あるある028 「色男に騙されがち」
国境警備兵達は馬車から荷物を降ろして俺達の前に並べる。
そして強引に槍で木箱を開けると中を検めた。
「やはり密輸のようです」
国境警備兵は隊長に木箱の中身を見せる。
中には献上品ではなく大量の魔石が入っていた。
「密輸ってどう言うことだよ?」
「サイセルス王国へ魔石を密輸する情報が入って来たのだ」
「俺達はサイセルス王国へ献上品を届けていただけだ」
「では、これはどう説明するつもりだ」
隊長が魔石を掴んで俺達に見せた。
たしかに目の前にあるのは魔石だ。
しかし、俺達が運んでいたのは献上品のはず。
どこで入れ替わったのだ。
すると、ミゼルが悔しそうに呟いた。
「ハメられたんだ」
「誰にだよ?」
「ランドールだ」
ミゼルが言うにははじめからランドールが芝居を売って俺達に密輸をさせたのだと言う。
エレンに近づいたのもそのためでエレンをうまく引き入れるためにプロポーズまでしたのだとのこと。
確かにエレンに言い寄って来るなんておかしいとは思っていた。
しかし、そうまでして密輸をさせるなんてランドールも切羽詰まっていたのか。
いずれにせよ今の状況はマズイとしか言えない。
国境警備兵にランドールのことを話しても信じてもらえないだろう。
ランドールは表向き貿易会社の経営者として名を馳せているのだから。
その信用はラビトリス王国の折り紙つきだ。
「どうしましょうか?」
「正直に話しても信じてはもらえないだろう」
「なら捕まるってことか?」
「今はそれしかない」
ここで反発してもラビトリス王国と構えることになってしまう。
そうなったらますます状況は悪くなるばかりだ。
国家反逆罪として追われる身となってしまう。
「お前達、奴らの手に縄を打て」
俺達は素直に縄を打たれることにした。
武器は取り上げられて馬車の牢屋に閉じ込められる。
それはゲシュタルトも同じで牢屋に放り込まれた。
「ゲシュタルトは知っていたのか。密輸をしていることを?」
「俺は密輸の専門の馬使いとしてランドールに雇われたんだ。ただの荷運びをしているよりも金がいいからな」
だからと言っても密輸に手を染めるなんて自殺行為だ。
密輸と言えば国家反逆罪に相当する重罪。
投獄されて裁判を待つことになるのだ。
大半の罪人は罪に問われて一生投獄生活になる。
場合によっては処刑すら免れないのだ。
「だから言ったのよ。あんなイケメンがエレンにプロポーズするなんてあり得ないもの」
「お前だってその気になっていたじゃないか。”ランドールは私に渡さないわ”とか言って」
「あれはエレンが間違った選択肢を選ばないようにしてあげただけよ」
「言ってろ。ランドールの金に目が眩んでいたくせに」
「何よ、やろうっての?」
アンナが興奮しながらエレンに掴みかかる。
「ここではっきりと決めようじゃないか。どちらが正しいかな」
「こんな狭い所でしょうもないケンカをするな。それよりも先のことを考えろ」
このままラビトリス王都に戻ったら投獄されることは間違いない。
だからと言って逃げようものならば一生追われる身になってしまう。
そんな犯罪者生活はまっぴらだ。
やはり無罪であることを証明するのがいいだろう。
しかし、どうやれば証明できるかだ。
ランドールの名を出したところでランドールはシラを切るだろう。
ならばゲシュタルトに証言させるかだ。
「ゲシュタルト、お前も投獄されたくないだろう。あいつらにランドールの正体を話してくれ」
「そんなのまっぴらごめんだ。俺は金にならないことはしない」
「金にならないって言ったって投獄されたら意味がないだろう」
「俺にはランドールさまがいるからな。すぐに助けてもらえるさ」
ゲシュタルトはいけしゃあしゃあと言ってのける。
その自信はランドールの秘密を握っているからだろう。
ここでゲシュタルトが証言をしたのならランドールとて危うくなる。
なにせゲシュタルトはランドールが行って来た密輸のことを全て知っているのだから。
「こいつ、ふざけやがって!」
「止めておけ、ミゼル。ゲシュタルトに何を言っても変わらないさ」
「しかし、困りましたわね。無罪を証明できなければ間違いなく投獄されてしまいます」
いっそうのこと寝返ってランドールに取り入ろうか。
そうすればランドールは間違いなく助けてくれるはずだ。
しかし、そうなったらそうなったで一生ランドールにこき使われるだけ。
何か他に手はないのか……。
そんな手立てを考えているうちに俺達はラビトリス王都へ戻って来た。
予想通りに俺達はラビトリス王都の収容所に投獄される。
収容所の中にはゴロツキばかりで溢れかえっている。
顔に傷がある男、でっぷりとした大男、無精ひげを生やした男など。
見るからにあくどそうな奴らばかりが揃っていた。
「女だ!女だぞ!」
「うほっ。とんだごちそうが舞い込んで来たものだ」
「犯せ!犯しちまおうぜ!」
「まずは俺だ。俺にやらせろ」
ゴロツキ達はエレン達を見るなり涎を垂らして色めき立つ。
まるで発情期を迎えたノラ猫のようだ。
俺はたまらずにエレンの前に立ちはだかる。
「何だよ、小僧。やろうってのか?」
「俺はお前達がどうしようと関係ないが、仲間が傷つけられるのだけは許せないんだよ」
「カイトさん」
決まった。
セリーヌの俺を見る目が違っている。
憧れの存在を見るような勇者を目の当たりにしたようなそんな羨望の眼差しだ。
「小僧のくせに粋がりやがって。減らず口の叩けないようにしてやるでやんす」
でっぷりとした大男が指をポキポキならしながら近づいて来る。
そして俺の首根っこを掴むと体ごと持ち上げた。
「さて、どう料理してやるでやんすか。まずはこいつを食らいやがれでやんす!」
でっぷりとした大男は右手を握り締めてグーパンチを俺の腹に入れる。
と、その時、エレンが飛び出して来てでっぷりとした大男の右手を止めた。
「お前の相手は私だ」
「野郎、離しやがるでやんす!」
「おい、ピート。女相手に何を手こずっているんだ。さっさとのしてしまえ!」
ゴロツキ達がピートを煽りはじめる。
しかし、ピートの右腕は止まったままピクリとも動かなかった。
「ちくしょう。右手が動かないでやんす。なんて力でやんすか」
「本気を出せよ、デブ」
「俺はデブじゃないでやんす!」
ピートは俺を突き飛ばして両手でエレンの右つ腕に掴みかかる。
そして渾身の力を込めてエレンを持ち上げようとした。
その時、エレンがクイッとピートの腕を捻って後ろ手に抑え込んだ。
「は、離すでやんす!」
「お前の本気はその程度か。話にもならない。他に歯ごたえのある奴はいないのか?」
エレンが啖呵を切るとゴロツキ達の顔色に焦りが見えはじめる。
すると、奥からゴロツキ達を掻き分けて細マッチョで髭もじゃの男がやって来た。
「ピート。だらしないな。女ひとりものに出来ないなんてよ」
「お頭。助けてくださいでやんす。こいつ力が強くて」
「怪力のピートを抑えこむなんてやるじゃないか。気に入った」
お頭はその場にどっかりと腰を下ろしてエレンを見上げる。
「何のつもりだ?」
「まあ、そういきり立つなよ。お前さんの強さはわかったから話し合いでもしようじゃないか」
「話し合いだと?」
「そうだ。ここの中にはルールってのがあるんだ。初見の者は俺達の身の回りの世話をするのが仕事なんだ」
お頭は腕を組んで誇らしげに語る。
「私達にそれをしろとでも言うつもりか?」
「そう言うことだ。これはルールだからな、守ってもらわないと示しがつかない」
「そんなのはまっぴらごめんだ」
「言うと思ったよ、お前ならな。ただルールは変更できない。従ってもらうぞ」
「従うか従わないかはこいつで決める」
エレンはピートを投げ飛ばすと拳を握りしめてお頭に向ける。
すると、お頭がおもむろに立ち上がり拳を構えた。
「いいだろう。お前が勝ったら好きなようにしていい。だけど、俺が勝ったら従ってもらうからな」
「一発で決めてやる」
エレンとお頭は拳を構えながら睨みあう。
その場に緊張感が走りゴロツキ達が煽りはじめた。
「お頭。そんな奴、やっちゃってください」
「お頭が勝ったら俺に回してくださいね。たっぷりと弄びますから」
「おい、それは俺が先だ」
「何を!」
ゴロツキ達が我先にと揉めはじめる。
エレンもこんなんところで需要があるなんて意外だ。
確かに仲間の中では一番エロスがあるからな。
乾いたゴロツキ達を刺激したのだろう。
「お前達、勝手なことを言うな。はじめに味見をするのは俺だ」
「言ってやがれ」
エレンは右足を踏みしめて一気に間合いを詰める。
そしてお頭の懐に入り込むと左手を握りしめて上に振り上げた。
瞬間、お頭は後方に身を翻してエレンの攻撃をかわす。
「やるじゃないか。ただ」
お頭は左足を踏ん張って体を起こすと右ストレートをエレンに放つ。
エレンは左手でお頭の右ストレートを受け流して右肘をお頭の腹に一発入れる。
「甘いんだよ」
「ぐほっ」
お頭は吹き飛ばされて後退する。
「お頭が一発くらったぞ」
「何て奴だ。お頭に一発食らわせるなんて誰も出来なかったのに」
「やるじゃないか。いい一発だったぜ」
お頭はお腹を摩りながら再び拳を構える。
「やせ我慢はしなくてもいいんだぞ」
「ふっ、言っておけ!」
今度はお頭がエレンの懐に飛び込む。
そして右側から渾身のストレートを放つ。
その動きを見ていたエレンはすかさず体を右に傾けて攻撃をかわす。
と、同時にお頭が左足でエレンの腹を蹴り上げた。
エレンの体が宙に浮いて大きく吹き飛ばされる。
「ぐはっ」
「どうだ、俺の一撃は?」
「やるじゃないか。しかし」
エレンは足を踏ん張って立ち上がる。
「俺の一撃を食らって立ち上がれるなんて見上げたものだ」
「この程度で私を倒そうだなんて甘い」
「じゃあ、遠慮なく行かせてもらうぜ!」
エレンとお頭の戦いは数分間続いた。
お互いに一撃を加え合いながらの戦い。
どちらが先に倒れるかの耐久勝負にもつれ込んだ。
そして、とどめを刺したのはエレンの放った一撃だった。
お頭が放った右ストレートを左手で受け止めて逆に右ストレートを打ち込んだのだ。
こう言う勝負は普通、男同士がするものだ。
だが男勝りなエレンには相応しい戦い方とも言える。
エレンは大剣を持たなくても十分に強いことがわかった。
それを受けたお頭も相当に強い。
エレン達は大の字に寝ころびながら天を仰いでいた。
「やるじゃないか。お前の勝ちだ」
「私はエレン。エレン・グランフォードだ」
「俺はグレリオ。グレリオ・スタンリーだ」
エレンとグレリオはお互いの戦いを称えあう。
「エレン、大丈夫か?」
「この程度、大したことはない」
「今から回復しますわ」
そう言ってセリーヌがエレンに回復魔法をかける。
エレンの傷はすぐに塞がり元の状態に戻る。
そしてグレリオにも回復魔法をかけた。
「それにしても浅ましいわね。私には真似できないわ」
「アンナじゃ、一発でのされていただろう」
「私はそんなに柔じゃないわ」
「どうだか」
エレンとアンナが揉めはじめたところでグレリオが話しかけて来た。
「お前達は何でここへ来たんだ?」
「俺達は密輸で捕まってな」
「密輸?また馬鹿げたことをしたな」
「俺達はランドールにハメられたんだ」
「ランドール?あのランドールか」
俺の言葉に反応してグレリオが聞き返して来る。
「ランドールを知っているのか?」
「ああ、よく知っている。俺もランドールにハメられた口だからな」
グレリオはもともとは冒険者をしていたのだがランドールと出会って仕事を依頼された。
報酬がよかったので引き受けたのだが蓋を開けてみれば密輸品の受取役。
取引の情報を入手していたラビトリス警備兵に捕まり御用となったのだ。
ランドールは手広く密輸を行っているらしい。
しかし、用意周到な手口に中々、足を掴ませないのだ。
「どうしようもない奴だな。ランドールってのは」
「見た目が色男だから騙される女も後を絶たないらしい」
その言葉にエレンとアンナが挙動不審になる。
「しかし、どうしたものか」
「この中に入ったら終わり。他に手の打ちようがないからな」
グレリオも投獄されてから1年が経つと言う。
初犯と言うこともあり処刑は免れた。
しかし、一生、収容所暮らしになることは確定していた。
「せめてアトスと連絡が取れればな」
「アトスってラビトリス王国の第一騎士団長か?」
「そうだ」
「お前達、意外な知り合いがいるんだな」
グレリオは関心したように俺達を見やる。
「ちょっと前にセリア姫の警護の仕事をしたんだ。その時に知り合ってな。アトスとコンタクトが取れれば何とか出来るかもしれないんだけどな」
「だが、ここで言っていても話にならないと思うぞ。警備兵達が俺達の話を信じるとは思わないし」
「そうですわね。囚人の言うことを真に受ける警備兵はいませんものね」
話し合いは膠着状態に陥る。
何とかアトスにコンタクトをとる方法があれば。
すると、ミゼルが思いもかけないことを言って来た。
「コンタクトがとれないならとれるようにするんだ」
「どうやって?」
ミゼルの考えは警備兵達の注意を惹いておびき寄せる作戦だ。
ゴロツキ達にエレン達を襲わせて注意を惹きつける。
警備兵達が駆けつけて来たら収容所の中へ誘い込んで鍵を奪い取ると言うもの。
それは脱獄とも呼べる方法だが、それしか他に手はない。
俺達はさっそくグレリオ達と打ち合わせをすると作戦を開始した。
「おーい、女たちが襲われているぞー!誰かいないのかー!」
ゴロツキのひとりが頻りに叫んで警備兵達を呼び込む。
「キャー。離して!」
「大人しくしやがれでやんす!」
ピートはアンナの顔を軽く叩く。
「何よ、本気で叩くことないでしょ?」
「これは演技でやんす」
「後で覚えていなさいよ」
「勘弁してくれでやんすよ」
ピートはアンナにどやされてたじたじになる。
「おい、アンナ。この作戦はお前達の演技にかかっているんだ。真面目にやれ」
「わかっているわよ。ただ、なんで私の相手がピートなのよ。もっとましな男にしてよ」
アンナは相手がピートであることにご機嫌斜めだ。
だが、傍から見ると一番襲われているように見えるのも事実。
相手が大男である方が迫力が違うのだ。
すると、叫び声を聞きつけた警備兵達がやって来る。
そして収容所の中を覗くなり色めきはじめた。
「おい、あいつら。面白いことやってるじゃないか」
「いいぞ!もっとやれ!」
警備兵達は前のめりになって収容所の中を覗き込む。
すると、セリーヌが警備兵達に助けを求めた。
「助けてください!このままでは辱められてしまいます!」
「それがいいんだよ。もっとやれ!」
「助けれくれれば何だってします。だからお願い、助けて!」
警備兵は肌を露わにしているセリーヌを見やりゴクリと唾を飲み込む。
そしてお互いに顔を見合わせて確認すると収容所の鍵を開けた。
「お前達、いい加減にしろ。お遊びはそこまでだ!」
「ここからがいいところなんだよ。お前らはそこで見ていろ!」
「この野郎。調子に乗りやがって!」
警備兵のひとりがセリーヌを襲っていたゴロツキを蹴飛ばす。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうごさいます」
警備兵のひとりはセリーヌの手をとって立ち上がらせる。
セリーヌは肌蹴た服で胸を隠しながらはにかんだ。
その隙をついて扉の横に隠れていた俺とミゼルが収容所の鍵を奪い取る。
「よし、盗ったぞ!」
「お前ら、ハメやがったな」
「今頃、気づいても遅いんだよ」
エレン達は隠し持っていたロープで警備兵達を縛る。
そして収容所の柱に括り付けると馬鹿にしたように呟いた。
「お前らも馬鹿だな。私達がこんなやつらにやられるとでも思ったのか?」
「この野郎。脱獄は重罪だぞ。離しやがれ!」
「重罪も無罪も関係ない。私達はここから逃げられればいいのだ」
そう、ここから抜け出せればチャンスはあるんだ。
後はアトスに掛け合って助けてもらおう。
アトスならば何とかしてくれるはずだ。
なんて言ったってセリア姫の件で貸しがあるからな。
「よし、エレン行くぞ」
「おう」
俺達はグレリオを連れて収容所を後にした。
しかし、ピートをはじめ他の囚人たちは残った。
それはハメられたのではなくちゃんと犯罪をしたからだ。
それに捕まったら処刑されるのは免れないから脱獄をするのを諦めた奴もいる。
俺達はそう言う奴らの気持ちを背負って脱獄を果たしたのだった。




