あるある016 「どこででもお茶会をしがち」
今朝は最悪の目覚めだった。
昨日の酒が残り二日酔いになってしまった。
頭がガンガン割れるように痛く、体もだるい。
まだ酒が残っているようで意識も朦朧としていた。
そこへエレンが大声で叫びながら部屋の扉を激しくノックする。
「おい、カイト。いつまで寝ているんだ。もう、昼だぞ!」
「うっ……頭が割れる」
あまりの頭痛に頭を抱えて蹲る。
「カイト!聞こえているんだろ。早く扉を開けろ!」
「うっ……煩いな。頭に響くじゃないか」
「カイト!」
俺はがばっとベッドから飛び起きて部屋の扉を勢いよく開ける。
「朝っぱらからうるせえな!」
「何だ、起きていたのか。出掛けるぞ」
「俺は行かない。お前らだけで行って来い」
「大丈夫ですか、カイトさん?」
セリーヌが心配気な顔つきで俺の顔を覗き込む。
「どうせ二日酔いだろ」
「昨日、浴びるように酒を飲んでいたからね」
「二日酔いですか。お大事に」
「私達は街をブラブラして来るからな」
「はよう、行って来い」
俺は頭を抱えながら部屋の扉を閉めてベッドに潜り込んだ。
ちょっとの振動でさえ頭を刺激する。
こう言う時はおとなしく寝ているのが一番だ。
どうせあいつ等はショッピングでもして来るのだろう。
たまの休日だ。
のんびりするがいいさ。
ゴーレム討伐の時に得た宝石を売りに質屋へ向かうエレン一行。
トイプーを抱きかかえてセントルースの街の大通りを進む。
アンナは宝石を売ることにあまり乗り気じゃなかったが持っても気持ち悪いので売ることに決まった。
まあ、死体が持っていた宝石だ。
何かしら憑いていてもおかしくない。
もしかしたら呪いがかけられているかもしれないのだ。
そんなものはとっとと金に換えてしまうのがいい。
「この宝石、いくらぐらいになるだろうな」
「サイズが大きいからそれなりの値になるだろう」
「私はあんまり売りたくはないんけどな」
アンナは宝石の入った袋を物欲しそうに眺める。
「このところ毎晩、お酒ばかり飲んでいましたからお財布もすっかり軽くなってしまいましたわ。そろそろ補充しないと底をついてしまいますわよ」
「みんなエレンの胃袋に消えていったようなものだわ」
「ハハハ。褒められると照れるな」
「誰も褒めてないわよ」
エレンのボケにツッコミを入れるアンナ。
出費のほとんどは宿代と飲食代だ。
とりわけエレンは大食いで大酒飲みだから余計に出費がかさむ。
このところクエストもほとんど受けていないし収入が途絶えている。
近いうちにクエストを受けて報酬を得ないとダメだ。
「おお、ここみたいだぞ」
「随分と古ぼけた質屋だな。今にも潰れてしまいそうじゃないか」
質屋の外観は古ぼけていて看板も傾いている。
見るからに潰れかけの店だ。
窓ガラスは埃でくすんでいて中がよく見えない。
「とりあえず中に入りましょう」
セリーヌが質屋の扉を開けるとギギギーと鈍い音が鳴る。
金具が錆び付いているようで半分しか開かなかった。
「これじゃあ入れないですわね」
「こういう時はこうするんだよ」
エレンは扉の前に立つと勢いよく蹴り飛ばした。
すると、扉の金具が外れてバタンと倒れた。
舞い上がった埃の中から店主のゼフが顔を出す。
「おいおい、店を壊すつもりか?無茶をしやがって」
「ごめんなさい。扉が開かなかったものですから」
「この扉を開けるにはコツがいるんじゃ。まあ、でもそろそろ直そうかと思っていたのじゃがな」
店主のゼフは笑いながらカウンターに戻る。
店の中には質屋らしく様々な商品が所狭しと並べられている。
金ぴかの武具類や装飾品、煌びやかな宝石まである。
これでよく泥棒に入られないのが不思議だ。
「それで何か用か?」
「この宝石を買い取ってもらおうと思ってな」
エレンがアンナから宝石の入った袋を受け取るとカウンターに乗せる。
店主のゼフは宝石を取り出して鑑定をはじめる。
専用の眼鏡で覗きながら光にあてて宝石のきらめきを確認する。
そして静かに鑑定結果を伝える。
「これは全部、ガラスで出来た偽物じゃ。一文にもならない」
「えっ!嘘でしょ!廃坑の中にいた盗賊から頂いて来たのよ」
「おそらく、その盗賊は偽物を盗んだのじゃな。貴族達は盗難に備えて偽物を飾っておく習慣があるのじゃ。だから、その盗賊も何も知らずに偽物を奪ったのじゃな」
「そんなぁ……」
アンナはガックリと肩を落として崩れ落ちる。
「そんなに落ち込むなよ、アンナ。また、次があるさ」
「ミゼルは前向きでいいわね。あんな棚から牡丹餅的なことは二度と起こらないわ」
すると、エレンが金ぴかの剣と王冠をカウンターに乗せる。
「なら、これも偽物ってことか」
「どれ、見せてみろ」
店主のゼフは金ぴかの剣を光に翳す。
重さを図ってみたり叩いて音を確認する。
そして。
「精巧に出来ているが、これも金メッキをただ貼りつけてある偽物じゃ」
「全部、偽物なの。あの盗賊は三流以下じゃない」
アンナは悔しそうに床を叩く。
まあ、盗賊の骸骨から盗んで来たものだ。
偽物であっても仕方がない。
トイプーの勘てやつもあてにならないと言うことだ。
「仕方ありませんわ。行きましょう」
「ちょっと待て。お主ら店の扉を壊したままで帰るつもりか?」
「どうしろと言うんだ?」
「もちろん弁償してもらう」
店主のゼフは算盤を弾きながら修理代をはじき出す。
「修理代はしめて銀貨1枚じゃ」
「銀貨1枚だと!こんなボロボロの扉で銀貨1枚は高過ぎる!せめて銅貨1枚だろう」
「同じものは他にないから高くつくのじゃ」
「ぼったくりよ」
「何とでも言うがいいさ。じゃが、弁償はしてもらうからな」
店主のゼフは悪びれた様子もなく飄々と言ってのける。
すると、セリーヌが仕方なさそうに財布から銀貨1枚を取り出す。
「ちょっと、セリーヌ。本気で払うつもり?」
「仕方ありませんわ。扉を壊したのは事実ですし」
「それならエレンに修理させればいい。壊したのはエレンなのだからな」
「おい、ミゼル。私が扉を壊さなければ中に入れなかったのだぞ」
エレン達は弁償するのかしないのかで揉めはじめる。
その様子を眺めていた店主のゼフは呆れ顔を浮かべる。
しばらくの間、おばさん達の見苦しい争いを見守る。
そして、大きなため息を零しながらおもむろに口を開いた。
「そんなに弁償するのが嫌なら代わりにお使いをすませてくれれば勘弁してやってもいいぞ」
「お使いって何です?」
「この白金鉱石とルビーを鍛冶屋のトムに届ける使いじゃ。簡単じゃろ」
「そんなこと自分でやればいいだろう?」
「ワシはこう見えても忙しいのじゃ」
「そうは見えないけどな」
ミゼルが店の中を見回しながら本音を漏らす。
「嫌なら別にいいんじゃけどな」
「わかりましたわ。お引き受けいたしましょう」
「セリーヌ、本気かよ?」
「鍛冶屋はすぐそこですし問題ないですわ」
セリーヌは店主のゼフから白金鉱石とルビーを受け取る。
「まがっても盗むのじゃないぞ」
「そんなことをするかよ」
「お前さんはそんなことはしないだろうが、お隣さんはどうかな」
横を見ると目を輝かせているアンナの姿があった。
「安心してください。アンナさんは宝石が好きなだけですから」
「それじゃあ頼んだぞ」
セリーヌ達は質屋を後にすると鍛冶屋へ向かった。
「しかし、あの爺さんも面倒くさがりだな。鍛冶屋なんてすぐそこだろう」
「きっと何か訳があるのですわ」
「訳って?」
「それはわかりませんけれど」
その訳は鍛冶屋に着いた時にわかる。
「それにしてもセリーヌ。そのルビーをよく見せてよ」
「ダメですわ。これは預かりものなのですから」
「いいじゃない。少しだけよ」
アンナは目を輝かせながらセリーヌにねだる。
「アンナ、我が儘を言うな。セリーヌが困っているだろう」
「こんな粒の大きいルビーなんてそうそうお目にかかれないのよ」
「それでもダメですわ」
セリーヌはルビーの入った袋を懐にしまう。
「ケチ」
アンナは年柄もわきまえず頬を膨らませてブー垂れる。
そんなやり取りをしている間に鍛冶屋へ辿り着いた。
鍛冶屋は武具屋に併設されている。
それほど大きな店ではないが造りは立派だ。
「おい、いるか?」
「……」
エレンが呼びかけて見るが返事は返って来ない。
代わりに鍛冶をしているトンカチの音が聞えて来る。
エレン達は鍛冶屋に入り奥で仕事をしているトム爺さんのところへ向かう。
「おっ、いたいた。おい、トム爺さん質屋のゼフ爺さんから届け物だぞ」
「……」
トム爺さんの耳には届いておらずトム爺さんは鍛冶を続けている。
エレンはトム爺さんの肩を掴んで呼んだ。
「おい、トム爺さん!」
「何じゃ。お前らは」
「質屋のゼフ爺さんから届け物を預かったんだよ」
「ゼフからじゃと?」
トム爺さんは鍛冶を止めてセリーヌから袋を受け取る。
そして中身を確かめながら不機嫌そうな顔を浮かべた。
「あやつ、他人に使いを頼むなんて何を考えておるのじゃ」
「お届け物はそれでよろしいのでしょうか?」
「ああ、間違いない。じゃが自分で来ないなんてズルい奴じゃ」
「ゼフ爺さんと何かあったのか?」
ミゼルの質問にトム爺さんは腕を組んでムスッとする。
明らかに何か隠しているのは見て取れる。
もしかして犬猿の仲なのかもしれない。
すると、トム爺さんが昔話をして来た。
「ワシとゼフは幼馴染の間柄じゃ。セントルース騎士団学校に通っていた頃はライバルとして学業に励んでいた。しかし、16歳になってワシが”神髄を見極める眼力”の特殊能力を開花させるとゼフの態度が一変した。ゼフは鑑定士になりたがっていたからワシの特殊能力が羨ましかったのじゃろう。それからは疎遠となってしまったのじゃ」
「それでゼフの特殊能力は何だったんだ?」
「ゼフの特殊能力は”速算術”じゃ。早い話が素早く計算を出来る能力じゃな。鑑定士にはあまり必要でない能力じゃ」
「いろいろとあるのですね」
特殊能力で人生観が変わってしまうなんて皮肉なものだ。
しかし、それだけ特殊能力は大きな影響を与えると言うこと。
どんな特殊能力を開花させるかで人生が決まってしまうのだ。
ゼフ爺さんも”神髄を見極める眼力”の能力を開花させていたら変わっていただろう。
「それはいいけれどその宝石をどうするつもり?」
「これはラビトリス城へ献上する装飾品を作るためのものじゃ。ネックレスに加工するつもりじゃ。近々、セリア姫の結婚式があるからな」
「トムさんは腕の立つ職人なのですね」
セリーヌが褒めるとトム爺さんは柄にもなく照れる。
「あの、お願いがあるんですけれど」
「何じゃ?」
「材料が余ったらでいいんですけれど、私のも作ってくれませんか?」
「おい、アンナ。自分ばかりズルいぞ」
「いいじゃない。私が廃坑から宝石をとって来たからここへ来れたのじゃない。私にはもらう権利があるわ」
またエレンとアンナが揉めはじめる。
確かにここへ来たのはアンナのおかげでもある。
だからと言って献上品にもなるネックレスをねだるのは場違いだ。
すると、トム爺さんが間を割るように呟いた。
「材料は余りはせん。ワシとて献上品を作るのじゃからな。そう簡単には出来ないわい」
「何よ、期待を持たせて」
「アンナさん、仕方ありませんわ。私達はゼフさんのお使いで来たのですから」
「お前達も装飾品を作ってほしいのなら材料を持って来い。そうしたらいくらでも作ってやるぞ」
「それはまた次回にさせてもらう」
と言うことでアンナを諦めさせてから鍛冶屋を後にした。
アンナの機嫌をとるためスイーツショップに向かった。
甘いものを食べて血糖値が上がれば気持ちも落ち着くはず。
それに小腹が少し空いていたのでちょうどよいタイミングだった。
スイーツショップには色とりどりのケーキが並んでいる。
ショートケーキ、モンブラン、チョコレートケーキ、チーズケーキと。
動物を象った可愛らしいケーキやホールケーキも注文できるようだ。
「どれにしましょうか」
「私はモンブランにしよう」
「私はショートケーキとチーズケーキとチョコレートケーキだ」
「3つも食べるのか?」
「一度にたくさん味わいたいからな」
呆れた顔でミゼルがお腹を叩いているエレンを見やる。
スイーツは別腹と言うがケーキ3つも入ったらいっぱいになってしまうはず。
それにカロリーが心配だ。
その内にお腹が出て来る。
おデブ街道まっしぐらだな。
「アンナさんは何にしますか?」
「何でもいいわ」
「それじゃあ抹茶ケーキとティラミスをお願いします」
その足で紅茶専門店へ向かいテイクアウトで紅茶を頼んだ。
今日は天気がよいので外でお茶会をする予定でいる。
そのためお茶会が出来そうな場所を探し回った。
目につけたのは公園の原っぱ。
広いしトイプーちゃんを遊ばせることが出来る。
さっそく原っぱにシートを広げてお茶会の場所を作った。
シートの上には買って来たケーキと紅茶が並べられる。
種類の違うケーキを買って来たので色とりどりだ。
「では、はじめましょうか」
「だな」
さっそくエレンはぺろりとショートケーキを平らげる。
「は~うまい。やっぱり外で食べるケーキはいいな」
「本当ですわ。室内で食べるよりも一段と美味しく感じますわ」
「それに紅茶もケーキに合っている」
セリーヌとミゼルもケーキを口に運んでから紅茶を飲む。
その横でアンナはひとりしょ気ていた。
「おい、アンナ。いつまで落ち込んでいるんだ。ケーキを食べてみろ」
「私は食欲がないの。欲しければエレンにあげるわ」
「そうか。なら遠慮なく」
アンナのケーキを食べようとするエレンの手を叩くセリーヌ。
ティラミスのお皿を手に取りアンナの前に差し出す。
「アンナさん、一口でもいいから食べてください。美味しいですから」
アンナはセリーヌに催促されるままケーキを一口食べる。
すると、急に表情が豊かになって頬を丸くした。
「これ美味しい!」
「でしょう。あそこのケーキは有名なんですから」
アンナはがっつくようにケーキを食べるとお口直しの紅茶を飲み干した。
「ぷはー。美味しかった」
「私のも食べますか?」
「それはセリーヌのでしょ。セリーヌが食べてよ」
「アンナさんが元気になってくれてよかったですわ」
満足気な表情を浮かべているアンナを見てセリーヌは安心する。
さすがにひとりしょ気ているアンナをほっておいてみんなで楽しむのは心苦しかったから。
やっぱり血糖値が上がると気持ちも上がるのは本当のことだったようだ。
「気持ちの良い日差しだな」
「空が近く見えますわ」
「あの雲、トイプーに似ていないか?」
「似てる似てる」
セリーヌ達は原っぱに寝ころんで空を見上げている。
食後の小休止は寝ころぶのに限る。
何だが眠気が襲って来て寝落ちしそうになってしまう。
食べてからすぐに寝るのは太る原因だから気をつけるのが一番だ。
「カイトさんもいっしょに来たらよかったのに」
「あいつはお茶会って柄じゃないよ」
「今頃ベッドで唸っているはずだ」
「弱いのに浴びるようにお酒を飲むからいけないのよ」
アンナの指摘は最もだ。
お酒の弱い人間が浴びるようにお酒を飲めば二日酔いにもなる。
それに急性アルコール中毒にもなってしまう危険もあるのだ。
だから無闇矢鱈とお酒の弱い人にお酒は薦められない。
「それでセリーヌはカイトのことをどう思っているんだ?」
「カイトさんは一生懸命だけれどデキの悪い弟みたいな感じですわ」
「デキの悪いところは同感ね。カイトは理屈っぽいのよ。そこがなければ可愛いのだけどね」
「まあデキの悪い落ちこぼれのほうが愛嬌があっていいけどな」
「いえてるいえてる」
セリーヌ達はカイトの話題で盛り上がる。
この場にいない人の話をするほど盛り上がるものはない。
悪口を言っている訳ではないから罪悪感もないのだけど。
それにカイトは唯一の男性だ。
異性としては見ていないけれどおしゃべりの話題にはもってこいだ。
「けれど、カイトさん本気で勇者を目指しているようですから、これから振り回されますよ」
「まあ、暇だし付き合ってやろうじゃないか」
「そうね。観光も飽きて来たところだしちょうどいいわ」
「長い付き合いになりそうだな」
おばさん達にそう思われていることなどカイトは知る由もなかった。
例え知ったとしても受け入れないだろう。
カイトにとって勇者になることは人生をかけたものなのだ。
それをお遊び半分で付き合おうとしているおばさん達はいただけない。
しかし、おばさん達の力がなくては勇者も目指せないのは事実。
カイトは運命に逆らわずに受け入れる決意を固めたのだった。
二日酔いで悶えている間に。




