受けた。
「ぐわぁぁぁっ!」
ダイドはステージ上に投げ出されて前のめりになって倒れる。
背中にはフレッグの斬撃がはっきりと残り鮮血が溢れ出していた。
「どうした?それで終わりか」
「まだだ。まだ終わらせない」
ダイドは大槌を杖代わりにしながらゆっくりと立ち上がる。
その間に思考を巡らせた。
ここで特殊能力を発動させてもフレッグには当たらない。
ダイドの特殊能力はフレッグのように身体能力を上げる能力ではないからだ。
ならばフレッグの特殊能力の効果が切れるまで待つ方がいい。
身体能力を上げる特殊能力は一様に一時的なものばかりなのだ。
だから時間を稼げれば、その効果は切れる。
しかし、それまで時間を稼げるのかはダイドにもわからない。
フレッグの『剛招来』が強力過ぎるからだ。
この判断は賭けでしかない。
ダイドが生き残れるかフレッグの力が尽きるかの。
「俺をここまで追いつめたのはお前がはじめてだ。だが、俺は負ける訳には行かない」
「ならば俺がその鉄槌を打ってやる!」
再び先手をとるフレッグ。
今度はダイドの頭上に飛び上がり『地裂斬』を放つ。
フレッグの大剣は空を裂きながら衝撃波となってダイドに襲いかかる。
ダイドは迷うことなく横に飛びのいて衝撃波をかわす。
そこへフレッグの大剣が振り下ろされた。
ダイドは直撃を食らい後ろに大きく吹き飛ばされる。
「ぐわぁぁぁっ!」
「今の俺から見たらお前は虫けらのようだ。殺られる前に降参をしろ」
「まだだ。まだ終わってはいない」
ダイドはよろめきながら立ち上がり大槌を構える。
さすがに直撃を2度受けたのでダメージも大きい。
次に直撃を受けたら立っていることすらままならなくなるだろう。
それだけは避けなければならない。
「ならば次で仕留めてやる」
フレッグは左足を少し後ろに下げて大剣を構える。
その動きをダイドは見逃さなかった。
フレッグが攻撃を仕掛けて来る時は必ず右足で踏み切る。
パワーアップした今のフレッグならば間合いを詰めることは一瞬。
フレッグが動き出してから反応しても遅い。
だから事前に動きを捉えていることは重要なのだ。
ダイドはフレッグが動き出すよりも先に防御行動をとる。
遅れるようにフレッグが動き出した。
フレッグは一気に間合いを詰めて『兜割』を放つ。
予想通りダイドは大槌の柄でフレッグの大剣を受け止めた。
「俺の動きについてこれただと」
「『剛招来』が完璧だと思うな」
「これならどうだ!」
フレッグは大剣を引き戻すとダイドの横に割り込む。
そして大剣の柄でダイドの横腹を突いた。
「グホッ!」
ただの突きに過ぎないがパワーアップしているフレッグの攻撃は破壊力が増している。
今のでダイドのあばら骨が数本イカれてしまったくらい。
すかさずフレッグはダイドの背後に回り込んで大剣を振り上げる。
「これで終わりだ!」
その時、フレッグに激しい激痛が走り、その場に倒れ込んでしまう。
「ちくしょう。時間切れか」
『剛招来』の時間切れでフレッグは元のフレッグに戻ってしまった。
しかし、『剛招来』で身体能力を引き上げた代償も大きい。
全てダメージとなってフレッグに襲いかかって来たのだ。
『剛招来』は確かに強力な特殊能力だが諸刃の剣でもあるようだ。
フレッグは立ち上がることもままならず、その場で激痛に耐えていた。
「俺の勝ちのようだな」
「まだだ。俺は負けてはいない」
「そんな体でどうやって戦うつもりだ?」
「やれるさ。やってやる!」
フレッグはよろめきながらおもむろに立ち上がる。
そして大剣を振り上げようとするが力が入らずに下段の構えをとった。
「もう勝負はついた」
ダイドはフレッグに背を向けてステージから立ち去って行く。
それを好機と見たのかフレッグはよろめきながらダイドに切りかかる。
しかし、大剣の重さに耐えられずに、その場に倒れ込んでしまった。
司会者は審判に合図をしてフレッグの様子を確かめさせる。
すると、審判は首を横に振って試合中断の合図を送った。
「これにて試合終了です!トーナメント戦第四試合の勝者は戦士ダイド!」
観客席から割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる。
ダイドはガッツポーズをしながら歓声に応えた。
「すごい激闘だったな。俺、興奮しちゃったぜ」
「お互いの力を出し合って正々堂々と戦う。試合ってこうでなきゃ面白くないですわよね。激闘を繰り広げた2人に感謝です」
「でもこれでダイドはジーザスと戦うことが決まったな。次はどんな戦いをしてくれるのだろうか」
「ダイドさんのことです。また、正々堂々と戦ってくれますわ」
正々堂々と戦うのはいいいが、ジーザスに通じるかが問題だな。
ジーザスは今だに手の内を見せていない。
どんなスキルや必殺技、特殊能力を持っているのかさえわからないのだ。
ダイドは予想以上に苦戦をしいられることになるはずだ。
「結局、エレンさんは最後まで戻って来ませんでしたわね」
「あいつ。自分が強いからって自惚れ過ぎなんだよ。絶対に試合を見なかったことを後悔するはずだ」
まあ、俺達が代わりに観戦したからある程度の作戦は立てられるのだが。
それでもエレンが素直に聞いてくれるとは思ってもいない。
なにせ自由奔放な性格のおばさんだから徒労に終わるだろう。
「一応、情報だけは聞かせておいた方がいいですわね」
「何もしないよりマシだからな」
俺達は興奮冷めやらぬコロセウムを後にして宿屋へ戻った。
その夜。
エレンはおしっこに行きたくて目を覚ました。
「うぅっ。漏れる……」
体を動かそうとするが手足が思うように動かない。
見ると手足が鎖で繋がれていて磔にされていた。
「おい、何だよ。これは!」
エレンは力いっぱい手を動かすが鎖がジャラジャラと言うだけで動かない。
すると、余計に尿意が込み上げて来た。
「も、漏れる……」
エレンはお尻の穴を引き締めて第一波に耐え凌ぐ。
今、誰かにお腹を蹴られたら間違いなく漏らしてしまうだろう。
そんんことはあってはならない。
カイトにバレでもしたら「小便おばさん」と揶揄されるだろうからな。
そんなことを考えながら辺りの様子を確かめる。
部屋は石造りの壁で出来ていて正面に鉄格子がある。
窓は高い場所にあって30センチくらいの小窓から月明かりが差し込んでいる。
見るからに牢屋であることはわかった。
だけど、何で自分がそんなところにいるのかがわからない。
覚えていることと言えばカイト達と試合を観戦していたことだけだ。
その後の記憶が全くと言っていいほどない。
「おい!誰かいないのか!」
大声を出して叫んでみるが余計に尿意が襲って来た。
ダメだ。
このままじゃ漏らしてしまう。
いい大人になっておもらしだなんて恥ずかし過ぎる。
なんとしてでもこのピンチを乗り切らなくては……。
すると、鉄格子の先の扉が開いて少年がひとり入って来た。
少年は鍵で鉄格子のの扉を開くとエレンの前に食事を差し出す。
見ると小汚いパンとマズそうな野菜スープがお膳に乗せられていた。
「飯だ。とっとと食べろ」
「こんな格好じゃ食べられないだろう」
すると、少年がエレンの手に繋がっていた鎖を外して解放させる。
「これで食べられるだろ」
「ふー。助かったぜ。お前、名前はなんて言うんだ?」
「俺はキルだ」
「キルか。助かったぜ」
解放されたはずみか、再び尿意が襲いかかって来る。
「おい、キル。耳を塞いで向こうを向いていてくれ」
「何でだよ?」
「そんなのどうだっていいだろう。早くしろ!」
「俺はお前の奴隷じゃない。俺に命令をするな!」
「わからない奴だなって……ダメだ。我慢できない」
エレンはパンツをずり下げるとしゃがみ込んでおしっこをはじめる。
それを見ていたキルが顔を真っ赤にさせて、そっぽを向いた。
「おい!いきなりおしっこをする奴があるか!」
「仕方ないだろう。緊急事態だったんだ」
キルは耳に届くチョロチョロと言う音をかき消すように大声を出す。
「ふー。すっきりした」
エレンはパンツをずり上げて履きなおす。
「で、お前は何でこんなところにいるんだ?」
「お、俺は奴隷だ」
「奴隷?」
「そうだ。奴隷商人に捕まって奴隷をさせられている」
見るとキルはボロボロの服を着ていて薄汚れた顔をしていた。
手足には鞭で打たれたような蚯蚓腫れが出来ている。
「ってことは私も捕まったってことか?」
「そうだ。お前は娼婦としてこき働かせられることになっている」
事態は最悪のようだ。
どこともわからぬ場所に閉じ込められて磔にさせられている。
武器の大剣はないし丸腰。
これでは逃げ出しようもない。
エレンはキルから情報を仕入れることにした。




