あるある010 「都合の悪い話に耳を塞ぎがち」
ボロ宿に戻ってから、すぐに反省会。
エレン達を並ばせて、これまでの身勝手な行動に対して叱責する。
「冒険ってのはな、協調性がないとダメなんだ!お前達は普段から自分勝手なことばかり。人の財布をあてにしてタダ飲みしたり、着替え中の試着室のカーテンを空けたり、俺の作戦を無視してモンスターを討伐したりだ。お前達の神経はどこに走っているんだ?少しは反省しろ!」
「それってみんなエレンのことじゃない。私達に関係ないわ。叱るならエレンだけにしてよね」
「そこだー!お前らのそう言うところが協調性がないと言っているんだ!」
不服そうな顔を浮かべているアンナを指指して叫ぶ。
その横でエレンはどこ吹く風とと言わんばかりに明後日の方向を見ていた。
こう言う態度も気に入らない。
人が真面目な話をしているのにも関わらず、聞く耳すら持とうとしない。
都合が悪くなるとすぐに逃げる。
その根性がダメなのだ。
こいつらには再教育が必要だ。
世の中の常識を叩き込んで全うな人生を送れるようにせねば。
そのためには寺に修業に出すのがいいだろう。
「お前達は根性から叩き直さないとダメだ。明日から1週間、セントルースの北にあるキシリア連山の奥にある法名寺で修業してもらう」
「修業だと?」
「今更、そんなかったるいこと出来るか!」
さっそくエレンが不満を漏らす。
すると、セリーヌが小さく手を上げて質問をして来た。
「私もでしょうか?」
「もちろんだ。例外は認めない」
「鍛え直すのはエレンだけで十分じゃない。何で私達もなのよ」
アンナは頬を膨らませてブー垂れる。
その仕草をやっていいのは20代の女子までだ。
おばさんがやるとイタい。
「お前達は仲間なんだ。だからひとり欠けてもダメなんだ。ちゃんと法名寺で修業をして協調性を身に着けて来い!」
「それを言うならカイトだって仲間じゃないか」
「俺はリーダーだからいいんだ」
俺が勝ち誇ったようにミゼルに告げると、エレン達が出鼻を挫いて来る。
「私は行かないからな」
「私も行かないわよ」
「私もだ」
「私も遠慮させていただきます」
だあああああああああああ。
誰も言うこと聞かないじゃないか。
俺はリーダーなんだぞ。
リーダーの言うことは普通、聞くものだろう。
こいつらはいったいどんな教育を受けて来たんだ。
「これはお願いじゃない。命令だ!お前達は法名寺で修業をして来るんだ!」
不満を漏らすおばさん達の意見は無視して、さっそく法名寺に出掛ける。
修業は1週間を見ているが、進捗状況によっては日が伸びるかもしれない。
まあ、それは法名寺のお坊さん次第なのだけど。
「おい、この階段を登るのか?」
「何段あるのよ。先が見えないわ」
「これも修行だ。文句を言わないでさっさと登れ!」
俺はおばさん達を引き連れて法名寺の名物である地獄階段を登って行く。
地獄階段は全部で千段もある地獄のような階段だ。
傾斜角度も険しく登るだけでも一苦労。
俺はおばさん達の尻を叩きながら地獄階段を登って行った。
さすがの俺も千段の階段にはお手上げだ。
やっとのことで頂上まで辿り着いた時は汗だくになっていた。
ぜーぜーぜー。
「さすがに千段はキツイ。死ぬかと思ったぜ」
「カイトが行くって言ったんだろう」
「これも修業のためだ」
俺はどっかりと階段に腰を下ろしながら天を仰ぐ。
空は青く、モコモコとした雲が風に流されて行く。
平和がピッタリの穏やかな青空だ。
こんな天気のいい日は野原に寝転んで昼寝をしたい気分だ。
と、そこへ大きな太陽が目の前を覆い隠した。
「御用入りでしょうか?」
見るとツルピカ頭の和尚さまが俺を覗き込んでいた。
「は、はじめまして。俺、カイトって言います。今日はこいつ等、いや、仲間達を修業してもらいたくてやって来ました」
「修業ですか」
ツルピカ頭の和尚さまは優しい笑みを浮かべる。
その顔はまさに仏様のような深くて慈悲深い表情だ。
背中に後光を背負っているかのよう。
すると、エレンが和尚さまの隣に近づくと馴れ馴れしく頭を触りはじめる。
「お、おい!やめろ、エレン。失礼じゃないか」
「スキンシップだよ、スキンシップ」
エレンは和尚さまの頭をぺチぺチと叩いて爆笑をする。
「お前が私達を修業してくれるのか?その割には貧相な体をしているじゃないか」
失礼なエレンの仕打ちにも顔色ひとつ変えることなく和尚さまは優しく微笑んでいる。
そこへ屈強で筋肉隆々の仁王のようなお坊さん2人が駆けてやって来た。
「パク和尚さま、いかがされましたか?」
「おい、お前。和尚さまに何をする」
屈強なお坊さんはエレンの腕を捻り上げる。
「離せ、この野郎!何をすんだよ!」
エレンを軽々とのしてしまう屈強なお坊さん達。
エレンの膝を折って座らせるとエレンの頭を地面に押しつけた。
「右京、左京。手荒なことをしてはいけません。この方々達は修業にやって来たのですから」
和尚さまが右手を上げると屈強なお坊さん達はエレンを解放した。
「ふー。馬鹿力を出しやがって」
「すみません。俺の教育が行き届いていなくて」
「そんなに謝らなくてもよろしいですよ。私は気にしておりませんから」
なんて出来た和尚さまなんだ。
エレンの無礼な振る舞いにも目くじらひとつも立てることなく。
何事もなかったかのように平静を保っている。
さすがは法名寺を守っていることだけはあるな。
それに和尚さまと言ってもまだ若い。
年齢で言うと40代ぐらいだろうか。
何年、修業してこの境地に至ったのかはわからないが期待してもよさそうだ。
「なら、まず自己紹介をしますね。この品のあるおばさんがセリーヌ。その隣の気の強そうなおばさんがアンナ。プライドの高そうなエルフのおばさんはミゼル。そして家の問題児がエレンと言います」
「自己紹介に棘があるわね」
「おばさんってのが余計だ」
俺が自己紹介をすると和尚さまは仏のような笑みでエレン達を見やる。
「私は法名寺の和尚をやっているパクです。こっちのお坊さんが左京、こっちのお坊さんが右京です。2人ともこの寺で修業をしている修業僧です」
パク和尚さまの紹介を受けて右京と左京が頭を下げて挨拶をする。
見た目は厳ついが中身はちゃんとしているようだ。
「立ち話のなんですし、中に入ってお話を伺いましょう」
パク和尚さまは法名寺の本堂へ俺達を案内する。
有名なお寺だけあって外観は荘厳そのもの。
本堂の中は煌びやかな装飾が施されていて豪華絢爛だった。
「すごいお寺ですわね」
「どこもかしこも金ぴかだわ」
「おい、天井に鳥が描かれているぞ」
「それは鳳凰と言って永遠の命を与えられた神の使いです。その羽は業火で焼かれ、生き血を飲めば永遠の命を得られると言われています」
永遠の命って言われてもピンと来ないな。
どうせなら永遠の命より大金の方が嬉しい。
永遠に生きながらえても苦楽はつきもの。
ならば大金の方がいい。
大金であれば楽しかないからだ。
まあ、俺はいずれ大金をつかむのだ。
占いのおばあさんがそう言っていたからな。
俺がひとり妄想に耽っているとエレンが飾ってあった金の壺を手に取る。
「これ売ったら高く売れるんじゃねえ?」
「止めい!」
すかさず、エレンの頭を小突く。
お寺に飾ってあるものを売ろうだなんて罰当たりな。
エレンはきっと地獄に落ちる運命になるだろう。
そんなやり取りをしている間にパク和尚さまは本堂を抜けて茶室へ案内する。
「ささ、お上がりください」
「何だよ、こんな狭い所から入るのか?」
「エレンさん、これは茶室と呼ばれる建物でにじり口から入るのが決まりなんです」
さすがはセリーヌ。
物知りだ。
やはりセリーヌはどこぞの貴族なのかもしれない。
セリーヌは手慣れたようににじり口から茶室の中へ入る。
次いでアンナ、ミゼルと中に入って行く。
「さっさと入れよ、エレン」
「仕方ねえな」
エレンがにじり口から茶室へ入ろうとすると巨大なお尻が目の前にチラつく。
なんてエロい光景なんだ。
プリリンと揺れるお尻が艶めかしい。
しかもビキニアーマーのエレンのお尻はほぼ丸だし。
これはこれでマニアには爆ウケだろう。
不意に涎が零れ落ちる。
「おい、カイト。何顔を赤くしているんだ。最後はお前だけだぞ」
「お、おう。今行く」
俺としたことが。
エレンのお尻で興奮するなんて。
俺は正気を取り戻してから茶室へ入って行った。
俺が所定の場所に着くとパク和尚さまはお茶を点てる。
囲炉裏で炉を焚き、沸き上がったお湯を茶器に注ぐ。
そして予め入れておいたお茶の粉を茶筅で点てはじめた。
シャカシャカと心地よい音色が茶室に響きわたる。
その旋律をかき消すかのようにエレンの気のない欠伸がこだました。
「ふぁ~。眠い。まだか?」
「おい、エレン。ちゃんと正座をしろ!」
「私はかったるいのは嫌いなんだよ。出来たら起こしてくれ」
エレンは胡坐をかきながらそのまま居眠りをはじめた。
なんて緊張感のない奴なんだ。
と言うよりも失礼だ。
普通はTPOを考えるものだろう。
なんでこいつにはわからないんだ。
俺は頭を抱えながら大きく項垂れた。
それでもパク和尚さまはエレンを叱ることなく仏のような笑みを浮かべている。
そしてお茶を点て終わると茶器を俺の前へ差し出した。
「おい、これはどうしたらいいんだ?」
「カイトさん、茶器を持って3回回してからお茶を飲んでください。飲むときも1度ではなく3度に分けて飲んでください」
俺はセリーヌのアドバイス通りお茶を3度に分けて飲み干す。
うまさは微塵もなく苦さだけが口に残った。
そして茶器の口を指でふき取り、パク和尚さまへ茶器を差し戻す。
パク和尚は軽く会釈をして再びお茶を点てはじめる。
セリーヌ、アンナ、ミゼル、そしてエレンと続く。
しかし、エレンはマナーを無視してお酒を飲むようにお茶をがぶ飲みした。
「苦~。どうせ出すならもっとうまいものを出してくれ」
「ほっほっほ。あなたのお口には合いませんでしたか。では、次は気をつけるとしましょう」
「和尚さま。エレンに気を使わないでください。こいつはお酒意外口に合いませんから」
俺がパク和尚さまに頭を下げている横でエレンは茶菓子を頬張る。
「こいつはうまいな。もっとよこせ」
「おい、エレン。いい加減にしろよ!いっぱしの大人だったらTPOぐらい守れ!」
「TPOだと?そんなものは関係ない。私がルールだ」
どんなルールだ。
世の中、エレンを中心に回っていたら世界は既に崩壊しているだろう。
世の中の人全てが飲兵衛となって朝から晩まで酒浸けになる。
酒場は儲かるかもしれないが、アルコール中毒になる子供も現れるはずだ。
恐ろしい。
「それで修業をしたいと言うことでしたけれど、どうされましたか?」
「どうもこうもありません。ここに並んでいるおばさん達は自分勝手なことばかりして俺の言うことなど聞かないのです。俺はリーダーなのでチームをまとめる責任があります。だから、和尚さまの所で修業をさせ根性を叩き直して欲しいのです」
「なるほど。それは大変でしたね」
俺の悲痛な叫びにパク和尚さまはうんうんと頷きながら共感してくれる。
「事情はわかりました。しかし、彼女達だけ修業をしても意味はありません」
「それはどう言うことでしょうか?」
「チームと言うのはリーダーを含めてチームメイトがみんな同じ気持ちを抱かないと纏まりません。だから、カイトさんもいっしょに修業してもらいたいのです」
「俺も?」
驚いている俺にエレンがニタニタ笑いながら肘で突いて来た。
俺はそれを振りほどきながら思考を巡らせる。
これは計算外の出来事が起こった。
エレン達だけ修業に出せば済むと思っていたのだが、俺もいっしょだなんて。
修業と言えば過酷で厳しいものだ。
そんなものに付き合わされるなんて悲劇意外なにものでもない。
何とか俺だけは助かる方法を考えなければ。
「おい、カイト。自分だけ助かろうと考えていただろう?」
「な、何言っているんだ、ミゼル。そんな訳ないだろう」
相変らず鋭い奴だ。
しかし、これで逃げ道はなくなってしまった。
今さら「辞退します」だなんて言えない。
「修業は厳しいものではありませんから安心してください」
仏のような笑みを浮かべるパク和尚さま。
その言葉を鵜呑みにするほど俺は愚かではない。
きっと物凄い厳しい修業メニューが用意されているのだろう。
なんて言ったっておばさん達の性根を叩き直すのだ。
ただの修業では対応できないはずだ。
「俺だけ別の修業ってのはできませんか?」
パク和尚さまは顔色ひとつ変えることなく静かに首を横に振る。
そうですよね。
はじめからわかっていました。
だけど、ちょっとでも可能性があるならばと思っただけです。
ほんの出来心なんです。
そんなことを思いながら相談は終わったのだった。
俺達はパク和尚さまが用意してくれた白衣に着替える。
修業するものはまず身なりから清めると言う意味で白衣なのだ。
俺はしっくりと似合っているがおばさん達は逆にエロい。
たわわな胸の膨らみが滑らかなラインを描いていた。
「こんなゴワゴワしたものを着て修業をするのか?」
「これは正装ですから仕方ありませんわ」
「それにしたってよ」
気怠そうにエレンが襟首を肌蹴るとたわわな胸が見え隠れする。
ただでさえエロスを醸し出しているのに、それ以上エロスを振り撒くな。
右京と左京の顔が緩んでいるじゃないか。
すると、パク和尚さまがコホンと咳払いをした。
慌てて右京と左京が我に返る。
「それでは第一の修業の説明をします。まずは滝行で身を清めてもらいます。邪気が憑いたままでは清らかな精神は生まれません。滝に打たれて邪気を払うのです」
「いきなり滝行ですか!今、何月だと思っているのですか?」
「4月です。これもカイトさん達のチームのためなんです。頑張ってください」
パク和尚さまは俺の逃げ道をことごとくなくす。
「頑張ってください」のひと言で片づけるなんて。
仏のような顔をして心は鬼だな、この人は。
滝は法名寺から10分ほど山道を登ったところにあった
落差30メートルほどの滝で飛沫を上げながら勢いよく水が落ちている。
あんなところに身を投じたら首が捥げてしまうんじゃないかとさえ思える。
俺が躊躇っているとパク和尚さまは催促して来た。
「さあ、迷うことはありません。邪気を払って来て下さい」
仕方なく俺は滝壺に踏み出す。
「ひー!冷たい」
水温は5℃くらいだろうか。
滝の水が容赦なく俺から体温を奪って行く。
キンキンに冷えていると言うよりもジンジンと痛みが伝わって来る。
俺はたまらずに滝壺から上がった。
「うー、寒い。こんなの自殺行為だ!」
「”心頭滅却すれば火もまた涼し”ですよ。気持ちの問題です」
パク和尚さまは容赦ない言葉で畳みかける。
気持ちの持ちようだけで冷たさがなくなるなんて眉唾だ。
根性だけで何とかなるほどの冷たさではない。
パク和尚さまは滝行をしないから適当なことを言えるのだ。
「このままこうしていてもはじまりませんよ。これはカイトさん達のためなのです」
「ちくしょー。もう、どうにでもなれ」
俺は深く呼吸をすると滝の下に駆けて行った。
そしてキンキンに冷えた冷水を一身に受けながら体の中の邪気を払う。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
最初こそ冷たさに悶えていたが滝に打たれて行くうちに体が熱くなって行く。
それは幻覚でもなく紛れもない事実なのだ。
ふいに横を見るとエレン達も滝に打たれている……てっ。
エローっ!
おい、コラ、エレン。
晒しぐらい巻いておけよ。
見えちゃうじゃないか。
ハアハアハア。
俺は興奮している訳じゃないぞ。
滝行で体力を消耗したんだ。
右京と左京もエレンン露わな姿に鼻の下を伸ばしている。
屈強なお坊さんでもエロには勝てないんだな。
「まだですか!もう、持ちませんよ」
「あと10分です」
パク和尚さまは仏のような顔で鬼のようなことを言う。
もしかしたらパク和尚さまはドSなのかもしれない。
俺達が冷水に悶えている姿を見て興奮しているのだろう。
仏門に身を投じた者のすることではない。
神様から罰を落とされてしまえ。
そして地獄のような時間が過ぎる。
俺達はすっかり凍えてしまいブルブルだ。
血の気の引いた紫色の唇に青白い肌。
エレンの小麦色の肌で冴え鈍色に変わっていた。
いざ滝から逃れるとじんわりと温かさが戻って来る。
外は肌寒いのにも関わらず不思議なものだ。
それでも体の芯から冷え切っている。
指先も声も小刻みにガクガクと震えていた。
「パ、パク和尚さま。これでは凍え死んでしまいます。温かいものをください」
「この滝を下ったところに温泉があります。そこで体を温めてください」
パク和尚さまに案内されながら温泉へ向かう。
いつもは元気なエレン達も滝行にはお手上げなのようだ。
ガクガクと震えながら身を竦めている。
いつもこれくらい静かならば問題ないのだけど。
だけど、これでおばさんの性根を叩き直せそうだ。
この修業が終わる頃にはすっかり見違えていることだろう。
そんな一抹の期待を抱きながら温泉へと向かったのだった。




