表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第一章 邪魔するおばさん編
5/361

あるある004 「人の財布をあてにしがち」

俺の渾身の一撃は空を切って終わる。

いわゆる空振りと言うやつだ。

何で空振りをしたかって?

それは恐怖のあまり目をつぶって手前で小剣を振り下ろしたからだ。

デッドウルフは口元を緩ませてニヤリと笑う。

実際は笑ってはいないが、俺にはそう見えた。


「ちくしょー。こんなところで終わるなんて……」


デッドウルフは大きな口を空けて飛びかかって来る。

殺られる……と思った瞬間、何かが飛び出して来て。

デッドウルフはギャンとうめき声をあげながら大きく吹き飛んだ。


「ハハハ。お遊びはそれで終わりか?」


見上げるとぼったくり酒場で会った酔っ払いおばさんが大剣を掲げて立っていた。


「お前は」

「何だよ、私のことを知っているのか?」


俺は大きく頷いて応える。

すると、酔っ払いおばさんは「どこかで会ったかな」と頭を抱えながら考え込んでしまった。

その間にデッドウルフは立ち上がり威嚇をしてくる。

さらに怒らせてしまったようでデッドウルフの目は鋭い。

そして間合いを詰めると一斉に飛びかかって来た。

次の瞬間、風圧が俺の髪を撫でたと思ったらデッドウルフの首が吹き飛んでいた。


「なっ!」

「誰だっけな?」

「今、何をしたんだよ?」

「ん、何って。素振りをしただけだ」


酔っ払いおばさんは平然とした顔でデッドウルフの死体を見やる。

素振りって……。

素振りだけでデッドウルフの頭が吹き飛ぶ訳ないだろう。

俺がひとり驚愕の声を上げているとデッドウルフは散りとなって魔石に変わった。

酔っ払いおばさんは魔石を拾ってぼやく。


「何たよ、パープルか。しけてやがるぜ」


この世界のモンスターは魔石が埋め込まれていて死ねば魔石へと変わる。

魔石にはランクがあって白金、黒、赤、青、緑、黄、紫の7つの種類がある

魔石はそのままでは役に立たないが、ギルドへ持って行くと換金が出来る仕組み。

レートは白金が金貨10枚、黒が金貨1枚、赤が銀貨5枚、青が銀貨1枚、緑が銅貨5枚、黄色が銅貨3枚、紫が銅貨1枚。

相場は変動するが、だいたいこんな感じだ。

魔石の入手はクエストをクリアした証明にもなっている。

って、それより。


「助かったよ。俺はカイト」

「私はエレンだ」


俺が手を差し伸べるとエレンも握り返して来る。


「それよりもお前、面白いな。棒切れでデッドウルフを手なずけようとするなんて。それにそんなちっぽけな小剣ひとつでデッドウルフとやり合おうなんて普通は考えないぞ」

「あれは仕方なかったんだよ。追い詰められていたし」


すると、エレンは爆笑しながら俺の肩に腕を回す。


「気に入った!それじゃあ、街に戻って一杯やろうぜ」

「街に戻ってって。俺はアインの街へ行く途中なんだ」

「そんなことは気にするな。私が一杯おごってやるよ」


エレンは強引に俺を引っ張りながらセントルースの街へ戻って行く。

人の話を聞け、おばさん!

それにちょっと酒臭いのが気になる。

このおばさんのことだ、朝から飲んでいたのかもしれない。





俺はエレンに連れられて先日のぼったくり酒場までやって来た。

セントルースの酒場は他にもあるのだが、朝からやっているのはこの酒場だけ。

客から根こそぎぼったくりたいから24時間営業しているのだ。

エレンは強引に俺を引きずり込むといつものテーブルに着いた。


「おい、マスター。いつものをくれ!」


顔馴染なのか?

それにしては先日のぼったくられ方は初見さんって感じだったが。

俺は恐る恐るエレンに聞いてみた。


「ここによく来るのか?」

「これで2回目だ」


2回目ですっかりお馴染みさんの顔をしてるなんて、さすがはおばさんだ。

そこへ例のウエイトレスが酒を持ってやって来た。


「あら、また来たの?」

「また来ちゃ悪いかよ」

「うちは高いわよ」

「知ってるさ」

「まあ、いいわ。一杯で銀貨1枚だから」


不躾なウエイトレスの言葉に俺はテーブルを叩いて立ち上がる。


「一杯で銀貨1枚とはどう言うことだ!ぼったくるのもいい加減にしろ!」

「やならいいわよ。これがうちのルールだから」


すると、エレンが俺を嗜めながら金の入った袋をテーブルに乗せる。


「金ならいくらでもあるんだ」

「あら、景気がいいじゃない。マスター、このお客さんに極上のお酒を頼むわ!」


どっさりとした金の袋を見やりながらウエイトレスはニンマリと笑みを浮かべた。

この袋の中がみんな金貨だったらいくらぐらいになるだろう。

少なくとも金貨30枚ぐらいはありそうだ。


ゴクリ……。


「カイトも遠慮しなくてもいいんだぞ。好きなだけ飲め」

「お、おう」


何だからいい金づるに出会えたようだ。

この前は散々だったし遠慮なく行かせてもらいますか。


「俺にもエレンと同じものを!」


ウエイトレスは軽い足取りでカウンターに戻って行く。

そしてマスターが用意した極上の酒瓶を受け取るとグラスを2つ取って運んで来た。


「このお酒はこの店で一番極上のお酒よ」


テーブルに置かれた極上の酒瓶をマジマジと見やる。

ラベルに記されている製造年号は一番古いもののようで。

瓶の造りは凝っていて如何にも高級そうな雰囲気があった。

俺は恐る恐る値段の確認をする。


「いくらぐらい?」

「いい値よ」


これは一杯飲んだだけでもかなりぼったくられそうだ。

ウエイトレスだけでなく店の人達もニタリとした笑みを浮かべている。

有り金を全部頂くつもりでいるようだ。

俺はエレンを肘で小突いて耳元で小さく囁く。


「おい、本当に大丈夫なんだろうな?」

「私に任せておけば大丈夫だ。金もたんまりあるしな」


心配する俺をよそにエレンは酒を注ぎながら金の入った袋を撫でる。

まあ、俺が払うんじゃないからいいか。

俺は迷いを振り切って酒をひと煽りした。

カァーと熱く喉が焼ける。


「くぅぅぅ……こいつは」

「うまいだろう。もっとやれ」


エレンは溢れんばかりに極上の酒をグラスに注いだ。


「で、カイトは何でアインの街に行くんだ?」

「仲間を探しにな」

「仲間ならセントルースの街でも見つかるだろう?」


普通ならばな。


「俺の場合は事情があるんだよ」

「事情って何だ?」

「いいだろう、そんなこと。それよりエレンは何でセントルースにいるんだ?」

「私は……。何だっけ?」


俺が知るかよ。

もう、酔いが回ったのか。

すると、エレンは俺の肩に手を回して絡んで来る。


「そんなことはどうでもいい。もっと飲め」


エレンは躊躇いもなく極上の酒を薦めて来る。

いくら大金を持っているとは言え大胆過ぎる行動だ。

おばさんともなれば何も怖いものがないのだろう。

それにしてもあたってるよ。

そのたわわなおっぱいが。

まあ、気持ちいいからいいけど。


「見たところ、エレンは剣士のようだけどひとりで旅をしてるのか?」

「ひとりだったっけな。仲間がいたようないないような」

「何だよ、もう酔っ払っているのか?」

「この酒が美味くてな。さっきから止まらないんだよ」


さっきからエレンは極上の酒をがぶ飲みしている。

グラスに並々注いでは一息で飲み干すの繰り返し。

おまけに今度は直接瓶に口をつけてラッパ飲みをしはじめた。

見るに描いたような酒の飲み方だな。

それじゃあ大酒の飲みと一緒だろうに。

おばさんとお酒のコンビは最強なのかもしれない。


それにしてもこの酒、ウエイトレスは「いい値」って言っていたけどいくらなんだ?

そもそも「いい値」の意味がよくわからない。

店の都合で値段を決めるのだろうけど「いい値」と言えばどんな高くもつけられる。

酒の単価がわからない以上、ある意味ぼったくりだ。

そう言う店ほど「ぼったくり」と言う言葉を気にする。

しかし、この店の場合はぼったくりを隠していないところが憎めない。


みるみるうちに極上の酒はエレンの胃袋へと消えて行った。

すっかりエレンは出来上がってしまい赤ら顔で追加の注文をしている。

さすがに極上の酒瓶を一瓶空にしたのだ。

今日はこの辺で切り上げるのがいいだろう。


「エレン、行くぞ」

「なぁにいってるのらぁ。まぁだ、のみはじめぇたばっかだぁろ」


俺がおもむろに立ち上がるとウエイトレスがニコニコしながら請求書を差し出す。


「今日のお勘定ね」

「な、何だよ、このべらぼうな金額は!金貨1枚だって!」

「何言っているのよ。これでもまけたつもりよ」

「まけたって。なら、最初の金額はいくらなんだ?」


俺の質問に飄々としながらウエイトレスは答える。


「金貨3枚よ」


空いた口が塞がらないとはこう言うことを言うのか。

俺はあんぐりと口を開けたまま突っ立っていた。

金貨3枚と言えば1ヶ月まるまる豪華な別荘を借りられる値段だ。

そんなものと極上の酒が同じ値段なんてぼったくりも過ぎると頂けない。

これは犯罪レベルのぼったくりだ。


「そんな大金払える訳ないだろ」

「払うのはあなたじゃなくてもいいわ。そちらのお客さんからもらうから」


ウエイトレスはしたり顔を浮かべながらエレンが大事そうに抱えている金の入った袋をはぎ取る。

そしておもむろの袋の中に手を突っ込むと……。

急に声を荒げた。


「何よこれ!石ころじゃない!」


ウエイトレスは袋を逆さまにして中に入っていた石ころをテーブルの上にまき散らす。


「マジかよ……」

「あんた、この落とし前。どうカタをつけるつもり?」

「どうって言われたって」


すると、ウエイトレスは指をパチンと慣らし屈強なウエイターを呼びつけた。


「もちろん払ってくれるわよね」

「そ、そんな大金は持っていないよ」


嫌がる俺を羽交い絞めにして屈強なウエイターはボディーチェックをする。


「離せよ。これじゃあ犯罪だろう」

「それはこっちのセリフよ。一度ならぬ二度までもタダ飲みしようとしていたのだからね」

「おい。そ、それは……」


屈強なウエイターのひとりが俺の財布に気づいてはぎ取る。

そしてウエイトレスに渡すと財布の中を検めた。


「あるじゃない。金貨3枚と銀貨1枚。それに銅貨5枚ね」

「それは俺の金だぞ。酒を飲んだのはエレンなんだからエレンからもらえばいいだろう」

「あなたもお酒を飲んだじゃない。同罪よ」


ウエイトレスは金貨3枚と銀1枚とると残りの金をテーブルに置いた。


「おい、全部持って行く気かよ!」

「全部じゃないわ。銅貨5枚は残してあげる」

「銀貨1枚は余計だろ!」

「これは慰謝料よ。あたなが駄々をこねて私の服を汚すから」


何てやつだ。

金貨3枚ぼったくった上で慰謝料までとるとは。

これじゃあすっからかんと同じじゃないか。

当のエレンはと言うとテーブルの上で突っ伏しながら気持ちよさそうに眠っている。

こいつ、殴ってやりたい。


「俺はハメられたんだ、こいつに」

「そっちの事情は知らないわ。さあ、さっさとそいつを連れて出て行って」

「頼むよ。それをとられると一文無しになっちゃうんだ」

「だから銅貨5枚あるじゃない。それで何とかしたら」


俺の悲痛な叫びを無視しながらウエイトレスは冷ややかな視線を送る。

血も涙もない冷酷な対応だ。

それでも酒場のウエイトレスかよ。

ウエイトレスってのはお客さんを癒してくれる者じゃないのか?

そんなことはない。


「何よその目つきは?私が冷酷非情な悪魔だと言うつもり?」


まんまじゃないか。

悪魔以外になせる所業ではない。


「気分が悪いわ。さっさと追い出して」


ウエイトレスは踵を返すと屈強なウエイターに俺達を任せて店の奥へ消えて行った。

屈強なウエイターは指をポキポキならしながら俺達を睨みつける。

そしてそのまま抵抗するすべもなく店の外に放り投げられたのだった。


「またかよ。ちくしょー。みんなエレンのせいだからな!」


エレンは地面の上に寝ころんで気持ちよさそうに眠っている。


「おばさんに絡まれるとろくなことがない。もう、介抱してやらないからな」


俺はエレンをそのままに投げ捨てられた銅貨5枚を握りしめて酒場を後にした。

その時、ふとアイデアが舞い降りて来た。

エレンの背負っている大剣を質に出せばそれなりの金になるんじゃないかと言うことに。

さっそく俺は酔っ払っているエレンから大剣をはぎ取ると、そのまま質屋へ向かった。





セントルースの質屋は裏路地にあるこじんまりとした古い店。

店の中には所狭しと商品が並べてある。

店の外観からは予想も出来ないほどの商品の品揃え。

しかも、中に飾ってある商品は高価な物ばかりで破格の値段がついていた。


「高そうだな、これ」

「勝手に触るんじゃない」


高価な装飾品が目に止まり手を伸ばそうとすると店主に怒られた。

店主はぷっくりとお腹の出た40代ぐらいのヒゲおやじ。

俺を見るなり煙たそうな顔を浮かべて追い払おうとする。


「ここは子供が来るところじゃない。さっさと帰りな」

「今日は用があって来たんだ」

「用?」

「これを引き取ってほしい」


そう言ってエレンの大剣を差し出す。

店主は大剣を受け取ると鞘から抜いて刃先を確認する。

舐め回すように隅々まで確かめると俺に質問をして来た。


「これをどこで手に入れた?」

「どこでって。それは俺のだ」

「お前のような子供に、この大剣を使いこなせる訳ない。正直に言え。どっからくすねて来た?」

「俺のだって言っているだろう。買ってくれないのならいいよ」


俺がエレンの大剣を引き取ろうとすると店主は拒む。


「買わないと言う訳じゃない。ただ家も商売なんでね、盗品は困るんだよ」

「それは盗んだモノじゃない。借金のカタにもらったものだ」

「借金のカタね……」


店主と俺が揉めていると他の客が店に入って来た。

3人組のおばさんだ。


「こんなところに来るかしら?」

「エレンのことだから、借金のカタに金を借りているはずよ」

「それより酒場の方が確かじゃないか?」

「酒場はあとで行けばいいわ」


おばさん達が店の前で揉めていると店主が手をこすりながら話しかける。


「今日は何かご用入りで?」

「ねえ、オジさん。ここに髪の長い色黒の女が尋ねて来なかった?」

「色黒ね……。今日は見掛けていないけど」

「やっぱり酒場だ」

「そのようですわね」


ふと他の客と俺の目線が合う。

俺は何事もなかったかのように視線を逸らした。

すると、おばさんのひとりがカツカツと俺の所まで来てエレンの大剣をはぎ取る。


「これはエレンさんの大剣ですわ」

「本当!やっぱり店に来てたんだ」

「それなら何で店のオヤジは見てないって言ったんだ?」


おばさん達の視線を浴びて店主は慌てて首を横に振る。


「その大剣は、そこの子供が持って来たんです」


今度は俺に視線が集中する。


「それは借金のカタに俺がもらったものだ」

「エレンさんがあなたに借金?」

「どう言うこと?詳しく聞かせて」


俺はおばさん達に言われるがままこれまでの経緯を説明した。

するとおばさん達も事情を理解してくれたようで俺に謝罪をしてくれる。

そしてぼったくられた金貨3枚と銀貨1枚を立て替えてくれた。

もちろんエレンの大剣と交換だったけれど。

こっちはそれでもいい。

金さえ戻れば問題ないのだ。

やっと帰って来たね、俺のお金ちゃん。

さあ、家の中にお入り。

後はエレンと引き合わせるだけ。

俺はエレンを置き去りにした酒場へおばさん達を案内した。


しかし、既にエレンの姿はなかった。

酒場の前には酔っ払いが屯をしている。

酒場の外から中の様子を伺ったがエレンの姿はどこにもない。

まさか、誘拐でもされたのか。

そんなことはあり得ない。

おばさんを誘拐しても何の得にもならないことは誰でも知っている。

なら、警察に保護されたと考えるべきか。

そうなったらそうなったで厄介かもしれない。

警察に根掘り葉掘り経緯を聴取されるに決まっている。

聞かれたくないことを聞かれて嫌な思いをするのだ。


「エレンさん、いませんわね」

「あいつのことだ。どこかの馬小屋で寝ているはずだ」

「また、エレンの子守。まったく手が焼けるおばさんだこと」


お前だっておばさんだろう。

と、ツッコミたくもなったが一応我慢をしておいた。

ここでおばさん達と揉めても何にもならない。

それよりも早くエレンを探して解放された方がマシだ。

まだ、この街には同級生達がいるかもしれない。

こんなところを見られた日には熟女バーの店主だと馬鹿にされるだけだ。

俺は心当たりのある馬小屋。

そう、初日にエレンを担ぎ込んだ駅舎の馬小屋へおばさん達を案内したのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ