あるある032 「スケベジジイに好かれがち」
アンナは草原の小人が残して行った痣を頻りに気にしている。
ちょうど赤ん坊の手ぐらいの大きさで赤色に変色している。
服を着ていればわからないが体中についていた。
「もう、この痣、とれないわ。やんなっちゃう」
アンナは頻りに痣をこすりながら消そうと躍起になる。
「そんなことをしても無駄だ。おそらく呪いの類のようだからな」
「呪いって何よ。私達が何か悪いことをしたって訳?」
「お前達が自分勝手なことばかりしているから罰が当たったんだ」
「何よ、それ」
草原の小人が残して行った痣はアンナ達にしかない。
俺の体には何一つついていないのだ。
この差は普段の行いの差に違いない。
草原の小人が何を考えて俺を外したのかはわからないが。
「一度、医者に診てもらった方がよろしいかもですね。呪いだったとしても、それを解く方法があるかもしれませんし」
「そうだな。ゲイルの街に行ったら病院へ行ってみよう」
「おっ、街が見えて来たぞ」
前を見やるとゲイルの街が視界に入る。
ラビトリス王都に次ぐ大きさだけあって広大だ。
街の周囲は高い防壁で覆われていて要塞のようになっている。
これはモンスターが街に侵入して来ないようにしているためだ。
俺達は防壁を越えて正門からゲイルの街に入る。
交易の中継地点になっているためか街は発展している。
石造りの建物が立ち並び大勢の人が行き交っている。
石畳が敷かれてある大通りはきれいに舗装されていて歩きやすい。
街のレベルでこれまで発展しているのは珍しい方だ。
俺達はさっそく街人に病院の場所を尋ねる。
すると、街の人達は口々にベルツ医師の名を挙げた。
ゲイルの街では有名らしく遠くの街から診察をしに患者もやって来るのだと言う。
そんな有名な医者に診せれば呪いの解除方もわかるだろう。
俺達はさっそくベルツ医師がいると言う病院へ向かった。
「ここがベルツ医師のいる病院なのか。随分、小さいじゃないか」
「病院と言うよりも診療所って感じですわね」
「本当にこんなところで大丈夫なのか?」
「とりあえず中に入ってみよう」
俺は診療所の扉を開けて中に入る。
待合室には数人の患者が診察を待ってる。
すると、ピンク色のナース服を着た看護師が声をかけて来た。
「はじめてですか?」
「はい、そうです」
「どのような具合でしょうか?」
看護師は俺の顔を覗き込むように尋ねて来る。
「患者は俺じゃありません。こいつらです」
「そうですか。それで具合はいかがですか?」
セリーヌはスカートを肌蹴て草原の小人が残した痣を見せる。
「ここで直りますか?」
「一度、先生に診てもらいましょう。順番が来るまで待合室でお待ちになってください」
看護師がそう言うと診察室の中へ入って行く。
これで受付は済んだようだ。
俺達は待合室の椅子に腰を下ろすと順番を待った。
「それにしてもちっさい診療所だな。本当に大丈夫なんだろうな」
「おい、エレン。声が大きいぞ。聞こえたらどうするんだ」
隣に座っていた患者に頭を下げると苦笑いをされた。
それにしても看護師たちの来ているナース服の丈が短いな。
太ももが丸出しじゃないか。
これでは病気を治すよりも別の病気になってしまいそうだ。
「おい、カイト。鼻の下を伸ばしてどこを見ているんだ」
「べ、別にどこも見ていないよ」
「カイトは相変わらずスケベね」
「スケベとは何だ。スケベとは」
心外な言葉を言うアンナに対して真っ向から否定をする、俺。
人前でスケベ呼ばわりされて無視する訳にも行かない。
これは俺の名誉がかかっているのだから。
「だってそうじゃない。私達が草原の小人に弄ばれている時にいやらしい顔をしていたり、お風呂を覗こうとしたりしてたじゃない。知っているのよ」
「そんな訳あるか!誰がおばさんの裸を見て喜ぶんだよ」
そんな需要はどこにもない。
おばさんを好き好んでいやらしい目で見るなどあり得ない話だ。
ましてや俺のような若者がおばさんを見て興奮するなんてあるはずがない。
「カイトも好きものだな。そんなに私達の裸を見たいなら見せてやるぞ」
エレンは挑発するようにセリーヌのスカートを肌蹴た。
「キャアッ!何をするんですか、エレンさん」
「カイトが見たいのは私の裸よりもセリーヌの裸だと思ってな」
セリーヌは顔を真っ赤にしながらエレンを睨みつける。
そんなくだらないやりとりをしている間に俺達の順番がやって来た。
「それでは診察室に入ってください」
「おい、お前ら。行くぞ」
俺達は看護師に案内されながら診察室に入る。
すると、白髭を生やして丸メガネをかけた老人が椅子に座っていた。
このジイさんが有名なベルツ医師なのか。
どこからどうみてもただのジイさんじゃないか。
「そんなところで突っ立っていないで座りなさい」
俺はベルツ医師に言われるままに椅子に腰をかける。
「それで加減はいかがかな?」
「食欲もありますし、よく眠れています」
「じゃあ、服を脱いで」
俺は上着を脱ごうとしてハッと気づく。
診察を受けるのは自分じゃないことに。
思わず言われるがまま診察を受けてしまったが俺じゃないのだ。
「先生。患者は俺じゃありません。こいつらです」
俺はエレン達を指さしてベルツ医師に紹介をする。
すると、ベルツ医師はメガネをキラリと光らせて目の色を変えた。
「ほう。患者はそなた達じゃったか。さあさあ座りなさい」
俺はアンナと場所を入れ代わる。
「それでどうしたんじゃ?」
「これを見てください」
アンナはスカートを肌蹴て太ももについていた痣を見せる。
「ほう。これは中々の景色じゃ」
ベルツ医師はアンナの太ももを見るなり鼻の下を伸ばす。
そしてスケベそうな顔をしながらニタリと笑う。
「痣はこれだけか?」
「体中にあります」
「ほう、体中にか。見せてみなさい」
「ここで?」
アンナは躊躇いながらも顔を赤らめながら上着を肌蹴る。
すると、草原の小人が残して行った痣が体中についていた。
「うひょー。これは!」
急にベルツ医師のテンションが上がり鼻息を荒げはじめる。
本当にベルツ医師は有名な医者なのか。
どこからどうみてもスケベジジイに見えるのだが。
今もアンナを見る目が嫌らしい。
口元を緩ませてスケベ顔をしている。
しかし、おばさんにこんな需要があったなんて意外だ。
ベルツ医師はどう見ても70代ぐらいのジイさんだ。
そんなベルツ医師から見たらエレン達は小娘なのだろう。
「それでこれは何なの?」
「今から調べるのじゃ」
そう言ってベルツ医師はアンナの太ももに手を触れる。
そしていやらしい手つきでアンナの太ももを摩りながら難しい顔をする。
「これは……」
「これはなに?」
「もっと近くで見ないとわからない」
ベルツ医師はいきなりアンナの太ももに顔を押しつけて頬ずりをはじめる。
「スベスベだ。やっぱり若い肌はいいのう」
「って、エロジジイ!何やってるのよ!」
アンナは怒りながらベルツ医師にグーパンチを食らわせる。
このジイさんはただの変態ジジイじゃないか。
診察とうたって変態行為をする確信犯だ。
「ジイさん、真面目にやってくれよ。これじゃあ変態プレイじゃないか」
「ジイさんとは何だ。これでもちゃんと診察はしているのじゃぞ」
「診察って。アンナの体を触りたいだけじゃないか」
ベルツ医師はゴホンと咳払いをするとキリリと表情を変える。
「ワシの特殊能力は”触診力”じゃ。触れるだけで病気を判別できる。だから触診はなくてはならないことなのじゃ」
そんな反則的な特殊能力を持っているなんて。
医者なら触りたい放題じゃないか。
なんて羨ましい特殊能力なんだ。
「それでこれは何なのですか?」
「ゴホン。呪印じゃ」
「呪印?」
「呪印と言うのは触れたものに印を残して呪いをかけるものじゃ。時限式の呪いが多いからいつ発動するかはわからない。じゃが、呪いの中では比較的軽い方じゃからほっておいても大丈夫じゃろう」
ベルツ医師は真面目な顔をしながら診察結果を告げた。
ちゃんと診察していたことに少し安心する。
これで藪医者だったら目も当てられないからな。
「なら、呪いが発動するまで、この痣は消えないってこと?」
「そうじゃ」
「ちょっと、何とかならないの。これじゃあ人前で肌を晒せないじゃない」
アンナは不満気な顔を浮かべながらふて腐れる。
どこで肌を晒そうと思っているのだ。
風呂ならば個室の風呂に入ればすむ。
おばさんの肌に需要はないぞ。
「そんなに気になるのなら、これでも塗っておくのじゃ」
「何よそれ?」
「塗り薬じゃ。薬としての効果はないが、痣は消せる。ワシが代わりに塗ってやろうか?」
「そのくらい自分で出来るわよ!」
手をワナワナさせながらスケベ顔をしているベルツ医師から塗り薬をはぎ取る、アンナ。
さっそく試しに手に少しだけとって痣に塗りはじめた。
すると、ファンデーションで隠したかのように痣が消えて行く。
「悪くはないわね。これをもっとちょうだい」
「出せるのはひとつだけじゃ。だが、ひと月くらい持つから安心せい」
まがっても名医。
診察以外は本物の医者と同じだ。
俺達は診察を終えて診察室を出て行く。
その時にベルツ医師に質問をしてみた。
「あの看護師さんのナース服はベルツ医師の趣味ですか?」
「さよう。ワシが特注したものじゃ。気に入ったじゃろう」
やっぱり。
これは医師の権力を傘に着た職権乱用だ。
自分の趣味だけでナース服をミニにするなんて。
まともな世界ならば間違いなく大問題となっているはずだ。
でも、まあ、男の俺としてはウハウハだけれど。
しばらくこの診療所に通ってみようかな。
そんなくだらないことを考えている間にセリーヌは精算をすませる。
そして塗り薬をもらって診療所を後にした。
ゲイルの街の大通り。
俺達は馬車に乗り、あてもなく歩いていた。
「これでしばらくは安心ね」
「けれど時限式の呪いなんていただけないな」
「いつ発動するかわからないのは怖いですわね」
「まあ、でも、軽い呪いのようだから大丈夫だろう」
とりあえずは安心だ。
軽い呪いと言うことだから虫に刺されたようなものなのだろう。
まあ、俺がかかっている訳でもないから問題はないのだけど。
「それでこれからどうするつもり?」
「今夜は宿に泊まって明日、出発するつもりだ」
「ならば食料も補給しておきませんとね」
「なら、セリーヌとエレンで食料を補給を。アンナは宿の確保だ。俺はミゼルとギルドで情報を集めて来る」
「わかったわ。なら、宿で落ち合いましょう」
さっそく俺達はそれぞれの仕事へ向かう。
セリーヌとエレンに馬車を任せて俺達は徒歩でギルドへ。
ミゼルとこうして情報を集めをするのははじめてのことだ。
「ミゼルと二人っきりだなんてはじめてだな」
「緊張しているのか?」
「だ、誰が緊張するかよ」
緊張はしていないがドキドキはしている。
ミゼルはセリーヌと争うほどの美人。
しかも、年齢よりも若く見られる。
二人っきりで歩いていたら恋人に間違えられるだろうか。
年齢の差がなければミゼルが恋人でも悪くはない。
そう思ってしまうくらいミゼルは美形なのだ。
「カイト、顔が赤いぞ」
「ちょっと疲れているだけだ」
「そう言うことにしておいてやる」
ミゼルは俺の本心を見抜いているかのような顔を浮かべる。
鋭い奴だから余計なことは考えない方がいい。
「それでミゼルは何でエルフ村を出たんだ?」
「私は幼い時からずっとエルフ村の中にいたからな。外の世界へ憧れがあったんだ」
「エルフは村から出ないのか?」
「ほとんどのエルフは村に留まることが多いな。外の世界は恐ろしい魔物が巣食っていると聞かされているからな」
おとぎ話のようなものか。
子供達に警鐘を鳴らす目的でおとぎ話を聞かせる。
そうすることでエルフ村に留まる子供を増やすのだ。
それはエルフ村に伝わる昔からの風習なのだろう。
でも、ミゼルのようなエルフも現れるものも常。
いずれエルフ村の垣根はなくなるかもしれない。
「それで外の世界はどうだったんだ?想像していた通りだったのか?」
「想像を超えていたよ。目に映るものが全て新鮮で、聞くもの全てがはじめてだった」
「そうか。それだけ聞いてもワクワクして来るな」
「カイトが思っている以上に世界は広いぞ」
ミゼルは少し誇らしげな様子で語った。
これまでミゼルがどんな冒険をして来たのかは俺に知る由もない。
しかし、思っている以上に考えている以上に大きいものだと言うことはわかる。
この先に待ち構えている世界に思いを馳せた。
「ギルドがあったぞ」
「まずはモンスター情報を集めるぞ」
ゲイルの街のギルドもラビトリス王都に次ぐ大きさを誇っていた。
中にはたくさんの冒険者達で賑わっている。
俺達はクエストが貼り出されている掲示板へ足を向ける。
すると、とりわけ人だかりの出来ているクエストが貼り出されていた。
見るとセリア姫とマーカス王子の結婚式関連のクエストだった。
「やっぱり人気があるな」
「ラビトリス王国がスポンサーだからな。報酬も破格だ」
「こっちは要人警護のクエストだ。金貨10枚だぞ」
「グラン国王の力の入れようがわかるな」
セリア姫とマーカス王子の結婚は両国を挙げての一大イベントだ。
それが故に失敗は許されないのだろう。
もし、結婚式が何らかの形で失敗したのならば戦争が起こるかもしれない。
それほどまでに両国は緊張しているのだ。
「セリア姫の結婚式関連のクエストは俺達には関係ない。それよりもモンスター情報を集めるぞ」
「それならばマッドゴーレム、爆弾岩、デスホーク、山賊紛い、ウィンドウイーターあたりだな」
「またゴーレムかよ」
「マッドゴーレムはゴーレムよりも強い。何せ報酬も銅貨3枚だからな」
注意しなければならないのはただのゴーレムではないと言うこと。
全身が石炭で覆われていて体内にオイルを蓄えている。
だからいったん火がつけば燃え上がるらしいのだ。
燃えるゴーレムを相手にどう戦えばいいんだ。
こいつとは出会いたくはない。
爆弾岩はその名の通り爆発する岩石モンスター。
自ら攻撃をして来ることはないが敵が近づくと爆発する。
以前、サダラーン丘陵で見掛けた地雷中のようなモンスターだ。
デスホークは全身を黒い毛で覆われた巨大な鷹。
険しい崖上に巣をつくり上空から獲物を探している。
空を飛ぶ相手とは戦ったことはないから出会いたくはない。
山賊紛いは見た目が山賊の小柄のモンスターだ。
全長1メートルほどで常に十数匹の群れで行動している。
ゴブリンに毛が生えた能力なのでさほど警戒する必要もない。
ウィンドウイーターは全身を竜巻で覆った巨大アリだ。
竜巻は実態がないため直接攻撃をあてるのが難しい。
こちらも集団で活動するため注意が必要だ。
どのモンスターもミストラン山岳地帯に出没するモンスターだ。
ミストラン山岳地帯は国境をまたぎラビトリス王国とゴルドランド王国に広がっている。
この山岳地帯を抜けなければ国境には辿り着けない。
「どのモンスターも報酬が銅貨3枚だから大した敵ではない」
「しかし、空を飛ぶモンスターに燃えるモンスター。それに加えて自爆するモンスターだなんて厄介な相手ばかりが揃っているぞ」
「そう警戒する必要もないさ。この程度のモンスターに引けをとる私達ではない」
心配なのは俺の方だ。
まだ、まともにモンスターと戦ったことはない。
先のゴーレム戦でも既に死んでいるゴーレムに剣を突き立てただけなのだ。
それでも小剣が弾かれてしまう始末。
そんな状態のまま銅貨3枚の敵とどうやって戦うのか。
エレン達がいるからそんなに不安はないがレベル上げの必要もある。
次こそは戦闘に参加しなくてはならないのだ。
そのためにも戦術は前もって立てておかなければならない。
それぞれのモンスターに対応できる作戦を考える必要があるのだ。
「国境までは馬車でどの程度かかる?」
俺は掲示板の横に貼られてあるランゲルド地方の地図を見やる。
ゲイルの街から国境までは直線で数センチ。
時間に換算すれば3日あたりだろうか。
しかし、ミストラン山岳地帯は山道だ。
もっと時間がかかるだろう。
多めに見積もっても1週間は見ておいた方が無難だ。
「そうだな。順調に進めて1週間ぐらいだろう」
「1週間か。長旅になるな」
それはあくまで順調に進めた場合の計算だ。
もし、モンスターと遭遇したらもっと時間がかかるかもしれない。
何せミストラン山岳地帯に出没するモンスターは厄介なものが多いのだ。
それに先の草原の小人達との遭遇から予想するに思わぬ出会いをすることになるだろう。
だから、入念にチェックをしておく必要があるのだ。
「食料や水はもっと多めに確保しておく必要があるな」
後でセリーヌ達に伝えて食料と水を増やしてもらおう。
俺とミゼルはギルドを出ると待ち合わせ場所の宿屋へ向かった。
ゲイルの街の宿屋は3軒あったが、目印があったので迷わずに辿り着けた。
アンナが選んだ宿屋は普通のランクの宿屋。
俺達の懐事情を理解しているようで並みの宿屋を選んだのだった。




