あるある013 「おばさんであることを自負しがち」
ギルドはたくさんの冒険者達で賑わっていた。
ほとんどの冒険者達は仲間達とクエストを選んでいる。
報酬と自分達の実力を考えて割の良いクエストを探していた。
まあ、それは冒険者であればあたり前のこと。
報酬もそうだけど何より自分達のレベルアップが大切なのだ。
レベルが上がらなければいつまでたっても弱いまま。
それでは冒険者として名折れだろう。
掲示板を見るとこれまでになかったクエストも掲載されていた。
モンスター討伐系のクエストは種類が増え、要人警護のクエストもあった。
要人警護のクエストはラビトリス王国がスポンサーをしているので破格の値段がついている。
期間は1週間で報酬は金貨10枚だ。
要人をラビトリス王都まで警護すると言うもの。
だが、警護のクエストは一番難易度が高い。
モンスター討伐ならばモンスターを倒すことだけに集中できる。
しかし、警護となれば常に要人の身の安全が優先されるのだ。
よほどの手練れでなければ警護は務まらない。
なのでここにいる冒険者達もクエストを受ける様子はなかった。
「まずは簡単なクエストを探そう」
この前はゴブリンとビックマウスだったから、少しレベルアップしてみようか。
手頃なモンスターは……。
ゴーレム系が手頃だろうか。
報酬は銅貨1枚と少なめ。
しかし、ゴーレムには時々、鉱石が混じっていることもある。
鉄や銅をはじめ鋼や金、プラチナまで。
原石なので加工しないと使えないが鉱石は高値で取引されている。
お金を稼ぐにはちょうどいいモンスターなのだ。
「他には……」
ジャイアントトードあたりが手頃か。
こちらも銅貨1枚と報酬は少ない。
ゴーレムほとの特典はないが、初心者にはちょうどいい相手だ。
だが、両生類を苦手とする人は多い。
ビックマウスを嫌がっていたアンナにはちょっと難しいモンスターかもしれない。
ならば、消去法でゴーレムと言うことになるな。
そこへ聞き慣れた声が俺にかけられた。
「おっ、カイトじゃないか」
振り返ると嫌味なトニーが仲間を連れてやって来た。
嫌な奴に出会ってしまったな。
「そう嫌がることもないだろう。それより仲間は見つかったのか?」
嫌味なトニーは辺りを見回しながら馬鹿にするように質問をして来る。
予め俺の傍に誰もいないことを見計らって声をかけて来たのだろう。
トニーと言う奴はそう言う奴なのだ。
「ああ、見つかったさ」
「その割にはひとりのようだが仲間はどこにいるんだ?」
わかり切ったようすで嫌味なトニーが聞き返す。
対抗するように俺は自信ありげに答える。
「仲間達は武具の新調に行っているんだ」
「お前をおいてか?ふ~ん」
嫌味なトニーは疑るような目で俺を見やる。
「今度、俺にも紹介してくれよ」
「機会があったらな」
すると切り返して嫌味なトニーが仲間を紹介して来た。
「代わりに俺の仲間を紹介するよ。こいつが剣士のナダルだ。強そうだろう。その隣が魔法使いのエリッサ。切れ者なんだぜ。一番右端にいるのがプリ―ストのトールだ。珍しいだろう」
悔しいがバランスのとれたパーティーだ。
嫌味なトニーにしては良い仲間を集めたようだ。
ナダルと呼ばれた剣士は細いのにマッチョだ。
金色の短髪と小麦色の肌が強さを強調している。
エリッサと呼ばれた魔法使いは切れ長の目が特徴女性。
美人とまではいかないが黒色の長い髪はセクシーだ。
トールと呼ばれたプリ―ストは青髪のショートヘア。
色白でひ弱そうな印象があるが意外に体つきはマッチョだ。
「へ~え。いい仲間じゃないか」
「だろう。最強のメンバーだぜ。こないだも暴れ猿を討伐して来たんだ。あの時は苦労したな。なんて言ったって銅貨3枚のモンスターだからな」
はじまった、はじまった。
嫌味なトニーの自慢話。
これがはじまると長いんだよな。
「俺とナダルで先制攻撃を仕掛けて注意を引いている間にエリッサが魔法でダメージを与える。それでも暴れ猿は倒れないからトールに攻撃補助魔法をかけさせて暴れ猿の能力を下げたんだ。そしたら形成が逆転してな。俺とナダルの剣が暴れ猿の首を捉えて刎ね飛ばしたのさ」
へぇへぇそうですか。
嫌味なトニーの自慢話を聞いていも何の得にもならない。
それは嫌味なトニーも自覚しているようで俺の困る顔を楽しんでいるのだ。
自慢話をしながら俺の顔を頻りに気にしていた。
「それじゃあ俺はもう行くから」
「何だよつれないな。久しぶりの再開なんだもっとゆっくり話そうぜ」
自慢話をしたいだけだろう。
お前の話は聞き飽きたんだよ。
それに俺はこれから作戦を立てなければならないのだ。
お前に構っている暇はない。
と、そこへエレン達がギルド内へ入って来た。
「エレン!」
「知り合いか?」
マズい。
ここでエレン達といっしょになったら嫌味なトニーに仲間であることが知られてしまう。
そうしたら間違いなく馬鹿にされる。
そればかりか他の連中達にも言い触らすはずだ。
カイトはおばさん達を仲間にしたとな。
これでは熟女バーの店長に成り下がってしまう。
なんとしてでもエレン達とは他人の振りをしなければ。
「おい、カイト。どうしたんだ。急に固まって」
「何でもない。それじゃあ俺、急いでいるから」
そそくさとその場を後にしようとする俺にエレンが声をかけて来た。
「おい、カイト。そんなところにいたのか」
「どちら様です?」
俺は慌ててとぼけた様子で聞き返す。
「何言っているんだ、カイト。冗談は顔だけにしておけ」
「お部屋にカイトさんがいなかったから探していたのですけれど、トイプーちゃんがここまで案内して来てくれたのですわ」
余計なことをするんじゃねー。
子犬の分際で俺の居場所を突き止めるなんて。
俺とお前はそこまでの仲ではないだろう。
俺はお前のうんこに散々な目にあっただけなのだ。
もしかして、自分のうんこの匂いを辿って来たのか?
「何だよカイト。お仲間がいるんじゃないか」
嫌味なトニーはニンマリと嫌らしい顔を浮かべる。
嫌らしい目でエレン達を見やりながら馬鹿にしたように零した。
「やっぱり特殊能力の賜物か。おばさんを惹きつける能力だものな。おばさんが集まるってものだ。お金を貯めて熟女バーでも経営するつもりか?」
嫌味なトニーの言葉をうけてナダル達がクスクスと笑う。
ちくしょー、この野郎。
好き勝手言いやがって。
俺だって好きでエレン達を仲間にしたんじゃない。
打算だ。
強いエレン達と冒険した方が得だと考えたからだ。
すると、エレンは嫌味なトニーの胸ぐらを掴んで凄んだ。
「おい、お前。私達がおばさんだって言いたそうだな」
「そ、そうじゃないか」
「ああ、そうだよ。私達はお・ば・さ・んだ。だからと言って、お前のようなちんけな野郎に文句を言われる筋合いはない。顔を洗って出直して来い」
エレンは嫌味なトニーを突き飛ばす。
「おばさんのクセに調子こきやがって。お、覚えていやがれよ」
嫌味なトニーは逃げるように仲間達とギルドを後にした。
何だかスッキリした。
あのトニーの慌てようはウケるぜ。
「カイト。友達を作るならもっとまともな奴にしておけ」
「あいつは友達じゃないよ。ちょっとした顔見知りだ」
学校が同じだっただけの間柄。
しかし、嫌味なトニーに仲間が出来るなんて想像もしていなかったな。
まあ、最初から嫌味なトニーの性格がわかる訳でもないし、引っかかったのだろう。
「それでカイトはギルドで何をしていたの?」
「情報収集をしていたんだ。明日からまたモンスター討伐を再開するためにな」
「まだ諦めていなかった訳?呆れるわ」
それはこっちの台詞だ。
観光とうたって散々食って飲んでばかりの毎日。
そんなだらけた生活をしていたら罰が当たるぞ。
それに金ばかりが減って行くのだ。
どこかで稼がないとすぐに底をついてしまう。
「次はどんなクエストにしたのだ?」
「ゴーレムの討伐だ」
「まだ、そんな弱いモンスターを狩るつもり。せめてもっと稼げるモンスターにしてよ」
「俺は初心者なんだ。いきなり強いモンスターにしたらやられちゃうだろう」
これは決定事項だ。
文句は言わせない。
「まあ、久々に戦えるんだ。楽しもうじゃないか」
「エレンさんんは戦いが好きですわね」
「私から戦いをとったら酒くらいしか残らないからな」
自覚しているじゃないか。
後、大食いも残るけどな。
「次は俺の作戦に従ってもらうからな。そこは忘れるなよ」
「ちぇっ、仕方ないな」
俺はギルドの受付で手続きを済ませるとエレン達を連れて酒場へ向かった。
もちろん酒を飲むためではない。
作戦会議をするためだ。
宿屋に戻ってから作戦会議をすることも考えたがエレン達は納得しないだろう。
とかくおばさんと言う生き物は難しい話は苦手なのだ。
だから酒を挟んで気を紛らわせる必要があるのだ。
さっそくいつものぼったくり酒場で作戦会議。
トイプーの入店は断られたのだがセリーヌが袖の下を通して許可をもらった。
さすがはセリーヌと言ったところか。
テーブルの上にはビールと枝豆が並んでいる。
「よし、それじゃあ作戦会議をはじめるぞ」
「それよりまずは乾杯だろ」
「ダメだ。エレンはスイッチが入ったら止まらないだろう。酒は作戦会議が終わってからにしろ」
「これじゃあ生き地獄だぜ。酒を目の前にして何もできないなんて」
待ては犬でも出来るんだ。
人間のお前が出来ないでどうする。
ビールを物欲しそうに眺めているエレンをよそに作戦会議をはじめた。
「まずは今回、討伐に行くのはゴーレムだ。ゴーレムはセントルースの街から北東に行ったところにあるゴドム炭坑跡に出没するらしい。今は廃坑になっていて誰も近づかない場所だ」
「ゴーレムね。弱すぎるわ」
「確かにゴーレムは弱い。しかし、稼げるモンスターでもあるのだ」
「どう言う意味だ?」
俺はギルドで仕入れた情報をエレン達に説明する。
ゴーレムは鉱石を埋めこんでいる可能性があること。
鉱石は高い値で取引されていることなど。
それを聞いたアンナは急に態度を変えて目の色を輝かせる。
「もしかしてプラチナもある可能性があるってことよね」
「そうだ」
「いいじゃない。ゴーレムにしましょう!」
現金な奴だ。
金になるってだけで目の色を変えるなんて。
けど、まあうまくアンナを引き込むことが出来た。
エレンは戦えればいいだけなので問題ないし、セリーヌは俺に反対はしない。
後はミゼルだけと言うことになるのだが。
「ミゼルはどう思うんだ?」
「作戦次第だな」
ミゼルはエレンほど好戦的ではないが、プライドが高い。
エルフと言うこともあり自分の腕には自信を持っている。
そのため自分の力を発揮できないモンスターが相手だとやる気を起こさないのだ。
それを防ぐにはミゼルが活躍出来る場を提供しなければならない。
「それじゃあ作戦を立てるぞ」
ギルドの情報によればゴーレムは全長10メートルほどもある巨大なモンスターだ。
体は全て岩石で出来ていて耐衝撃性に優れている。
動きは鈍いがパワーが凄い。
一殴りで岩石を粉砕できるほどの力を持っている。
そんなモンスターを相手にするには連携攻撃が欠かせない。
まずはセリーヌに攻撃補助魔法を放ってもらう。
アシットレインと言う魔法は防御力を落とす効果があると言う。
それでゴーレムの防御力を落として下地を作る。
次はゴーレムの注意を引きつける。
それにはミゼルの弓が丁度いいだろう。
離れて攻撃出来る上に魔法のような詠唱もいらない。
ゴーレムの注意を逸らしたら俺とエレンでゴーレムの背後に回り込む。
そして足を狙って攻撃をする。
ゴーレムの足さえ止めればこちらのものだ。
最後はアンナの魔法でとどめを刺してもらう。
ゴーレムを弱いと言っているぐらいだ。
俺は頭の中で組み立てた作戦をエレン達に説明する。
「以上が俺が立てた作戦だ。何か質問のある奴はいるか?」
「冒険初心者にしては考えたじゃない。いいわ。私はOKよ」
「私がゴーレムの注意を惹きつける役割か……」
「不満なのか?」
ミゼルは手を組んで難しそうな顔を浮かべる。
そしてしばらく考え込んだ後、ボソリと告げた。
「まあ、いいだろう。その作戦に乗ろうじゃないか」
「エレンはどうだ?」
「私は戦えれば何でもいい」
エレンは作戦のことより目の前の酒のことで頭がいっぱいの様だ。
「セリーヌは?」
「私も意義はありません」
「なら、この作戦で行く。この前のような自分勝手な行動は慎めよ」
俺が念を押すとアンナ達は頷いて応える。
「それじゃあ乾杯だな」
エレンは水を得た魚のように元気になるとグラスを持って立ち上がった。
「それじゃあ私達の新たな門出に……乾杯!」
「「乾杯!」」
エレンは水を飲むような勢いでビールを飲み干す。
そしてすぐにレインに追加の酒を注文をする。
レインもエレンの酒豪ぶりは心得ているようですぐに酒を運んで来た。
テーブルの上には酒瓶とつまみが所狭しと並べられた。
セリーヌはトイプーに専用をエサを上げている。
子犬のクセにビーフなんて贅沢過ぎると言うもの。
犬なんてデッドウルフの骨でも与えておけば十分だ。
「セリーヌ。それ買って来たのか?」
「はい。ちょうどトイプーを飼ったお店にエサも売っていましたので」
「高いんじゃないのか?」
「そんなにでもありませんわよ。お小遣い程度で買える値段です」
「これからはトイプーのエサ代まで稼がないといけないな」
これは自分の財布を眺めながら呟く。
するとセリーヌが財布を出してテーブルに乗せた。
「まだお金はたくさんありますから大丈夫ですわよ」
「けれど、お金は使えばなくなるんだ。うちには金食い虫がいるからな」
そう言って半目でエレンを見やる。
エレンは俺の視線に気づくことなく酒に溺れている。
このところ、出費のほとんどは酒代に消えている。
エレンが毎日、酒を飲んでいれば財布の底が尽きるだろう。
その前に稼いでお金を貯めておく必要がある。
それにはモンスター討伐が丁度いいのだ。
「カイトさんはレベルを上げたいからモンスター討伐に躍起になっているのでしょう?」
「そうだ。お金を稼ぐことは口実だ。俺は勇者を目指しているから強くならなければならない。その為にもモンスター討伐を繰り返して経験を積む必要があるのだ」
「経験を積むならばモンスター討伐以外にもありますわよ」
「それはどう言うことだ?」
セリーヌの言葉に反応して聞き返す俺。
「コロセウムでも戦闘の経験は積めます」
「コロセウム?」
「コロセウムはゴルドランド王国にあるのですが、腕に自信ある戦士達が集まって一番を決めるために戦うのです。戦うのは人間なので強さだけでなく戦略が勝利を左右するのです。頭で戦うカイトさんに合っていると思いますけれど」
そんな場所がゴルドランド王国にあるのか。
しかし、一番を決めるのだ。
よほどの強者達が集まるのだろう。
今の俺では役不足だ。
「コロセウムに行くのはもっと強くなってからだ。今はモンスター討伐の経験を積んで強くなることが先だ」
「カイトさんもちゃんと考えていますのですね。安心しましたわ」
「それはどう言う意味だ?」
「だってカイトさん。出会ったその場で勇者を目指しているって言ってましたから、少しお馬鹿さんなのかなと思いまして」
確かに言った。
勇者を目指していると。
だけど、それが何でお馬鹿さんになるのだ。
「勇者はなろうと思ってなるものではありません。かつて勇者と呼ばれた人達はみな、周りの人達が勇者と言っていたのです。なので勇者は勇者であって勇者ではないのです」
「勇者ゲリオダスも勇者じゃないのか?」
「周りの人達は勇者と思っているでしょうけれど、本人はそうは思っていないと思います。魔王と死闘を繰り広げるうちに勇者として認識されるようになったです」
ならば俺の目標はどうなるのだ。
俺はこの先、何を目指して励めばいいのだ。
「だから、カイトさんも勇者を目指すのではなく世の中の人達のために戦うのです。それを繰り返して行けばいずれ勇者と呼ばれる日が来るでしょう」
「世の中の人達のために……」
今までそんなことを考えたこともなかった。
勇者ゲリオダスを知ってからは勇者になることだけが目標だった。
学校に通って授業を受けて、実戦訓練にも励んだ。
そうすることで一歩でも勇者に近づけるかもしれないと考えていたからだ。
それは全て自分のため。
目標である勇者になるために頑張って来たのだ。
しかし、セリーヌの言葉は俺のこれまでの努力を見事に打ち消した。
それでも俺のこれまでの努力は無駄ではない。
これからは世の中の人達のために戦えば糧になるのだ。
「セリーヌ。わかったよ。俺はこれから世の中の人達のために戦う」
「カイトさんならきっと勇者になれますわ」
その言葉に反応したのかトイプーもクーンと鳴いた。
「お~い、カイト~。何を難しい話をしているんだよ~。もっと飲め」
エレンは俺の肩に手を回してビールを薦めて来る。
既に出来上がっているようで上機嫌だ。
周りを見やるとアンナ達もだいぶ出来上がっていた。
俺はグラスを手に取って立ち上がる。
「この乾杯は俺が勇者になるための乾杯だ。俺は今から心を入れ替える。世の中の人達のために戦うんだ」
「小言はいいわ。早く乾杯をしなさい」
「それじゃあ乾杯!」
「「乾杯!」」
こうして俺達の作戦会議は終了した。
この先で待っているモンスターを倒すため。
世界でモンスターの脅威に怯えている人々を救うため。
俺は強くなる。
そしていつか勇者カイトと呼ばれるようになるのだ。
そのためにも明日の戦いは勝たなければならない。
「ゴーレム、待っていろよ」
俺は酒を煽って決意を振るい立たせた。




