あるある035 「しょうもないことで喧嘩をしがち」
俺が選んだモンスターは山賊紛い。
理由は一番弱いし、数をとれるからだ。
報酬は山賊紛い1匹あたり銅貨1枚。
山賊紛いは数十匹の群れを組んでいるので大量に狩れるのだ。
山賊紛いが出没するのはミストラン山岳地帯の中腹あたり。
ちょうど行商人達が休憩をとる場所に近い。
山賊紛いは非力であるから行商人達の隙をつく作戦をとるのだ。
俺達は他の行商人達がキャンプを張っている場所まで辿り着いた。
「この近くに山賊紛いが出没するらしい。まずは周辺の様子を確認するんだ」
「わざわざ偵察するまでもないだろう。向こうからやって来るのを待った方が早いんじゃないか?」
「こんな所で戦闘にでもなれば行商人達も巻き込むじゃないか」
「そんなの私の知ったことじゃない」
無責任なことを言う、エレン。
かったるそうに両手で頭を抱えながら明後日の方向を向いた。
「カイト、そんなやつに言っても無駄よ。周りに迷惑をかけることしかできないんだから」
「お前だってそうだろう。金になることしかしないくせに」
「私はちゃんと計算しているだけよ。割に合わないことをしたって無駄だからね」
エレンとアンナはまた揉めはじめる。
こいつらには協調性と言うものが欠片もない。
俺達は仲間なんだ。
お互いに助け合わなければならない。
エレンとアンナにはもっとお互いを知る経験が必要だ。
すると、ミゼルが岩場に隠れていた山賊紛いを見つける。
「おい、カイト。あそこを見てみろ。山賊紛いがいる」
「どこだ?」
「あの岩場の影だ」
ミゼルが指を指した方を見やると岩場の影に人影が見えた。
どうやら行商人達のキャンプの様子を見ているらしい。
と言うことは近くに仲間達がいるはずだ。
「おい、エレン、アンナ。偵察に行って来い」
「何で私が。しかもこいつと」
「それは私の台詞よ。偵察ならそいつに任せればいいじゃない」
「お前達に欠けているのは協調性だ。いっしょに偵察に行って協調性を磨いて来い」
俺は反対するエレンとアンナを押し切って偵察に向かわせる。
一番いいのは離れ離れにするのがいいのだが、それだといつまでたってもまとまらない。
エレンとアンナには同じ仕事をさせてお互いを理解させる方がいいのだ。
エレンとアンナはブツクサ文句を言いながら山賊紛いが隠れていた岩場に向かう。
偵察をしていた山賊紛いは既に群れに戻って行ったようだ。
おそらくその先に山賊紛いの群れがいるに違いない。
山賊紛いの人数がわかればこちらとしても対応が出来る。
だから、まずは調査が必要なのだ。
エレンとアンナは岩場まで辿り着くとこちらに手を振って来る。
どうやら山賊紛いの群れを確認出来たようだ。
エレンとアンナは偵察に行くジェスチャーをして岩場の向こうに消えて行った。
「あいつらもやればできるじゃないか」
後は報告を待つだけ。
しかし、5分経っても何の音さたもない。
「遅いな。何をやっているんだ」
そして10分が経過する。
「もしかして捕まったのか?」
いや、それは考えにくいだろう。
山賊紛いが大量にいたとしてもエレン達の方がはるかに強いのだ。
なら、また喧嘩でもしているのか。
それから30分が経過する。
「遅い!あいつら何をしているんだ!偵察なんて簡単なことぐらいできないのか!」
俺は苛々しながら辺りに当たり散らす。
すると、セリーヌがたしなめるように優しく言って来た。
「カイトさん、落ち着いてください。きっと、何かあったんですわ」
「そう考えた方が無難だろう。エレン達が山賊紛いに捕まるとは考えにくい」
ミゼルがそう告げた瞬間、岩場の向こうで巨大な爆発が起きる。
その爆発は大地を揺らし、爆風を辺りに散らした。
「な、何だ!」
岩場の向こうを見やると空に黒煙が立ち昇っている。
俺達は慌てて爆発がした方向へ走って行った。
黒煙が立ち昇る場所へ向かうと辺りは一変していた。
なんとエレンとアンナが本気のバトルを繰り広げていたのだ。
一触触発の空気に包まれていて間に入る隙もない。
「野郎、いきなりファイアーボムを放ちやがって。少しずれていたら直撃を食らっていたぞ」
「おしかったわ。でも、次で仕留めるわ」
エレンは黒焦げになったクレータの横で大剣を下段に構える。
アンナは悔しそうにしながらファイティングポーズをとる。
そして次の瞬間、両者は一気に間合いを詰めた。
エレンは右下段からアンナの横腹を目掛けて大剣を振り上げる。
すると、アンナは左腕にフレイムブレードを纏わせてエレンの大剣を受け止める。
「ちぃ、やるな」
「本番はこれからよ」
アンナは右の掌をエレンの腹に押しあてて魔力を集中させる。
すると炎を纏った球体が徐々に膨張しはじめて拳大の大きさになる。
そして大爆発を起こしながら一気にエネルギーを解放させた。
「ぐほっ」
エレンは後ろに大きく吹き飛ばされて転げ落ちる。
「どう?ファイアーボムのお味は」
「くっ、この程度、大したことはない」
「やせ我慢しちゃって」
「今度は私の番だ!」
エレンは大剣を握り直すとアンナの頭上に飛び上がる。
そして太陽の光の中に入り込んで刺突を放つ。
「眩しい」
アンナは右手を翳して太陽の光の中にいるエレンの姿を探す。
「もらった!」
寸の所で身を翻してエレンの刺突を避ける、アンナ。
しかし、エレンは地面に着地するなり大剣を握り直してアンナの足元を払う。
「そんな攻撃は効かないのよ!」
すぐさま反応する、アンナ。
今度は左足にフレイムブレードを纏わせてエレンの大剣を受け止めた。
「そう来ると思った!」
すると、いきなりエレンは大剣から手を放してアンナの横腹目がけて左フックを叩き込む。
「ぐふっ」
アンナはよろけながら後ろに下がる。
「どうだ。今のはまともに入っただろう」
「ゲホゲホ。まだよ」
「お前がどうあがいても私には勝てないんだよ」
「それは私の台詞よ」
エレンとアンナは間合いをとりながら身構えた。
「何であいつらは戦っているんだ?」
「私に聞かれてもわかりませんわ」
「どうせいつもの喧嘩だろう。ほっておけ」
ミゼルは他人ごとのように呆れながら吐き捨てる。
いつもの喧嘩ってレベルじゃないだろう。
地面は爆発や斬撃で抉られた大地が広がっている。
どうみても本気のバトルだ。
「おい、お前ら!争いは止めろ!」
「止めるな、カイト。これは私とあいつの問題なんだ」
「そうよ。今日こそ決着をつけるんだから」
エレンとアンナはジリジリと間合いをつめながら攻撃するタイミングを見計らう。
「決着ってな。戦うならコロセウムにしろって言っただろ!」
「コロセウムよりここの方がギャラリーがいなくて気が楽だ」
「あなたの墓場にはもってこいの場所だわ」
「お前の墓場だろう」
確かにここは開けた大地でいくら暴れても誰にも迷惑がかからない。
だからと言って無闇矢鱈と戦っていいって訳じゃない。
戦いにはルールが必要だ。
でなければただの殺し合いでしかない。
「やるならやるでルールが必要だろ」
「そんなのは無用だ。殺るか殺られるかだ」
本気で言っているのか、エレン。
お前達は仲間だったろう。
それを無視して殺し合いなんて出来るのか。
「あいつは死んでもわからないわ。だから私の手で殺してあげるのよ」
「それは私の台詞だ」
だめだ、こいつら。
頭に血が上って周りが見えなくなっている。
ただの喧嘩ならばミゼルの言う通りほっておくのが一番なのだけど。
これはただの殺し合いだ。
本当に殺してしまったら取り返しがつかない。
やっぱ止めさせるべきだ。
しかし、どうする。
間に割って入ろうものならば俺が殺られてしまう。
「セリーヌ、あいつらを止めてくれ」
「ああなってしまえば無駄ですわ。決着がつくまで待ちましょう」
「待つってな。あいつら本気で殺し合いをしているんだぞ。死人が出たらどうするつもりだ」
「蘇生魔法があるから大丈夫です」
慌てている俺をよそにセリーヌはさらりと言うとニコリと微笑む。
「蘇生魔法って死人を蘇らせる魔法だよな。セリーヌは使えるのか?」
「死人を蘇らせると言うのは少し語弊がありますが、蘇生魔法は使えます。それが私の特殊能力ですから」
なんと!
プリ―ストならみんな憧れる蘇生魔法を使えるなんて。
蘇生魔法は特殊な魔法で覚えることは出来ない魔法のひとつ。
なので特殊能力で開花させるしか習得方法はないのだ。
それをセリーヌが使えるなんてプリ―ストの華じゃないか。
やっぱりこのおばさん達は只者ではない。
「エレンさんもアンナさんも気兼ねなくやっちゃってください。蘇生は私がしますから」
「セリーヌのお許しが出たぜ。遠慮なく行かせてもらうぞ」
「セリーヌに蘇生されるのはあなただけどね」
エレンとアンナは激しくぶつかり合う。
「おいおい、いいのか、セリーヌ。あいつら本気だぞ」
「せっかくの機会ですし、どちらが勝つのか見守りましょう」
「近接攻撃ならばエレンに分がありそうだが、アンナは遠近どちらにも対応できる。力ではエレンだが応用力ではアンナの方が上だ」
何を冷静に分析をしているんだ、ミゼルは。
これは試合じゃないんんだぞ。
「カイト、どっちに賭ける?」
「そんなことを言っている場合か」
「俄然、私はエレンさんですわ。エレンさんはまだ本気を出していませんし」
「なら、私はアンナに賭けよう。武闘派魔法使いのアンナにエレンがどこまで食いつけるかがカギだな。無詠唱魔法は厄介だぞ」
セリーヌとミゼルはお互いに金貨を出し合って賭けをはじめる。
何でもありだな、お前らは。
仲間が目の前で戦っているんだぞ。
それをタネによくギャンブルが出来るものだ。
おばさんともなれば本気のバトルもただの余興なのか。
考えられないほど頭がどうかしてる。
エレンとアンナの戦いは激しさを増す。
どちらも一進一退の攻防を繰り広げながら負けを認めない。
このまま戦いを続けていても体力ばかりが消耗するだけだ。
どちらが勝ってもおかしくない状況。
雌雄を決するのは一瞬の油断だけだった。
アンナは得意の魔法でエレンを翻弄して行く。
エレンは防戦一方でジリジリと押されはじめる。
「これはエレンの負けだな。反撃すら出来ないでいる」
「違いますわ、カイトさん。あれはエレンさんの作戦です。見ていてください」
意味深なことを言うセリーヌ。
まるでエレンが逆転勝ちをするかのような言い方だ。
「これで終わりにしてあげるわ!」
アンナが両手に魔力を集中させてフレイムブレードを作り出す。
そしてフレイムブレードをクロスさせるようにエレンを薙ぎ払う。
それをエレンは大剣ひとつで受け止める。
「いい加減、諦めなさい」
「これからが本番だ」
エレンは力任せにアンナを突き飛ばす。
そして大剣を大きく振り回すと大剣が炎で包まれる。
それはまさにアンナのフレイムブレードを模したかのよう。
エレンは炎の大剣を振りかざし炎の衝撃波を放つ。
「まだよ!」
アンナはすかさず反応して両手のフレイムブレードで衝撃波を打ち消す。
しかし、その対応はアンナに一瞬の隙を作りエレンにチャンスを与えた。
「終わりだ!」
エレンの炎の大剣がアンナの目の前に迫る。
アンナは条件反射のごとく両腕で頭をガードした。
エレンは寸の所で炎の大剣をピタリと止める。
「勝負あったな」
わざと防御体制に入り相手の攻撃を誘発させる。
そして一瞬の隙をついてカウンター攻撃で仕留める。
エレンも考えたな。
だけど、何でエレンの大剣が炎に包まれたんだ。
もしかしてあれがエレンの特殊能力なのか。
「私の勝ちのようだな。負けを認めろ」
「今のはちょっと油断しただけよ。私が本気を出せばあなたなんて虫けらと同じよ」
「じゃあ、もういっぺん勝負するか?」
エレンは勝ち誇ったように悔しがるアンナを挑発する。
エレンに負けたことはアンナにとって受け入れがたい事実。
本来であればアンナが勝利するはずだったのだ。
だからこそ何かしら理由をつけても負けを認めない。
そうすることでこの勝負自体をうやむやにするのだ。
「この勝負はノーカンよ。だいたいルールがないし公式の場でもないからね」
「今更何を言っているんだ。ルールなしの勝負をはじめたのはお前だろ」
「あなたも乗って来たじゃない。あなたも同罪よ」
「この野郎、人がおとなしくしていればつけあがりやがって。もういっぺん勝負だ」
「嫌よ。私はそんな気分でないの。やりたかったら他をあたって」
ひとり興奮しているエレンを横目にアンナは冷ややかに告げる。
「よーし、もう終わりだ。お前ら、離れろ」
「まだ勝負が終わってない。離せよ、カイト」
「ダメだ。これ以上やっても死人が出るだけだからな」
俺はエレンとアンナの間に割って入り二人を突き放す。
リーダーとしてはこれ以上、二人のしょうもない争いを野放しにしておけない。
どうせ喧嘩の原因はしょうもないことなのだ。
「喧嘩の原因は何だ?」
「あいつが私の足を踏んだのよ。わざとね」
「あれは躓いただけだ。わざとじゃない」
「わざとじゃなくて私の服まで破る訳?」
「しかたないだろ。転びそうになったんだからな」
アンナの服を見ると布が裂けてボロボロになっている。
アンナは捲くし立てるようにマシンガンのごとく愚痴をこぼす。
「だいたいあなたはね、自分勝手過ぎるのよ。勝手に私の化粧水を使ったり、おかずを横取りしたり、楽しみにとっておいたお酒も飲んだわよね。あれは高かったんだから。それだけじゃないわ、お気に入りの勝負下着も勝手に履いたでしょ。ゴムが緩んでいたからわかるのよ」
「私の方がグラマーだからな。アンナのサイズでは入らなかったよ」
エレンは勝ち誇ったように自慢の胸を前に突き出す。
はーぁ。
やっぱりしょうもないことが原因だった。
それにしてもエレンの自由奔放さは目に余るな。
おかずやお酒の横取りまではわかるが、下着まで試着するとは。
そもそもサイズが違うのだから合わないだろう。
いやいや。
おばさんのどこに勝負下着の需要があるんだ。
おばパンを喜ぶのはスケベジジイぐらいだろ。
それにしてもおばさんと言う生き物はしょうもないプライドを持ってしょうもない争いをしたがる。
しょうもない争いを見せられる方の身にもなってみろってんだ。
しょうもない苦痛に悶え苦しむのだ。
「それじゃあ私は行くから」
アンナは身なりを整えると荷物を持って立ち去ろうとする。
「お、おい、アンナ。どこへ行くつもりだ?」
「そんな奴といっしょに旅なんて出来ないわ。これでさよならよ」
「何を勝手なことを言っているんだ。俺達は仲間じゃないか」
「私はカイトの仲間になったつもりはないけど」
「カイト。そんな奴はほっておけ。私達だけで旅を続けるぞ」
おいおい、勝手に決めるなよ。
リーダーは俺なんだぞ。
お前達が原因で喧嘩になったんだ。
お互いに歩み寄って謝ることが大人の対応だ。
「エレンもアンナも謝れよ。お前達のいざこざが原因なんだから」
「カイトは何も聞いてなかったの。これもみんなあいつのせいなのよ」
「私は全然悪くない。お前が小さいのがいけないんだ」
「言っているそばからこれよ。カイトもわかったでしょ?」
返す言葉も見つからない。
アンナの言っていることは全て間違ってはいないのだから。
これもそれもエレンの自分勝手な振る舞いが招いたこと。
しかし、エレンに説教をしたところで改心など見込めない。
法名寺で修業しても変わらなかったのだから。
「アンナの気持ちは重々にわかる。だが、ここは堪えてくれ」
「何でいつも私が我慢をしなくちゃいけないのよ。カイトもリーダーを気取るなら公平に裁いてよ」
それが出来れは俺も苦労はしない。
「私は行くから。止めても無駄よ」
アンナは馬車の馬を1頭外して荷物を乗せる。
そして「さよなら」のひと言もなく立ち去って行った。
「これじゃあバラバラじゃないか」
「カイト。アンナのことは私に任せろ」
がっくりと項垂れている俺の肩をポンと叩く、ミゼル。
荷物を肩に背負うとアンナの後を追い駆けて行った。
「これでせいせいしたぜ。それじゃあ私達も行くか?」
「少しは反省しろよな。お前のせいでチームがバラバラになったんだぞ」
「私とセリーヌがいるじゃないか。これだけで十分だ」
エレンは反省の色も一ミリも見せずに出発の準備をはじめる。
「カイトさん。元気を出してください。私はいつでも傍にいますから」
「ワン!」
「トイプー。お前も慰めてくれるのか。いい子になったな」
俺は体を摺り寄せて慰めて来るトイプーによしよしをする。
これで間接攻撃のアンナとミゼルを失うことになってしまった。
チームのバランスで言えばこの上なく悪い。
近接攻撃のエレンと俺、支援魔法のセリーヌだけになったのだ。
と言っても俺は戦力外。
これでモンスターと出会ったらどうなるだろう。
考えただけでも恐ろしい。
俺はモンスターに出会わないことを祈りながら旅立つのだった。




