あるある027 「人助けを好んでしがち」
数日後、思わぬニュースが飛び込んで来た。
なんとランドールが盗賊の襲撃にあって大怪我をしたのだと言う。
俺達はランドールが運ばれた病院へ向かった。
ランドールは病院の個室のベッドで横になっていた。
「ランドール、大丈夫か?」
「みなさん、お揃いになってお見舞いに来てくれたんですか?」
「そんなことより怪我の具合は大丈夫なのか?」
「左足を骨折しただけですので大丈夫ですよ」
ランドールはギブスを摩りながらニコリと笑う。
「何だよ、心配させるなよ」
「ランドールさんがお元気そうで何よりですわ」
セリーヌはニコリと微笑みながらランドールを励ます。
こう言う細かな対応が出来るのがセリーヌのいいところ。
当のエレンはと言うと椅子に座りながら寛いでいる。
エレンはもっとセリーヌを見習え。
じゃないとランドール夫人として相応しくないぞ。
「それで盗賊は何人いたんだ?」
「30名ほどでしょうか。みんな覆面を被っていたので顔までは見えませんでしたが」
「覆面か。それならばアイアンスネークだな」
「アイアンスネーク?」
俺の疑問符を解消するかのようにミゼルが説明する。
「アイアンスネークって言うのはラビトリス王国の国境付近を根城にしている盗賊団だ。総勢300名ほどいる巨大組織で行商人達をよく襲撃しているそうだ」
「何でそんなこと知っているんだ?」
「冒険者なら当然のことだ」
そうですか。
俺は知りませんでしたよ。
はじめてラビトリス王都へ来たし、その辺の事情は全く知らない。
「しかし、アイアンスネークがいるとなると厄介ですわね」
「対峙するにしても軍レベルの兵力がないと難しいしな」
「それが問題なんです。今度、サイセルス王国へ献上品を運ばなければならないんです」
「それはいつだ?」
「明日です」
明日とは随分、急な話だな。
予定を変更した方がいいのではないのか。
「サイセルス王国とは友好な関係を築いておかねばなりません。セリア姫の結婚式も控えていますし」
「けれど、そんな怪我じゃ何も出来ないだろう」
「いえ、これくらいの怪我ぐらい……イタタタ」
ランドールはベッドから降りようとして足を庇う。
「無理はするな」
「しかし」
「代わりに私達がやる」
エレンはいきなり立ち上がると勝手に決断をする。
「代わりにやるって何をするつもりだ?」
「もちろん献上品をサイセルス王国に運ぶんだよ。私達が護衛に入れば盗賊団など敵じゃない」
「おい、勝手に決めるな。相手は300人もいるんだぞ。どうやって戦うつもりだ?」
「どうもこうもない。こいつでやるんだよ」
エレンは大剣を引き抜いて構える。
おいおい。
エレンが強いことは認めるが300人もいる盗賊団とどう渡り合うつもりだ。
どう考えても勝ち目はないだろう。
「無理じゃないわ。私達がいるんだもの」
アンナまで急にどうした。
ランドールに恩を売ってポイントを稼ぐつもりか。
「アイアンスネーク程度に後れをとる私じゃない」
おいおい、ミゼル。
何を納得しているんだ。
「そうですわね。私達が力を合わせればアイアンスネークなんて敵ではないですわ」
セリーヌ、お前もか。
確かに4人集まればそれなりに強いと思うが俺はまだ冒険初心者なんだ。
いきなり盗賊狩りだなんてハードルが高過ぎる。
「お前達の正義感はわかった。だがな、アイアンスネークとことを構えることもないだろう」
「カイトは怖気づいたのか?」
「何を!」
エレンの挑発に乗ってしまう俺。
そしていつの間にか話が進んでしまった。
「ならば決まりだな。ランドール、私達が献上品を運ぶ」
「ありがとうごさいます、みなさん。ルイ、後のことは任せたぞ」
「畏まりました。それではみなさんご説明をいたしますので会社の方まで行きましょう」
俺達はルイに連れられてランドール貿易会社に向かった。
さっそく俺達はルイから運搬の説明を受ける。
「馬車は全部で3台用意しています。先頭の馬車にはカイトさん、エレンさん、アンナさんに搭乗してもらいます。後方の馬車にはセリーヌさん、ミゼルさんが搭乗してください。献上品はこの2台に積み込みます」
「それじゃあ真ん中の馬車には何を乗せるんだ?」
「真ん中の馬車には偽物の献上品を積み込みます」
「何で、そんな手の込んだことをするのだ」
ミゼルの質問に待ってましたと言わんばかりの顔をしながらルイが説明をする。
「盗賊はたいてい真ん中の馬車を狙うからです。あえて盗賊に真ん中の馬車を狙わせて偽物を掴ませるんです。そうすれば本物を無事にサイセルス王国まで運ぶことができます」
「なるほど!」
俺は手をポンと叩いて納得する。
「その作戦はランドールが立てたものか?」
「そうです。全てランドールが立てた計画です。この計画を実行すれば問題ないでしょう」
「さすがはランドールと言ったところね」
「会社を経営しているばかりでなく、運搬計画も立てているなんて感心しますわね」
「まあ、貿易会社の一番の敵は盗賊だからな。当然、盗賊対策を立てていると言うことだな」
俺達は改めてランドールの周到さに関心する。
只者ではないと思っていたが、ここまで頭のキレる奴だとは。
さすがはやり手の経営者だけのことはある。
ただ、女性の趣味が悪いのにはたまに傷だが。
「ルートはサダラーン丘陵地帯を抜けてドリアガル渓谷を抜けるルートです。途中にあるライン川には渡し舟があるので大丈夫です」
「ルートも指定するのか」
「一番、安全なルートを選んでいますので安心ください」
サダラーン丘陵地帯はラビトリス王国の領土で。
ドリアガル渓谷はサイセルス王国の領土だ。
ちょうどライン川が国境となっていて両国を分けている。
アイアンスネークはライン川周辺を根城にしている。
しかし、国境となるライン川にはそれぞれ国境警備隊が配置されているので、ライン川まで辿り着ければ問題ない。
「出発は明日の早朝になります。それまでに準備をすませておいてください」
「準備って言われても何を用意したらいいんだ?」
「食料と水はこちらで用意しておきます。みなさんは武具類の準備やモンスター情報を集めてください。道中、モンスターに出くわすこともありますから」
「わかった」
俺達はランドール貿易会社を出てギルドへ足を向けた。
武具類は既に準備が出来ているので、あとはモンスター情報だけ集めればいい。
とかくサダラーン丘陵地帯はよくモンスターが出没する場所だ。
予めモンスター情報を入手しておけば対策もとれると言うもの。
さっそく俺達はギルドの掲示板でモンスター情報を収集した。
「サンドローブに地雷虫、火炎蝙蝠、死肉獣、デスタイガー……。なんか強そうな奴らばっかりだな」
「大した相手じゃない。見てみろ。報酬は銅貨3枚だ」
「エレンは強いからそう思うかもしれないけどな、俺は初心者なんだ。銅貨3枚の相手だって強いものは強い」
「安心しなさい、カイト。私達が相手をするから」
心強い言葉だけどな、アンナ。
勇者を目指している俺としては手放しで傍観している訳にも行かないのだ。
モンスターと戦ってレベル上げをしなければいつまで経っても弱いままだ。
それでは勇者ゲリオダスには近づけない。
「お前達に任せておけるか。俺も戦うぜ」
「好きにしろ」
ミゼルは投げ捨てるように呟いた。
サンドローブは土色をした巨大な毒蛇のひとつ。
岩場と見分けがつかずに間違えて踏んでしまうこともあるらしい。
攻撃体制に入ると尻尾を激しく震わせて威嚇してくる。
なので音を聞き分けてサンドローブを発見するのがいい。
地雷虫はその名の通り触れると自爆する大型の虫。
体長は10㎝ほどだが爆発の大きさは手榴弾と同じ。
普段は地中に身を潜ませているので発見するのが難しい。
それに加えて密集しているので注意が必要だ。
火炎蝙蝠は体中、炎で包まれた赤色の蝙蝠。
炎を吐き出し攻撃して来る様は悪魔を彷彿させる。
全長は1メートルほどあり集団で活動している。
すぐに発見しやすいが動きが早いので気をつけなければならない。
死肉獣はアンデッド化した大型のハイエナ。
骨や内臓がむき出しになっていて死臭を漂わせている。
常に群れで活動しているので一匹見掛けたら十数匹はいると思った方がいい。
一番恐ろしいのは命が尽きるまで攻撃を止めないことだ。
最後にデスタイガーは全身が黒い毛でおおわれた大型の虎。
その名の通り鋭い牙と爪を持ち気性が荒いのが特徴だ。
全長は5メートルほどで単独で行動するタイプ。
時々、死肉獣や火炎蜥蜴を狩る。
以上がサダラーン丘陵地帯に出没するモンスターだ。
どれも報酬が銅貨3枚で強敵が揃っている。
初心者の俺にはハードルが高そうだが、エレン達がいるので問題はないだろう。
俺はモンスター情報をノートに書き留めるとギルドを後にした。
早朝、駅舎へ向かうとルイが馬車の積荷の確認をしていた。
「おい、ルイ。来たぞ」
「時間通りですね」
俺がルイに挨拶をする傍でエレンが荷物に腰を下ろす。
「おい、エレン。荷物に腰をかけるな。献上品だったらどうするんだ!」
「それはおとり用の偽物の荷物ですから安心してください。既に献上品の入った荷物は馬車に積んであります」
俺は大きな溜息をこぼして安心する。
もし、献上品の入った荷物だったとしたらえらいことだ。
たとえれば神様の上に座ったような無礼な行為だ。
国王の目の前ならば間違いなく首を刎ねられる。
そんなこともつゆ知らずエレンは荷物の上で寛いでいた。
「それでは計画通りにお願いします」
「安心してくれ。必ずサイセルス王国まで運ぶよ」
「期待しています」
偽物の荷を馬車に積んだ後、俺達はサイセルス王国へ向けて旅立った。
偽物の荷物の中は薪や石ころが詰めてある。
盗賊に空箱だと悟られないようにするためにランドールが考えたのだ。
これもこれまでの経験から積み上げられたことなのだ。
「サイセルス王国まではどのくらいなんだ」
「計画通りに進めれば1週間だ」
「1週間か。長いな。私はひと休みする。着いたら起こしてくれ」
エレンは荷物に背を預けて居眠りをはじめる。
馬車の揺れが心地よいのかすぐに寝息をたてた。
「ランドールの目がなくなったと思ったら、すぐこれだもの。エレンは呑気でいいわね」
「アンナも休んだらどうだ。朝、早かったんだし」
「カイト、気をつかってくれるの?」
「まあな。俺はお前達よりも3時間も余計に眠ったからな」
アンナ達は朝の3時起きだ。
身支度に準備がかかるから早めに起きたそうなのだが、俺から言わせれば早すぎる。
せめて身支度は1時間までにしておけ。
睡眠不足もお肌の大敵なのだから。
「なら、休ませてもらうわ。何かあったら起こしてね」
「おう」
アンナも荷物に背を預けて静かに目を閉じる。
そしてすぐにアンナの小さな寝息も聞こえて来た。
「ふー。まったく呑気な連中だ」
馬車はラビトリス王都を出てから1時間。
とかくモンスターに出会うこともなく順調に進んでいる。
盗賊が襲って来る気配もない。
これなら思っていた以上に時間を短く出来るかもしれない。
俺はランゲルト地方の地図を広げる。
ランゲルト地方と言うのはラビトリス王国とサイセルス王国、そしてゴルドランド王国を含めた領土のことを指す。
「今はだいたいこの辺りかな」
ラビトリス王都を出てから1時間ならば地図上ではさほど進んではいない。
サダラーン丘陵地帯に辿り着くまでには1日程かかるだろう。
しかし、何でランドールは最短ルートを選ばなかったのだ。
最短ルートはサダラーン丘陵地帯を迂回するルート。
直線状にライン川まで辿りつけるので時間も短くてすむ。
普通ならば最短ルートを選ぶものなのだが。
ランドールには何かしら考えがあってサダラーン丘陵地帯を抜けるルートを選んだと考えるべきか。
俺も後で知ったのだが最短ルートには危険地帯があるらしい。
馬車で移動できない険しい岩場で覆われ、毒ガスが辺りに充満していると言う。
近くに火山帯があるからなのだが、別名”死の谷”とも呼ばれているそうだ。
「それにしても平和だな」
けっしてモンスターに出て来てと言っている訳ではないが、あまりにも何もないのは退屈でしかない。
エレン達は夢の中だし、他にやることもない。
俺は馬車の前に移り、馬使いとおしゃべりをはじめた。
馬使いは30代ほどの髭の生えた細身のおやじで名をゲシュタルトと言う。
何でもランドール貿易会社で雇われている専属の馬使いでいつも荷を運んでいると言う。
「馬使いって給料はいいのか?」
「ぼちぼちだな。まあ、運ぶ荷によっても変わるがな」
「じゃあ、今回は高給だな」
「まあ、そんなところだ」
俺が羨ましそうにするとゲシュタルトは誇らしげに笑った。
「それでお前さん方はランドールさまに雇われたのか?」
「俺達は慈善で引き受けたんだ」
「ただでやろうってのかい?」
「そうだ。まあ困っている人がいれば手を貸すのが人の常だ」
ゲシュタルトは思いもかけない言葉に驚きながら俺とエレン達を見やった。
雇われ馬使いからしてみればタダで働くなんて考えも及ばなかったのだろう。
俺だって本音を言えばタダでは働きたくはない。
ただ、エレン達がはりきっているから引くに引けないだけなのだ。
これもそれもランドールの資産に目が眩んでいるからなのだが。
とりわけアンナに至ってはそうだろう。
誰よりも金にがめつく、何よりも金が全てと考えているからな。
この仕事でランドールの信頼を買い、ランドールに近づくつもりでいるのだろう。
寝顔だけ見ればとかくイイ女だとも思えるのだが。
「それじゃあおたくらは勇者さまだな」
「やっぱりそう思うか?」
「勇者でなければ人助けなんてしないよ」
俺は得意気に胸を張ってみせる。
こうすることで勇者とは生まれるものなのかと改めて思う。
以前、セリーヌが言っていたように人のために戦うことが勇者への近道。
ならば俺は迷わず人のためにつくすのだ。
その頃、ランドールは病院でルイの報告を受けていた。
カイト達が無事にラビトリス王都を旅立ったこと。
そして計画通りのルートで荷物を運んで行ったことを報告した。
「1週間で荷物は無事にサイセルス王国へ届く予定です」
「計画に不備はないと言うことだな」
「しかし、本当にあの者達でよかったのでしょうか?」
「それは問題ない。私が見初めた人間だからな」
ランドールには確信があった。
エレンがただの剣士ではないと言うこと。
はじめてエレンに合った時に感じたオーラは本物以外何ものでもない。
それに加えてエレンの仲間達も手練れが揃っている。
あの4人ならばアイアンスネークにも引けをとらないと考えていたのだ。
「ルイ。次の取引の準備を進めてくれ」
「畏まりました」
ルイはランドールに一礼をすると病室を出て行く。
その背中を見送りながらランドールはニヤリと笑う。
そしてギブスを外すとベッドから飛び起きる。
専属の看護婦は手慣れた様子でギブスを回収するとランドールから袖の下を受け取る。
「また、よろしくな」
そう言ってランドールはコートを羽織るとしっかりとした足取りで病室を後にした。
馬車は順調に進みサダラーン丘陵地帯の手前に差し掛かった。
後はサダラーン丘陵地帯を真っすぐに進んでライン川を目指すだけ。
すると後方からたくさんの馬の足音が聞えて来た。
振り返ると武装した警備兵が馬に跨り並走する。
そして俺達の馬車の前に回り込んで馬車を止めさせた。
「我らはラビトリス国境警備隊だ。荷物を検める」
「何でこんなところに国境警備隊がいるんだ?」
「ちぃ……」
ゲシュタルトは小さく舌打ちをすると苦虫を噛み潰したような顔をする。
「馬車から降りろ!」
国境警備兵は槍の先を俺達に向ける。
仕方なく俺達は両手を上げて指示に従った。
そして国境警備兵は荷台に回り込む。
「お前達も馬車から降りるんだ!」
「何なのよ。気持ちよく眠っていたのに」
「馬車から降りろ!」
「そんなに怖い顔をしなくても降りるわよ」
アンナは槍を向けられながら馬車から降りる。
「カイト。これはどう言うことなの?」
「俺にもわからないよ。いきなり呼び止められたんだ」
セリーヌとミゼルも後ろの馬車から降りて来た。
「盗賊でも出たのでしょうか?」
「それにしては私達の荷物を検めるなんておかしいぞ」
そもそも国境警備兵がこんなところにいる方がおかしい。
普通ならばライン川付近で検問をしているものだが。
警備兵の数は十数名もいる。
簡易的な荷物検めと言うよりはもっとしっかりした検査のようだ。
「おい、お前!起きろ!」
「ん……むにゃむにゃ」
「起きるんだよ!」
国境警備兵が眠っていたエレンの髪を掴みあげる。
すると、エレンのひじ打ちが国境警備兵のお腹に入った。
「ぐほっ」
「お前、逆らうのか!」
「逆らうも何も仕掛けて来たのはそっちの方だろう」
エレンは大剣の切っ先を警備兵に向ける。
すると、国境警備兵が俺達の首元に槍先をあてて脅しをかけた。
「こいつらがどうなってもいいのか?」
「何だよ、お前ら。捕まったのか?」
「エレン。指示に従え。荷物を検めさせれば解放されるさ」
そのはずだった。
しかし、結果は違っていた。




