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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第六章 集合するおばさん編
172/361

あるある171 「ビジネスパートナーに甘えがち」

俺達がエマ達の実力テストをしている間にアンナ達のビジネスは順調に進んでいた。

今はエジピア王国の東にあるイスタトールの街までやって来て物件を見定めている。

案内役はもちろんイスタトールの街を治めているレンブル子爵だ。


「こちらが我がイスタトールの街を誇る畑です。大きさにして4ヘクタールはあります」

「広いわね。これだけあれば十分過ぎるぐらいお釣りは来るわ」


レンブル子爵の紹介した畑を見渡しながらアンナはひと唸りする。


「ただ、この区画は既に売約済みなのでお貸しすることは出来ません」

「それは残念だわ。ここなら日当たりも良いし小川も近くにあるからケシュナットを育てるにはいい条件が揃っていると思ったのにね」


アンナが残念そうにため息を零しながら呟くとすぐさまレンブル子爵が次の物件を紹介する。


「ですが、ご安心してください。ここの条件と同じぐらいの優良な物件はありますから」


そう言ってレンブル子爵はアンナ達を案内しながら隣にある畑に連れて行く。

先ほどの物件と比べると随分とこじんまりとしているがはじめてケシュナットを育てるには十分過ぎる広さだった。


「ここはどれくらいの広さがあるの?」

「1ヘクタールです。さきほどの物件と比べては小さいですが日当たりもよく小川も近くにありますので優良な物件ですよ」

「そうね。はじめて畑をするんだからこのくらいの大きさの方がいいかもね。エミルはどう思う?」

「私はよくわかりませんけれどアンナさんがそう言うならここに決めます」


アンナに話を振られてもよく理解できていないエミルはアンナの意見を尊重させる。

何せ初めて畑をするのだから要領がわからなくてもおかしくない。

まずは畑の大きさに関わらずケシュナットを育てることを目標にした方がいい。


「じゃあ、ここにするわ。で、お代はおいくらかしら?」

「月のレンタル料は売上げの3%で構わないですよ。はじめてですしこのくらいがちょうどいいのでは?」

「レンブル子爵も商売上手ね。固定金額にするよりも%にした方がゆくゆくは取り分が多くなるからね」

「それだけケシュナットはビックビジネスになると思っていますから」


アンナとレンブル子爵はお互いの腹の探り合いをしながら交渉を進める。

さすがはイスタトールの街を治めている領主だけあってレンブル子爵の知略の深さに驚きを隠せない。

噂以上のやり手で実力でここまで這い上がって来たことを実感させる交渉となった。


アンナ達はさっそくイスタトールの街のレンブル子爵の屋敷に戻り正式な手続きを済ませる。

契約書類は既に製作されていてエミルはサインをするだけで済んだ。

一応、アンナが契約書の内容に目を通して中身を確かめた。


「これで畑の問題は解消出来たわね」

「助かりました。レンブル子爵さまのおかげです」

「ハハハ。私は手を差し伸べたに過ぎませんよ」


感謝の意を示してエミルが深々と頭を下げるとレンブル子爵は謙遜しながら頭を掻いていた。


さすがにやり手の子爵だけあって対人面でも隙がない。

アンナ達へ敬意を払いながら接するし、相手を見下すような無粋な真似はしない。

どこまでも紳士的で表裏のない対応をしてくれることに感謝すら覚えた。


「あとは研究室の確保ね」

「研究室でしたら畑に近い環境の方がいいですよね。確かイスタトールの街に居抜き物件があったはずです」


そう言ってレンブル子爵は書棚に仕舞ってあった物件の台帳に目を通す。

そこにはイスタトールの街の不動産情報が記載されていてこの台帳を元に管理されている。

なので、すぐに物件が見つかりアンナ達に提示して来た。


「イスタトールの街の西側にある居抜き物件ですが、ここは以前、花屋が入っていたところです。研究室に必要な道具はありませんが水道が引かれていますし、温室がついているのでケシュナットの管理には向いていますよ」

「水道と温室ね。なかなかいい物件じゃない。一度見てみたいわ」

「なら、ご案内します」


レンブル子爵は台帳に記載されている物件の場所を調べてアンナ達を案内する。

屋敷の前に止めてあった馬車は豪華なもので一目でレンブル子爵の馬車とわかる。

その馬車の中でレンブル子爵はアンナの考えているビジネスについて詳しく掘り下げた。


「ケシュナットからミキュアを取り出して万能薬を作るそうですがどの程度の価格を想定しているのですか?」

「銅貨3枚といったところかしら」

「銅貨3枚とは安すぎやしませんか。ケシュナットなら銅貨5枚は取れるはずでは?」

「私が想定しているターゲットは冒険者だけでなく一般市民も想定しているのよ。銅貨5枚では一般市民にとっては簡単に手が出ないわ。日銭を稼ぐのにも苦労している市民も多いからその辺を考えて値付けしないとね」


アンナの説明にひと唸りしながらレンブル子爵は感心した表情を浮かべる。


レンブル子爵が想像していたよりもアンナの立てた計画が緻密だったので圧倒されていた。

さすがはオーディションを成功させただけのことはあると改めてアンナの手腕に官服する。

これからビジネスパートナーとしてアンナと関係を結ぶことはレンブル子爵にとっても大きな契約になると感じていた。


「それではビックビジネスになりますね」

「私達はエジピア王国だけをターゲットにしている訳ではないの。世界よ」

「アンナさん達であったらそれも可能でしょう」


目の前に浮かんでいるビジョンを見て啖呵を切るアンナに度肝を抜かれながらもアンナならば実行できるとレンブル子爵は感じていた。


「まあ、実際にやるのは私ではないけれどね」


そう言ってアンナが隣に座っていたエミルに視線を向けるとエミルは小さくなった。


いずれにしてもレンブル子爵にとってこのビジネスは大金を生み出す泉となることは間違いない。

畑のレンタル料に物件の家賃、輸送の手数料や市民税を加えれば相当な金額になる。

だからエミルを支援してビジネスがうまく行くように誘導することも必要だと考えていた。


ひとり緊張した面持ちを見せているエミルに優しい言葉をかけてレンブル子爵は解きほぐした。


「エミルさんもそんなに心配しなくてもいいですよ。私が全面的に支援しますから」

「そう言ってもらえると助かります。よろしくお願いします」


エミルは恐縮しながらも丁寧に頭を下げるとレンブル子爵は小さく笑った。


レンブル子爵の屋敷から30分程度馬車を走らせると目的の物件までやって来た。

石造りの小振りの建物で隣には風車小屋が設置されている。

風の力を使って地下水をくみ上げているようで風を受けて風車が回っていた。

その奥に進めば温室用の建物が併設されいて中はがらんどうになっている。


「ここが目的の物件です。いかがですか?」

「思っていたよりも立派な建物じゃない。気に入ったわ」

「そう言ってもらえると紹介した甲斐があります」


レンブル子爵の案内で建物の中へ入るとアンナは隅々まで見回して満足気な顔を浮かべる。


数ヶ月前まで花屋が入っていたこともあって中は埃は被っておらずきれいなまま。

カウンターやテーブルなど一部設備は残っているが後で撤去すれば問題ないだろう。

日当たりもよく風通しもよいので研究施設にはもってこいの物件だった。


奥にある温室の建物は天井がガラス張りになっていて太陽の光を燦燦と受けている。

そのためか建物の中の温度は外気温よりも高く空気がもわんと生温かい。


アンナは温室の建物のガラス張りの天井を見ながらニンマリと笑みを浮かべる。


「これならケシュナットの管理にちょうどいいわ。外気も入らないし、温度も一定だし。とかくケシュナットは病害に弱い植物だからね。畑である程度育ててからここで最終生育をすればミキュアもたたくさん抽出出来るわ」

「ならばもう少し大きな温室の方がよかったでしょうか?」

「それはそうだけれどはじめはこれくらいの大きさでいいわ。最初から人手は多く出来ないからエミルが中心になって育てる予定だから」


温室を見回しながらエミルに視線を向けるとエミルは小さく頷いてアンナを見つめた。


「風車小屋も見てみますか?」

「そうさせてもらうわ」


温室の建物から外に出るとレンブル子爵は風車小屋にアンナ達を案内する。


地下水をくみ上げるだけの施設なのでこじんまりとしているが設備としては上々だ。

井戸は50メートルほどの深さがありロープに着いている桶が順次水を汲みあげている。

汲み上げられた水は配水管を通って温室の建物と花屋の建物の中へ流れ込んでいた。


「この水は飲めるの?」

「水質に問題はないのですが一応飲むためには蒸留しないといけません」

「そうなって来ると蒸留設備も必要になるわね」


アンナは持って来た洋紙にメモを取りながら必要な設備を書き記して行く。

その洋紙には試験管やフラスコなどの実験道具からろ過装置、燃焼装置などの設備まで記してあった。

メニューだけ見ればどこかの研究施設を思わせるような内容だ。

まあ、ミキュアを抽出して万能薬を作るのだからそれぐらいはないとダメなのだが。


「いかがですか、この物件は?」

「条件にぴったりの物件よ。ここに決めたわ」

「ご期待に添えて何よりです」


手もみしながら満足そうな顔を浮かべるレンブル子爵の笑みは優しい。

レンブル子爵にしても物件を売り払うことが出来たので上々なのだ。

物件を抱えているだけでも管理費などのコストがかかるからなるべく早く手放したいのが本音だ。


レンブル子爵が抱えている物件はイスタトールの街にたくさんある。

領主をしているから空き物件が集まって来て管理するだけでも一苦労。

なので販売の方は契約している不動産会社に任せているが一部の物件はレンブル子爵も扱っている。

レンブル子爵が他の領主や貴族と交流を持っているからいつでも販路を拡大しやすいからだ。


「あとは輸送の足の確保と道具の買い出しね」

「専属の行商人を雇いますか?」

「それだと返って高くつくから止めておくわ。それなりの生産量を生み出せないと商売にならないしね」


ある程度商品を抱えている商人は専属の行商人を雇って商品を運んでいる。

その方が輸送コストが抑えられるし大量に運べるからだ。

ただ、少量しかない場合は市場へ卸した方がコストが抑えられる。


専属の行商人を雇えばおのずと賃金が発生して来る。

商品を運んでいる時はもちろん戻って来る時も賃金が発生するからそれなりのコストになるのだ。

とかく行商人達は常に危険にさらされているので賃金もそれなりになって来る。

もし、盗賊や蛮族に馬車を襲われたら間違いなく行商人達は殺されてしまうのだから。

危険手当と言うわけでもないが賃金に上乗せされているのが現状だ。


だから行商人達は冒険者を雇って用心棒にするのだ。


「なら、商品を卸すルートの開拓が必要ですね。私が市場の人間に話をつけましょう」

「そうしてもらえると助かるわ」


アンナ達は馬車に乗り込んでイスタトールの街の市場へ向かった。


イスタトールの街は農業の盛んな街だけあって市場も巨大だった。

ちょうどイスタトールの街の中央にあり市場を埋め尽くすほどの農産物が運び込まれている。

その市場を取り仕切っているのがゴランダルと言う40代の男だ。

頭にターバンを巻き豊かな顎髭を蓄え恵まれた体躯を持ち親分を思わせるような風貌をしている。


レンブル子爵とは顔見知りで何かと世話になっている間柄だ。


「おっ、久し振りだな子爵。市場に何か用かい?」


見た目とは違って気さくな感じで話しかけて来るゴランダルはレンブル子爵の隣にいたアンナ達を興味深そうに見つめる。


「実はゴランダルにお願いしたいことがありましてね」

「また商売の話かい?」

「鋭いですね」

「子爵がここへ来るときはいつもそうだからな」


図星をつかれレンブル子爵は参ったかのような感じで笑いながら頭をひと掻きする。

それを見るなりゴランダルも豪快に笑いながら運んでいた荷物を降ろしてそこに座った。


「で、どんな商売だい?」

「万能薬を卸したいのですがここで扱って欲しいのです」

「万能薬かい。それはまた御大層なものを」


ゴランダルはひと唸りすると両腕を組みながら難しそうな顔を浮かべる。


「見ての通りここは農産物をメインに扱っている市場だ。だから、それ以外の商品の取り扱いは少ない。全く取引がないって訳でもないが少量なので流通量も少なくないのが現状だ。それでも卸すかい?」

「今のところここしか頼めるところはありませんしね」


真剣な眼差しを向けて来るレンブル子爵の態度を見てしばらく考え込んでいたゴランダルは手を打つと了承をした。


「子爵の頼みだから断るわけにもいかないだろう。わかった。うちで買い取ろうじゃないか。で、どれくらいの量を想定しているんだ?」

「そうね。とりあえずは万能薬100個と言ったところかしら」

「それは随分と少ないな」


アンナが提示した数に驚きの様子を隠せないゴランダルは腕を組みため息を零す。


普通、商品を卸す場合は1000個を1単位として買い取る仕組みになっている。

それは買い取り量が少ないと比例するように利益も目減りして行くからだ。

それに上乗せするように輸送コストもかかって来るから取引量を多くしているのだ。


アンナが提示した取引量ではかえってコストが高くなるからゴランダルとしても受け入れがたいのだ。


「もっと量を増やすことは出来ないのか?」

「それは難しいわね。最初からそれだけの万能薬を作るのは無理よ」

「そうなって来るとこちらでも受け入れ難くなるな。いくら子爵のお願いだったとしても」


ゴランダルは頭の中で計算をしながら難しそうな顔を浮かべてひと唸りする。

すると、その様子を見ていたレンブル子爵は交換条件を提示して来た。


「万能薬の買取を了承してくれたら税金面で優遇しますよ。悪くはない条件でしょう」

「何でそこまで推すんだい?万能薬なんて珍しくもないだろうに」

「それはこれがいずれビックビジネスになるからですよ」


ゴランダルの疑問に答えるレンブル子爵は誇らしげにニンマリと笑みを浮かべる。

アンナが組み上げたビジネスモデルは確実に成長すると判断したからだ。

ケシュナットから万能薬を作ることは他でも行われているので珍しくはないがそれほど流通量が多い訳でもない。

ミキュアを抽出する過程が複雑で量産化するには難しいからだ。


ただ、エミルの持っている『倍倍』の特殊能力を使えばケシュナットも万能薬も増やすことが出来る。

容易に生産量を増やせるからこそこのビジネスモデルが成り立っているのだ。


「子爵がそこまで言うなら受けようじゃないか。大船に乗ったつもりでいていいぞ」

「頼もしい言葉です」


ゴランダルは覚悟を決めると胸を張って啖呵を切った。


「これで販売ルートは確保出来たわね」

「残るは道具の買い出しですね。この街にあるでしょうか?」

「この街で全て揃えるのは難しいわね。だから一度、王都マグナカウスへ戻るわよ」


不安げな様子でエミルが尋ねるとアンナはメモを見ながら難しい顔を浮かべる。


イスタトールの街へ来てから一通り街を見てみたが実験道具に使えるようなものは売っていなかった。

もともと農産物が主要産業なだけに取り扱っている道具類も農産業に関わるものが多い。

王都マグナカウスと比べたら一回り時代が遅れているような印象を受けるが農業面で見れば最先端を行っているのだ。


「では、こちらの準備は私が済ませておきます」

「そうしてもらえると助かるわ」

「いろいろと迷惑をかけて申し訳ないです」

「いいんですよ。エミルさんは大事なビジネスパートナーですから」


恐縮しながらエミルが深々と頭を下げるとどうってことないと言うようにレンブル子爵は優しい笑みを浮かべた。


アンナとエミルはレンブル子爵の言葉に甘えてイスタトールの街の準備を任せると王都マグナカウスへ戻った。





イスタトールの街と比べて工業が発達している王都マグナカウスの道具屋はお目当ての道具がたくさん揃っていた。

顕微鏡をはじめ、フラスコ、アルコールランプ、試験管、ろ過装置、蒸留機械、燃焼装置などありとあらゆる実験道具がある。

おまけに魔鉱石を使った特殊な道具まで取り扱っていた。


「これだけ揃っていると目移りするわね」

「どれがいいのか私にはわかりません」


ミキュアの抽出などしたことないエミルにはちんぷんかんぷんでどれも同じように見えた。

すると、アンナがメモを取り出して道具屋の主人に注文をした。


「おじさん。ケシュナットから万能薬を作るための道具を一通り揃えてちょうだい」

「実験でもするのかい?」

「まあ、そんなものよ」


道具屋の主人の質問に曖昧に答えるアンナは催促するような視線を向ける。


だまって言うことを聞きなさいと言わんばかりの態度だ。

まあ、素人のエミルから見てもどの道具を揃えればいいのかわからないから無理もない。

自分で探すよりも道具屋の主人にお任せした方が早いのだ。


道具屋の主人はアンナの注文通り店の中の商品を掻き集めながら道具を揃えて行く。

試験管やフラスコなどの細かな実験道具からろ過装置や蒸留装置などの大きなものまで。

ものの30分もするとカウンターの上は道具でいっぱいになった。


「どっこいしょと。こんなとろかい」

「随分と多いわね。これじゃあ運び出すのも一苦労よ」

「ケシュナットからミキュアを抽出して万能薬を作るのだからこれぐらいないとダメだよ」


カウンターの上に並べられた道具類を見てアンナは呆れ顔を浮かべると道具屋の主人は当然のような顔をしながら言葉を吐いた。


「で、お代はいくらかしら?」

「全部で金貨30枚だ」

「結構、高いじゃない」

「魔鉱石で作った道具も入っているからな」


アンナは懐から金貨30枚入った袋を取り出すと道具屋の主人に渡す。

それを受け取るなり道具屋の主人が袋の中を確かめて満足そうな顔を浮かべる。


「道具は後で運ぶから預かっておいてちょうだい」

「人手ならうちでも用意できるが」

「余計な出費は押さえたいからね。マークに任せるつもりよ」


そう言ってアンナ達は道具屋を出てマークがいる宿屋へ向かった。


アンナとエミルがイスタトールの街へ向かうことになったのでマークには別行動をとってもらっていた。

別行動と言ってもマーク達騎士団候補生は王都マグナカウスの外壁修復に借り出されていた。

日当、銀貨1枚支払われるのでこぞって小遣い稼ぎのために力を注いでいたのだ。


おかげで外壁修復作業ははかどり3ヶ月ほどで半分まで完成するまでに至っていた。


「マーク。いる?」


宿屋の扉をノックしながらアンナはマークを呼び出す。


「マーク。いないの?」


しばらくすると扉の向こうからガサガサ音がしてマークが顔を出した。


「いるならいるって言いなさいよ」

「すみません。ちょっと寝ていたものですから」

「昼寝なんて御大層なことね」


部屋に入ると荷物や酒瓶が辺りに散らばっていてさながらゴミ屋敷を思わせる様だった。

見た目はしっかりしているような風貌をしているけれど意外と片づけられない性格のようだ。


エミルは部屋に入るなり肩を怒らせながらマークに詰め寄る。


「マーク。これはどう言うこと?」

「このところ外壁の修復作業と宿屋を往復しているだけの毎日だから気が緩んじゃって」

「マークがこんなにだらしない男だとは思わなかったわ」


マークのだらしない行動を叱るエミルはまるで母親のようだ。

これまで一緒に旅を続けて来て気づかなかったのだろうか。

あながちエミルと一緒だったから気が抜けなかったのかもしれない。


「浮気をしていなかっただけでもよかったじゃない」

「う、浮気だなんて」

「ぼ、僕はそんな不誠実な人間ではありません。エミル一筋ですから」


急にのろけだすマークを見てアンナは呆れ顔を浮かべると話を戻した。


「それよりマークに用があって来たのよ」

「僕にですか?」

「実験道具を運んでもらいたいと思ってね」


アンナは部屋の窓際に立って外に止めてある馬車を確認してからマークに視線を戻す。


「エミルのビジネスの目途が立ったんですか?」

「畑も研究室も確保したし、販売ルートも開拓したわ」

「それは凄いじゃないですか!」

「まあ、私に任せればこんなものよ」


驚きを隠せないマークの様子を見てアンナは満足したように口角を上げた。


オーディションを成功させたアンナにとってこの程度のことは朝飯前だ。

このビジネスを開拓させたことで新たな人脈も形成出来たし得たものは大きい。

ただ、このビジネスははじまったばかりなので気が抜けないのも事実だ。

今後、エミル達がどう行動するかによって成否が分かれるから頑張ってもらいたい。


「だけど目標を達成できるかはあなた達にかかっているの。何としてでも成功させてちょうだい」

「もちろん、アンナさんの期待に応えられるように頑張ります」


アンナがはっぱをかけるとエミルは一歩前に踏み出して宣言をした。


「エミルだけに任せてばかりではダメよ。あなたの力も必要なんだから」

「わかってます。エミルの支えとなって頑張ります」


マークはエミルと視線を合わせると小さく頷いて意志を統一させる。

2人で何かを成功に導く時には意志を統一させておくことが重要だ。

とりわけビジネスのような難しいことをはじめるならば余計に。


もちろんアンナも全力でバックアップすることは忘れない。

このビジネスを成功に導ければ利益も生まれるし成功体験も積めるからアンナにとっても有益だ。

さらなるビジネスの開拓に勢いがつく。

そして世界を支配する大富豪になるのだ。


アンナがニンマリとしながら妄想を描いているとエミル達の冷ややかな視線が注がれた。


「そ、それじゃあ道具屋へ戻るわよ」

「その前に部屋の片づけをしたいです」

「そんなの後でマークにやらせなさい。でないとクセになるわよ」


部屋の片づけを出来ない者はこぞって掃除する習慣が身に着いていない。

なんでもエミルが片づけてしまうからマークが掃除する機会がないのだ。

これから先、いっしょに生活して行く上でもマークに掃除することを教えておいた方がいい。


「こ、これはたまたまですよ。いつもはこんなのじゃありませんから」

「はいはい。そう言うことにしておいてあげるわ」


いい訳をしてくるマークを連れてアンナ達は道具屋へ戻って行った。


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