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婚約解消を提案したら王太子様に溺愛されました ~お手をどうぞ、僕の君~【書籍化・コミカライズ完結】  作者: 春風悠里
番外編2

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♤メルルの思い出1. 転生

コミカライズ連載開始(今週土曜・2023.11.11より)に伴い番外編(毎日更新·全5話)を投稿します!

(詳細は活動報告、または開設したばかりのX(旧Twitter)をご覧ください)

 ――この世界に来た時の絶望は今でも覚えている。


 今までの努力が水泡に帰した、という言葉ではとても表現しきれない。

 

 私のいた世界には誘惑物がたくさんあった。

 辛い現実を忘れさせてくれる魅力的な本。

 違う世界に住んでいる気にさせてくれるゲーム。

 

 本当はずっとその世界に浸っていたいけれど……自分の将来のために我慢していた。学校の休み時間に本を読み、休日に二時間ほど買っておいたゲームを少しだけ進める。……その程度だ。

 

 本当は――、臨床心理士になりたかった。


 指定の大学に入り大学院に進学し、そのうえで資格試験に合格しなければならない。それでも、私のように悩みを抱える人たちに寄り添って、投薬ではなく心理療法で心の回復を援助するお仕事に就きたかった。


 ――全部全部、失ったんだ――。


 大学の合格発表直後に、ここが舞台のゲーム「王立学園の秘密の花園」を全て攻略し、キャラクターグッズでも買ってしまおうかと電車を乗り継ぎショップのある繁華街へと向かった。

 

 そして――、

 何かが上から落ちてきて、私はおそらく死んだのだと思う。

 

 鉢植えなどの重いものだったのかもしれないし、自殺者に巻き込まれたのかもしれない。グッズを買う前だったのだけが救いだ。そんなものを仏壇にお供えされたくはない。

 

 死ぬって分かっていたら、全てのゲームも処分したのに……。


 あの時、ふわふわした薄い桃色の空間の中でメルルに会った。走馬灯ではなくなぜ乙女ゲームのヒロインに会うのだろうと不思議に思いながら、彼女を見つめた。

 

「私には先がないの」

 

 彼女が、ゲームよりも幼い声でそう言った。

 なぜか小学生くらいの姿をしていたけれど、ゲームを攻略してすぐだったのでその特徴からメルルだと分かった。

 

「……プレイヤーにヒロイン役を譲ってしまうから?」

 

 なんとなくそう思って聞いてみた。

 ゲーム開始地点からはプレイヤーに選択権を譲ってしまう。彼女の意思はその時点で消える。そう……目の前のメルルを見て感じた。

 

「そうなの! そう決まってしまっているの。だから、あなたにメルルを譲るね。十歳になったばかりのメルルから頑張ってね」

「え……十歳!?」

 

 なぜ? メルルの年齢は十六歳だったはず。

 

「そう、十歳。学園入学のために勉強はしないといけないけれど……あなたなら大丈夫! 合格できるよ」

「……私、受験勉強から解放されたばかりなんだけど。しばらくは勉強なんてしたくないよ」

「でもほら、大好きなセオドアさんに会えるわよ?」

「私の好みも知っているんだね……それよりも私は大学に行きたかったよ。夢を叶えたかった」

「それはもう無理だけど、こっちの世界でも夢は見つけられるはず! さぁおいで、十歳の私。あなたはもう、メルル・カルナレアだよ」

 

 そうして……なぜ十歳なのかも分からないまま――、


 気付いたら私はメルルになっていた。


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