あるある123 「どこまでも非情になりがち」
はるか北の空の彼方に鈍色の塊が発生しはじめる。
それは紫色の稲光を迸らせ轟音を鳴らせながらゆっくりとこちらに近づいて来る。
シーボルトは望遠鏡でその様子を確認しながら不安げにボソリと零した。
「嵐だ」
「嵐だって!回避できないのか?」
「ダメだ。この進路で進まなければエジピア王国までは辿り着けない」
「ちくしょう。ここまで来て」
俺は顔を顰めながら拳を握りしめてテーブルに拳をぶつける。
シーボルトが計画した航路はエジピア王国まで最短で行けるルートだ。
嵐を回避するために大きく迂回すればそれだけエジピア王国へ辿り着くのも遅れる。
その場合だと食料や水が底をついてしまうのでとてもでないが選択は出来ない。
「この船で嵐を乗り越えられるのか?」
「嵐の規模にもよるな。一応、装備はしているが船を横転させられたらひとたまりもない」
「ならば嵐を避けるように大きく迂回した方が安全なのではないか?」
「その場合だと確実に食料と水が底をつく」
半ばお手上げ状態のシーボルトの顔色は一段と暗くなる。
確実にエジピア王国へ辿り着くためには嵐を越えなければならないからだ。
ただ、迫りくる嵐に対応できるほどイエローキャットは頑強でもない。
中古の船に改良に改良を重ねて乗り継いで来た状態の船なのだから。
「万策尽きたって感じだな」
「これも運命さ。マシュー、嵐に備えろ」
「はい、船長」
マシューは甲板に出て行きクレーンを動かして小舟を甲板に乗せる。
そしてロープを這わせて小舟を船の中央に固定しはじめた。
横波に襲われても転覆しないようになるべく重心を中央に寄せておく必要があるのだ。
動かせるものは船室内へ運び入れて荒波に対応させる。
俺達も手伝い一通り嵐対策を講じた。
すると操舵室にいたシーボルトの叫びが聞こえて来た。
「どうした、シーボルト」
「凪だ」
「凪?」
操舵室から飛び出して辺りの海を見渡すと嵐が近づいていると言うのに波は消え静寂に包まれていた。
普通なら嵐が近づいていれば海は時化るものだが、相反するように海は静まり返っている。
まるでこれから悪魔でも現れそうな、そんな怪しげな雰囲気を漂わせていた。
しばらくすると海面を這うように霧が立ち込めて来て、ものの数分で辺りを真っ白に染める。
「マズいぞ、霧だ。これではどちらに進めばいいのかわからない」
「どうするつもりだ?」
「霧が晴れるまで動かずにいよう」
シーボルトの判断は正しかったようで数分すると霧が薄れはじめる。
しかし、同時に予期せぬ悪魔をいっしょに連れて来た。
「海賊船だ!」
霧の中から姿を現したのはたくさん砲門を構えた木製の大型船。
中央には3本の立派な帆柱が立っており、僅かな風を受けて帆が広がっている。
見張り台には海賊がいて船首に船長らしき海賊が刀を振りかざして立っていた。
「俺様はロコゴンドル王国第四番隊の隊長ルドルフ様だ。そこの船艇、速やかに投降せよ!」
ルドルフと名乗った大柄の男は伸びきったボサボサの髪を靡かせて顎には豊かな髭を蓄えている。
頭にはいかにも海賊感溢れている帽子を被り、黒いマントには海賊の紋章が描かれている。
右手は義手らしく鋭い鉤爪がキラリと光り、左手には曲刀が握られていた。
「マズいぞ、海賊船だ」
「どうする。逃げるのか?」
「下手に動いたらあの大砲で撃たれるだろう。ここは投降して様子を伺うんだ」
「何を馬鹿なことを言っているんだ。戦う以外に選択肢はないだろう」
俺達の静止を振り切ってエレンは一歩前に踏み出すと大剣を担いでルドルフを牽制をする。
「おい、お前。そんなところで突っ立っていないで私と勝負しろ!」
「ふん。低俗風情が。俺様と戦って勝てるとでも思っているのか!」
「もちろんだ。お前みたいな雑魚を相手にすのは本望ではないがチャンスをくれてやる」
「面白い。やれるものならやってみろ!」
エレンの牽制を受けて挑発して来たルドルフだったが自らは動こうとはしない。
おもむろに右手を振り上げると船べりに数十の海賊達が姿を現した。
どの海賊も曲刀を振り上げてこちらを牽制するかのように雄たけびを上げる。
それを見るなりエレンは口元を緩ませるとニタリと笑って大剣の切っ先をルドルフに向けた。
「まとめてかかって来やがれ!」
エレンの叫びに合わせるようにルドルフが右手を振り下げると海賊達が縄梯子を放り投げる。
そして縄梯子を伝い降りるとイエローキャットの船上まで乗り込んで来た。
周りをすっかり取り囲まれたエレンは大剣を薙ぎ払いながら海賊達を打ち倒して行く。
「私達もやるわよ。ミゼル、後方支援は任せたわ!」
「思う存分、暴れて来い!」
アンナも押し寄せて来る海賊の波に向かって行くと『フレイムブレード』を発動させて切り払う。
『フレイムブレード』の直撃を受けた海賊は炎に包まれて崩れ落ちて行く。
それでも海賊達の勢いは止まらずに次から次へとなだれ込んで来た。
その勢いを止めるためミゼルは縄梯子を伝っている海賊達に狙いをつけて矢を放つ。
「この船は落とさせん!」
ミゼルは『一点集中』を発動させて炎の属性を持つ赤色の閃光の矢を乱射させる。
ミゼルの矢を受けた海賊達は炎に包まれて次々と海の中へ落ちて行く。
その光景はまるでアリに水鉄砲をかけて落として行く様に似ていた。
「なかなかやるではないか。キッシュ、あれを持てい」
「これを使うのですか?」
「勝負に勝つためなら何でもするのが俺様のやり方だ」
キッシュと呼ばれた男は襟足の長い茶髪に丸メガネをかけた学者風の男。
他の海賊達とは違い白衣を身に纏い、踝が見える七分丈のブカブカしたズボンを履いている。
小柄で第四番隊の頭脳を担っていて戦術に長けている男だ。
キッシュと呼ばれた男が差し出したのは義手に装着させるガトリングガン。
砲身は短いが6門の銃身を備えていて連射の出来るタイプの銃だ。
この銃もキッシュが設計してドワーフに造らせた特注の品なのだ。
ルドルフはガトリングガンをカラカラと回しながら装着具合を確かめる。
そして義手の弾倉をパカリと開けると連なっている銃弾を込めた。
ガトリングガンは自動式で横に着いているレバーを引くと弾が飛ぶ。
弾が続く限り連射が可能でレバーを放せば自動で止まるようになっている。
このガトリングガンの餌食になった者で生きていた奴は誰ひとりいない。
みんな蜂の巣にされて殺されてしまったのだ。
ルドルフが誇る最強の武器のひとつなのだ。
「さあ、祭をはじめるぞ!」
ルドルフは船べりに仁王立ちになって眼下で戦っているエレンに狙いを定める。
そして勢いよく飛び上がるとイエローキャットの甲板に勢いよく飛び降りた。
イエローキャットはルドルフの重みを受けて深く沈み込み、水しぶきを上げながら大きく船体を揺らす。
「ようやく大将のお出ましか」
「俺様にたてをついたことを後悔させてやる」
ルドルフの鈍色のに光るガトリングガンはエレンに狙いを定めたまま動かない。
少しでも微動だにしたらガトリングガンの容赦ない銃弾の雨嵐が降り注ぐからだ。
エレンは大剣を構えたままルドルフの隙を伺うように睨みを利かせる。
深く浅い呼吸をして精神を集中させると一気に攻撃に転じた。
「行くぞ!」
エレンは素早く横に移動しながら切りかかるタイミングを見計らう。
そこへルドルフのガトリングガンの容赦ない攻撃が雨嵐のごとく降り注ぐ。
まるで逃げ惑う野生の鹿を追い駆けるハンターのような構図に思わず息を飲む。
「さっきの威勢はどうした?逃げてるだけじゃ俺様は倒せんぞ!」
ルドルフの銃弾は周りにいた海賊達を巻き込みながらエレンを追い駆ける。
仲間が犠牲になっても構うことなくガトリングガンのレバーを緩めない。
ガトリングガンが通った後にはたくさんの死体と船の残骸が広がっていた。
「なんて奴だ。仲間を仲間とも思わないなんて」
「あれじゃ、エレンさんが不利です。何とか出来ないんですか」
「何とかするって言ったって近づけないんじゃやりようがない」
俺は苦悶の表情を浮かべながら小剣の柄を固く握りしめる。
戦況を変えられるならば今すぐにでも変えたい。
エレンやアンナ達も奮闘しているが攻勢は海賊達に分がある。
ルドルフが登場したことによって海賊達の勢いが増し、たゆまなく攻撃を仕掛けて来るのだ。
これが大多数の海賊をまとめるリーダーの資質なのだろう。
悔しいが今の俺にそれだけの資質はない。
俺が今出て行ったところでエレン達の足手まといにしかならないのだから。
「カイトさん。他に手はないんですか?」
「……」
「カイトさん!」
しきりにマシューが俺に正解を求めて来るが何も思いつかない。
リーダーとしては情けないことだが、これが現実なのだ。
すると、操舵室の扉を抑えていたシーボルトが助けを求めて来た。
「おい、マシュー!手を貸せ!これじゃあ破られるのも時間の問題だ!」
「はい、船長!今行きます!」
マシューは急いでシーボルトの所へ向かおうとして、急に足を止めて――。
「カイトさん。僕は信じてますから」
そう言い残して、その場から立ち去った。
この状況は今までにないほど危機的な状況だ。
イエローキャットはルドルフのガトリングガンによって悲惨なまでに破壊され、エレン達は苦戦を強いられている。
個々の力は海賊達には劣らないのだが圧倒的に数で不利。
エレン達の足元に及ばない非力な海賊達が数に物を言わせてエレン達を押しやっているのだ。
こんな戦いは今までになかった。
故に俺の戦術も全く組み上がらない。
だけどカイト軍団のリーダーの俺に期待されていることは確か。
マシューが俺を信じてくれているようにエレン達も俺を待っているのだ。
ならば、その期待に応えるのが勇者と言うものだろう。
海賊達の力の源はルドルフに他ならない。
ルドルフさえ討ち取ることが出来れば海賊達も止まるはずだ。
ただ、ルドルフは主力のガトリングガンを持っており迂闊に近づけない。
ならばアンナやミゼルの力を投入することが肝要だ。
そのためにもこれ以上の海賊の追撃は止めなければならない。
「よし、ミゼル。お前は縄梯子を撃ち落として、これ以上の海賊の進撃を止めるんだ!アンナは手が空き次第、エレンに加勢をしろ!セリーヌは補助魔法で後方支援だ!」
「カイトにしては考えたじゃないか。海賊達は私に任せろ!」
「エレンに加勢なんて私の趣味じゃないけどカイトが言うなら仕方ないわ」
「やっぱり頼りになるのはリーダーですね。立派ですわ、カイトさん」
各々が各々に俺の戦術を理解して速やかに作戦の遂行に移る。
ミゼルは俺の指示通り海賊船から投げられた縄梯子を狙い赤色の閃光を放つ。
その矢に射抜かれたものは燃え盛る炎となって縄梯子もろとも灰と化した。
ひとつ、ふたつと縄梯子が消え去ると海賊達の勢いも弱まりはじめる。
その隙をついてアンナは周りの海賊をあらかた片づけてからエレンの加勢へと向かう。
セリーヌはセリーヌで『プロテクション』を展開させてルドルフの銃弾を防ぐ防波堤を築いていた。
「ふん。雑魚が集まったところで俺様のガトリングガンは防げんぞ」
ルドルフは構うことなくガトリングガンを五月雨の如く撃ち払う。
『プロテクション』で展開した光の壁にぶち当たる銃弾は光の壁を揺らし鈍い音を立てる。
それはまるで傘に雨粒が振り落ちるかのように軽快なリズムを刻みながら。
「何て攻撃ですか。私の『プロテクション』にヒビが入りかけていますわ」
セリーヌは驚愕の表情を浮かべながらも魔力を光の壁に注ぎ込む。
ここで『プロテクション』を破壊されたらルドルフのガトリングガンを防ぐ手立てはない。
その前にルドルフを止めなければ俺達の負けだ。
「おい、アンナ。お前は右に回り込め。私は左に行く。あいつとて左右から攻撃されたら防ぎようがないはずだ」
「私に命令をしないで」
「命令ってな。これは作戦なんだ。私の言うことを聞け」
「あいつを止められなかったくせに威張らないでよ。あんなやつ、私一人で十分だわ」
そう言うとアンナは『プロテクション』の影から飛び出してルドルフに向かって行く。
もちろん両手に『フレイムブレード』を展開させて近接攻撃に持ち込む作戦だ。
しかし、すぐさま反応したルドルフは向かって来るアンナにガトリングガンをお見舞いする。
容赦もなく降り注ぐ銃弾にアンナの進撃は止められそうになるが素早く左右に移動しながら攻撃を凌ぐ。
途切れることないルドルフの攻撃にアンナも隙を伺えずにいた。
「何なのよ、こいつ。生意気だわ」
「アンナ。お前ひとりじゃ無理だ。私も加勢する」
「ちょっと勝手なことをしないでよ。こいつは私の獲物なのよ」
「そんなことを言っている場合か」
アンナとエレンは文句を垂れながらも左右に分かれてルドルフの死角へと回り込む。
的が二つになったことでルドルフの攻撃にもムラが出来はじめる。
アンナとエレンに向かって交互にガトリングガンをお見舞いするが隙が生まれてしまった。
間髪入れず、エレンが攻撃に転じる。
大剣の切っ先をルドルフに向けて抉り出すように刺突を放つ。
「サイドががら空きだ!」
「ふん。それで俺様の隙をついたつもりか。甘いわ!」
ルドルフはガトリングガンから左手を話すと腰に下げていた曲刀を引き抜く。
そして曲刀の腹でエレンの大剣を受け止めると軌道を変えるように下に振り払った。
エレンは前につんのめりそうになり左足で踏ん張って体制を整える。
その瞬間に鈍い痛みが腹に感じたと思ったら大きく後方に吹き飛ばされた。
「ぐほっ」
「こいつにはこう言う使い方もあるんだよ!」
ルドルフのガトリングガンの右フックがエレンの腹に入ったのだ。
ルドルフは鈍色のガトリングガンを見つめながら得意気に言い放つ。
しかし、それはアンナの追撃を許すチャンスを作ってしまう。
「甘いわ!」
ただならぬ気配を感じてルドルフが振り返るとアンナの『フレイムブレード』が視界に入った。
アンナはルドルフの横っ面を殴りつけるように右手を前に勢いよく突き出す。
『フレイムブレード』の炎は勢いに靡きながらルドルフの顔面を捉えようとした時。
アンナの視界からルドルフが消え急に世界が横に倒れ込みはじめる。
「何?」
アンナが気がついた時には大きく投げ飛ばされて横倒しになっていた。
ルドルフはアンナの攻撃を受ける直前にしゃがみ込んで足払いを繰り出したのだ。
その反応の速さは巨体から想像できないほと俊敏で素早い。
「その程度か。つまらん」
「こいつ。思っている以上に強いぞ」
「そのようね。私に一撃を食らわせるなんて」
エレンとアンナはルドルフを挟み込むように左右に分かれて距離をとる。
大剣や拳を構えながらルドルフの隙を伺うようにジリジリとにじり寄る。
俺は『プロテクション』の影から戦況を見守りながら思考を巡らせた。
ルドルフの素早さは常人以上だ。
やみくもに攻撃を仕掛けたところで簡単にかわされてしまう。
ならば確実に同時攻撃をしかけなければならない。
シンクロするかのような絶妙なタイミングで攻撃を合わせる必要があるのだ。
でなければルドルフの素早さに対応は出来ない。
しかし、エレンとアンナはお互いに張り合っているから俺の作戦を受け入れるとは思えない。
どうする……。
「それで終わりか。ならば地獄へ送ってやる」
ルドルフはガトリングガンのレバーに左手を添えると銃口をエレンとアンナに交互に向ける。
これから罪人を処刑する審判官のような冷徹な眼差しで二人を見つめながら狙いを絞る。
熱を帯びた鈍色のガトリングガンの銃口が捕らえたのはエレンだった。
「けっ、面白い。やってやろうじゃないか!」
「何でエレンなのよ。普通、私でしょう。私の方が強いんだから」
「こいつにも私の強さがわかっているんだ。お前は引っ込んでいろ」
「エレンの癖に生意気よ。邪魔してあげるわ」
エレンとアンナは同時に大剣と拳を構えて攻撃体制を整える。
そんな二人のやり取りもどこ吹く風ぞと言わんばかりに興味のないルドルフは躊躇うことなくガトリングガンのレバーを引いた。
「まとめて蜂の巣にしてやるわ!」
ルドルフはその場で体を回転させながら竜巻のように銃弾を乱れ撃ちする。
ガトリングガンから放たれた銃弾は円弧を描くように広がりながらエレン達に襲いかかる。
その攻撃に素早く反応したエレンとアンナはとっさに頭上高くに飛び上がりルドルフの攻撃を回避した。
「何て無茶苦茶な攻撃をして来るんだ。これじゃあ戦いようがない」
「そう思うなら引っ込んでいなさい。私が代わりにやるから」
「お前にやらせるぐらいなら私がやる」
「頭の悪いあなたには無理よ。私の戦いを見ていなさい」
すると、アンナは上空で天地を逆転させたような体制に変わる。
そして両足の先に魔力を集中させると『ファイヤーボム』を発動させた。
『ファイヤーボム』はアンナの足元で爆発を起こすと同時に爆風を発する。
その勢いに乗りアンナはルドルフに向かって矢のようなスピードで突っ込んで行く。
「上がガラ空きなのよ!」
すぐさま反応するルドルフだったが自身が起こした回転を止められずにアンナの侵入を許す。
アンナはルドルフの懐に飛び込むと両手をルドルフの腹にあてて『ファイヤーボム』を放った。
積乱雲が広がるように爆炎が膨れ上がると同時に巨大な爆発を起こしてルドルフを吹き飛ばす。
アンナは爆風の勢いに乗って後方に飛びのくと体を回転させて地面に着地した。
「どう?私の炎のお味は?」
「俺様に一撃を加えるなんてやるじゃねえか」
「さっきのお返しよ」
「だが、その程度じゃ俺様は倒せないぜ」
ルドルフはおもむろにしっかりとした足取りで立ち上がると黒くなった腹の煤を払った。
アンナの『ファイヤーボム』の直撃を受けたはずなのにダメージを受けていないかのような立ち振る舞いだ。
その反応に驚愕の表情を浮かべたのはアンナ自身だった。
確実に直撃させて手応えもあったから余計に驚いたのだ。
「何?あんた化け物?」
「ガハハハ。驚くのも無理はない。何せ俺は半分機械で出来ているからな」
そう言ってルドルフが上着を肌蹴ると機械の体が姿を現した。
ガトリングガンと同じ鈍色のパーツが幾重にも複雑に重なっていて精密さが伺えた。
体の中央にはひと際大きい円形状のパーツが埋め込まれており赤く輝いている。
恐らくそれがルドルフのパワーの原動力になっているようだ。
「強化人間か!」
「強化人間?」
「強化人間ってのは強制的に人間の潜在能力を引き出すために機械化された人間のことだ。人体実験は世界で禁止されていることだが、ロコゴンドル王国では当たり前のように行われているらしい」
「そんなのロボットじゃないか」
ミゼルは顔色ひとつ変えることなく淡々と説明して来るが目には暗がりが見て取れた。
強化人間は人が踏み入れてはならない領域に踏み込んだ結果、生み出されたものだ。
ルドルフのように自らの望んで強化されたのならまだわかるが、強制的に強化された人間は憐れでしかない。
人間としては生きられずにロボットとして一生ロコゴンドル王国のために尽すのだ。
死ぬことは許されず、壊れれば修理される。
そして修理できなくなればスクラップとして捨てられるのだ。
そんな人生なんて憐れでしかない。
「強化人間なのか知らないが私の前に立ちはだかるのならばぶち倒すまで!」
「随分と意気のいい奴だ。だが、意気だけでは俺様は倒せんぞ」
エレンは自信たっぷりに大剣を切っ先をルドルフに向けて豪語する。
相手が強ければ強いほど燃えて来るタイプのエレンにとってはルドルフは格好の相手だ。
だが、ルドルフは意も解せずにエレンを挑発するかのような言葉を吐き捨てた。
「その減らず口を聞けないようにしてやる。行くぞ!」
学習能力のないエレンは真っ向から立ち向かいルドルフの所まで突き進んで行く。
そんなエレンのがむしゃらな攻撃を受けて立つかのようにルドルフは身構える。
「ガトリングガンを使わないだと。どう言うつもりだ」
「何か秘策があるのだろう。これはマズイかもな」
俺達の心配をよそにエレンは大剣を掲げて打ち下ろすようにルドルフに切りかかる。
それを待っていたと言わんばかりにルドルフは左手の曲刀でエレンの大剣を弾くと、右手のガトリングガンをエレンの腹に押しあてた。
そしてニンマリと不吉な笑みを浮かべると最後の言葉を放った。
「地獄へ落ちろ!」
ルドルフは躊躇うことなくガトリングガンのレバーを引いてエレンに銃弾を浴びせた。
ゼロ地点からガトリングガンの直撃を受けたエレンはかわすことも出来ずに銃弾の餌食となった。
銃弾が体に撃ち込まれる度に血飛沫が舞い上がり辺りを鮮血に染めて行く。
それは舞でも踊っているかのように体をくねらせながらエレンは吹き飛ばされてしまった。
「エレン!」
「酷い。酷すぎるわ!」
「これじゃあ即死だな」
あまりに酷い惨状にセリーヌは顔を覆い隠して悲鳴を上げる。
地面に転がっていたエレンの腹は銃弾を受けてミンチ状につぶされていた。
傷口からとりとめもなく血が溢れ出し地面に赤色の海を作っている。
ミゼルの言葉通りエレンは息をしておらず既に死体となり果てていた。
「ざまあないわね、エレン。私を差し置くからこう言うことになるのよ」
「おい、アンナ!よくもそんなことが言えるな!エレンは仲間だろう!」
「仲間になった覚えなんてないわ。そっちが勝手に仲間って言い出しただけでしょう」
アンナの非情な言葉に思わず拳を振り上げそうになるが拳を握りしめてグッと堪えた。
今は仲間割れをしているよりも目の前のルドルフを倒すことの方が先なのだ。
「セリーヌ。『蘇生魔法』でエレンを蘇らせろ!」
何よりもまずはエレンを復活させることを優先させた。