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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第一章 邪魔するおばさん編
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あるある019 「長風呂をしがち」

パッカーン。


「実にいい。貸切ってのは。何だか王様になった気分だ」


俺はアインの街の温泉宿の露天風呂でひとり寛いでいる。

あの後、アインの街へ着くなり俺達一行は温泉宿かえでまで案内された。

何でもブラム伯爵の希望で温泉宿かえでに宿泊することが決まったのだ。

この温泉宿かえでは一つ星の有名温泉宿。

天然かけ流しの温泉が自慢で各地から観光客がやって来る。

今夜も他の客が宿泊しているのだがブルム伯爵も同じで個室に入っている。

アトスが気を利かせてフロアごと貸し切ろうとしたのだがブルム伯爵が断った。

あくまで自分は客のひとりであるとの考えらしい。

思っていたよりもブルム伯爵は人間が出来ているようだ。

やはり街を納める領主ともなると一皮も二皮も違う。

俺は少しだけブルム伯爵を見直したのだった。


それはそうと俺がひとりで露天風呂でいるのは偶然だ。

ラビトリス騎士団は団体と言うことで大浴場を貸し切りにしている。

俺達はラビトリス騎士団でもないので露天風呂を使うことになったのだ。

ただ、温泉宿かえでに着いたのが夜だったのでほどんどの客は温泉をすませた後だった。

なので俺はこの巨大な露天風呂を貸し切りで使えたのだ。


「ちょっと泳いでみるか」


俺は露天風呂の端まで行くと平泳ぎで泳ぐ。

こんな馬鹿なことをしても怒られもしなければ他人に迷惑をかけることもない。

自由気ままに過ごすことが出来る。

と、女湯の方からエレン達の声が聞えて来た。


「おっ、誰もいないぞ」

「貸し切りなんて贅沢ね」

「エレン、行きまーす」


エレンは露天風呂に駆けて行きそのままダイブをする。


「ぷはー。いや~やっぱ温泉はいいな」

「エレン、誰もいないからって馬鹿なことはしないでよ」

「いやー、悪い悪い。温泉なんて久しぶりだったからな」


エレンは悪びれた様子もなく温泉を楽しむ。


「それにしてもいいお湯ですわね。体に染み渡りますわ」

「アルカリ泉質のようだから肌にいいらしいぞ」


セリーヌとミゼルは頻りにお湯をかけて美肌効果を試す。


「それにしてもセリーヌ。また成長したんじゃないか」

「そんなことはありませんわよ」

「どれどれ」


エレンはセリーヌの背後に回りこみセリーヌの胸をもみほぐす。


「キャッ!エレンさん、くすぐったいですわ。止めてください」

「おっ、セリーヌ感じてるんじゃないか」

「そ、そんなことありません」


女湯からセリーヌの色気のある声が聞えて来る。

俺は気になり男湯と女湯を隔てる仕切りにへばりついた。


「見えん」


ちくしょー。

この仕切りの向こうで何が行われているんだ。

声だけ聴いていると興奮してくるじゃないか。

「感じている」だの「成長した」のだと。

それはつまるところおっぱいの話じゃないのか。


ハアハア。


やけに体が熱くなって来る。

心臓はドキドキしているし、呼吸は乱れはじめる。

俺に透視の特殊能力があればこんな苦労をすることもないのに。

そして不意に横を見やった。


仕切りを挟み込むように岩が競り立っている。

少し高いが登れない高さではない。

これを登れば女湯は丸見えだ。


「よし」


さっそく俺は男湯と女湯を隔てている岩にしがみつく。

俺は決して女湯を覗く目的で登っているのではない。

エレン達が馬鹿をやらないか監視をするためだ。

こんな所を他の人に見られたら間違いなく通報されてしまう。

女湯を覗いた痴漢として裁かれるのだ。

だが、今は誰もいないから大丈夫だ。

そして岩のてっぺんまで登り身を隠しながら女湯を覗いた。


「湯気で全く見えん」


すると、エレンが見えないはずの俺に向かって声をかけて来た。


「おい、カイト!お前もいっしょに入るか?」


俺は慌てて身を隠す。


「どうせこっそりと覗いているんだろ」


バレたか。


「エレンさん、カイトさんは年頃なんですよ。いっしょに入る訳ないじゃないですか」

「いや、年頃だから危ないんだ。女の体に興味が湧いて来て興奮するものだ」

「夜な夜なゴソゴソしているし、もしかしたら」

「な、何を言っているんですか、アンナさん。カイトさんがそんなこと」


アンナの思いもよらぬ発言を受けてセリーヌが顔を真っ赤にさせる。


「あいつら、人がいないからって好き勝手言いやがって。俺がおばさんの裸を見て興奮するかよ」


夜な夜なゴソゴソしているのは寝付けないからだ。

けっしてやましいことをしている訳ではない。

そんなことをしていたら軽蔑されるだけだろう。

俺のイメージにも関わる。

余計なことは言うな。


「きっとカイト。覗いているぜ。なら、誘ってみるか」

「誘うって?」

「こうするんだよ」


そう言ってエレンはセリーヌの胸を激しく揉みくだす。


「エ、エレンさん。や、止めてください。そ、そこは……」


おーい、エレン。

何をやっているんだ。

セリーヌが感じているじゃないか!


ハアハアハア。


もうダメだ。

我慢出来ん。

痴漢呼ばわりされても構わない。

この先で行われている現場を目撃するならば。

エレンのことだ。

きっとエロいことをしているに違いない。


いいや、早まるな俺。

女湯を覗いたら、ずっと変態呼ばわりされてしまうぞ。

あいつらのことだ変なあだ名をつけて俺を蔑むはずだ。

俺は勇者になる男なんだぞ。

これくらいの誘惑で惑うほど俺は落ちぶれてはいない。

そうだ。

この先にいるのは女子ではなくおばさんなのだ。

おばさんの裸を見て昇天してしまったら俺の人生に汚点がついてしまう。

そんなことは認めない。

俺は速やかに岩から降りて男湯に戻った。


「勝った!俺は誘惑に勝ったぞ!」


その後、俺は湯あたりしてのぼせてしまった。

気づいたのは番頭さんで湯船に浮いていた俺を救助したのだ。

番頭さんによるとたまにあるらしい。

あまりに温泉が心地よくて長湯をしてしまう客が多いのだと言う。


俺は脱衣所のテーブルの上に横になりながら湯冷まし。

番頭さんは中居さんを呼んで来て団扇で俺を仰いでくれている。

迷惑をかけて申し訳ないと思いながらも俺はもうろうとする意識の中、天井を見上げていた。

中居さんの可愛らしい顔が目に飛び込む。

まだ、20代あたりだろうか。

黒髪のショートカットがキュートな和風美人だ。

仲居さんでこのクラスの美人ならば文句を言う客はいないだろう。

もう少しハッキリと顔が見たい。

俺は目を静かに開く。


「気がつかれましたか?」

「あ、はい。おかげさまで」

「それはよかったですわ」


仲居さんは優しく微笑みながら俺を見やる。

なんてキュートな笑顔なんだ。

まるで天使のようだ。

惚れてしまうじゃないか。

不意に体を起こそうとするとタオル一枚でいたことに気づく。


「げっ!裸じゃないか!」


俺は慌ててタオルで股間を隠す。

その様子を見ていた仲居さんは頬を赤らめて恥ずかし気に目を反らした。


「それでは私、これで行きますから」

「あ、ありがとうございました!」


俺は仕事に戻る仲居さんに頭を下げながらお礼を言った。

結局、俺は1時間ほどのぼせ上がっていたらしい。

その間もつきっきりで看病してくれた仲居さんに感謝だ。

俺は浴衣に着替えて部屋へ戻って行った。





部屋に戻ると海鮮料理が並べてあった。

お膳の上に小鉢が並べられてあり様々な料理が小分けしてある。

これも温泉旅館かえでの名物らしくプロの料理人がこしらえたものだ。


「すごいごちそうだな」


俺は真ん中の席にどかりと腰を下ろす。

メインの料理は刺身らしくタイの生き造りが並べられてある。

まだ捌かれたばかりでタイはヒクヒクと動いている。


「それにしてもあいつら遅いな。まだ、露天風呂に入っているのか」


俺がのぼせあがっていたのは1時間。

温泉に入っていたのは30分ぐらいだ。

単純に計算してもあいつらは1時間半も露天風呂に入っていることになる。

そんなに長湯していたら温泉に溶けてしまうだろうに。

もしかしてあいつらものぼせ上がっているんじゃないだろうな。

俺がひとり心配をしていると部屋の襖が開いた。


「おっ、もう料理が来ているのか」

「ジャストタイミングね」


何がジャストタイミングだ。

もう1時間半も立っているんだぞ。


「お前ら、今まで温泉に入っていたのか?」

「そうだ。あまりに気持ち良かったからなつい長湯してしまったよ」

「美肌効果のある温泉ですしね。ちゃんと効果があるまで入らないと」


長湯にもほどがあるだろう。


「ちょっと湯あたりしてしまったかしら」


セリーヌは俺の横に座って手団扇で浴衣を肌蹴る。

色白のセリーヌの肌が桜色に染まり、いつもより艶っぽい。

そしてマジマジと見ている俺を見て呟いた。


「カイトさん、お酌をしましょうか?」

「あ、ああ」


セリーヌは手慣れた手つきで徳利をとると俺のお猪口に酒を注ぐ。


「さあ、飲んでください」


俺は一口でお猪口の酒を飲み干した。

するとカーッと喉が焼けるように熱くなる。

味は悪くはないがアルコール度数が高めだ。


「カイトさん、イケる口ですわね」


セリーヌは空になったお猪口に酒を注いだ。

その横でエレンは徳利のまま酒を堪能している。


「ぷはー。この酒うまいな。これなら一瓶イケそうだ」

「エレン、それはお猪口を使って飲むものなのよ」

「私はこの方がいいんだよ」

「品がないんだから」


アンナは呆れ顔でエレンを馬鹿にする。


「この刺身もイケるぞ。コリコリとした触感で身に弾力がある」

「どれ」


俺はタイの刺身をつまんで口に運んだ。

ミゼルの言う通り弾力が合ってコリコリしている。

刺身を食べるのは初めてだがこんなにうまいとは驚きだ。

それに、この醤油が刺身に合っている。

刺身の味を引き締めるというかひと味付け加えて。

この酒にあう料理だ。


「トイプーちゃんはお刺身はダメでちゅよ。代わりに厨房でもらって来たステーキをあげまちゅ」

「セリーヌ。A5ランクの肉じゃないだろうな」

「厨房からもらって来たものですから、違うと思いますよ」

「A5ランクの肉はトイプーにはまだ早いからな。あってもあげるなよ」


こうして口を酸っぱくして言っとかないとセリーヌは甘やかすからな。

トイプーのためにも厳しくしつける方がいいんだ。

犬なんだからな。

人間が食べるものは与えてはダメだ。

人間と犬で分けておかないと言うことの聞かないダメ犬になるだけだからな。


俺達は1時間ほどかけてゆっくりと料理を満喫した。

相変らずエレンは出来上がっていて布団の上で大の字になっている。

今日、飲んだ酒はいつもよりもアルコール度数が高いものだったからすぐに酔っ払ってしまったようだ。

俺達も居間でお茶を飲みながら寛いでいた。


「警護の依頼で一つ星旅館に泊まれるなんてツイていたわね」

「ブラム伯爵さまさまと言ったところか」

「ポムの街の領主さまですから、いろいろと詳しいのですね」

「まあ、普通じゃ泊まれない旅館だからな。満喫しないと」


俺達が談笑しているとミゼルが急に席を立つ。


「ミゼル、どこへ行くんだ?」

「ちょっと夜風にあたって来る」

「そうか。あまり遠くへ行くなよ」


ミゼルは上着を羽織ると部屋を後にした。





カイト達が使用している部屋は東館の一番奥。

中庭は東館と西館の中央にある。

ブラム伯爵の部屋は東館の西より。

なのでブラム伯爵の部屋の前を通り抜けないと中庭には行けない。


「ふー。少し飲み過ぎたか」


ミゼルは手団扇で仰ぎながら廊下を歩く。

さすがにアルコール度数が高い酒を飲んだので酔いもはやい。

ほんのり体が熱くポカポカしている。

ミゼルは廊下のつき当りを左に回る。

と、その時、ブラム伯爵の部屋の前にアトスと侍女の姿を見た。


「おっと」


ミゼルは素早く身を隠す。


「こんな時間に二人っきりなんて」


アトスと侍女は何やら会話をしている。

遠すぎて何を話しているのかはわからないが親密ぶりだ。

ミゼルは耳を澄ませて会話の内容に集中した。


「アトスさま。無事にラビトリス城まで戻れるでしょうか」

「安心してください。我々がついています」

「けれど、ゴルドランド王国のゲーテル国王が狙っているのでしょう?」

「それはあくまで噂です。一国の王が表立って安易な行動はとりません」


不安がる侍女を安心させるようにアトスはきっぱりと断言する。


「それでも心配ですわ」

「安心してください。私が必ずお守りしますから」


アトスは侍女の肩に手を置いて見つめる。


「アトスさま……」


侍女はアトスの胸に体を預ける。

アトスは優しく包み込むように侍女を抱きしめた。


「やっぱりあいつら、そう言う関係だったか」


しかし、なんで隠れて密会なんてしているんだ。

好きあっているなら堂々としていればいいだろう。

身分が違うから周りの反対を受けているのか。

それも考えられるが他に何か秘密があるかもしれない。

ミゼルはさらに耳を澄ませる。


「聞こえないな。何を話しているんだ」


ミゼルはウサギのように耳を尖らせて会話に集中する。


「アトスさま。このまま二人で駆け落ちしましょう」

「それは出来ません。私にはやらねばならぬことがあります」

「アトスさまは私のことが嫌いなのですか?」

「そんなことはありません。心からお慕い申しております」

「なら」


アトスは侍女を突き放して背を向ける。


「私はラビトリス王国の第一騎士団長です。使命はまっとうしなければなりません」

「それは私を捨ててもですか?」

「……」


侍女のツッコんだ質問にアトスは口を閉ざす。

すると、侍女が涙を浮かべながらアトスの背中に抱き着いた。


「私はアトスさまと離れたくはありません。ずっとこうしていたい。このまま時間が止まればいいのに」

「……それは私も同じです」

「えっ?」


アトスは侍女と向き合って真剣な眼差しを向ける。


「この恋が許されるなら私はあなたを奪い去りたい。そしてラビトリス王国を離れて二人でいっしょに暮らすのです。きっと楽しいことでしょう」

「そうですね。子供は二人欲しいです。男の子と女の子」

「名前はミックとレイで」

「カワイイ名前ですね」


アトスと侍女はお互いに見つめ合う。

そして終わらぬ口づけを交わした。


「決定的だ」


あの二人はこの仕事が終わったら駆け落ちするかもしれない。

もしかしたらそのための話をしていたのだろう。

会話はよく聞こえなかったから確信は持っていないが。

しかし、周りの者達は反対するだろう。

とりわけグラン国王は許さないはずだ。

何せ今はセリア姫の結婚式を控えているのだ。

ラビトリス王国の第一騎士団長がいなくなることは大問題につながる。

そのことはアトス自信よく理解しているはずだ。


「きっと、あの二人は切り裂かれる運命だろう」


しかし、反対されればされるほど恋は燃え上がるもの。

だからこの仕事の最中に駆け落ちしようとしているのか。

そう考えれば納得できる。


「これは面白くなりそうだ」


ミゼルはニンマリと不敵な笑みを浮かべながら口を拭った。


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