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婚約解消を提案したら王太子様に溺愛されました ~お手をどうぞ、僕の君~【書籍化・コミカライズ完結】  作者: 春風悠里
後編 学園入学後

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78.カムラとの変化する関係

「そ……れは…………」

「自覚はあるでしょう。私にも分かるように、よくそんな発言をする。さっきもね」


 ジェラルドの言葉について前に詰問された時も、こう言っていた。


『不思議ですよね。こんな状態のものであれば、私ですらあなたになれる。汚い色でも綺麗になれるんです』


 昔、私たちとゲームをしている時も、少し引いたように見ていた。


「自信がないわけでは……ありません。ライラ様たちのように綺麗ではない、と」

「ないように見えるわ。ヨハンの執事として信用され、誰よりも強く、ヨハンを期待通りに守り続けている。なのに、自分に誇りを持っているようには見えないわ。気に食わないのよ。私たちと一緒にボードゲームをしていた時も、居心地の悪さを感じていたわよね。だから今回も断って、シーナに任せた」

「――――っ」


 間近にあった顔が、少しだけ引いた。

 やや身を起こし、迷うようにカムラが口を開く。


「誇りなんて持てるわけがない。たくさんの屍を、私はつくり続けてきました。奴隷でも自死する自由くらいはあった。私はそちらではなく、屍を増やしていく道を選んだ。大体は悪党同士の報復合戦に使われていただけですが、上から命じられれば罪のない人も殺めました」

「生きるためでしょう。こっちに来てからは?」

「学校などは行っていませんよ。ヨハネス様付きに正式になるまでは、マナーの講習や教育以外の時間は、毒の耐性をつけるのと味を覚えるために毒の摂取と解毒を繰り返したり、私を倒せば無罪放免と言われた死刑囚の死体の山をつくる作業も続きましたね」


 ……騎士学校くらいは通ったと思っていた。カムラはそんな機会すらなく、ずっと……。


 だから私たちとのあの時間にすら居心地の悪さ、自分は参加すべき人間ではないというような違和感を持っていたのだろう。


「どうしてライラ様が泣くんですか。さっきまで、あんなに強気だったのに」


 呆れたようにカムラが言う。

 涙でカムラの顔が滲んでいく。


 手をずらすと、簡単に拘束がとけた。

 その手でカムラの首に手を回し、抱き寄せる。


「ち、ちょっと、ライラ様!?」


 めちゃくちゃ腕の中で、動揺している。


「まずい、まずいですって。ヨハネス様を裏切る気かとか、言っていたじゃないですか。自分からこんなことをして、どうするんですか」


 焦った声で身じろぎをする。

 でも、その気になれば引き剥がせるくせに、そうはしない。

 ……好意に慣れていないのね。


「カムラ、生まれてきてくれて、ありがとう」

「――――――っ」

「今まで一生懸命生きてきてくれて、ありがとう。ヨハンを守り続けてくれて、ありがとう」


 抱きしめたままのカムラの身体が震える。

 荒い息遣いが伝わってくる。


 どうして今のカムラしか抱きしめられないのだろう。過去のカムラの全てを抱きしめてあげたい。


 初めて、立った日のカムラも。

 初めて、話せるようになったカムラも。

 初めて、スプーンやフォークを使えるようになったカムラも。

 初めて、文字を書けるようになったカムラも。


 全部全部……。


「あなたは本当に、私のお母さんになるつもりなんですか……」


 声も震えている。


 昔、カムラと私の未来をタロットカードで占った。出たカードは『女帝』の正位置。かつて私はこう言った。


『家族に持つような無条件の愛情。母性。あなたはそれを欲しがっていて、私はそれをあなたに与える存在になる、のかもしれませんわ』


 ――ずっと、覚えていたのだろう。


「なりたいわね、母に。あなたが産まれた時点から、あなたの母になりたかった」


 拘束を緩めると、カムラが起き上がった。

 涙のあとがある。

 私も起き上がり、彼の髪をなで……頬をなでて言った。


「あなたの質問、大方予想できるわ」

「……はい」

「私とメルルを今日見かけて、見失った。違う?」

「いいえ、その通りです。補講も終わって歩いていたら、ライラ様のあとをつけていく彼女を見かけました。追うとあの場所に着いて、意味の分からないことをお二人が言ったかと思えば、突然消失されました。誰かを追って見失ったのは初めてです。見当もつかない……知らない言葉を聞いたのも。自分の仕事に不安を覚えたのも、初めてですね」


 やっぱり……そうだったのね。

 カムラにとって護衛は唯一の存在意義だと思っているはず。

 あの焦りようは、それしかないと思った。


「長い話をするわ、全部話す。昔、あなたには言ったわよね。一つの人生を終わらせてきたって。その話よ」


 カムラの頭をもう一度なでると、寄り添いながら話し始めた。

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