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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第六章 集合するおばさん編
173/361

あるある172 「何でもかんでも仕切りがち」

「ふー。これで準備は一通り終わりね」


最後の荷物をテーブルの上に乗せてアンナは腰に手を当てて息をつく。

その傍らでは精気をなくしているマークがぜえぜえ息を切らしながら倒れていた。


「ハアハアハア。本当にこれで終わりなんでしょうね」

「あっ、そう言えば……」

「またですか。これで8回目ですよ」

「冗談よ」


おばさんの笑えない冗談にやられてマークの目から魂が消える。

ここ数日、アンナにこき使われ過ぎてすっかり廃人となってしまっていた。

そのおかげかマークの努力の成果かわらかないが道具の搬入は全て終わった。


「細かな微調整は実際にやってみてから決めてちょうだい」

「何から何までありがとうございます。これで万能薬を作れそうです」


さも自分の手柄と言わんばかりに得意気になっているアンナに恐縮しながらエミルは深々と頭を下げる。


ここまで出来たのもアンナの力があったからに他ならない。

カイトからケシュナットをもらって思いついた計画だから何の準備も出来ていなかったのだ。

もし、エミルひとりだったら夢を描くばかりで何も実現しなかっただろう。


エミルは言葉にも表し切れないほどアンナには感謝しているのだ。


「それはいいけれど、ミキュアの抽出方法は知っているわよね?」

「そ、それは……」

「何、そんなことも知らないわけ?」

「準備が忙しくて調べるのを忘れていました」


呆れ顔を浮かべながら問い正すアンナに顔も上げられないほどエミルは小さくなる。

血の気の引いたように青い顔をしながら目を泳がせていた。


エミルの計画ではケシュナットの育て方やミキュアの抽出方法は図書館で調べるつもりでいた。

生まれてこのかた農作業の経験もなければセントルース騎士団学校で育てていた朝顔も枯らすぐらいセンスがない。

だけど、頭の回転の早いエミルならばすぐにマスターできると踏んでいたのだ。

マークもいることだし、たとえ失敗したとしても『倍倍』ですぐに増やせるから問題はない。


「あなた本気でビジネスをはじめるつもりなの?」

「も、もちろんです」

「返事だけよくてもしかたないのよ」


そう言ってアンナは腕を組みながら冷ややかな視線をエミルに向ける。


アンナにとってもエミルがはじめようとしているビジネスは金の成る木だ。

うまく行くのも行かぬのもエミル次第だがうまく行ってもらわなければ困る。

これまで多額の金と労力を投資して来たのだから失敗は許されない。

もし、エミルが失敗してしまったらすべてがおじゃんになるのだから。


「あなた達に任せておけないわ。今から図書館へ行くわよ」

「専門書を探しに行くんですね」

「そうよ。一度、実験をしておかないと心配でしかたないわ」


不安そうなアンナの言葉に肩を竦め小さくなるエミルだったが目は輝いていた。

図書館へ行けばケシュナットの栽培方法やミキュアの抽出方法がわかるから期待を膨らませていたのだ。


すると、気のなさそうなマークの声が聞えて来る。


「俺も行くんですか?」

「あなたは道具を使えるようにしておいて。図書館から戻ったら実験をするから」


アンナの指示にマークはほっと胸を撫で下ろすがすぐに顔つきが変わった。


「俺、ひとりでやるんですか?」

「あなたしかいないじゃない。嫌なの?」

「嫌って訳じゃないけど少しはな……」


本当は「嫌だ」とはっきり言いたかったがエミルの手前「嫌だ」とは言えない。

エミルはマークに訴えかけるような視線を向けながら期待を膨らませる。

このビジネスはエミルにとって大切なことだからマークは尊重したいのだ。


「何か言いたそうね」

「べ、別に何でもありません。道具を準備しておきます」

「素直でよろしい。それじゃあここはあなたに任せたから」


マークの答えに満足そうにしながらアンナは改めてマークに指示を出す。

どことなしかエミルが不安そうな顔をしているとマークが視線を合わせて小さく頷いた。


「イスタトールに図書館はないから王都マグナカウスに戻るわよ」

「しばらく留守にするけどマーク、後のことは頼んだからね」

「俺に任せておけ。それとお土産も」


最後に言ったマークの冗談にエミルは顔を緩ませてニコリと笑う。

二人にしかわからないやりとりにアンナも呆れ顔を浮かべながらため息を吐いた。


それからアンナとエミルは王都マグナカウスの図書館へ向かって馬車を走らせた。





王都マグナカウスの中区にある王立図書館は壮大なものだった。

建物は屋敷を思わせるような造りになっていて2階建ての石造りの建物だ。

外壁には緻密な装飾がほどこされていて一見すると図書館とは思えない雰囲気を醸し出している。

太陽の日差しを透すステンドグラスは七色に輝き荘厳な図書館に彩を添えていた。


アンナとエミルはその光景を楽しむこともなく真っすぐに図書館の中へ入って行った。


「まずはケシュナットの育て方の本を探すわよ」

「それなら農業関連のコーナーですね」


案内板を確認しながらアンナとエミルは農業関連のコーナーへ向かった。


図書館の中は書棚が迷路のように配置され所狭しと書籍が並んでいる。

案内板がなければ道に迷ってしまいそうなほど複雑な構造をしていた。

書棚は背丈を越えるほどの高さがあり上から下まで書籍でいっぱい。

そのためか若干薄暗くて埃の匂いが立ち込めていた。


アンナは書籍のタイトルを確認しながらケシュナットの育て方の本を探す。


「け、け、けっと……あれだわ!」


アンナが指した方向を見上げると書棚の上にケシュナットの育て方の本があった。

背伸びしても届かないような位置にあるので脚立を使って本を取り出す。

すると、長い間、触られていなかったためかたっぷりの埃が舞い上がった。


「ぷぷーっ。何よ、この埃」


ゲホゲホ咳き込みながら本を取り出すとアンナは息を吹きかけて埃を吹き飛ばす。

辺りが真っ白になるくらい埃が宙に舞い上がりアンナとエミルを咳き込ませた。


「ケシュナットの育て方っと……間違いないわ。この本に全て書いてあるわ」

「やりましたね」


アンナが本を開いて目で文字を追いながら確かめるとエミルの顔に笑みがこぼれる。

探しはじめてからそんなに時間をかけずに見つけることが出来たので喜んでいたのだ。

ただ、次は――。


「喜んでばかりはいられないわよ。次はミキュアの抽出方法の本だから」

「どのジャンルになるのでしょうか?」

「そうね。実験コーナーかしら」


探してはみたが実験コーナーはなくて物理や生物などの科目のジャンルしかなかった。


「これは探すのに一苦労するわよ」

「片っ端から探すしかないですね」

「あなたはあっちから探してみて。私はこっちから探すから」


アンナとエミルは書棚の両脇に移動してローラー作戦を実行する。


書籍に関することならば図書館の司書に尋ねればいいと思うが、司書も全ての書籍を把握している訳でもないからわからないそうだ。

まあ、この図書館にある本は数十万冊にも及ぶから無理はないのも仕方ない。

ひとつの救いはジャンル分けがされていることだろう。


ミキュアの抽出方法はどちらかと言えば研究に分類するものだ。

物理や生物ではないがジャンルを絞り込めば自ずと答えに近づけるはず。


アンナとエミルは虱潰しに書籍を探し漁った。

ひとつの書棚を終えたら次の書棚へと移り、はじから順に探し回った。


そのおかげも去ることながら小一時間探し回っても本は見つからなかった。


「何でないのよ。おかしくない?」

「これだけ探しても見つからないなんてないんでしょうか?」

「そんなはずはないわ。ここは王立図書館なのよ」


目の前に立ちはだかる書籍の山を見つめながらアンナとエミルはその場にへたり込む。

すでに数千冊の本のタイトルを見ていたからすっかり目が疲れてシバシバしてしまう。

この調子で探し続けてもきりがないとさすがのアンナも気づいたようだ。


「ローラー作戦は止めたわ。もっとジャンルを絞り込んで探すのよ」

「でも、どんなジャンルになるのでしょうか?」

「それよ。それが問題だわ」


頭を抱えながら床を転げ回るアンナを見てエミルも少し自信をなくす。

これだけ探しても見つからないのだから、そもそもないのかもしれない。

アンナは王立図書館だから何でもあると言ったがないことだってあるだろう。


「何のジャンルになるのかしら……ブツブツ。ブツブツ」


体育座りをしてひとりあっちの世界へ行っているアンナにかける言葉も見つからない。

その姿は黒魔術にハマって呪いをかけようとしているおばさんのようだ。


そんなアンナをほっておいてエミルは魔法コーナーを探しはじめた。

魔法コーナーにミキュアの抽出方法に関する本がある訳でもないが何もせずにはいられなかったのだ。


「ミキュアの抽出方法……。ミキュア、ミキュア……。ミキュアに関する本……あった!ありましたわ!」

「えっ!本当?」


書棚から取り出したミキュアに関する本を掲げてエミルが小躍りしているとアンナが駆け寄って来て本をはぎ取る。


「確かにミキュアに関する本だわ。ちゃんと抽出方法まで書いてある」

「やりましたね。これで一安心です」


書籍をパラパラを捲りながら記載されている内容に目を通すとアンナもほっと胸を撫で下ろす。


記載されていた情報はミキュアの抽出方法だけでなく、そもそもミキュアが何たるかからはじまり、ミキュアを使った万能薬の紹介まで詳しく書かれていた。

この本ひとつあるだけでもこと足りるほど内容が濃いものだった。


「でも、何で魔法コーナーにあるのよ?」

「誰かが間違えて戻したのではないでしょうか」

「適当な奴もいるもんね。本ぐらいちゃんと戻しなさいよ」


とりあえずは目的の本を全て集めることが出来た。

ケシュナットの栽培の本、ミキュアの抽出方法の本、それに加えて蒸留の本や温室管理の本など関連する本は片っ端から揃えた。


図書館の本は買い取ることが出来ないので1ヶ月のレンタルで契約をした。

本1冊で1ヶ月あたりのレンタル料は銀貨1枚と高価だ。

それはそもそもその書籍が1冊しかないためだと言う。

本も年季が入っていて代わりがないので自ずと価格も上がるのだ。


まあ、レンタルをしている間に書籍の内容を書き出してしまえばそれで済む。

そうアンナは軽く考えていた。


「それじゃあイスタトールに戻るわよ」


アンナとエミルは休むでもなくその足でとんぼ返りに王都マグナカウスを後にした。





イスタトールの街のエミルの研究室はどこぞの研究室と遜色のないくらいの出来栄えだった。

研究室の中を埋めつくすぐらい配置された実験道具の数々は工程ごとに並べられている。

研究室は何かとごちゃごちゃになりやすいからわかりやすくするための配慮だ。


「それじゃあはじめるわよ。ケシュナットの栽培はそんなに難しくないから省くわ」

「その格好は何ですか?」

「雰囲気を出すためよ。気にしないで」


どこから持って来たのかアンナは白衣と丸メガネをかけながらエミルとマークに説明をはじめる。


「まずはケシュナットの花が咲いたら温室へ移動させて成熟を待つ。成熟をしたら実をつけるから実が出来たら刈り取るのよ。実はそのまま畑に埋めて、ケシュナットは天日干しをして余計な水分を飛ばすの」

「どのくらい干しておけばいいのですか?」

「1~2週間と言ったところね。早すぎでもダメだし遅すぎてもダメ。ちょうどいいタイミングで終らせる必要があるわ。ポイントはケシュナットが薄緑色に変色したタイミングね」


わかりやすいアンナの説明を聞きながらメモを取るエミルの目は真剣そのもの。

ここで手順を記録しておかないと後でわからなくなってしまうから記録していたのだ。

とりわけポイントとなる部分は赤ペンで記して二重線を引いておくことも忘れない。


「ケシュナットが薄緑色に変色したら蒸留をするの。そのままだと入らないから細かくカットしてね。一緒に水を入れるのだけれどここは目分量で構わないわ。あとこれが一番大事なのだけれどアスタール酸を1滴加えることを忘れないでね」

「アスタール酸って何ですか?」

「アスタール酸はミキュアを液体に変える薬品よ。高価なものだから無駄遣いはしないでね」


ミキュアはケシュナットの中では固形状になっているので普通に蒸留しただけでは抽出できない。

アスタール酸に反応して液体状に変わるのだが、その時、熱を発する特徴がある。

なので蒸留する時もそのことを考慮して温めないと高温になり過ぎてしまうのだ。

目安は水が沸騰する直前のタイミングを維持することだ。


「蒸留をするとミキュアを含んだ液体が出来るわ。だけどこのままだと薄いのでミキュアを濃縮させることが必要になるわ」

「濃縮はどうやってやるのですか?」

「また蒸留をするのよ。ミキュアの沸点は水よりも低いから液体が沸騰するぐらいを維持すればミキュアを抽出できるわ」

「難しそうですね」

「まあこれは慣れで覚えるしかないわね」


アンナの言葉にメモをとっていたエミルの手が止まって不安げな顔を浮かべる。


肌感覚で覚えなければならないものほど難しいものはない。

どのタイミングでやるのかは実際にやる人の判断に委ねられる。

明確な指針がないから余計に迷ってしまい失敗を招いてしまうのだ。

ただ、アンナに言わせればそれも想定済みで失敗を重ねなさいと言う。

成功の影には数ある失敗があるものだからだ。

失敗は成功を導くための布石に他ならないのだ。


「ミキュアを抽出したら常温で冷ましてね。そうしないとミキュアが固形状に戻ってしまうから注意するのよ。それとなるべく空気に触れさせないようにしてね」

「空気に触れるとどうなるのですか?」

「空気に触れると酸化しちゃうのよ。そうなるとミキュアの成分の質が悪くなるから注意してね」


あくまで作るのはミキュアの純度が高い質の良い万能薬だ。

一般に市販されているミキュアを含んだ万能薬の純度は76%ぐらいと低い。

なので差別化するためにも純度を89%まで引き上げることを目標としている。

そのためにもミキュアの取り扱いには最新の注意が必要になるのだ。


「以上がミキュアの抽出方法よ。何か質問はある」

「ミキュアを抽出した後のケシュナットはどうすればいいですか?」

「そうね。家畜の飼料にするのもいいけれど、乾燥させて肥料にした方が無駄がないわね」


アンナが問いかけるとエミルが小さく挙手をして質問をして来た。

その問いにアンナが答えると隣で聞いていたマークの顔が険しくなる。


「それってもしかして俺の仕事ですか?」

「わかっているじゃない。実験をエミルに任せるんだからそのぐらいしてもおかしくないわ」

「やれって言われればやりますけど、もうちょっと頼み方ってものがあるんじゃ……」

「あら、力作業を女に任せる訳?あなたって甲斐性がないわね」


不満たらたらにマークが愚痴を零すとすぐさまアンナの容赦ないツッコミが入った。


「マーク、一緒にやればいいわよ。私がはじめようとしているビジネスなんだから責任があるし。それに二人で一緒にやれば絆も強くなるしね」


ここへ来てのエミルの温かな言葉は強ばっていたマークの緊張をほぐす。

このところアンナにこき使われ過ぎていたから不信感を持っていたのだ。

男手がないのはわかるがそう言う時ほど頼み方が重要になる。

アンナのように頭ごなしに命令されれば誰でも嫌になるものだ。

まあ、それがおばさんの図々しさなのだろうが。


「それじゃあ実際にやってみるわよ。ケシュナットは市場で仕入れて来たから」


アンナは得意気になりながら袋からケシュナットを取り出しエミルの前に差し出す。

1週間前に刈り取られたものなのですでに薄緑色に変色をしていた。


「既にある程度、水分がとんでいるから天日干しの必要はないわ」

「なら蒸留からですね」


エミルはテーブルの上にまな板を乗せるとその上にケシュナットを置く。

フラスコに入るぐらいの大きさに細かく刻みながらケシュナットを断裁して行った。


「このくらいでいいかしら?」

「フラスコに入れば問題ないわ」


細かく刻んだケシュナットをフラスコに入れると水を加えて火にかける、エミル。

しかし、大事なポイントを忘れてしまいアンナの注意が入る。


「それだけじゃミキュアは抽出できないわ。何か、忘れていない?」

「あっ、そうだった。アスタール酸を入れるのを忘れていたわ」

「ミキュアの抽出は繊細な作業だから慎重にやってね」

「忘れないようにします」


アンナに重要なことを指摘されて思い出したエミルは慌ててフラスコにアスタール酸を入れる。

ついでに忘れないように自分の手に赤ペンでメモを取ることも忘れない。

もし、アンナが指摘していなければミキュアの抽出は失敗していたのだから。


改めてメモを確認しながら作業をはじめるエミルは火加減の調整も忘れない。

沸騰し過ぎてもダメだし沸騰させないでいてもダメだから微妙な加減が重要なのだ。


1時間ほどかけてケシュナットからミキュアを抽出出来た。

ただ、作業はこれだけではない。

今度はミキュアの濃度を高めるためにもう一度、蒸留する必要があるのだ。


「次は二度目の蒸留ですね」


手際よく蒸留の作業をはじめるエミルを見てアンナも満足気な顔を浮かべる。

その隣でマークがぼけっとしながらエミルの作業の様子を眺めていた。


「これでよしっと」

「火加減には注意してね」


エミルがガスバーナーの火加減を調整している傍でアンナが念を押すように呟いた。


この作業で失敗してしまったら実験も無駄になってしまう。

せっかく抽出したミキュアも失うことになってしまうのだから慎重な作業が必要になる。

とかくミキュアの取り扱いには繊細さを求められるからがさつな人間では無理だろう。

その点、エミルは繊細さを持ち合わせているので実験に向いているから問題はない。

作業を見ているだけでも、それは伝わって来た。


一方で見た目とは違ってがさつなのはマークの方だ。

部屋も片づけられないし、細かく刻んだケシュナットを片づける動作も荒い。

目の前に無ければいいのだと思いクズが残っていてもそのままだ。


アンナががさつな作業をしているマークに注意をするとマークの眉間に皺がよった。


「もうちょっとちゃんと出来ない訳?」

「ちゃんとやってますよ」

「ここにクズが残っているじゃない」

「はいはい。片づければいいんでしょう」


まるで小姑が嫁をいびるかのように注意をして来るアンナにさすがのマークも腹を立てる。

言葉に出しては言わなかったが態度に不満がたっぷり滲み出ていた。


そんなやりとりをしている間にミキュアの抽出作業は進みフラスコの底に溜まっていた。


「ミキュアを抽出できました」

「それじゃあなるべく空気に触れさせないように小瓶に手早く移して」

「はい」


蒸留装置からフラスコを取り外すとエミルは小瓶にミキュアを移し変える。

アンナの指示通りなるべく空気に触れさせないようにしながら。

時折、熱くなっていたフラスコを触って熱がっていたが無事に作業を終えた。


「その後はどうするんだったの?」

「常温で冷ますんです」

「上出来よ」


100点満点の回答を述べるエミルにすっかり満足気のアンナはニコリと笑みを浮かべる。


「それじゃあ次は万能薬の作り方ですね」

「万能薬もいろいろと種類があるからどんな効果を持たせたいかで分かれるわ」

「最初は傷に利く万能薬がいいです。汎用性が高そうですし」

「いい絞り込み方ね。なら、傷に利く万能薬からはじめましょう」


すっかり自信を持ったのか身を乗り出して次の工程へ進もうとするエミルの目は輝いている。

腹を空かせた犬のように食らいついて来るエミルにアンナも満足気な顔を浮かべた。


「万能薬を作るなら、まずは薬草を集めないとね」

「どんな薬草がいいのですか?」

「傷に利く薬草と言えばメルネル草とドルチャの実あたりが相当ね」

「はじめて聞く名前です」


アンナの口から出た言葉にエミルは小首を傾げて不思議そうな顔を浮かべる。


それも無理はない。

メルネル草やドルチャの実など万能薬を作る者にしかわからないのだから。

一般人は万能薬として傷薬を買うので薬草までは知らないことの方が多い。

中には自分で万能薬を作ってしまう冒険者もいるがごく僅かでしかない。

万能薬を作る工程が長いので割に合わないのだ。


「メルネル草もドルチャの実も薬草の専門店に売っているからそこから入手すればいいわ」

「わざわざ森に出掛けて探さなくていいなんて便利ですね」

「探してもいいけれどそれに見合うだけの利益は期待できないからスル―するだけよ」

「どんな時にも利益のことを考えないといけないんですね」

「あたり前じゃない。それがビジネスと言うものよ。わかったらとっとと薬草の専門店へ行くわよ」

「はーい」


アンナとエミルはマークに留守番を頼んで薬草の調達へ向かった。

もちろん薬草の入手販路を開拓することも忘れない。

これから定期的に薬草を購入するのだから契約は必要なのだ。


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