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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第二章 激闘するおばさん編
34/361

あるある033 「ひとの意見に反対しがち」

宿屋に着くとアンナの姿はどこにもなかった。

荷物は置いてあるがアンナだけがいない。

先に着いていたエレン達は酒盛りをはじめていた。


「おい、エレン。アンナはいないのか?」

「私達が来た時には既にいなかったぞ」

「あいつ、どこへ行ったんだ」

「それよりもカイト。お前もやれ」


ひとり立ちすくむ俺に対してエレンは酒を薦めて来る。

誰が勝手にやっていいと言ったんだ。

セリーヌがついていながらこれとは。

セリーヌは申し訳なさそうな顔をしながら頭を下げる。


「とりあえずアンナはほっておこう。それよりもまずは作戦会議だ」


俺はギルドで仕入れて来た情報を元に作戦を考える。


「ミストラン山岳地帯に出没するモンスターはマッドゴーレム、爆弾岩、デスホーク、山賊紛い、ウィンドウイーターだ。どれも報酬が銅貨3枚のモンスターだ」

「報酬が銅貨3枚だなんて大したことないな。作戦を立てるまでもない」

「何を言っているんだ、エレン。報酬は少ないがクセのあるモンスターなんだぞ」


真面目に話している俺を無視してエレンは酒を煽る。

ここで注意しても無駄なので話を進めることにする。

俺はギルドで仕入れた情報をエレン達に説明をした。


「以上がギルドで仕入れて来た情報だ」

「それでどのような作戦を考えているのですか?」


まずはマッドゴーレム対策だ。

基本的にはゴーレムと同じ作戦が有効だろう。

セリーヌのアシットレインで防御力を落とさせる。

そしてミゼルのけん制攻撃で注意を引く。

俺とエレンは背後に回り込んで攻撃を仕掛ける。

とどめはアンナの魔法攻撃だ。

しかし、注意しなければならないことがある。

それは炎系の魔法は使えないことだ。

体内にオイルを蓄えているマッドゴーレムに炎の魔法を放ったら燃え上がってしまう。

それでは逆効果だ。

だからとどめは炎系以外の魔法でなければならない。


「マッドゴーレムにはこの作戦で行けるはずだ」

「ゴーレム戦の作戦が生きていますね」

「同じ系統のモンスターだからな」


次いで爆弾岩対策だ。

爆弾岩は自ら攻撃をしてこない。

だから近づかなければどうと言うことはない。

しかし、岩に擬態しているので見分けるのが難しいだろう。

そこでミゼルの弓矢が役に立つ。

あらかじめ目ぼしい岩に向かって矢を射ってもらう。

そうして爆弾岩なのかを判別するのだ。

間接攻撃であれば爆発の影響も受けない。

安全に確かめることが出来るだろう。


「爆弾岩を見つけたらミゼルに攻撃をしてもらう。けっして戦おうなんて思うなよ」

「カイトにしては考えているじゃないか。いいだろう、私に任せておけ」


次はデスホーク対策だ。

デスホークは常に上空から獲物を狙っている。

なので発見しやすい。

しかし、狙われたら逃げることは難しくなるだろう。

空を制する者は地をも制するのだ。

一番いいのがデスホークに出会わないこと。

だが、それは難しいだろう。

ミストラン山岳地帯にはデスホークが好みそうな高い崖が多くあるのだ。

対デスホーク作戦は狙いを一つに絞らせることだ。

おとりとなるのはエレンが打倒だろう。

エレンならばデスホークにも引けをとらない。

そしてエレンがデスホークの注意を惹きつけている間に総攻撃を仕掛ける。

これならばいくらデスホークと言えども打つ手はないだろう。


「おとり役はエレンにやってもらう」

「カイトも好きだな。もしかしてドSなのか?」

「ふざけるな、エレン。これは真面目な作戦なんだぞ」


酒を目の前にしているエレンに何を言っても無駄のようだ。

今も話半分で酒ばかりを飲んでいる。

エレンには後でたっぷりと言い聞かせるとして作戦の続きだ。


次は山賊紛い対策だ。

こいつらが一番戦い易いだろう。

何せゴブリンに毛が生えたような能力なのだ。

ただ、数十匹で群れをなしていることには注意しないといけない。

いくら弱くても数がいれば大きな力となるものだ。

こいつらには緻密な作戦は必要でない。

アリを押しつぶすかのように個別に撃破して行くのだ。

初心者の俺でも数匹なら相手に出来るはず。


「山賊紛いには個別に撃破する作戦をとる」

「それは作戦と言うのか?」

「もちろんだ。ひとつひとつの行動が作戦なのだ」


最後はウィンドウイーター対策だ。

こいつが一番厄介かもしれない。

何せ体を取り囲んでいる竜巻は実態がないのだ。

攻撃を仕掛けても空を切るばかりだろう。

竜巻をかわしながら中央に潜んでいるウィンドウイーターを仕留めなければならない。

死角は天上だ。

いくら周りを竜巻で覆っているからと言っても体の上までは塞いではいない。

なので天上から攻撃をしかけてウィンドウイーターを一突きにするのだ。

これならば確実に仕留めることが出来るはずだ。

それでもウィンドウイーターの注意を惹きつけておく必要がある。

それはミゼルに任せよう。


「ミゼルはウィンドウイーターの注意を惹きつけてもらう」

「今度は私の活躍が期待できそうだな」

「以上が俺が考えた作戦だ。何か異論のあるやつはいるか?」


俺が誇らしげに問いかけるとエレンがすぐさま食いついて来る。


「カイトは頭で考えすぎなんだよ。そんな作戦を立ててうまく行くとでも思っているのか?」

「もちろんだ。俺の作戦に抜かりはない」

「それがダメだと言うんだ。戦いってのはやってみなければわからないものだ。どう戦局が傾くのかも、その時々で変わるものだ」


エレンは赤ら顔で俺に説教をしはじめる。


「まずは作戦を考えるよりも剣をとることが先なんだよ。わかってるのか?」

「それでも作戦は必要だ。作戦のない戦いなんてただの争いじゃないか。争いばかりしていても強くはなれないよ」

「戦いってのは体で覚えるものなのだ。けっして頭で考えるものじゃない」


それはエレンだけの通りだろう。

大抵の冒険者は作戦を考えて戦っている。

でなければ強くはなれないのだ。

体で覚えることも大事だろうが、何より頭で考えることも必要なのだ。

俺はそう言う風にセントルース騎士団学校で習った。

だから、俺の言うことに間違いはない。


「それはエレンに考えるだけの頭がないってことだろう」

「喧嘩を売っているのか、カイト」


馬鹿にしたように見下す俺に対してエレンは俺の胸ぐらを掴みあげる。


「止めてください、エレンさん。こんなんところで喧嘩してもはじまらないじゃないですか」

「喧嘩を吹っ掛けて来たのはカイトの方だ。私は喧嘩を買ったまでだ」

「俺はリーダーなんだ。だから従ってもらうからな」


俺はエレンを突き放して襟を直す。

エレンのような単細胞の言うことを聞いていたらまともに戦えやしない。

戦いにおいては何よりも作戦が重要なのだ。

そのことをエレンはわかっていない。

10年もの間、冒険を続けて来て何を学んだのか。

問いただすことも無駄だろう。

今も胡坐をかいて酒を煽っている。

俺の話も最初から聞くつもりもないのだ。


「作戦会議はこれまでだ。各々、準備はしておけよ」

「カイトさん、どちらへ?」

「ちょっと夜風にあたって来る」


セリーヌにそう言い残して俺は部屋を後にする。

その後にトイプーが着いて来た。

少しエレンと言いあったことで興奮してしまったようだ。

体が少しだけ熱い。

俺は宿屋の廊下を歩きながら夜風にあたる。

春初旬の爽やかな風が俺の火照った体を癒す。


「エレンは全然わかっていない」


俺は愚痴をこぼしながら中庭にあった椅子に腰を下ろす。

すると、トイプーが急に身を寄せて来た。


「何だ、トイプー。お前もそう思っているのか?」

「ワン!」

「だよな。俺が悪い訳じゃないよな。お前だけだよ、俺の気持ちをわかってくれるのは」

「クーン」


俺はトイプーの頭を撫でながら抱きかかえる。

はじめはただのお荷物だと思っていたが、俺の気持ちを癒してくれるなんて。

お前は見かけによらずいいやつなんだな。

エレンもこれくらい素直ならば可愛げがあるものだが。

そこへ風呂上がりのアンナがやって来た。


「何よ、カイト。こんな所でトイプーと密会?」

「何を馬鹿なことを言っているんだ、アンナ。それよりその格好はなんだ?」

「ああ、これ?カイト達が遅いから先にお風呂をもらったのよ。いいお湯だったわよ」


アンナの顔は少し赤らんでいて肌はいつもより艶やかになっている。

5日分の汚れを落としてすっきりしたようだ。

何せ馬車で移動している際はお風呂に入れないから体は油でギトギトだ。

俺の髪も油まみれで汚い。


「カイトも温泉に入ったら?」

「後でな」

「なんかあった?」


ぶっきらぼうに俺が答えるとアンナは何か気づいたように尋ねて来た。


「何かあったじゃない。エレンのやつが俺の立てた作戦に文句をつけるんだ。モンスター討伐には作戦が必要だろう。なのにエレンのやつ、そこがわかってないようでな」

「エレンは頭で考えるよりも先に体が動くタイプだから」

「単細胞だってことだよな」

「うまいこと言うじゃない」


俺の返しににアンナはクスクスと笑う。


「でもね。カイトも頭で考えすぎなところがあるわ。作戦は確かに重要だけど、戦ってみないとわからないこともあるのよ」

「それは俺が未熟者だってことか?」

「そうよ。カイトは圧倒的に経験が少ない。だから頭で考えちゃうのよ」


返す言葉がない。

アンナの指摘は的を射ている。

俺のこれまでの戦歴は全くと言っていいほどない。

セントルース騎士団学校では実戦訓練をしたがあくまで訓練なのだ。

実戦からは程遠い。


「まず、カイトに必要なのは実戦の経験。それを積めばもっといい作戦を立てられるわよ」

「実戦の経験か……」

「話はここまでよ。さあ、カイトも温泉に入って来なさい。汚れを落とせば頭もすっきりするわよ」


俺はアンナに促されるまま温泉へ足を向ける。

トイプーはアンナが連れて部屋に戻って行った。





ゲイルの街の宿の温泉も露天風呂だ。

他の客は見当たらず貸切状態。

俺は湯船の上に大の字になりながら空を見上げる。

温泉の湯気にまみれて無数の星が煌めいていた。


「やっぱ温泉は露天風呂に限るよな。生きかえる~」


すっかり体の汚れも落ち心も洗い流された。

さっきまでの争いが馬鹿みたいに思える。

確かに俺も作戦にこだわり過ぎていたところはあるが、エレンもエレンだ。

頭ごなしに否定しなくったっていいじゃないか。


「あいつはいつも自分勝手で何にもわかっていない」


俺は冒険初心者なんだから作戦に頼りたくもなるものだ。

作戦がなければいざモンスターと遭遇した時、迷ってしまう。

それは戦場では命取りにもなりかねないのだ。

モンスター討伐は遊びじゃないのだ。

殺るか殺られるかだ。

そんな切迫した状態で無策と言うことはあり得ない。

たとえ倒せなかったとしても作戦は必要なのだ。

エレンは自分が経験をたくさん積んでいるからって好き放題言い過ぎなのだ。

それに俺の作戦をことごとく無視をする。

その態度が頂けない。


「一度、酷い目に合えばエレンにもわかるだろう。俺の作戦のありがたさってのが」


なら、エレンを窮地に追い詰める作戦を考えてしまおうか。

自然的にエレンが窮地に追い込まれるのを待つよりも効率がいい。

しかし、どうするかが問題だ。

報酬が銅貨3枚ぐらいの敵を相手にするならばエレンは間違いなく勝つだろう。

ゴブリンの時みたいに一刀両断で敵を打ち砕くはずだ。

ならば、いっそうのことエレンの大剣を隠してしまおうか。

丸腰になればエレンも戦いようがないだろう。

いい作戦を思いついた。

俺は満面の笑みを浮かべながら空を仰ぐ。

すると一閃の流れ星が目の前を掠めた。


「作戦がうまく行きますように」


俺は流れ星に手を合わせて祈りを捧げた。

すると、女湯からゴソゴソと騒がしくなりチャポンと言う音が聞えた。


「おーい、カイト。いるんだろ?」


エレンじゃないか。

何をしに来たんだ。


「さっきは悪かったな。あまりにお前が愚か過ぎたからつい口を出したくなってな」


それで反省をしているつもりか。

俺を馬鹿にしているじゃないか。


「聞こえているんだろ?」


返事をするものか。

いないことにしておくのがいい。


「まあ、なんだ。私も悪かったがお前もお前だぞ。いっつも作戦ばかりに頭を使っているからな。もっと頭を空っぽにして戦いに挑んでみろ。見えて来るのもあるはずだ」


今度は説教か。

エレンの野郎、言いたいことを言いやがって。

エレンの大剣を隠す作戦は実行決定だ。


「でもな。私はカイトみたいなやつは嫌いじゃないぞ。カイトはカイトなりに抗っているようだしな」


急に褒めるなよ。

照れるじゃないか。

だが、作戦の実行は変わらない。

一度、酷い目に合わせないと反省はしないからな。

それがおばさんと言う生き物だ。


「明日はどんなモンスターと出会うか楽しみだな」


楽しみなのはこっちだ。

モンスターを目の前に丸腰になったエレンはどうするのか。

泣き叫んで縋って来たら許してやろう。

それまではけっして大剣を渡すつもりはない。

まるで鬼のようだが鬼にならないといけないのだ。

おばさんの頭を下げさせるには厳しく接しないとな。


「あんまり長湯はするなよ。のぼせ上がるだけだからな」


エレンはそう言い残すと温泉を上がって行った。


「あれで反省をしているつもりか。また、酒を飲めば忘れるだろう」


すると、また女湯の扉がガラガラと空いて誰かが入って来た。


「カイトさん、いらっしゃいますか?」


今度はセリーヌのようだ。


「エレンさんとお話しましたか?」

「……」


俺の反応を伺いながらセリーヌが話しかけて来る。


「エレンさん、ああ見えても素直なのですよ」


どこかだ。


「いっつもカイトさんのことを気にかけていらっしゃいますから」


気にかけてもらわなくても結構だ。


「カイトさんもご存じの通りエレンさんは手練れです。積んで来た経験も豊富ですが、エレンさんなりに考えて戦っているのですよ。一見すると何も考えていないようにも見えますが」


あいつは何も考えていないよ。

セリーヌはエレンを買い被り過ぎだ。

付き合いが長いからなのかもしれないが、俺には何も考えていないように見える。


「エレンさんはカイトさんのことを我が子のように見ているんです。カイトさんがニケさんと重なってね」


俺はそんなガキじゃない。

ニケは3歳児だろう。

重ねるにもほどがある。


「それにカイトさんもおわかりになっているのでしょう?エレンさんのこと」


わからない。

わかってたまるものか。

俺を馬鹿にしたような奴のことなんか。

きっと今頃、酒を飲みながら笑っているはずだ。


「私が言うのもおこがましいですけれど、エレンさんはカイトさんのことを気に入っていらっしゃるわ。自分でも考えないことをする面白い人だって」


それはそうだろう。

俺はエレンとは違って単細胞ではないのだ。

エレンには思いつかないような戦い方をする。

そこが俺の凄いところなのだ。

俺のことを気に入るのならば、それを理解しろってんだ。


「私に言えることはこれくらいですわ。カイトさんも意地を張らないで素直になってください」


そう言い残してセリーヌも温泉を上がって行った。

心配してくれるのはありがたいが、やんわりと説教されているみたいでいただけない。

とかくセリーヌの言いたいことは仲直りをしろってことだ。

俺だってエレンが素直に頭を下げれば許してやるつもりでいる。

しかし、エレンはそうしないのだ。

おばさんにもなると中々、素直にはならないものだ。

すると、今度はミゼルが温泉に入って来た。


「おい、カイト。いるか?」


今度は何だよ。


「早く上がらないとお前の酒がなくなるぞ。エレンにスイッチが入ったみたいだからな」


俺はお湯を掻き分けながら勢いよく立ち上がる。

あの野郎、俺の分の酒まで飲み干すつもりか。

こうしちゃいられない。

さっさと上がって酒を取り戻しに行こう。


「冗談だよ、カイト。焦るな。エレンは温泉を上がったらバタン休で眠ったよ」


その言葉を聞いて俺はホッと胸を撫で下ろす。

エレンにかかったら酒はすぐになくなってしまうからな。

それにしてもミゼルも悪い冗談を言う。


「セリーヌ達がお前のことを心配していたようだからな。私からもひと言だけ言わせてくれ」


何だよ急に。

俺に説教でも垂れるつもりか。


「カイトはカイトなりに一生懸命にやっている。まとまりの悪い私達を纏めているんだからな。カイトのおかげで私達もぐっと近づけたよ。これからもよろしくな」


素直じゃないか。

さすがはミゼルだ。

この素直さがエレンにもあれば文句はないのだが。

それを望んでも無駄だろう。

何せエレンは単細胞なのだから。

けど、ミゼル達のおかげで少しは気分が晴れた。

エレンの大剣を隠す作戦は見逃してやろう。

それがきっかけでピンチに追い込まれても嫌だからな。

俺は心は夜空に輝く月のようにすっきりと晴れ渡ったのだった。


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