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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第二章 激闘するおばさん編
32/361

あるある031 「隙をつかれがち」

俺達を乗せた馬車はギルベック草原地帯を北周りに迂回してゲイルの街を目指した。

迂回するルートを選んだおかげなのか、モンスターに出会うこともなく進むことが出来た。

一日中、馬車で移動していたので太陽も西に傾きはじめている。

俺達は野宿できそうな開けた場所を探して野宿の準備をすませる。

この旅で野宿をするのははじめてのことだ。

いつもは街の宿屋に泊まっていたから何の心配もしていなかったが。

野宿では食事も眠る場所も自分達で作らなければならない。

俺達は手分けをして準備にとりかかった。

俺は火起こし。

ミゼルは寝床の準備。

エレンは薪拾い。

アンナとセリーヌは料理だ。

セントルース騎士団学校の課外訓練でキャンプをしたことがあったので火起こしはお手の物。

すぐに火を熾すことが出来た。

その火でアンナとセリーヌが料理の支度をはじめる。

俺は火の番をしながらエレンが戻るのを待った。

ミゼルも手慣れた様子で寝床の準備を終える。


「ミゼル。随分、慣れているじゃないか。前にやったことがあるのか?」

「まあな。エルフ村にいる時はあたり前のようにしていたからな」


エルフと言うだけあってミゼルは美形だ。

少し気の強そうな顔をしているが、それはそれで悪くない。

美人で言えばセリーヌといい勝負だろう。


「カイトはエルフに会うのははじめてか?」

「ああ、話には聞いたことあったが会うのはミゼルがはじめてだ」

「カイトもまだまだだな。世界はもっと広いぞ」

「お前達は10年ぐらい冒険を続けていたようだけど世界中を見て回ったのか?」

「大抵の所には回ったな。面白いところばっかりだったぞ」


ミゼルは思い出したように目を細めながら俺に話して来る。

羨ましいばかりだ。

世界を端から端まで見て来たなんて。

まあ、10年も旅を続けていれば無理でもない話だ。


「なら、ゴルドランド王国へも行ったのか?」

「もちろんだ。あそこは技巧都市だけあって近代的で凄いぞ。建物ひとつをとっても他の街とは違っている。コロセウムだけは歴史的に古い建物だったがな。他は近未来的で、まるで未来にでも迷い込んだかのようだった」

「へ~ぇ。面白そうな街だな。早く行ってみたいぜ」

「行ったらきっと感動するぞ」


ゴルドランド王国でそれぐらいだから世界にはもっと面白い国があるのだろう。

これからの冒険が楽しみだ。

そこへエレンが薪を担いで戻って来た。


「遅かったな」

「この辺は樹があまりないからな。ちょっくら森の中まで入って行ったんだ」


エレンは薪を降ろして焚火の前に座る。


「で、楽しそうに話していたようだけど何の話をしていたんだ?」

「ゴルドランド王国の話をしていたんだよ」

「ゴルドランドか。あの国に行くのは2度目になるな」

「前にもコロセウムに出たことがあるのか?」

「いや、見物しただけだ。あの時は急いでいたからな」


エレンが見物だけで我慢するなんて驚きだ。

普通なら乗り込んでも参加したがるだろう。


「なら、コロセウムに参加するのははじめてなんだな」

「まあ、優勝は間違いないけどな」

「随分と自信があるじゃないか」

「私くらいのレベルになると戦わなくても結果がわかるんだ」


それは頼もしい限りだ。

優勝賞金は金貨100枚だし、優勝すれば金欠状態から解放される。

しばらくの間、働かなくても遊んで暮らせそうだ。

そこへアンナとセリーヌが料理を運んで来る。


「お待ちどうさまです」

「今夜は羊の肉と野菜のスープにサンドイッチよ。あまり無駄には出来ないから軽食にしたわ」

「おっ、うまそうじゃないか」


さすがはセリーヌとアンナだ。

ただの食材がこんなごちそうに変化した。

さっそく羊肉と野菜のスープを口にする。


「美味い!」


羊肉の出汁がスープに溶けだして野菜の甘味と相まって心地よいハーモニーを奏でる。

口いっぱいに幸せが広がって体の底から美味いの言葉が溢れて来た。


「そんなに喜んでもらえると作った甲斐がありますわ」

「これならいくらでもおかわりできそうだ」

「おかわりはないからじっくり味わってね」


サンドイッチは羊肉とチーズとサラダが挟んである。

ひとつでも十分に満足できるほどのボリュームだ。


「セリーヌもアンナも料理上手だな」

「まあ、このくらいあたり前よ」


アンナは鼻を尖らせて得意気になる。


「なら、今度は私がチャレンジしてみるか」

「エレンには無理よ。料理なんて芸当こなせないでしょ」

「料理ぐらい出来るさ。これでも子持ちだぞ」

「家事が一切できないから別れたんでしょ」

「そうなのか?」

「まあ、それもあるが冒険がしたかっただけだ」


エレンは強がっているがアンナの言ったことは間違いないだろう。

家事の出来ないおばさんってのは問題だ。

しかも子持ちで。

と言うことは前の旦那さんが家事をしていたことになるな。

出来た旦那さんじゃないか。

それなのに別れるなんてエレンはなんて馬鹿なことをしたものだ。

冒険は確かに魅力的だからわからないでもないが。


「エレンが思ったような奴で安心したよ」

「それはどう言う意味だ、カイト」

「言葉通りの意味だよ」


俺達は談笑しながら食事を終えた。

そして食後の休憩をしながらお茶を飲む。

紅茶のような高級なお茶ではなく安物のお茶だ。

それでも外で飲んでいるせいか美味しく感じる。


「トイプー、見張りは任せたぞ。おかしな気配がしたら起こしてくれよ」

「ワン!」

「よし、いい子だ」


俺はトイプーを優しく撫でて褒める。

するとトイプーも尻尾を振って応えてくれた。

番犬になるくらいなら犬がいても旅の邪魔にはならない。

それよりも返ってありがたい。

セリーヌの気まぐれも役に立つのだな。


「それじゃあ、おやすみ」


トイプーを見張りに立てて俺達は眠りについた。

その様子を影から覗いていた気配に気づくこともなく。





俺達が眠りについてからどのくらい経っただろうか。

木陰から覗いていた者達が動き出す。

物音を立てないようにそろりそろりと近づいて来て両手を前に突き出す。

そして何やら呪文のようなものを唱えはじめた。

その物音に気がづいたトイプーが俺の所へやって来てぺろぺろと顔を舐める。


「ちょっ、や、止めろ。セリーヌ、大胆過ぎるぞ……ムニャムニャ」


俺は寝言を呟きながらスケベ顔を晒す。

それでもトイプーは止めることなく俺の顔をぺろぺろと舐める。


「セ、セリーヌ。何だか唇がザラザラしているな。それに何だか体もモジャモジャして……って!」


俺はがばっと飛び起きる。

お腹を見るとトイプーがクーンと鳴いていた。


「おい、どうしたトイプー。敵が来たのか?」


トイプーは俺のお腹から飛び出すとワンワンと威嚇しはじめる。

その先を見やると草原の小人が3匹両手を翳して立っていた。


「敵か!」


俺はすぐさま小剣を掴んで切っ先を草原の小人に向ける。

すると、不意を突いてエレンの大剣が俺の目の前を掠めた。


「うわっ!危なっ。いきなり何をするんだ、エレン。敵は向こうだろう」

「……」


エレンに言葉をかけてみるが反応がない。

そればかりか再び大剣を振り下ろして来た。


「おい、止めっ。冗談は顔だけにしておけ!」

「……」


操られているのか。

目に生気が宿っていない。

すると、背後から一閃の矢が顔を掠め通る。

後を振り返るとミゼルが弓を構えていた。


「おい、ミゼル。何を」

「……」


ミゼルは躊躇うことなく俺に向かって矢を放つ。


「お前もか!」


飛んで来た矢を寸のところでかわし小剣を構える。

どうやらエレン達は草原の小人の幻術にかかっているようだ。


「おい、アンナ!セリーヌ!エレン達を止めろ!」

「ンッ、ハア。アッ」


見るとアンナとセリーヌがお互いの体を弄りながら熱い抱擁をしている。


「お前ら、こんな時に何をやっているんだ!」

「ンッ。アッ。ンッ」


って!

ディープキスまでしているじゃないか。

何を気持ちよさそうにしているんだよ。

アンナとセリーヌの目にも生気が感じられない。

これも草原の小人の幻術だと言うのか。

なんて美味しい術なんだ。

こんな幻術を使えたらウハウハじゃないか。

そうだ。

後で草原の小人に幻術の使い方を教えてもらおう。

そんなよからぬことを考えているとミゼルの矢が俺の目の前を掠めた。


「危なっ!」


そんなことより今はエレン達を止めなければ。

草原の小人達の幻術を止めさせればエレン達の暴走も止まるはずだ。

しかし、こちらには俺しかいない。

草原の小人を3匹相手にどうすれば。

すると、脇にいたトイプーが小意気に吠えた。


「ワン!」

「お前がいたな。よし、トイプー、俺が右の奴をやる。お前は左のやつをやってくれ」

「ワン!」

「いい返事だ。いっせーのせで飛び出すぞ」


俺は小剣を構えるとトイプーと視線を合わす。

エレンとミゼルはお互いにぶつかり合って戦っている。

アンナとセリーヌは言うまでもなく。

草原の小人達をやるなら今がチャンスだ。


「よし。いっせーのせ!」


俺の合図と共に俺とトイプーが飛び出す。

俺は右回りに、トイプーは左回りに草原の小人の元へ向かう。

すると真ん中にいた草原の小人がトイプー目がけて両手を翳す。

そして何やら呪文を唱えるとトイプーの目から生気が抜けて行った。

トイプーは軌道を変えて俺に向かって飛びかかって来る。


「おい、トイプー。お前まで何をやっているんだ!」


トイプーは俺の腕に食らいついて離さない。


「ちぃ、使えない奴だ」


俺はトイプーの首根っこを掴み強引に引き剥がした。

トイプーは空高く舞い上がり茂みの中に転げ落ちて行く。

これで戦えるのは俺だけになってしまった。

どうやら草原の小人の幻術は相手の目に働きかけるものらしい。

ならば目を閉じれば幻術にはかからないはず。

俺は布で目隠しをする。


「これならお前達の幻術は無意味だ。前は見えないがやってやるぜ!」


俺はよろよろと前に進みながら小剣を振り回す。

しかし、小剣は空を切るばかりで草原の小人には当たらない。


「この野郎。逃げるな。卑怯だぞ!」


それもそのはず。

俺は草原の小人のいる方から外れ何もないところでひとり小剣を振り回していた。

これじゃあキリがない。

何とかして草原の小人の幻術を止めなければ。

目を開ければ幻術にかかってしまうし、目を閉じていても攻撃が当たらない。

ならばやることはひとつ。

一瞬だけ目を開けて草原の小人達の位置を確認してからタックルをかますのだ。

一瞬だけならば草原の小人の幻術にもかからないだろう。

俺は一瞬だけ目を開けて草原の小人の位置を確認すると目を閉じて突撃して行った。


「うらぁっ!」


俺の狙い通り確かな感触が体に伝わる。

しかし、うんとも寸とも言わない。

そればかりか石のように硬く倒れもしなかった。


「何だ?」


目を少し開けて前を確認すると大きな樹が目に入る。

さっきは確かにここに草原の小人がいたはず。

もしかして俺の攻撃を避けたと言うのか。

後を見やると草原の小人がこちらを見ていた。


これじゃあやりようがない。

目を開けたら幻術にかかってしまうし。

目を閉じて攻撃しても当たらない。

エレン達は同士討ち。

トイプーは気絶している。

もう、やりようがないじゃないか。

いっそうのことこのまま逃げてしまおうか。

”逃げるが勝ち”って言葉もあるくらいだし。

仲間なら新しく探せばいいし、金も何とかなるだろう。

ただ、その選択をすれば俺の人生の汚点になることは間違いない。

仲間を見捨てて逃げた冒険者として異名がつくだろう。

それは勇者を目指す俺にとってあってはならないことだ。


「お前達がその気ならやってやろうじゃないか。もう、どうにでもなれ!」


俺は目隠しを外して草原の小人達に立ち向かって行った。

その後、どうなったのか俺にもわからない。

気がづくと俺達は大きな樹に磔にされていた。


「これはどう言うことだ?」

「私に聞かれてもわかる訳ないだろう」


草原の小人は俺達を取り囲むように群がっている。

さっきは3匹だけだったのだが、今は十数匹もいる。

こちらを見つめながら何やら話し合いをしている様子。


「あいつら何をする気かな?」

「処刑されるかもしれない」

「処刑!やだよ、こんなところで死ぬのは」

「それは私達だって同じだわ」


すると、草原の小人達が俺達の所へ近づいて来た。


「おい、何をするつもりだ!」


草原の小人達は俺を無視してエレン達の体を弄りはじめる。


「キャぁ!くすぐったい。止めてください」

「ちょっと、そこは触らないで!」

「アッ!体が火照って来る」

「何を感じているんだ、エレン!」


俺は顔を真っ赤にさせながら叫ぶ。


「こんな仕打ち、悪くはない」

「納得するな、ミゼル。お前はドMなのか!」


エレン達は草原の小人に弄られて興奮をしはじめる。

おいおい、こいつら。

やってることはド変態なオヤジじゃないか。

これは一種のプレイなのか。

それにしてもいやらしい。

見ているこっちが恥ずかしくなる。

草原の小人達の拷問はしばらくの間続いた。

そして急にピタリと動きを止めると、そのまま森の奥へと消えて行った。


「ハアハア。何だよあいつら。人を散々弄びやがって」

「ハアハア。けれど、逃げて行きましたわ」

「ハアハア。仲間を呼びに行ったんじゃないの?」

「ハアハア。今度は放置プレイか。やるじゃないか」

「何を口走っているんだ、ミゼル!ドMだな」


エレン達は頬を赤らめながら息遣いを荒くしている。

その姿がやけに艶っぽい。

俺の中の何かが目覚めたのか。

そんなことはない。

おばさで興奮するなどあってはならないことだ。


「それよりもこのロープを外さないと」

「私がやってみるわ」


そう言ってアンナは手に魔力を集中させる。

そして炎を放出させると手首のロープを燃やしはじめた。

うまい具合にロープが燃えてアンナは解放される。


「やったわ」

「よし、俺達のロープも解いてくれ」


アンナは順番に俺達のロープを解いていった。


「ふー。やっと解放されたぜ」

「しかし、草原の小人達は何がしたかったのでしょうか?」

「荷物もお金も武器もそのままだ」

「どうせカイトと同じでスケベなことをしたかったんじゃない」

「どう言う意味だ、アンナ」

「言葉の通りよ。私達が弄ばれている時、鼻の下を伸ばして見ていたじゃない」

「あれは仕方なかったんだよ。縛られていたんだからな」


アンナの思わぬ指摘に俺は声を荒げて否定する。

これは俺の名誉に関することだ。

俺がおばさんが弄ばれているところを見て興奮するなど絶対にない。

アンナが何と言おうが全否定してやる。


「ちょっと、これを見てください」


セリーヌがスカートを肌蹴て艶やかな太ももを見せる。


「おい、セリーヌ。いきなりスカートを肌蹴るな」

「違います、カイトさん。これを見てください」


目を細めながらセリーヌの太ももを見やると小さな手のひらの痣が出来ていた。


「何よこれ。私の体にもあるじゃない。しかも、そこらじゅう」

「どうやら草原の小人が残して行った痣のようだ」

「呪いかもしれないな」


ミゼルが言うには幻術を使うものの中には呪いをかける者がいるとのことだ。

直接的な物理攻撃をしてこなかった草原の小人ならばその確率が高い。

どんな呪いなのかまではわからないが、見過ごせるものでもない。


「とりあえず、呪いのことは後回しだ。さっさとこの場を離れよう。」

「そうですわね。こんな気味の悪いところにいたくありませんしね」


俺達は身支度を整えると馬車を止めていた場所へ戻って行った。


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