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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第六章 集合するおばさん編
174/361

あるある173 「影で噂をされがち」

エミルの情報はカイト達の耳にも入っていた。

ケシュナットを育てる畑を手に入れたり、研究所を作ったり、販路を開拓したりと。

それは親友でもあるカイト達にとっても喜ばしいことだった。


同じ学び舎で育った者だからこそエミルにかける期待も大きい。

冒険者にはならないけれど夢を叶えることは共通しているからだ。

だからこそカイトとガッシュ、マルクの3人はこの企画に力を込めていた。


「エミルのビジネス成功の祈願とお別れ会の2つで大まかな内容は決まりだな」


俺達はエミルに内緒でエミルの送別会を企画していた。

俺達の中で一番に夢を叶えたエミルと近く分かれることになるだろうと知ったからだ。

もちろん先に行かれて焦りはあるが、それよりも何よりも仲間が成功を掴んでくれたことを心から喜んでいた。

それはガッシュやマルクも同じで送別会をやろうと言い出したのもこの2人だ。


「会場はどこにする?」

「そうだな。オーディションでお世話になった最館壮でいいんじゃないか」

「最館壮なんて広すぎるよ。参加者は僕達とエミル達だけなんだよ」


俺が提示した内容にマルクは首を大きく横に振りながら提案を退ける。


言われてみればそうだ。

最館壮はオーディションで前後夜祭をやる時に利用した。

あの時は大人数だったからちょうどよかったのだが今回は広すぎるだろう。

それにコストもかかりそうだから安めの場所にした方がいいかもしれない。


「なら、会場は酒場にしよう」

「俺は賛成だ。酒場なら多少騒いでも問題ないからな」

「僕もそれでいいよ」


俺の決定した内容を了承するガッシュとマルクも満足気な顔を浮かべる。


「それで祝杯をあげて乾杯をして飲んで騒いで終わりか?」

「それじゃあ少し物足りないな。何かこう記念になるようなことをしたいな」

「それならエミルにプレゼントをあげよう。記念にもなるしいいんじゃない?」

「プレゼントか……それも悪くないな」


今さらながら何をプレゼントすればいいのか思いつかないがいいアイデアであることに間違いない。

なるべくなら俺達の友情の証になるようなものをプレゼントした方がいいだろう。

これは俺達のセンスが問われるから場違いなものにならないようにしないと。


「それとさ、エミルにメンフェルさん達を支援してもらおうよ」

「支援って?」

「資金援助してもらうんだよ。教会は補助金が止まっているし資金繰りが厳しいでしょう。エミルのビジネスの売上の一部でも提供してもらえればメンフェルさん達も助かると思ってね」

「それはいいアイデアだな。俺も気にかかっていたんだよ。俺達がどう頑張っても教会を支援するのは難しいからな」


思いもよらぬマルクの提案に乗り気のガッシュも目を光らせて納得したように大きく頷く。


確かにガッシュの指摘通り冒険者である俺達が教会の支援をすることは出来ない。

一時的に金銭提供は出来ても継続して支援することはままならないのだから。

それに比べてイスタトールの街でビジネスをはじめようとするエミルなら適任だ。

王都マグナカウスから近いし、利益が出れば支援するにも困らないのだから。

ただ、アンナがどう言うかわからないことが気にかかる。

アンナのことだから自分の利益が減ったとしたら反対をして来るかもしれない。


「とりあえずこの話はアンナには話さないでおこう。反対されるとやっかいだからな」

「そうだな。あのおばさんんことだから口を挟んで来るだろう」

「それじゃあ会議はこれで終わりだ。明日からさっそく準備をはじめるぞ」


俺とガッシュとマルクの3人はグラスを合わせて乾杯すると今宵の酒を朝まで楽しんだ。





会場の確保と酒と料理の手配は簡単に済んだ。

いつも入り浸っている酒場のおやじに話を持ちかけたらすぐに了承してくれた。

俺達のことは酒場のおやじの耳にも入っているようでVIP対応をしてくれるほどの歓迎ぶり。

まあ、魔王の手から王都マグナカウスを救ったのは紛れもない事実なのだから仕方ないだろう。


「あとはエミルのプレゼントを何にするかだな」


大通りを大股で闊歩しながら周りにある店を見て回す。


女子へのプレゼントだからネックレスや指輪などの装飾品がいいだろうか。

ただ、俺達はただの友達だからネックレスや指輪をプレゼントしても仕方ないだろう。

そう言うのは恋人同士がするものだ。

なら、何にするかだ――。


「ガッシュとマルクは何にしたんだ?」


頭の後ろに手をあてながら不意に空を見上げると青空が目に飛び込んで来た。

空には雲一つもなく迷いのない空の青さをこれでもかと言うぐらいに示している。

そんな空を見上げていると頭の中のモヤモヤもスッキリと晴れ渡るようだった。


「俺にしかあげられないプレゼントにすればいいんだな。なら、あれだな」


頭の中に閃いたプレゼントを買いに大通りに並んでいた店に足を向けた。


もちろん何を買ったのかはここでは言わなことにしておく。

楽しみは最後までとっておく方が楽しいからだ。

エミルのことだ、これを見たら目を丸くさせるだろう。


俺はニヒヒといやらしい笑みを浮かべながら軽い足取りで宿へ戻った。


エミルへの連絡はアンナを通してしてもらった。

もちろん二つ返事でエミルは了承してくれた。

実際にビジネスがはじまってしまったら会えなくなるからその前に最後のお別れを言いたかったのだろう。

招待したのはエミルだけではなく、マークやアンナも誘った。

でないと後で何を言われるかわからないからだ。

おばさんって生き物はこう言うことに関してはしつこくなるものだ。

自分だけがのけ者にされたと思い込めば嫌がらせをして来る。

そんなのだからのけ者にされるんだよと言いたいのが本音でもある。


とりあえずエミルの送別会の参加者は俺達、カイト軍団とガッシュ達のグループ、マルク達のグループに主役のエミルとマークだ。

親近者だけにしておいた方が後々面倒なこともないのでそうしたのだ。


「おい、カイト。随分と楽しそうじゃないか。プレゼントは決まったのか?」

「ああ。とっておきを手に入れた」


プレゼントの入った袋を突き出して自慢するように見せびらかす俺を見てガッシュがため息を零す。


「そうか。羨ましいな。俺は何にしたらいいのかわからなくてな」

「ガッシュにしか渡せないプレゼントにすればいいんだよ」

「俺にか……そうか。なら、何となくわかるかな」


俺のアドバイスに何となく光を見出したのかガッシュの顔から曇りが消える。

すると、そこへ買い物を終えたマルクがプレゼントを持ってやって来た。


「2人して何の相談をしているの?」

「エミルに渡すプレゼントの話をしていたんだ」

「マルクは用意出来たのか?」

「もちろん。女子が喜びそうなものを手に入れたよ」


マルクは得意気に鼻を鳴らしながらプレゼントを差し出して見せびらかす。

袋に入っているので中に何があるのかわからないがマルクの自信振りからすると相当いいものを手に入れたようだ。

マルクはガッシュと比べると女子と距離が近いから女心がわかるのだろう。


「1週間後の送別会が楽しみだね」

「それまでにプレゼントを用意しておかないとな」

「じゃあ、1週間後に酒場で会おう」


俺とガッシュとマルクの3人は腕をつき合わるとそれぞれの部屋へ戻って行った。





送別会当日。

お馴染みの酒場の一角を貸切にして送別会を催す。

壁や天井には手作り感満載の装飾が施され彩を加えている。

アットホームな感じに仕上がったので上々だ。


「いい感じに仕上がったな」

「仲間の送別会をするのだからもっと奮発したらどうじゃ?」

「この方がいいんだよ。金をかければいいってものじゃない」

「ケチっているだけじゃろう」


元もこうもないことを言うエマもすっかりドレスを着てめかし込んでいる。

パーティーに参加するのだから当然のことだとわざわざ服飾店へ駆け込んだのだ。

着ているドレスはレンタルものだがそれなりに彩っている。

まあ、ロリっ子おばさんにしてはまともな考え方だと言えよう。


「あとはみんなを待つだけだな」


会場の様子を見回して満足気な顔を浮かべているとガッシュ達がやって来た。


「カイト、待たせたな」

「おっ、ガッシュじゃないか。遅いぞ」

「ちょっとこれに手間取ってな」


そう言ってガッシュは着慣れないスーツを指して苦笑いを浮かべた。

似合わないって訳ではないけど着こなしているより着られているって感じだろうか。

エミルの送別会に合わせてレンタルして来たようだ。


すると、聞き慣れた声がしたかと思えばガッシュの後ろからナッシュがひょっこり顔を出す。


「カイト、久しぶり。元気してた?」

「お前はナッシュじゃないか。何でこんな所にいるんだよ?ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」

「私も関係者だもん」


俺が注意をするとナッシュはガッシュの腕を掴んでニヒヒといやらしいと笑みを浮かべる。


「関係者ってどう言うことだよ?」

「だから、私はガッシュのチームに入ったのよ」

「ガッシュのチームに入っただって!本当か、ガッシュ!」


ナッシュの思わぬ告白に驚きの顔を浮かべているとガッシュが照れくさそうに訳を話して来た。


「俺達のチームは剣士の俺と魔法使いとプリ―ストの構成で近接戦が弱いから補うためにシーフのナッシュを加えることにしたんだ。本当だったら剣士であるシスタールを加えたかったのだけど他の奴に取られちゃったからな」

「何よ、ガッシュ。私じゃ不満だって言うの?」

「べ、別にそんなことを言ったわけじゃない」


ガッシュの言葉にすっかり不機嫌になったナッシュは頬を膨らませてブー垂れる。

すると、今度はガッシュの後ろからメリルがひょっこり顔を出した。


「私もいるんですけど」

「何だよ、メリルじゃないか。何でお前まで」

「もちろん私もガッシュのチームに入ったからよ」


さも当たり前のようにメリルもちゃっかりとガッシュの横に並んでいる。

どこぞの服飾店でレンタルして来たドレスを身に纏い化粧までしている気合の入れよう。

ガッシュは2人に挟まれてまんざらでもない顔を浮かべている。


「おい、ガッシュ。ナッシュだけじゃなかったのか?」

「ナッシュをスカウトした時、メリルもいて話の流れでチームに入れることにしたんだ」

「どうせメリルのエロスにやられたんだろう。本当のことを言え」


可愛いどころをチームに加えたガッシュが羨まし過ぎて逆に悔しい。

俺なんかおばさん3人しか加えられなかったと言うのに。

乳のデカさでは勝っているが若さが足りない。

しかも、そのひとりはロリっ子おばさんなのだ。

あり得ないだろう。


何でこうもガッシュには良い運が巡っているのか。

普通なら主役である俺に回って来る運のはずだろう。

世の中、間違っている。


そんなことを考えているとガッシュがもっともな理由を説明して来た。


「間接攻撃が出来る弓使いのメリルが加わってくれれば作戦の幅も広がるからな。これまでにない戦い方を出来るようになったよ」

「ちくしょう。何で、お前だけいい思いをするんだよ。俺は認めないからな」


どんな理由を並べたところで俺は素直に首を縦に振らない。

ここで認めてしまえばガッシュに負けたような気になってしまうのだから。

俺は運が悪かっただけだ。

ただ、それだけ。


俺は自分に納得させるような言い訳を考えて言い聞かせた。


「カイト、遅れてごめん。準備に手間取っちゃってさ」


慌てた様子で飛び込んで来たマルクはいい訳をしながら謝って来る。

本当に慌てていたのかスーツはよれよれでシャツも皺が寄っていた。


「マルクが遅刻だなんて珍しいな。いつもなら一番乗りしているはずなのに」

「ちょっと訳があってね」


マルクが申し訳なさそうに頭を掻いているとすっと女性が飛び出して来てマルクのシャツを直す。


「マルク、ちゃんとしないとダメじゃない」

「ご、ごめんよ、シスタール。慌てていたから」


すっと受け流そうとしてしまってから急に思い立ったように叫んだ。


「おい、マルク。何でシスタールがここにいるんだよ。お前まで仲間にしたとか言わないよな」

「鋭いですね、カイトさん。私達3人もマルクさんのチームに入ったのです」


声のした方を見やるとフローレンスとロレインがあたり前のようにそこに立っていた。

綺麗なドレスを身に纏いマルクが買ったであろうエミルへのプレゼントを持っている。


「カイトにも話そうかと思っていたんだけど忘れちゃってさ。ごめんね」

「ごめんねじゃねーよ。何で、お前までキレイどころを仲間にしているんだよ。おばさんしか仲間に出来なかった俺が惨めじゃないか。あんまりだ」


マルクの仕打ちにすっかりと意気消沈をしてしまった俺は膝から崩れ落ちる。


ガッシュといいマルクといい何でこうも差があるものなのか俺には理解できない。

主役は俺なんだぞ。

その俺がにが汁を飲み込んでサブキャラでもあるガッシュ達がいい思いをするなんて間違っている。

これは夢だ。

たまたま悪い夢を見てうなされているだけだ。

夢なら覚めろ、覚めてくれ。


そう頭の中で呟き続けても夢が冷めることなく現実は変わらなかった。


「僕達のパーティーは僕と剣士の近接タイプ2人とプリ―スト2人の支援タイプしかいない。そんな時にシスタール達から声をかけられてね。剣士のシスタールと魔法使いのロレイン、プリ―ストのフローレンスは既にチームとして成り立っていたのだけれどもっと大きくなりたいから僕に話が舞い込んだんだよ」

「お前は坊ちゃんタイプだからな。年上の女性に好かれたんだ。羨ましい。羨まし過ぎる」


マルクの説明は俺へのあてつけのように聞こえて返って俺を虚しくさせた。


どうせならおばさん達とトレードして欲しいところだ。

そうすればカイト軍団の若返りが果たせるから文句も出ない。

ただ、現実はそうはいかずおばさん達の洗礼を受けることになった。


「お主の友達とやらも大したものじゃな」

「カイト、その女性は誰だ?」

「僕達にも紹介してよ」


興味深そうな顔をしながらガッシュとマルクは食い入るように尋ねて来る。


「別に紹介するまでもない。こいつらはただのおばさんだ」

「何じゃ、その説明は。ちゃんと紹介せんか」

「それなら自分で勝手にすればいいだろう」


ひとりムキになる俺の頭を小突いてからエマが一歩前に出て自己紹介をした。


「ワシはエマ・ラミネスじゃ。カイト軍団で銃使いを担当している」

「銃使いだって!マジかよ!」

「ほう、お主。いい反応をするじゃないか」

「銃使いと言えば近接両方を対応できる戦力の要だからな。カイト、凄い女性を仲間にしたじゃないか」


驚愕の顔を浮かべているガッシュの説明に満足したのかエマもまんざらでもない様子。

ない胸を反らしながら勝ち誇るように仁王立ちしていた。


まあ、戦略的に見ればガッシュの言う通り幅が広がったのは事実だ。

だけどおばさんであることが一番の問題だ。

しかもロリっ子おばさんと来た。

乳のデカいカスミやライレイと比べても色気で劣る。


そんな俺の気持ちを察したのかエマが鋭いツッコみをして来た。


「何か言いたそうな目をしておるな。ワシじゃ、不満か?」

「あたり前だろう。誰がロリっ子おばさんを好きになるって言うんだ。褒めてもらいたいのなら胸をデカくしてから来い」


俺の非情な言葉を受けてか周りにいた女性一同の冷ややかな視線を真っ向から浴びる。

まるで汚物を見るかのような魂の籠っていない瞳は返って俺の肝を冷やすことになった。


「まあまあ、カイトさん。落ち着いてください。私達は正式にカイト軍団へ入ったのですから」

「今更、断るってことはないわよね。そんなことをしても私は認めないからね」


デカい乳を揺らせながらカスミとライレイが前に出て来るとみんなの視線も胸に釘付けになった。


「私はカイト軍団で長刀使いをしているカスミです。以後、お見知りおきを」

「私はライレイ。武闘家よ。よろしくね」


カスミやライレイと握手をするガッシュとマルクも少し照れくさそうに頭を掻いていた。

まあ、あのデカい胸を前にして照れない男子はいないだろう。

カイト軍団で唯一褒められるところだ。


「カイト。よかったな。銃使いに長刀使い、武道家なんて戦略の幅も広がるじゃないか」

「エレンさんの穴をカバーしていると言うかお釣りが来るくらいのメンバー構成ですよ。羨ましいな」


本気でそう思っているのか頭の中を裂いて見てみたいが褒められて嫌な気はしない。

確かにガッシュ達が言う通り戦略の幅は広がったことに変わりないのだから。

後は期待通りの働きをして来るかがカギになる。

と言うか予想以上の働きをしなかったら後悔するだけだろうから。


そんなやりとりを繰り返していると今回の主役であるエミルがマークを従えてやって来た。


「今日は私のために送別会を開いてくれてありがとう」

「何を無粋なことを言っているんだよ。俺達は親友だろう」

「親友の門出に何もしないやつなんていないさ」

「そうそう。今夜はエミルが主役なんだから」


周りの人達よりもひと際きれいなドレスを身に纏ったエミルは主役そのもの。

隣でエスコートしているマークと一緒に見たら結婚式と間違えるほどだ。


俺達はエミルを取り囲みながら主役の登場に喜びを示していると人だかりが出来る。


「そいつがお主の親友か?」

「エミル・セントールと申します。エマさん」


エミルの顔を覗き込むようにエマが質問をして来るとエミルは丁寧に自己紹介をした。


「ワシのことを知っているのか?」

「カイトから噂話で聞いています」


小さく笑うエミルを見てエマが俺に疑いの眼差しを向ける。


「余計なことは言っておらんじゃろうな」

「べ、別に大したことは言っていない」

「怪しい……」


そんなエマはほっておいて俺は送別会の進行をはじめた。


「彼女が俺達の親友で今夜の主役でもあるエミル・セントールだ。エミルは冒険者の道を外れてビジネスの道を選んだ。目指すところは違っているが心は俺達と一緒だ。だから、今夜はエミルの旅立ちを祝福してくれ」


壇上に登り隣にいるエミルをみんなに紹介するとみんなの視線がエミルに集まった。

エミルは若干顔を強ばらせながら周りにいる人たちに視線を向ける。

あまり慣れない場だし、自分が主役だから余計に緊張が膨らんだのだろう。


テーブルの上にあった酒瓶を手に取り酒を注ぐとエミルにも渡した。


「準備はいいか?」

「いつでもいいぞ、カイト」


周りの様子を見回してみても、みんなもグラスを手に取り乾杯の音頭を待っている。

それを確認してから俺はグラスを高く掲げて乾杯の音頭をとった。


「エミルのビジネスの成功に、そして新たな旅立ちに、永遠に続く俺達の友情に、乾杯!」

「「乾杯!」」


グラスをぶつけ合う音があちこちで聞こえるとグラスの酒を一煽りした。


いつも飲んでいる酒なのに今夜はやけに喉を熱くさせて体の中に染み込んで行く。

一杯飲んだだけでもほろ酔い気分になってしまいそうなくらいアルコールが体に回る。

それは俺達の気分がいつもより晴れ渡っているからなのかもしれない。


「で、エミル。ビジネスの方は順調に進んでいるのか?」

「アンナさんの指導のもと着々と進んでいるわ。もう、ミキュアを抽出するテストまでしたわ」

「なら、すぐにでもビジネスをはじめられるんだな」

「イスタトールに戻ったらさっそくはじめるつもりよ」


俺の問いに答えるエミルの顔には曇りがなく晴れ渡ったような笑みを浮かべる。

その顔を見ても順調に進んでいることが窺えて俺達も一安心をした。


アンナのことだから抜かりはないと思っていたが心配だったのだ。

何せ金にならないことはしない性格だからエミルに膨大な手数料をふっかけたのだと思っていたからだ。

エミルの様子から見るにそれはないと判断出来たのでほっと胸を撫で下ろした。


「それでエミルとマークはいつ結婚するの?」

「け、結婚!」

「だって2人は付き合っているんでしょう?」

「私達はまだそんな関係じゃないわよ」


予想もしていない質問をナッシュにされてエミルは顔を真っ赤に染めながらたじろいでしまう。


いずれはマークと結婚するだろうけどまず先にビジネスを成功させることが必要だ。

そのためにこれまで大金と時間と労力を注いできたのだから。


「ナッシュ。エミルを茶化すのは止めろ。なんて言ったって今夜の主役なんだからな」

「はーい」


冗談を言うナッシュに軽く注意をするとすぐに頭を下げて引っ込んで行く。

その背中を見送りながら俺達はエミルと最後のパーティーを楽しんだ。


そしてエミルの送別会は盛り上がりを見せ夜が深くなるまで続いたのだった。


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