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婚約解消を提案したら王太子様に溺愛されました ~お手をどうぞ、僕の君~【書籍化・コミカライズ完結】  作者: 春風悠里
番外編1

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◆カムラとシーナ2. 下見(本編21話前)

「あの人は、どこに行かれると思います?」


 本当に、ライラ様が好きなのね……。

 ここは町中で人も多い。言葉には気を付けなければならない。「あの方」と言うのすら、カムラは避けているようだ。


 大切な誰かのことは、本当は誰にも気付かれず特定されないよう、いつでもそう呼びたいに違いない。


 今日は、警備のための下見だ。ヨハネス様が、メルルという名前の女の子に会うために、ライラ様と一緒のお忍びを計画しているらしい。

 ライラ様には内緒だと、口止めされている。


 ……私は、ライラ様のメイドなんですけどね……。


 私がオフで武器の手入れをしている時にまたやってきて、いきなり平民の服に着替えろと服を渡され、更衣室で着替え終わったら、そのまま俵抱きにされて凄まじい勢いで連れて来られた。


 もう、私に対してはやりたい放題だ。強いとは知っていたけれど、その片鱗が見えた。


 ライラ様は、夢でこの化け物のような強さや身のこなしを知ってしまったから、怯えるようになったのかもしれない。

 ……今はかなり、慣れているけれど。


「その子に会うのが、目的なんでしょう?」

「違いますよ。適当にあとをつけて、その後にデートをするのが目的です」

「ずいぶんと、気に入られましたね」

「ええ。早く結婚なさればいいのに」

「……気が早すぎですね」


 朝市の場所を抜けて、広場に出る。そこかしこに目を配っていくカムラの視線と周囲を、記憶する。

 木やオブジェの後ろ、柱の陰、人が多い場所と少ない場所。

 あのお二人をお守りする時に、どこにカムラが潜もうと思っているのか、カムラの視線を見て私に知っておいてもらうことが目的だったのだと、やっと分かる。


「もうちょっと、ちゃんと事前説明が欲しいものですね」

「分かればいいかと」


 人を振り回すのが、好きなのかと思ってしまいますね……。


 それも、あるのかもしれない。でも、それよりもカムラの中に根付いている習慣なのかなと思う。

 事前説明をするのを誰かに聞かれていれば、自分の行動が筒抜けになるということ。目的の確実な達成のためには、不必要な事前説明は味方に対してもしない。


 今のカムラが人の気配に気付かないことなんて、ないだろうに。幼い時についた習慣は、なかなか取れない。きっと、そういうこと。


「それで、あの人はどこに入りたそうです? 何が好きなんですか?」


 ……それとも、目的はこっちかな。

 下見を言い訳に、ライラ様について知りたかったのかもしれない。


「よく、分かりませんね」

「ええ? それは使えませんね」

「目の前でそんなこと、言わないでください。興味のない物なら、分かりますよ。衣服にも装飾にもご興味はあまりないです」

「女性なのに、珍しいですね」

「そうかもしれませんね。なので、興味を持たれるとしたら、この辺りでしか食べられないものや、見られないもの、でしょうかね」

「食べ物……ですか。ちょっと厄介ですね」


 この辺りの店の衛生状況でも調べて、指導が必要なところには、てこ入れでもするのかもしれない。


「買い物の仕方を、聞かれました」

「そうなんですか」

「何を、買ってほしがりそうです?」


 ライラ様の行きそうな店を事前調査のために知っておきたい、と見せかけて、ライラ様の好みを知りたいだけのような気もしますね……。


 鬱陶しくも、少しは感じるけれど。


 ――私のご主人様に入れ込んでしまった化け物のような男を見るのは、ちょっと気分がいい。


「どうでしょう。思い出になりそうなもの……ですかね。一瞬一瞬を、大事に考えられているような、そんな印象を持ちます」

「……なるほど」


 そう言うと、適当にあちこちの雑貨店に入っては、出るのを繰り返す。

 店の外からどれくらい内部が見えるのか、店内でお二人に見つからないように隠れる場所があるのかなどを、確かめる。


「女性と一緒だと、便利ですよね」

「……分かりますけど、もうちょっと言い方を考えてください」


 一人で柱の陰にいるより、恋人を装った方が不自然はない。おかしな場所にいても、二人の世界に浸っていると思われる。

 確かに便利なんですけど……。 


「……今、少しだけ考えましたけど、それ以外の言い方は思いつきませんでした」

「そういう人ですよね」


 命を賭してお守りするのは、ヨハネス様。でも、知りたくて仕方がない相手は、ライラ様だけ。他への興味は全く持たない。

 分かりにくい言動をするのに、すごく分かりやすくて、可愛さまで感じる。


 まずいですね……私に興味を持たれないほど、嬉しくなってしまう。


「……顔つきが変わりましたね。便利な人になるのが、好きなんですか?」


 興味がないくせに、よく気付く。


「違いますよ。私の大好きな人を、大好きなんですよね? 嬉しいに決まっています」

「――ふっ、大好き、ですか」


 馬鹿馬鹿しいと笑った後に、空を見つめる。


「この感情は、そうなんでしょうか……」


 誰にも見せない顔だ。

 ヨハネス様にも、ライラ様にも見せない顔。ライラ様のことだけを考えて、私を意識していないからこそ表に出す、そんな表情。


 ……今まで、自覚がなかったんでしょうか。


 あの日、ライラ様の言葉に爆笑したのは、誰かを突然大好きになってしまった自分自身を、面白いなと感じたからだと思ったんですが。


「気になるんでしょう? そうに決まっています」

「……そうですか」


 もっともっと、ライラ様に夢中になればいいのにと思う。

 ――この人の、そんな顔が見てみたい。

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