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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第一章 邪魔するおばさん編
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あるある025 「再婚を迫られがち」

今朝のメニューはハニートーストとシーザーサラダ。

昨日の夕食に比べたら質素だが朝はこれくらいで十分だ。

俺は軽めの朝食を済ませてミクの淹れた紅茶を楽しむ。


「優雅だな」


こんなのんびりした朝を迎えるのは久しぶりだ。

金持ちになれば毎日、こんな朝を迎えられるのか。

そう考えると本気でランドールの養子になろうかと思ってしまう。

俺の特殊能力では商人にもなれないし勇者にもなれない。

ならばいっそうのことランドールの養子になるのが一番の近道だ。


「カイトさまはこれまでにどんなモンスターを討伐して来たのですか?」

「デッドウルフにゴブリン、ビックマウス、ゴーレムだ」

「そんなに!さすがですね」


まあ、倒したのはエレンだけれど同じパーティーだから俺が倒したようなものだ。


「そんなにモンスターを倒せるのならば勇者になれますね」

「まだまだだよ。世界にはまだ強いモンスターがいるんだ。もっとレベルを上げて強くならないと叶わないよ」

「カイトさんならなれますわ」


ミクは優しく微笑みながら紅茶を注ぐ。

こんなやりとりは新鮮だな。

いつもはおばさん達の尻拭いをしているからすっかり心が荒んでしまった。

ミクの優しさは乾いた俺の心に潤いを与えてくれるようだ。


「ミクはここで働いて何年になるんだ?」

「もう、3年になります」

「若いのに凄いな。俺とそう変わりないだろう」

「そうですね。カイトさんと同じ年ですわ」


同じ年ってことは学校へ行っていたのだろうか。

俺は何気にミクに質問をしてみた。


「学校はどうしたんだ?働きながら通ったのか?」

「学校の手配はランドールさまがしてくださりました。なのでちゃんと学校は出てますよ」

「そうか。なら、特殊能力も開花させたんだな」

「ええ。私は”プリティスマイル”の能力を開花させました」


プリティスマイルと言えば人を魅了する笑顔が出来る能力だ。

だから、ミクの笑顔から癒しを感じたのだろう。


「ミクに合った能力だな」

「そう言っていただけると嬉しいですわ」


ミクはプリティスマイルで俺を見つめる。

そんなに見つめられると好きになってしまいそうになる。

これもミクの特殊能力の効果なのだろうか。

俺の純粋な気持ちであってほしいと少し思った。


「ところでカイトさまの特殊能力は何ですか?」

「俺は……」

「俺は?」

「まあ、簡単に言うとチャームかな」

「チャームですか。なら、私と似ていますね」


まあ、本当の能力を言えば全然似ていないのだけど。

けれど、惹きつけると言う意味では似ているかもしれない。

まあ、俺の場合はおばさん限定だけどな。


「勇者には関係ない能力だから気に入っていないんだけどね」

「そんなことありませんわ。勇者にだって人を惹きつける力は必要です。人の関心を惹けなければ勇者とは呼ばれませんし」

「そう言ってくれるのはミクだけだよ。ありがとうな」

「そんなことありませんわ」


ミクは少し頬を赤らめて照れる。

そんな姿を見て胸の奥がキュンとなった。

そして俺はいつもの朝の散歩に出かける。

いつの間にかトイプーの散歩は俺の仕事になっていた。





ランドールの屋敷の庭は広くて散歩をするだけでも一時間はかかる。

庭園は幾何学模様に象られていて中央に大きな噴水がある。

俺は生垣で造られた迷路のような通路をトイプーと歩いて行った。


「こんなに広い庭なら迷ってしまうよな。トイプーもそう思うだろ?」

「ワン!」

「お前は正直者だな。後でおやつをやろう」

「ワン!」


おやつの言葉に色めき立つトイプー。

目を輝かせながら激しく尻尾を振っていた。

すると、生垣に身を潜めながら不審な行動をしているアンナを見つけた。


「おい、アンナ。こんなことろで何をしているんだよ?」

「しっ。聞えちゃうじゃない」


アンナは口に指をあてて静かにするように指示を出す。

そして私の頭を抑えて生垣に身を潜める。


「何だよいきなり」

「エレンとランドールが密会しているのよ」


見るとエレンとランドールがあづまやで紅茶を飲んでいた。


「エレンさん、そのネックレス似合いますね」

「私も気に入っているんだ」

「プレゼントをしたかいがあります」


柄にもなくエレンは少し照れくさそうにする。

そんなエレンを見つめながらランドールは優しく微笑む。


「エレンさんはこれからどうするつもりですか?また、旅に出られるのですか?」

「それはカイト次第だな。カイトは勇者を目指しているからもっと強くなる必要があるんだ」

「勇者ですか。男の子なら憧れますね」

「ランドールも憧れたことがあるのか?」

「それはもちろん。子供の頃は勇者になるんだと口ずさんでいたくらいです」


ランドールは昔を想い出しながら照れ笑いをする。

その言葉に意外性を感じたのかエレンは不思議な顔をしていた。


「あいつら何を話しているんだ?」

「聞こえないわね。もっと近づきましょう」


俺とアンナは茂みに隠れながらエレン達の所へ近づく。

これじゃあまるで盗み聞きをしている盗人だ。

まあ、でも気になるからそれは伏せておこう。

すると、ランドールが急に立ち上がってエレンを見つめる。


「エレンさん」

「何だ?」


二人の間に微妙な緊張感が流れる。

そしてランドールはスーツのポケットに手を入れてエレンの前で跪く。


「エレンさん、私と……」


そこまでランドールが言いかけた時、アンナがいきなり飛び出した。


「ちょっと待ったー!」


と言いながら。


「何だ、アンナじゃないか」

「ランドール、今のはノーカンだからね」

「しかし……」

「しかし、じゃないわよ。まだ早すぎるわ。ランドール夫人の候補はここにもいるでしょう」


アンナはランドールに食いかかるように詰め寄る。

それを受けてランドールがたじたじになった。

あいつ、また余計なことをしたな。


「ランドール。私とエレンとどっちがランドール夫人に合っていると思うの?もちろん私でしょう。エレンがランドール夫人にでもなったらランドール家に傷がつくわ」

「何を勝手なことを言っているんだ、アンナ。ランドールは私に気があるんだぞ。答えは決まっているじゃないか」

「そんなの認めないわ。エレンはもう×イチなんだから諦めなさい」

「今、そんなことは関係ないだろう」

「関係ないことないわ。一回離婚した者は二度目はないのよ」


誰がそんなことを決めたんだ。

再婚をしているカップルは世の中にはたくさんいるぞ。

エレンとアンナは取っ組み合ったまま睨みあう。


「おい、お前ら。いい加減にしろ。ランドールが困っているじゃないか」

「カイトは黙ってて。これは私とエレンの問題なの」

「そう言って黙ってられるか。くだらない争いはするな。どちらに決めるのかはランドールだろ」

「わかったわ。エレン、私と勝負しなさい」


アンナはエレンに向かって人差し指を向けて宣戦布告をする。

こんなところでバトルをおっぱじめるつもりなのか。


「面白いじゃないか。いいだろう」

「3本勝負で勝った方がランドール夫人になる。それで文句はないわね」

「受けててやろうじゃないか」

「なら、はじめは紅茶の淹れ方からよ」


何だ、それは?


「ランドール夫人になるには紅茶ぐらいちゃんと淹れられないと務まらないわ。だから、どちらがちゃんと紅茶を淹れられるか勝負するのよ」


アンナにしてはまともな考え方じゃないか。

だからと言って紅茶の淹れ方を勝負にするなんて。

もしかして、エレンが不器用なところを見越して考えたのか。

そうに違いない。

アンナはしたり顔を浮かべていた。


ランドール邸の庭園の広場に会場が用意される。

審査員はランドール、俺、セリーヌ、ミゼル、それにミクだ。

審査方式は勝っている方の札を上げる方式。

5人いるので勝敗は確実に決まる。


「それでははじめ!」


ムッシュの合図でエレンとアンナが紅茶を淹れはじめる。

アンナは手際よっく茶葉をポットに入れてお湯を注ぐ。

一方でエレンは何をどうすればわからないようで手間取っている。

その様子を横目で見やりながらアンナは勝利の確信を得た。


「エレンに紅茶なんて淹れられないことははじめからわかってるのよ。この勝負は私の勝ちよ」

「ちくしょう。何をどうしたらいいんだ」


エレンは頭を抱えながら紅茶と格闘している。


「できたわ!」


アンナが紅茶を淹れ終えて右手を上げる。


「そこまで!」


エレンもなんとか時間ギリギリまでに紅茶を淹れ終わる。

そしてムッシュが二人の紅茶を審査神たちに配る。

目の前に出された紅茶は歴然と差があった。

アンナの紅茶は普通の紅茶だったのだが、エレンの紅茶には茶葉が浮かんでいたのだ。

これは審査をするまでもない。


「それでは審査員の皆さま札を上げてください」


俺達が上げた札は全てアンナの札だった。


「勝者はアンナさま!」

「よしっ!」

「くぅ、次こそは」


ガッツポーズをして喜ぶアンナとは対照的にガックリと項垂れるエレン。

この勝負はやる前から結果が見えていたようなものだ。

これはエレンに不利な戦いになるだろう。


「次の勝負はダンスの踊り方です。ランドール夫人になるのですから社交場でも恥をかかないようにしておかなければなりません。なのでダンスで勝負です」

「ダンスだと。アンナの野郎、自分の得意分野ばかり持って来やがって」

「リズム感のないエレンにダンスは無理よ。勝つのは私なの」


アンナはしたり顔を浮かべながらエレンを下目に見やる。


「ダンスはひとりで出来ないのでランドールさまにお相手をしてもらいます。まずはアンナさまから」


アンナは余裕気に手を振りながら舞台に上がる。

そして慣れた手つきでランドールの肩に手を回した。


「それでははじめ!」


脇にいるオーケストラが生演奏する。

その音楽に合わせてアンナとランドールがステップを踏む。

さすがに自信があっただけにアンナのステップは軽やかだ。

一度もミスをすることなく一曲を踊り終えた。


「次はエレンさまです」


エレンは履きなれないヒールにおぼつきながら舞台にあがる。

そしてランドールの腰に手を回す。


「キャハハハ。エレン、あなたは男な訳?手は肩に回すものなのよ」


アンナはお腹を抱えながら爆笑してエレンを馬鹿にする。

エレンは顔を真っ赤にさせながらランドールの肩に手を回した。


「エレンさん。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。私がリードをしますから」

「それでははじめ!」


ムッシュの合図でオーケストラが演奏をはじめる。

エレンはランドールにリードされながらステップを踏む。

しかし、時折ランドールの足を踏みつけてグダグダに終わってしまう。


「それでは審査員の皆さま、札をお上げください」


今回もまた全てアンナの札が上げられる。


「これで勝負は決まったわね」

「何を言ってやがる。最後の勝負が残ってる」

「エレン、まだ恥をかきたい訳?」

「そんなのやってみないとわからないだろう」

「わかったわ。それじゃあ最後の勝負と行こうじゃない」


食い下がって来るエレンに対して余裕気な表情を見せるアンナ。

次にアンナが考えていた勝負は水着審査だ。

水着審査ならば胸の大きいエレンに分があると思うのだが、アンナには確信があったのだ。

エレンはエロスだけで上品さに欠けると言うことを。


「それでは次の審査です。次は……」


紙に書かれていた文言を見てムッシュが固まる。


「次は水着審査です」

「水着だって?そんなものがランドール夫人とどう関係があるんだ?」

「ランドール夫人になるには体だって美しくなければらないのよ。おデブな夫人はお嫌でしょ?」


ランドール夫人は見た目じゃないと思うのだが……。


「それでは審査をはじめます。まずはアンナさまから」


アンナは水着姿に変わるとランウェイを堂々と歩いて来る。

白色のビキニがアンナの肌に合っていて艶めかしい雰囲気をつくっている。

胸のサイズはエレンに劣るが、それでも色気はプンプンだ。

さすがにランドールも頬を赤らめながら恥かしそうにしている。


「続いてエレンさま」


エレンはいつものビキニアーマーで歩いて来る。

見慣れているとは言えエロスが半端でない。

少し動いたら零れ落ちてしまいそうなたわわな胸が眩しい。

ランドールも目をマジマジと開きながらエレンに見とれていた。


「それでは審査員の皆さま、札をお上げください」


俺とセリーヌはエレン、ミゼルとミクはアンナの札を上げた。


「さあ、ランドール。札を上げなさい」


一気に会場が緊張感に包まれる。

ランドールがどちらの札を上げるかにみんなの視線が集まる。

そして、ランドールはエレンの札を上げた。


「アンナさま2票、エレンさま3票。この勝負、エレンさまの勝ち!」

「納得行かないわ。なんでエレンなの?エレンの水着なんて品がないじゃない」

「これが実力の差ってやつだ」


エレンは勝ち誇ったようにアンナを下目に見やる。

アンナは歯をギシギシさせながら悔しがっていた。


「それでは結果発表です。アンナさま2勝、エレンさま1勝。よってアンナさまの勝ちです」

「これでランドール夫人の座は私のものね」

「決めるのはあくまでランドールだ」

「まだ、そんなことを言っているつもり。勝負に勝ったのは私なんだから、ランドール夫人になるのは私なのよ」


また醜い争いをはじめるおばさん達。

こんな茶番のために貴重な時間を使うなんて。

もう、太陽が西に傾いているぞ。


「ランドールはどうなんだ?私を選ぶのか、それともアンナを選ぶのか?」

「私は……」

「私は?」


辺りに緊張感が漂いはじめて静寂に包まれる。

すると、ランドールがエレンの前に跪いて指輪を差し出した。


「エレンさん。私と結婚をしてください」

「ちょっと、ランドール。どう言うこと!勝負に勝ったのは私なのよ!」

「私ははじめからエレンさんを選んでいました。アンナさんも魅力的な女性だとは思いますが、私はエレンさんがいいのです」


アンナはあんぐりと口を開けたまま放心状態になる。

こうもはっきりと言われたらアンナの出る幕はない。

俺はアンナを引きづりながらその場を離れた。


「改めて。エレンさん、私と結婚してください」

「本気なのか?」

「私は本気です。生涯エレンさんと共に歩むことを望んでいます」


真面目なランドールの態度にエレンは戸惑いを覚える。

確かにアンナとランドール夫人の座をかけて争っていたが。

改めて告白されると返事に迷ってしまう。

ランドールと結婚すれば何不自由なく暮らせることだろう。

しかし、エレンは根っからの冒険者。

家庭に入って主婦になるなんて芸当は出来ない。

それが出来なかったために離婚をしたのだ。


「エレンさん。答えを聞かせてください」

「私は……」


エレンは喉まで出かかった言葉を飲み込む。

ここで返事を出来るほど簡単なことじゃないからだ。

それはランドールとて同じことだろう。

まだ、知り合ってからそう時間も経っていない。

お互いに知らないことばかりだ。

それなのに結婚だなんて急すぎる。


「考える時間をくれ」

「わかりました。私はエレンさんがどんな答えを出しても受け入れるつもりでいます。だから安心してください」


ランドールは優しくそう告げると指輪を仕舞って屋敷に戻って行った。

エレンはどかりと腰を下ろしてテーブルに突っ伏す。


「どんな答えでも受け入れるか。紳士だな、ランドールは」


こんな男に合うのは久しぶりだ。

大抵の男共は下心丸出しだ。

そんな奴に限って玉は小さいからな。

エレンが本気で相手にするような奴らじゃない。

しかし、ランドールは違っている。

エレンの色香に惑わされることなく真っすぐにエレンを見てくれる。

こんな男ならマジになるのも悪くはない。

だけど、長く続くとも思わないのも事実だ。

前の結婚でもエレンが家庭に入らなかったことが原因で別れた。

ランドール夫人ともなればランドールを支えなければならない。

ランドール家を守りながらランドール夫人として振る舞う。

それは考えている以上に難しいことだ。


「エレン、何を難しい顔をしているんだよ」

「カイトか。何しに来た」

「ランドールがどうしたかと思ってな」


俺はニヤニヤ笑いながらエレンに尋ねる。


「ランドールに結婚を申し込まれた」

「本当か!やるじゃないか、エレン」

「だけど、返事に困ってな」

「迷うことないだろう。ランドール夫人になれば裕福な暮らしが出来るぞ」


エレンがランドール夫人になってくれれば俺達にもおこぼれが入る。

ここはぜひ、エレンに頑張ってもらわないと。


「エレン、ランドールと結婚をしろ」


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