あるある014 「我が儘を言いがち」
翌朝、早めに起きると一目散にエレン達を起こしに行く。
身支度にかかる時間を逆算して早めに起こすのだ。
外はまだ朝陽が登る前で東の空が明るくなりはじめた頃。
俺は大声を出しながらエレン達の大部屋の扉を激しくノックした。
「おい、起きろ!朝だ!いつまでも寝ているんじゃない!今日はゴーレム討伐に行く約束だろ!起きろ!」
部屋の中でガサゴソと物音が聞える。
しばらく待っているとトイプーが扉の前までやって来た。
クーン。
「トイプーか?いいところに来た。おばさん達を起こしてくれ。起こしてくれたらおやつをやる」
俺の言葉を理解したのかトイプーはワンと鳴いてエレン達を起こしに行った。
「中々、素直な奴じゃないか。これならいい使いになりそうだ」
部屋の中からトイプーが鳴く声が聞える。
しかし、エレン達は一向に起きて来ない。
昨夜、調子に乗ってたらふく飲んでいたからな。
まだ、夢の中なのだろう。
「おい、エレン!起きろ!ゴーレム討伐に行くぞ!」
「……」
何の反応も返って来ない。
「アンナ!ミゼル!起きろ!朝だ!」
「……」
何の反応も返って来ない。
「セリーヌは起きているよな!セリーヌ、早く扉を開けてくれ!」
すると、ガサゴソと物音が聞えた後、扉が静かに開いた。
「あら、カイトさん。今日はお早いのですね」
「セリーヌ、起きたのか。今日はゴーレム討伐に行く約束だろ。だから早めに起こしたんだ」
「そうでしたわね。エレンさん達を起こして支度をしますから、その間、トイプーちゃんを預かっていてください」
「それって散歩をして来いってことか?」
セリーヌは抱きかかえていたトイプーを差し出しながらニコリと微笑んだ。
まあ、いいさ。
トイプーの散歩くらい。
どうせ身支度に3時間もかかるんだからちょうどいい時間つぶしになる。
「おい、トイプー。行くぞ」
「ワン!」
俺はトイプーを連れて散歩に出掛けた。
ようやく太陽が昇りはじめて朝陽がセントルースの街を照らす。
まだ春先と言うこともあり空気はひんやりと冷えている。
店先には店主らしき人が開店の準備をはじめている。
時刻で言えばまだ6時。
だからか街行く人はほとんどいなかった。
「はー。早起きは気持ちいいな。そう思うだろ、トイプー?」
「ワン!」
大きく深呼吸をして朝の空気を体に取り込む。
朝一番の空気だけあって余計に新鮮さを感じる。
トイプーもご機嫌なのか尻尾を大きく振っていた。
「今日は俺達はゴーレム討伐に行くんだ。だから、トイプーは留守番だぞ」
「ワン!」
「ひとりで留守番出来るよな?」
「ワン!」
「よし、いい子だ」
俺はトイプーの体を撫でながらトイプーにおやつをあげる。
トイプーは美味しそうにおやつを食べながらご機嫌で尻尾を振っていた。
トイプーのおやつは干し肉と野菜を押しつぶして団子状にしたもの。
乾燥させてあるので長時間おいていても腐ったりしない。
セリーヌがトイプーを買ったペットショップで手に入れて来たものだ。
この後に朝食があるからおやつは少なめにしてある。
無闇矢鱈をおやつをあげても言うことを聞かないお馬鹿さんになるだけ。
ちゃんと躾をしないと名犬とはならないのだ。
俺はどちらかと言うと犬より猫派。
猫は懐かないがほっておいても問題ないので気に入っている。
しかし、こうしてトイプーを目の前にすると犬も悪くないと思える。
飛びかかって来るのはちょっと苦手だが、言うことを聞くところはいい。
ちゃんと躾て名犬にでもなれば幸いだ。
それにはちゃんとセリーヌ達に面倒をみさせなければならないな。
すると、トイプーが木の根元のところまで行って立ち止まる。
しばらくするとプ~ン異臭を放つうんこがコロッと出て来た。
「トイプー、やったな」
「ワン!」
俺はトイプーのうんこを拾い袋の中に入れる。
これもペットを飼う者の務めだ。
あいにくこの街の飼い主はマナーがよくて犬のうんこは転がっていない。
だから、うんこが転がっていると余計に目立つのだ。
衛生的にもうんこを放置するのはいただけない。
まあ、子供が拾って食べることはないがうんこの匂いに引きつけられて変な虫が集まるだろう。
虫の中にはウイルスを持った虫もいる。
そんな虫がウジャウジャ集まれば感染病の心配も生まれる。
だから、ラビトリス王国は犬のうんこは拾うようにと国から条例が出ているのだ。
「さあ、トイプー。帰るぞ」
「ワン!」
俺はトイプーのうんこを持ったままボロ宿へ戻った。
ボロ宿へ戻るとちょうどセリーヌ達が支度を終えたところだった。
玄関から出て来るなりトイプーに駆け寄るセリーヌ。
トイプーを抱きかかえるとトイプーに話しかける。
「おかえり、トイプーちゃん。お散歩は楽しかったでちゅか。マーマは寂しかったでちゅ」
おいおい。
赤ん坊をあやしている訳じゃないんだぞ。
その赤ちゃん言葉は止めい。
ひとりはしゃいでいるセリーヌに半目で冷めた視線を送る。
「みんな揃ったな。それじゃあゴーレム討伐に行くぞ」
「はい」
俺はエレン達を引き連れてゴーレム討伐に出掛ける。
「おい、セリーヌ。トイプーは置いていけ」
「なぜでしょうか。トイプーちゃんをひとり置いてはいけません」
俺がトイプーをはぎ取ろうとするとセリーヌが拒む。
「トイプーは犬なんだ。ひとりで留守番くらい出来るだろう」
「そんな、酷い!トイプーちゃんはまだ子犬なんですよ。ひとりで置き去りにするなんて出来ませんわ」
おばさんの我が儘は犬も食わないぞ。
トイプーを立派な名犬にするためにも甘やかしてはダメだ。
これくらいのことは出来るようにさせなければ。
「ダメだ。置いていけ。これはトイプーのためなんだぞ」
「カイトさんはよくこんな幼い子犬を目の前にしてそんな酷いことを言えますね。もし、トイプーちゃんが連れ去られたらどうするつもりですか?」
「部屋に入れてカギをかけておけばいいだろう」
最もなことを言い返す俺に対してセリーヌはさらに質問を重ねる。
「お腹が減って飢え死にしたらどうするんですか?」
「エサでも置いておけばひとりで食べるだろう」
どうだ、返す言葉もないだろう。
セリーヌは不満そうな顔をしながら睨んで来る。
そんな顔をしても無駄だ。
トイプーは連れて行かない。
これは決定事項なんだ。
「やっぱり納得出来ません。トイプーちゃんは連れて行きます」
「いい加減にしろよ、セリーヌ。トイプーなんて連れて行ったら邪魔になるだけだ」
「邪魔にはなりません。ちゃんと私が見ていますから」
セリーヌは食って掛かるように反論して来る。
「見ているって言ったってな、戦闘になったらそうは行かないだろう」
「大丈夫です。トイプーちゃんは賢いですから。ちゃんと離れた場所で見守ってくれます」
トイプーは犬だぞ。
ゴーレムを目の前にしたらビビッて逃げるのがオチだ。
それに。
「トイプーが狙われるってこともあるんだぞ」
「大丈夫です。私が絶対守りますから」
どうあっても引かないつもりだなセリーヌは。
だが、ここで負けてはならない。
下手に前例を作ればおばさん達のいいようにされてしまう。
おばさん達はそう言うことはちゃんと頭に記憶しているものだからな。
何とか説得してわからせないと。
「俺達はピクニックに行くわけじゃない。危険なゴーレム討伐に行くんだ。もし、トイプーがきっかけで仲間に危険が及んだらどうするつもりだ」
「危険が及ばないようにしますわ」
「セリーヌは簡単に言うけどな、危険なんて実際に起こらなければわからないものだぞ」
俺とセリーヌの口論は膠着状態に陥る。
すると、エレンがセリーヌに加勢をして来た。
「カイト、諦めろ。セリーヌは一度決めたことは頑として曲げない性格だ。それに犬っころ一匹連れていたって何ら問題はない。相手はゴーレムだしな」
「そうですわ。エレンさんの言う通りです」
「おいおい、エレンまでそんなことを言うのか。俺達は遊びに行くんじゃないんだぞ」
「ゴーレム討伐なんて遊びよ。カイトもいい加減諦めたら?」
今度はアンナもセリーヌに味方する。
そして、ミゼルがとどめを刺すように俺を畳みかけて来た。
「もしかしてカイトはトイプー、一匹も守れいないのか?」
はい、そうです。
なんて言える訳ないだろう。
守るべきものが増えれば戦闘は難しくなるものだ。
単身であれば自分のことだけを考えていればいい。
しかし、守るべきものがあればそっちのことも考えないといけなくなる。
エレン達は問題ないかもしれないが俺は初心者だ。
なるべく戦闘は難しくない方がいい。
ここへ来ておばさん達がみせる団結は堅牢だ。
俺がここでいくら反対しても押し切られるだろう。
ならば。
「わかった。トイプーを連れて行こう」
「本当ですか、カイトさん?」
「トイプーは家族だからな。どんな時でもいっしょだ」
「やったね、トイプーちゃん。いっしょに行っていいってさ」
俺の決断にセリーヌは飛び上がって喜ぶ。
これは貸しだ。
貸しを作って恩を売っておけば後々役に立つ。
セリーヌはエレンと違ってしっかり者だからな。
恩をあだで返すようなことはしないだろう。
しかし、本音を言えばトイプーは連れて行きたくない。
戦闘の邪魔になるし、足手まといになるし。
トイプーを連れて行ってもいいイメージが湧かないのだ。
きっとゴーレムに見つかって先手をとられるだろう。
それも考慮したうえで指揮をとる必要がありそうだ。
「さあ、行くぞ」
俺は先頭を切りゴーレムのいるコドム鉱山跡へ向かう。
「トイプーちゃん、行きましょう」
「カイトの奴。意外に折れたな」
「最後まで反対すると思っていたのだけど」
「私達に貸しを作ったつもりでいるのだろう」
「貸ね。そんなのすぐに忘れるけどな」
後からエレン達の笑い声が聞えて来た。
きっとよからぬ話をしているのだろう。
おばさんとはそう言う生き物だ。
わざとらしく人に聞こえそうなボリュームでこそこそ話をする。
そうやってこちらをけん制するのだ。
そう言う時は無視するに限る。
いちいち相手にしていたら疲れるだけだからな。
俺はエレン達をよそにぐんぐんと先へ進んで行った。
ゴドム鉱山はあちらこちらに鉱山の跡が残る廃坑。
掘った鉱石をトロッコで運んでいたようで所々にレールが敷いてある。
今でこそ雑草が伸びた廃坑だが、最盛期は繁盛していたのだろう。
鉱石の残骸がトロッコの中に残っていた。
「鉄鉱石もこうなるとただの石ね」
「これだけ錆びていると加工するのにも手間がかかるな」
アンナが手に取った鉄鉱石は錆で赤茶色に変色している。
鉄鉱石は堀り出してからそのままにしておくと酸化してしまう。
なので鉄鉱石はすぐに加工される。
今でこそ製鉄所はないが、かつてはセントルースの街にもあった。
セントルースが今のような発展が出来たのもゴドム鉱山があったおかげなのだ。
「そんなガラクタを構っていないでゴーレムを探すぞ」
辺りを見回してもゴーレムらしき姿は見えない。
岩石モンスターと言われるぐらいだ、廃坑の中に潜んでいるのだろう。
すると、トイプーがセリーヌの腕から飛び降りて廃坑の穴を調べはじめた。
ゴーレムの匂いがわかるのかクンクンと鼻を鳴らしながら匂いを嗅いでいる。
そして一番大きな穴の前でワンワンと吠えた。
「トイプーちゃん、ここにゴーレムがいるの?」
「ワン!」
セリーヌが確認するとトイプーは自信ありげに鳴く。
「カイトさん。ここにゴーレムがいるみたいです」
「そんなので本当にあてになるのか?」
「トイプーちゃんがそう言っているんです。ゴーレムはこの先にいますわ」
親馬鹿だな。
まあ、けどあてもなく探し回るよりもいいだろう。
ここはトイプーの勘にかけてみよう。
「よし、この穴を探すぞ。アンナ、灯かりを頼む」
「仕方ないわね」
アンナは手に意識を集中させると松明のような炎を作り出した。
これは魔法のひとつだが初期魔法で魔法使いなら誰でも簡単に出来る。
魔法使いになる者は、まず初期魔法で魔力を練る感覚を覚えるのだ。
炎が辺りを照らすと5メートル先まで見えるようになった。
「よし、行くぞ」
俺を先頭にアンナ、セリーヌ、ミゼル、エレンと続く。
トイプーはセリーヌに抱っこされながら特等席で寛いでいた。
穴の奥へ進むほど湿気が多くなりあちこちに水たまりが出来ている。
俺は慎重に足を運びながら奥へと向かった。
しばらく進むと二又に分かれた場所までやって来た。
「どちらに進めばいいのでしょうか?」
分かれ道から灯かりを照らしてみるが、どちらの穴も深いようで先が見えない。
こうなるとどちらを選ぶかによって運命が分かれる。
俺の勘は右の道だと言っているがトイプーはどうだろう。
「おい、トイプー。どっちに行けばいいんだ?」
トイプーはセリーヌの腕から飛び出すと分かれ道を頻りに調べはじめた。
さっきよりも慎重に匂いを嗅ぎ分けている。
湿気が多い分、匂いも薄れているのだろう。
そしてしばらくの間、吟味すると左の道の前でワンと吠えた。
「トイプー。そっちにゴーレムがいるのか?」
「ワン!」
「よし、左の道を行くぞ」
俺はトイプーの判断を信じて左の道を進む。
左の道は壁から大きな岩が飛び出していて歩きにくい。
他の岩石より硬い石らしく手つかずになっていた。
おそらくかつて鉱山で働いていた人たちもこの穴を掘るのに苦労したことだろう。
「しかし、歩きにくい道だな。本当にこの先にゴーレムがいるのか?」
「トイプーがそう言っているんだ。信じてみようじゃないか」
「何だよ、カイト。トイプーが嫌いじゃなかったのか?」
誰が嫌いだと言った。
俺はお前達がトイプーの世話をしなくなるんじゃないかと思って心配していただけだ。
結局、朝の散歩は俺がすることになりそうなのだけど。
すると、急にトイプーがセリーヌの腕から飛び出して勢いよく駆けて行った。
「おい、トイプー。勝手に進むんじゃない。戻って来い!」
俺の心配も虚しくトイプーはひとりで穴の奥へ駆けて行く。
あの野郎、俺を無視しやがって。
もし、この先にゴーレムが待ち構えていたらどうするつもりだ。
トイプーなんて一撃で殺されてしまうぞ。
「カイトさん。トイプーちゃんが心配です。早く後を追いましょう」
「わかってる」
不安げな顔で催促して来るセリーヌの気持ちに答えるべくトイプーの後を追う。
穴は奥へ行けば行くほどだんだんと小さくなって行く。
大人がやっと通れるぐらいの大きさだ。
そしてしばらく進むとトイプーの鳴き声が聞こえて来た。
「トイプーちゃん!大丈夫ですか!」
トイプーは穴の先で頻りにワンワンと吠えている。
何かを見つけたらしい。
俺達は急いでトイプーの所まで駆けて行く。
すると、狭かった道を抜けて大きな広間までやって来た。
トイプーは広間の一番奥にいた。
「トイプーちゃん。無事でよかった」
セリーヌがトイプーの所まで駆け寄るとトイプーを抱きしめる。
トイプーはワンと吠えながら頻りに尻尾を振っていた。
「しかし、なんだよこの広間は。城がすっぽりと入りそうなくらいデカいぞ」
「これを人間の力だけで広げたなんて思えないな」
「それだけ昔の人達は働き者だったのよ」
エレン達は大きな広間を見やりながら驚きの声を上げる。
確かにこの広さの空間を空けるには何年もかかるだろう。
それにこの辺りの地層は固い岩石が多いしな。
かつて鉱山で働いていた人達も苦労したことだろう。
「トイプーちゃん。どこへ行くの?」
セリーヌの腕から飛び出したトイプーはさっきいた場所に戻って行く。
そしてワンワンと吠えながら俺達を呼んだ。
「何かあるぞ。アンナ、照らしてみてくれ」
アンナがトイプーがいる場所を照らすと骸骨が岩にもたれかかっていた。
見ると王冠や金色の剣を見に着けている。
横にあった袋からは色とりどりの宝石が出て来た。
「よくやった、犬っころ。これで今夜もたらふく酒が飲める」
エレンは骸骨から王冠をはぎ取ると嬉しそうにニンマリと笑みを浮かべる。
「こっちにはルビーやサファイア、アメジストまであるわ。キャハハハ。総額いくらぐらいになるかしら」
アンナは袋から宝石を取り出して目を輝かせている。
おい、そいつはその骸骨のものだろう。
それを勝手にはぎ取るなんてさすがはおばさんだ。
カラスと同じでキラキラしたものに目がないんだから。
しかし、何でこんなところに宝石を持った骸骨がいるんだ。
ここは鉱山だぞ。
もしかして、どこかの屋敷から宝石を盗んで来てここに隠れていたのか。
そう考えれば納得できる。
廃坑跡なら誰も近づかないし、隠れているとさえ思わないだろう。
考えたものだ。
だけど骸骨になっているってことに府が落ちない。
腹が減ったのならば廃坑後から出ればいいだけの話。
だとすると死因は何だ。
俺がひとり思慮を巡らしていると不意にトイプーがワンと吠えた。
よく見ると骸骨の背骨がポキリと折れている。
何か強い力が働いて出来たようだ。
すると、急にトイプーがグルルと唸って威嚇をはじめた。




