あるある170 「楽観的に戦いがち」
カイトが課した実力テストも最終組を迎えるまでになっていた。
最終組であるライレイは物怖じすることなく余裕気な顔を浮かべている。
エマ達がラナナコールダンジョンを先に攻略したことで自信が沸いていたからだ。
両手を伸ばしたり腰を伸ばしたり準備運動をしながら今か今かとスタートを待っていた。
「いつでもいいぞ」
「あら、そう。なら1時間で戻って来るわ」
「随分と強気に出たな」
「エマ達が先に一掃してくれたからね。残っているモンスターも少ないはずよ」
自分が最後になった時からライレイはこうなることを予想していた。
くじ運がいいと言うかツイていると言うかこれもライレイの実力であることに間違いはない。
よく勝利を手にした者が口を揃えて言うのが「運がよかった」との言葉。
「運も実力のうち」と言われるように勝利を手にする者は運をうまく使うのだ。
それは今のライレイにも同じことが言えるのだった。
「それじゃあ行ってくるわね」
「期待しないで待っているよ」
ライレイは松明を片手にラナナコールダンジョンの中へ進む。
その足取りは軽くジョギングしているかのように軽やかに駆けて行く。
ものの数分もすると第一階層の”岩砕土竜”の巣までやって来た。
「派手にやったみたいね」
松明を掲げて辺りを照らすと穴ぼこだらけの大地が目に入った。
鍋肌のフラットな地面は見る影もなく大穴と掘り出した土砂が散乱している。
その状況を見てライレイはピンと来たのか大きな石を拾い上げると大穴に向かって放り投げた。
大きな石は地面を叩きながらカランコロンと音を立てて大穴に落ちて行く。
すると、その振動に反応した”岩砕土竜”が勢いよく飛び出して来た。
「やっぱりね。”岩砕土竜”って言うぐらいだから地中に潜んでいると思ったのよね。振動に反応しているみたいだからモグラ叩きの要領で進めばいいかも」
状況と情報から的確な作戦を組み立てるとライレイは構えて足を踏みしめる。
そして息を吐き出すタイミングで大地を蹴って鍋肌の地面に降り立った。
同時にその振動を感知した”岩砕土竜”が勢いよく飛び出して来る。
大地の膨らみを足の裏で感じとりながらライレイは瞬間に高く飛び上がり”岩砕土竜”の攻撃をかわす。
「そんな攻撃で私を仕留めようなんて甘いわよ」
ライレイは空中で体制を整えると”岩砕土竜”の頭目がけてナックルパンチをお見舞いする。
その放たれた拳は覇気を纏い”岩砕土竜”の頭がベコリと凹ませ勢いのまま地面に叩きつける。
意表を突かれた”岩砕土竜”は逃げるように大穴へ戻って行った。
「まずは1匹目」
体を前方に回転させながら地面に着地すると再びその振動を感知した別の”岩砕土竜”が勢いよく飛び出して来た。
「性懲りもなく」
”岩砕土竜”の飛び出して来た勢いを使って高く飛び上がるとライレイは攻撃体制に入る。
狙いを”岩砕土竜”の頭に合わせて覇気を纏わせたナックルパンチを勢いよく放った。
”岩砕土竜”はライレイの攻撃をかわすことなく頭で受け止めると骨の砕ける音が辺りに鳴り響く。
そして痛みに堪えきれなかったのか慌てて逃げるように大穴へ戻って行った。
「2匹目」
ライレイの顔に全く焦りの表情は見られず戦いを楽しむかのように笑みを浮かべる。
モグラ叩きをする要領で”岩砕土竜”を1匹ずつ仕留めて渡り歩いて行く。
それは戦いを思わせるよりもゲームをしているかのようにリズムよく軽やかに進む。
そして無傷で対岸の出口まで辿り着くと後ろを振り返って大きく肩を回した。
「たわいのない相手だったわね。エマ達に感謝だわ」
ライレイが一番手であったらこうも簡単に攻略は出来ていなかっただろう。
カイト情報から”岩砕土竜”の特徴はわかったとしても振動を感知して攻撃を仕掛けて来ることまでは予測できなかったはずだ。
エマ達が先に戦ってくれたおかげで地面に大穴が出来ていたからこそ的確な戦略を立てられたのだ。
「次はどんな相手かしら。楽しみだわ」
ライレイは踵を返すと第一階層のスロープを軽やかな足取りで降りて行き第二階層を目指す。
本来であれば”岩砕土竜”を一掃して魔石を拾い集めるところだが本来の目的ではないのでスルーする。
カイト達に時間を宣言しているし余計な時間をかけることは出来ないのだ。
第二階層も第一階層と同じで”シルバーゴーレム”の残骸が散らばっていた。
数はそれほどないが数体の”シルバーゴーレム”がそのまま横たわっている。
頭を破壊されたものや腕を切り落とさられたもの、足のないものまであった。
その傍らにはエマが撃ったであろう銃弾も散らばっていた。
「エマ達も派手にやったようね」
辺りを見回せば”シルバーゴーレム”達が群れをなして待ち構えている。
それを見るなりライレイは拳のナックルを握りしめニヤリと笑みを浮かべた。
「倒しがいがある相手ね。かかって来なさい。まとめてぶち倒してやるから」
そのライレイの期待に応えるかのように”シルバーゴーレム”達が動き出す。
大地を揺らしながら1歩、1歩と重い体を踏み出して近づいて来る。
そして攻撃圏内までやって来ると右手を振り上げてパンチを繰り出して来た。
「甘いわね。私はここよ」
いとも簡単にライレイは”シルバーゴーレム”の軌道から外れて高く飛び上がる。
パワーはあるが”シルバーゴーレム”の動きが鈍いので回避するのは容易だ。
”シルバーゴーレム”のパンチは地面を抉り大きな穴を開ける。
それを確認するなりライレイは”シルバーゴーレム”の腕に着地して駆け上がって行く。
「いくらパワーがあったからって当たらなければどうでもないのよ」
ライレイは”シルバーゴーレム”の顔の前まで駆けて来るとナックルパンチを頬面にぶち込む。
すると、”シルバーゴーレム”の頬面が砕け散りパンチを象るように大きな穴が開いた。
グオオオオオ。
声にもならないうめき声を上げる”シルバーゴーレム”は膝を折って崩れ落ちる。
ただ、その攻撃が”シルバーゴーレム”の怒りを買ったようで目を赤く光らせながら咆哮を上げた。
それに呼応するように周りにいた”シルバーゴーレム”も雄たけびを上げ洞窟内を震わせる。
「ようやくやる気になったようね。そうでないと面白くないわ。さあ、来なさい」
ライレイは余裕気な顔を浮かべながら右手を出して指を折曲げ挑発する。
それを知ってか知らずか”シルバーゴーレム”達は一斉に動き出しライレイを取り囲む。
そして虫を押しつぶすかのように拳を振り上げてパンチを繰り出して来た。
雨嵐のように乱れるような攻撃にもライレイは冷静に対応しパンチをかわして行く。
「遅い、遅い。もっと本気を出しなさい。でないと私を倒せないわよ」
足を踏みしめて高く飛び上がると一気に”シルバーゴーレム”の懐に飛び込む。
そのまま体を回転させて勢いをつけると”シルバーゴーレム”の鼻面にナックルパンチをお見舞いする。
勢いのついたナックルパンチは破壊力を増して”シルバーゴーレム”の頭もろとも粉砕した。
間髪いれずにライレイは”シルバーゴーレム”の体にナックルパンチの連打を叩き込む。
「オラオラオラ!」
”シルバーゴーレム”は攻撃をかわすことなくナックルパンチの餌食になり体に無数の穴を作った。
そしてライレイが地面に着地するとくるりと踵を返して背を向ける。
そのタイミングで”シルバーゴーレム”の体に無数の亀裂が生じ粉砕されて粉々に崩れ落ちた。
ライレイは同じようにして周りにいた”シルバーゴーレム”を血祭りにあげて行く。
その勢いは止まらずにものの数分で”シルバーゴーレム”の残骸の山を造りあげた。
「残念ね。あなた達は私の敵じゃなかったみたい」
生き残った”シルバーゴーレム”に背を向けながら落ちていた魔石を拾い上げる。
青色に輝く魔石は僅かな光を反射させながら海のような深みのある色味を見せる。
それを見るなり残念そうな顔を浮かべながらライレイは青色の魔石を放り投げた。
「これを売れば銀貨1枚になるのだけれど全部は持って行かれないわ。こんなことならリュックを持って来るべきだったわ」
拳大ほどある魔石は荷物になってしまい持って帰ることが困難だ。
仮に全部持って帰っても戦いの邪魔になるからいずれ捨てないといけなくなる。
後で回収に来ると言う手もあるがカイトがどう判断するかわからないから今は諦めよう。
「じゃあね。機会があったらまた相手をしてあげるわ」
ライレイが背を向けて立ち去ると”シルバーゴーレム”は追撃することなくその場に立ち尽していた。
力の差をまざまざと見せつけられたからだろうか、ここでライレイを仕留めることは危険と判断したようだ。
第二階層のスロープを降りて第三階層へ向かうと水を張った棚田状の洞窟へ辿り着いた。
水面には”バオバオ”がユラユラと浮かんでいてライレイを待ち構えている。
しかし、攻撃して来る意志はないようでライレイの状況を見守っていた。
「何?ここへ来てスライムなの。バカにしないでよ」
最弱モンスターのスライムの登場にライレイのやる気も削がれて残念そうにぼやく。
さっきの”シルバーゴーレム”も弱かったけど”バオバオ”はさらに輪をかけるような弱さだ
冒険初心者が練習相手にするようなレベルのモンスターだけにライレイの期待も崩れ落ちた。
「あなた達を相手にするほど私は落ちぶれていないわ。見逃してあげる」
ライレイは拳を下げると松明を持って”バオバオ”の間を通り抜けて行く。
”バオバオ”と”バオバオ”の間隔は狭いのでいつぶつかってもおかしくない。
すると、足を引っかけて躓いてしまい”バオバオ”に手を伸ばした。
”バオバオ”はむにゅんと凹んでライレイの体重を体で受け止める。
そこへさらに力が加わると”バオバオ”の体が破裂して辺りに毒ガスを撒き散らした。
「何、これ?」
ライレイは慌ててその場から離れたが僅かばかりの毒を吸ってしまい咳き込む。
肺や喉が焼けるように熱くなり、息苦しさを覚えてぜえぜえと過呼吸気味になる。
たまらずに膝を折って崩れ落ち、深い呼吸をして落ち着きを保とうと試みる。
僅かばかりの毒ガスでこの程度だからもっと吸っていたら命の危険が及んでいたはず。
そう考えると浅はかな自分の判断を後悔するのだった。
「ハアハアハア。危なかったわ」
ライレイはカイトからもらったモンスター情報をに目を通して確認する。
第三階層にいるモンスターは”バオバオ”と呼ばれるスライムモンスターで毒を持っていると言う。
自らは攻撃して来ないが群れで行動するタイプのモンスターで注意する必要があると書いてあった。
改めて周りを見渡せば”バオバオ”が群れをなして揺らめいている姿が映った。
もし、仮にこの場にいる”バオバオ”が全て爆ぜたらこの空間は毒ガスが充満し生けとし生けるものを死においやるだろう。
それだけ猛毒性の強い毒ガスだから全ての生き物が死ぬはずだ。
ある意味”バオバオ”は最強のモンスターと言えるかもしれない。
一個体が消えても分裂して増えるし、自ら攻撃はして来ないしで。
「こんな奴らはスル―するのが一番ね。君子危うきに近寄らずだわ」
ライレイは額に流れる汗を拭いながら改めて松明を手にとる。
そして”バオバオ”にぶつからないようにしながら第三階層の出口まで向かった。
「戦いの痕跡がないところを見るとエマ達も私と同じ方法をとったみたい。まあ、こんな奴相手に戦うなんて無謀なことだからわかるけどね」
後を振り返って”バオバオ”の群れを見やるとゾクッと背中が震えるのを覚えた。
第四階層まで来ると”骸骨騎士”の大群が剣を手に取り待ち構えていた。
エマやカスミが”骸骨騎士”を目覚めさせたから棺の外に出ていたのだ。
その数は”シルバーゴーレム”の群を上回って数十体もいる。
全ての”骸骨騎士”が兜と鎧を身に着け剣を片手に盾を構えている。
「戦いがいありそうな相手ね。私を楽しませてちょうだい」
拳のナックルを握り直して満足気に笑みを浮かべるとライレイは”骸骨騎士”の群に飛び込んで行った。
”シルバーゴーレム”のようにタッパがないから人間と戦う時のように戦える。
それは武者修行を重ねて来たライレイにとって戦い易い相手でもあった。
ライレイは一気に懐に飛び込むと”骸骨騎士”に自慢のナックルパンチを叩き込む。
すると、”骸骨騎士”はすぐさま反応して黄金の盾で攻撃を防いで来た。
「やるじゃない。だけど、これなら」
軸足の左足を中心に体を回転させて”骸骨騎士”の左わき腹に回し蹴りを食らわせる。
その素早いライレイの判断について来れず”骸骨騎士”はまともに攻撃を受けあばら骨が何本かいかれた。
間髪入れずにライレイはナックルパンチの連打を”骸骨騎士”に叩き込んでねじ伏せる。
流れるような連続攻撃に対応出来ずに”骸骨騎士”の体は粉砕されて粉々に砕け散った。
「どうかしら私の連続攻撃は?」
ライレイは後方に飛び退いて”骸骨騎士”の大群と間合いをとる。
そして次の獲物に狙いを定めると真っすぐに突進して行った。
”骸骨騎士”にとってライレイは戦い憎い相手でもあった。
剣の有効範囲よりも中側に入られるし、動きは素早いしで。
いくら盾を持っているからと言って全ての攻撃を防げることはないのだ。
おまけに”骸骨騎士”が群れをなしているのでお互いが邪魔になって攻撃もままならないでいた。
「数が多ければ有利ってことじゃないのよ」
”骸骨騎士”が薙ぎ払って来た剣をしゃがんで避けると軸足を踏みしめて力を溜め蹴り上げる。
その勢いのままナックルパンチを真っすぐ放って”骸骨騎士”の顔面に叩き込む。
瞬間、”骸骨騎士”の頭はあらぬ方向に折れ曲がり、首ごと捥げて地面に転がった。
ライレイは一息つく間もなく連続攻撃で”骸骨騎士”達を圧倒して行く。
それに対抗するように”骸骨騎士”の大群も剣を振り下ろすが一向にあたらない。
ライレイの素早さについて来れずに手をこまねいていた。
瞬きする間にライレイの連続攻撃がなされ”骸骨騎士”が1体、1体と残骸に変わって行く。
その様はリズミカルでピアノの鍵盤を叩くような軽やかさだ。
「あなた達の実力はこの程度なの?たわいもないわね」
少し残念そうな顔を浮かべながらもライレイの攻撃は止まない。
”骸骨騎士”の数だけ手数があり土砂降りのように乱れ打っていた。
ものの数分のうちに3分の1の”骸骨騎士”が残骸となり果てると他の”骸骨騎士”の動きも止まる。
目の前にしている相手は自分達のはるか上を行く存在と言うことを認識して戦意を喪失させていたのだ。
ただ”骸骨騎士”として生まれた以上、死に恐れはなく最後まで戦わなければならないのも事実。
”骸骨騎士”達は剣を掲げると顎をカタカタと鳴らして士気を高めた。
「そうこなくちゃ面白くはないわ。まとめて相手をしてあげる」
ライレイは両手を前に出して気合を入れ直すと”骸骨騎士”に立ち向かって行った。
振り下ろされる剣をかわしながらナックルパンチの連打を叩き込む。
時にフェイントを使って回し蹴りを食らわせながら相手のリズムを崩す。
戦いにおいては自分の流れを作った方が勝利を治めるものだ。
そのことを武者修行の中で見出して来たライレイは心得ていた。
だからこそ自分の戦い方で流れを作り”骸骨騎士”達を圧倒して行った。
「これで終わりね。さよなら」
最後の一撃を”骸骨騎士”の胸ぐらにぶち込み粉砕させる、ライレイの顔には笑みが浮かんでいた。
第四階層にいた全ての”骸骨騎士”は残骸と化していて辺りには持ち主を失った剣や盾が虚しく転がっていた。
さすがのライレイも戦いを終える頃には息が上がっていて大きく肩で息をしながら呼吸を整える。
この先に最下層が残っているのにも関わらず無駄に体力を使ってしまったことを少し後悔していた。
「ハアハアハア。ちょっとやり過ぎちゃったかしら。これじゃあ1時間じゃキツイかも」
ライレイは体を揺らせながら第四階層のスロープを降りて最下層へ向かう。
その足取りからも疲れが滲み出ていて一歩踏みしめるのがやっとだった。
最下層はだたっ広い空間が広がっていて中に”碧小竜”が群れをなして休んでいた。
カイト情報によれば”碧小竜”は頭に2本の角を持ち両手両足に鋭い爪を持つ小竜。
「龍の子供」とも呼ばれているが実際に龍の子供ではなく別の種類のモンスターだ。
気性が荒く一度火を点けると死ぬまで攻撃を止めない攻撃性の高い特性を持っている。
なので冒険者の間では「小竜に会ったら戦を避けよ」が常識となっているのだ。
「最後に嫌な相手と出会っちゃったわ。負けちゃうかも」
さすがのライレイも今の状態では勝機はないようで顔を曇らせていた。
最初からカイト情報に目を通しておけばよかったのだがすっかり忘れていた。
楽観的なライレイにはカスミのように戦略を立ててから戦うと言う選択肢がないので怠ったのだ。
おかげで今は結構危機的な状況に追い込まれている。
「エマ達はどうしたのかしら?」
辺りを見回しても弾痕などは残っておらず戦った形跡も見られない。
その状況から察するにエマ達は”碧小竜”とは戦わない作戦をとったことが窺える。
ただ”碧小竜”達に気づかれずに最深部まで行くことも非情に困難だろう。
何せ、辺りを埋め尽くすように”碧小竜”が群がっているのだから。
今は眠っているが一度目を覚ましたら止まらないだろう。
動きも素早そうだし、追い駆けられたら逃げるのもままならない。
おまけに硬そうな鱗で覆われているので防御力も高そうだ。
それが数十を超える群れをなしているのだから厄介だ。
すると、小脇に横穴が開いてるのを目に留めた。
「何、ここは?」
覗いてみると広間を避けるようにぐるりと蛇行して穴が続いている。
先は真っ暗で見えないが”碧小竜”の群を避けられそうなことがわかった。
もしかしたらエマ達もここを通り抜けて最深部へ行ったのかもしれない。
ライレイは迷わずにその道を選択すると松明を掲げて横穴に入って行った。
「随分と狭い穴ね。這って行かないと前へ進めないわ」
横穴は四方50センチほどの大きさで大人が四つん這いになってやっと通れるくらい。
小柄なエマなら余裕で通り抜けられただろうけどカスミやライレイにとってはちょっとキツイ。
それでも体を小さくしながら這うように横穴を通り抜けて行った。
100メートル進んだところで大きな空洞の中へ辿り着いた。
そこには地の底まで続いているような大きな穴が広がっている。
30センチぐらいの足場がなぞるように連なっているので落ちることはないが。
松明を掲げて下を覗き込んでも暗闇が広がっているだけで何も見えなかった。
「何、ここ。地獄の入口みたい」
ダンジョンの断面図にも記されていない場所でこの先に何があるのかわからない。
ただ、地の底からひんやりとした風が吹いて来てライレイの肝を冷やした。
「嫌な感じがするわ。何というか得体のしれない生き物が地の底にいるようで」
すると、地響きが微かに聞えて来たかと思えば巨大な穴が大きく揺れ出した。
ライレイは慌てて壁に突き出ていた岩に捕まってその揺れを凌ぐ。
その揺れは地震とは違い何かが地の底を這っているかのような揺れだ。
恐る恐る穴の底を目を細めて見やるが暗闇で覆われていて何も見えない。
そこでライレイは手に持っていた松明を思い切って大穴に放り投げてみた。
松明は辺りを照らしながら暗闇に吸い込まれて行く。
夜空に浮かぶ星のように小さくなって行くと何かにぶつかったように軌道が変わった。
その時に松明の灯かりが照らしていたのは大きな白い色をしたうろこ状の何か。
一瞬であったのではっきりと目に留められなかったがライレイは確かに何かを見た。
「何よ、あれ。あんな大きな化け物は見たことないわ」
さすがのライレイもあんなに巨大なモンスターを見たことはなく驚きを隠せないでいる。
同時に只ならぬ悪寒が襲って来て無意識のうちに体を震わせていたことに気づいた。
「こんな所にいられないわ。早く逃げないと」
ライレイは震える足を踏み出して足場を渡り出口の横穴まで通り抜け最深部へ向かった。
その後のことははっきりとは覚えていない。
ただ、その場から逃れることだけを考えて一目散に逃げて来たのだ。
再び地上に戻った時は生き延びたと言う安堵に襲われその場にへたり込んでいた。
「ハアハアハア。助かったわ。でも、これでミッションはクリアしたわ」
掌の上の玉を握りしめてカイト達のところへ戻る。
すると、デジャブのようにカイトが文句を言って来た。
「お前もそっちから戻って来たのかよ」
「まあ、いいじゃないか。これでライレイも合格ってことだからな」
「改めてよろしくお願いしますね、ライレイさん」
満足そうな顔を浮かべているミゼルも改めて挨拶するセリーヌもすっかり納得していた。
ただ、ライレイは穴の底で見た巨大な生き物のことを告げられないでいた。
と言うよりもミッションをクリアした喜びですっかり忘れていたのだ。
まあ、あの巨大な生き物の正体を知ったところで戦う訳でもないので問題ないが。
「それじゃあお前達のカイト軍団への入団を正式に認める。これからよろしくな」
「改めてよろしくなのじゃ」
「誠心誠意力を尽くします」
「これで冒険が楽しくなるわね」
カイトはひとりひとりエマ達と握手を交わすと念を押すように告げた。
「言っておくがリーダーは俺だからな。そこのところを忘れるなよ」
「わかっておるのじゃ。お主がリーダーじゃろう」
「お前が一番わかってないようだからな。リーダーの言うことは絶対だからな」
「しつこい奴め。あとで覚えておくのじゃ」
しつこく迫るカイトを煙たそうにしながらエマは小さくぼやいた。
「なんか言ったか?」
「何も言ってはおらん」
そんなしょうもないやりとりを眺めながらライレイはホッと胸を撫で下ろした。




