あるある023 「爆買いしがち」
あの後、パーティーは何事もなかったように終わった。
結局、俺達はその後のことは何もわからない。
アトスがどうなったのか、セリア姫は結婚を止めるのかさえ。
一番やきもきしていたのはアンナ達だ。
テーブルをコツコツと叩きながら紅茶を飲んでいる。
「もう、イライラする。何で情報が流れて来ないのよ」
「おそらくグラン国王が情報を抑えているのですわ。でなければ噂話くらい流れて来るものですもの」
「とことんまで伏せるつもりのようだ。世間にさらせば大問題になるからな」
「また、アトスにコンタクトでもとれないかしら。アトスがダメならばセリア姫にでも」
アンナがまた余計なことを言いはじめる。
「いい加減にしろ!お前達が余計なことをするからイケないんだ。今頃、アトスは責任をとらされて降格しているはずだぞ」
「いい気味だわ。いつまでもアトスが決断をしないからそんなことになるのよ」
「自業自得ってやつか。まあ、あの男には相応しいな」
「それでもセリア姫の気持ちは変わりませんわ。グラン国王に掛け合ってアトスを元に戻すように迫っているかも」
アンナ達はお互いに目配せをして黙り込む。
いくらセリア姫が掛け合ったからと言ってグラン国王は首を縦に振らないだろう。
結婚を控えている自分の娘をかどわかそうとしたのだ。
普通なら国を追われていても不思議でない。
アトスがどうなったのかわからないが、何もお咎めがなかったとは思えない。
きっと発言力も持てないほど低い地位に降格させられたのだろう。
「この話はもう終わりだ!」
「まあね。こんな所で話し合ったからといって何が変わる訳でもないし」
「考えれば考えるほど苛々するだけだしな」
「少し表の空気でも吸って来ましょう」
「そうね。私達これから散歩に行くけどカイトはどうする?」
アンナ達は紅茶を飲み干すと出掛ける支度をする。
「俺も行くよ。お前達だけにしておいたら何をするわからないからな」
「あら、信用ないのね」
「エレンはどうするんだ?」
「私も行くよ。どうせここにいてもやることもないしな」
俺達は散歩がてら街を見て回ることにした。
もちろんトイプーも連れて行く。
街行く人の中にも犬を散歩している人がちらほら見える。
何でもラビトリス王都では犬を飼うことが流行っているらしい。
ヴィレッタ王妃が犬を飼っていることが知れて流行になったのだと言う。
「カリスマはやっぱり違うよな」
「何をひとりでボソボソ言っているのよ」
「お前らとヴィレッタ王妃は違うなと思っていただけだ」
「何よそれ」
俺達はいつの間にかラビトリス王都の一番の繁華街まで来ていた。
大通りを挟むように所狭しと店が並んでいる。
服飾店、ジュエリーショップ、カフェ、靴屋に時計屋。
他にもたくさんの店が並んでいた。
「せっかくだし見て行かないか」
「そうですわね。掘り出し物が見つかるかもしれませんしね」
「私は酒屋がいいのだけどな」
お前は酒以外に興味はないのか。
「それじゃあまずこの店からにしよう」
俺達が入っていたのは家具店。
取り扱っているのはアンティークな家具ばかり。
どれも高級そうで簡単には手が届きそうにもない。
値段を見れば破格の値がついていた。
すると店員が手もみをしながら声をかけて来た。
「いらっしゃいませ。どのような家具をお探しですか?」
「私達は見ているだけなので気を使わないでください」
セリーヌが丁寧に断ると店員は舌打ちをして店の奥へ戻って行った。
「態度の悪い店員だな。あれじゃあ客が逃げるぞ」
「どうせ金持ちしか相手にしないのよ」
「にしても商品はいい物を扱っているな」
「そうですわね。これならばラビトリス城にあっても見劣りしませんわ」
エレンの腰かけたソファの装飾を見ながらセリーヌが呟いた。
後で聞いた話だが、この店はラビトリス城へ商品を献上しているらしい。
昨年はソファーを、その前は食器棚を献上したとのことだ。
だからなのか、この店を利用する客は貴族が多いと言う。
ほとんどがオーダーメイドを頼んでいて店内にある商品は買わない。
まあ、たくさん金を持っているんだから金に糸目はつけないのだろう。
俺達は一通り商品に目を通した後、別の店に向かった。
次に覗いたのはセントルースにもあった服飾店。
セントルースは姉妹店でこちらは本店だとのこと。
そのためがセントルースにはない服飾がたくさん飾られてあった。
「これははじめて見る衣装ね。民族衣装かしら」
すると、すかさず店員が近づいて来て商品の説明をはじめる。
「それはミュントール族の民族衣装です。ミュントール族はラビトリス王都から西に行った森の中に住んでいます。ごく少数の狩猟民族で絶滅の危機を迎えています。そのためラビトリス王国が保護しています」
「はじめて聞く名前ですわ」
お前達にも知らないことがあったのか。
俺の倍も生きているから世の中のことは知り尽くしていると思ったのだが。
「でも、これは似合いそうにないな」
「そうね。珍しいだけで実用性がなさそう」
「では、こちらのドレスなんていかがでしょう?」
店員が店の奥から薄緑色のドレスを持ってくる。
「ドレスは持っているからいいのよ。それよりも普段着できるものがいいわ」
「左様ですか。では、こちらですね」
店員が普段着コーナーへアンナ達を連れて行く。
「俺はトイプーと外にいるからちゃっちゃと決めちゃってくれ」
「わかったわ」
俺はトイプーを連れて店の外に出た。
さすがに婦人服を選ぶのに俺がいても役に立たない。
と言うか、おばさん達の服になんか興味もない。
どうせまた高いものを買わされて来るのがオチだ。
まあ、報酬の金貨10枚があるから当面は大丈夫だけど。
街行く人を何気に見ていると服を着た犬が目に入る。
あっちにもこっちにも、至る所で犬が服を着ている。
少しも嫌がる素振りもなくあたり前のように着こなしていた。
「犬の癖に服なんて着るなんて。何様のつもりだ。服ってのは人間様が着るものなんだ」
俺がひとり愚痴をこぼしているといかにも金持ちそうな老婆が声をかけて来た。
「あら、あなたは裸ですの。寒いわね」
「犬なんだから裸でいいんだ」
「今は犬に服を着せるのが流行りですわよ。ヴィレッタ王妃も愛犬に服を着せていましたから」
「また、ヴィレッタ王妃か」
何でこうもまた人の真似をする人が多いのやら。
自分のポリシーがないのだ。
いくらヴィレッタ王妃の真似をしたからといって王妃になれる訳でもないのに。
無駄なあがきは止めておけと言うもの。
そこへアンナ達が買い物を終えてやって来た。
「カイト、お待ちどう」
「あら、かわいいワンちゃんですね」
「そうでしょう。メルといいますのよ」
「カワイイでちゅね。メルちゃん」
セリーヌは赤ちゃん言葉で老婆の犬を撫でる。
それに応えるかのように老婆の犬がワンと鳴いた。
「この犬。服を着ているのね」
「そうなのよ。今の流行りなんですわ」
「また、ヴィレッタ王妃がやっていたんだとよ」
俺は呆れたようにアンナ達に告げる。
「へー。ヴィレッタ王妃がな。セリーヌ、トイプーにも服を着せてみたらどうだ?」
「それ、いいですわね。ますますトイプーちゃんがカワイくなりますわ」
「それならこの通りを真っすぐ行った右側にペット専用の服飾店がありますわよ」
「すぐ近くじゃないか」
「行きましょう」
セリーヌ達は老婆にお礼を言うとペット専用の服飾店へ向かった。
ペット専用と言っても犬の服飾がメイン。
中に猫用の服飾もあったがあまり売れていないようだ。
猫コーナーは片隅に置かれてあるだけだった。
「それにしてもいろいろな種類があるわね」
「これじゃあ目移りしてしまってどれがいいのかわかりませんわ」
すると、そこへペット専用の服飾店の店員がやって来る。
「はじめてのご利用ですか?」
「はい」
「それならこちらの洋服なんていかがでしょう?」
「かわいい」
店員が見せて来た服はチェック柄の上着と帽子。
セリーヌは服を受け取るなり店員に試着をしていいか尋ねる。
もちろん店員は首を縦に振ってトイプーに服を着せた。
「いかがでしょう?」
「悪くはないな。しかし、トイプーには合わない」
「ミゼル、はっきり言うわね」
「こう見えてもファッションセンスはあるんだ」
すると店員が奥から別の衣装を持ってくる。
「では、こちらの商品はいかがでしょう?ヴィレッタ王妃の愛犬が着ているものと同じ商品です」
「桜色のドレスですね。かわいい」
「トイプーに着せてみろ」
店員はトイプーに桜色のドレスを着せる。
頭には宝石をちりばめたカチューシャをつけて。
もちろん本物ではなくレプリカだけれど。
それでも輝きは宝石そのものだ。
「いいじゃないか」
「似合っているわね」
「お姫様みたいだ」
「これにしますわ!」
満場一致でこのドレスに決まる。
俺はトイプーに服を着せることには反対だったのだけれど、すぐに却下された。
あくまでトイプーの飼い主はセリーヌだからセリーヌの考えが優先されるのだ。
これからトイプーと散歩をするのが恥ずかしくなりそうだ。
続いて俺達はジュエリーショップへ向かった。
ジュエリーはセントルースの街でも購入したはずだが、店が変われば商品の変わると言うことでやって来たのだ。
もちろんアンナ達は買う気まんまんでいる。
まあ、報酬の金貨10枚があるのだ。
そんなに心配はしなくても大丈夫だろう。
と、考えていたのだが現実は違っていた。
この店はラビトリス王都でも一番の高級品店で破格の値段がついていた。
「ブルーダイヤのネックレスが金貨3枚ですって!ちょっと高過ぎない」
「そうだな。思っていたよりも高いな」
アンナ達も開いた口が塞がらないようで呆気にとられていた。
「ピンクダイヤならわかりますけれど、格下のブルーダイヤまで金貨3枚なんて」
そこへ店員がにこやかに笑いながらやって来て商品の説明をする。
「そちらのブルーダイヤはピンクダイヤの姉妹品として造られたものです。ヴィレッタ王妃が身につけていたのはピンクダイヤですが、このブルーダイヤとは対になっているのです。金貨3枚でもお値打ちな方ですよ」
いくら金貨10枚を持っているからといって簡単には手が出せないだろう。
ブルーダイヤのネックレスで金貨3枚もとられたらすぐに金が底をついてしまう。
ただでさえ金に飢えているのだ。
アンナ達もその辺は理解しているはずだ。
「金貨3枚か。安いじゃないか。私はこれにする」
「勝手なことを言わないでよ、エレン。金貨10枚しか持っていないのよ。ここで金貨3枚も使ったらお金がなくなっちゃうじゃない」
「そうだ。それにそのネックレスはエレンには似合わない」
「金がなくなったら稼げばいいだけの話だろう。けちけちするなよ」
エレンは店員からブルーダイヤのネックレスをはぎ取る。
そして自分の首につけると鏡を見て確かめた。
「おっ、似合っているじゃないか。これに決めた!」
「そんなの許さないわよ。ただでさえエレンの酒代がかかっているのに。これ以上、無駄使いはさせないわ」
「酒は水代わりなんだから仕方ないだろう」
「エレンさん。ここは言わせてもらいますわ。エレンさんがこの先お酒を止めてくれるなら買ってもいいですわよ」
「そんなこと出来る訳ないだろう」
それはエレンに首を切れと言うものだ。
エレンから酒をとったら何も残らない。
”エレン=酒”は誰もが知っている事実なのだから。
俺達が揉めていていると髭を生やしたイケメンの紳士が店に入って来た。
そしてエレンの前へ行くなり軽快に挨拶をする。
「エレンさん、お久しぶりです。お買い物ですか?」
「ランドール!」
「ランドール?」
ランドールはエレンの前で跪くとエレン手に軽くキスをする。
そして爽やかな笑顔で俺達を見やった。
「エレンさんのご親友の方ですか?私はランドール・フォードと申します」
「はぁ……」
俺達が呆気にとられているとアンナが目の色を変えてエレンに詰め寄る。
「エレン、このイケメンは誰?どう言う知り合い?」
「それはな」
エレンはここぞとばかりに勿体ぶる。
するとアンナが逆境してエレンに掴みかかった。
「勿体ぶってないで教えなさい!」
「セリア姫のパーティーで知り合ったんだよ」
「そうです。エレンさんがひとりでお酒を飲んでいたのでダンスに誘いました」
アンナはあんぐりと口を開けたままま放心状態になる。
どう考えてもエレンにダンスは似合わない。
たとえ踊れたとしても盆踊りぐらいだろう。
「エレンさん、ダンスがお上手でしたよ」
「だろ。まあ、ダンスぐらいは嗜んでおかないとな」
エレンはアンナの肩を叩きながら自慢する。
「ところでエレンさん。そのネックレス似合いますね」
「だろ。私も気に入っていたんだ」
「せっかくですし私がプレゼントしますよ」
「マジでか!」
エレンに金貨3枚もするネックレスをプレゼンとするなんてこいつは何者だ。
身なりから予想するに金持ちだと言うことはわかるが。
しかし、金貨3枚もほいっとプレゼントをするなんて裏があるのかもしれない。
きっと後で法外な金銭を要求して来るんだ。
「せっかくのご厚意だけど断るよ。そんなに高いものをもらう訳にはいかない」
「気になさらないでください。金貨3枚なんて安いものです」
金貨3枚が安いだって。
こいつの金銭感覚はどうなっているんだ。
金貨3枚なんて言ったらゴブリンを300匹も倒さなければならいんんだぞ。
それがどれだけ大変なことなのかわかっているのか。
すると、ランドールが俺の心配を拭うように説明をして来た。
「こう見えても私は貿易会社を経営していまして。ランドール貿易会社と言えばラビトリス王国でも有名です」
そう来たか。
確かに只者じゃないと思っていたが貿易会社の経営者とは。
だから金貨3枚ぐらい安いと思ったのだろう。
「その貿易会社の経営者が何でエレンにプレゼントをするのよ?」
「まあ、はっきり言えばエレンさんに好意を持っているからです」
なんと!
あの大酒のみで大食いのエレンに好意を寄せているだと。
エレンのどこに魅力を感じたのだ。
たしかに胸だけはデカいが。
こいつもエレンの持っているエロスにやられたのだろうか。
なんて言ったって今もビキニアーマーだし。
「せっかくだし好意に甘えよう」
「そんな勝手なことは許さないわ。ランドール、私にもプレゼントをしてちょうだい」
「何でランドールがアンナにプレゼントしなきゃならないんだよ」
「エレンばっかりズルいからよ」
目の前で言い争っているエレン達にランドールもたじたじ。
さすがに何の関係もないアンナまでにプレゼントをすることもないだろう。
俺はランドールに助け舟を出す。
「家の馬鹿どもが我が儘ばかり言って申し訳ない。今のは聞かなかったことにしておいてくれ」
「構いませんよ。ひとつあげるのもふたつあげるのも変わりませんから」
「やったー!」
そんなに大手を振って喜ぶな。
アンナの場合はランドールにたかっただけだろう。
ランドールもとんだお荷物を抱えてしまったな。
おばさん達は遠慮がないから根こそぎ持って行かれるぞ。
「それじゃあ私はこのホワイトダイヤね」
「おい、アンナ。そいつは金貨5枚もするじゃないか」
「せっかくランドールがプレゼントしてくれるって言ってるんだから甘えないと」
「ったく、お前は金にがめついな」
「羞恥心の欠片もないエレンに言われたくないわよ!」
エレンとアンナはお互いに睨みあいながらケンカをはじめる。
「お前らいい加減にしろ!ランドールが困っているじゃないか」
さすがのランドールも顔が引きつっている。
おばさんの洗礼を受けたのだ、仕方ないだろう。
「それでエレンさんはどちらにお泊りですか?」
「私達はホテルだ」
「ホテルですか。もし、よろしかったら家に来ませんか?」
「ランドールの家にか」
「家は広いので客室が余っていますから」
「面白そうだな」
「エレン、勝手に決めるな。プレゼントをもらったうえに家にお邪魔するなんて出来る訳ないだろう」
俺が声を荒げて言うとランドールはニコリと微笑んだ。
「家はお金はとりませんし、よろしければ皆さんも」
それは本当ですか!
ありがたい申し出だ。
ただでさえ金欠状態なのにタダで泊めてくれるなんて。
もちろん食事もつくのだろう。
俺はすぐにOKのサインを出した。
「よろしくお願いします!」
「カイトさん、よろしいのですか?」
「せっかくランドールが言っているんだ。ご厚意に甘えようじゃないか」
「カイトはお金が浮くから決めたんだろ」
本音をぶっちゃけるミゼルに対して指を口にあてて黙るように指示を出す。
すると、ランドールは爽やかに笑いながら俺を見やった。
「お金は大事ですからね。我が家でゆっくりと寛いで行ってください」
こうして俺達はランドール家にお邪魔することになった。
ランドールの言っていたようにランドール家は目を見張るほど大きな屋敷だった。
2階建てでコの字型の豪邸で部屋数は全部で30室もある。
俺達は一番高そうな客室に案内された。
しかも相部屋ではなくひとり1室。
俺はベッドにダイブをして自由を謳歌する。
「エレンさまさまだな。こんな広い部屋をひとりで使えるなんて」
もう、こうなったらランドール家の養子にでもなろうか。
そうしたら優雅な生活を毎日送れる。
食うものに困らないし、何でも買い放題だ。
悪くはない選択肢かもしれない。
占いでは俺は大金を手に入れると言っていた。
もしかしたらこの出会いがそうなのかもしれない。
神様はやっと俺に幸運を与えてくださったようだ。
俺は手をワナワナさせながら雄たけびを上げた。
「神様、ありがとう」
と。




