62.過ぎゆく時間3/3
そうして日々が過ぎていき、だんだんと定期考査が近くなった。
委員会の後にヨハンが言った。
「テストが近い。レポートの締切も近づいている科目が多い。いったん委員会は休止しよう。テスト週間が終わったら日の曜日から委員会は再開。水の曜日まで毎日開く。部の活動がある人はそちらを優先して構わない。夏期休業日初日の木の曜日に、学園の外に遊びに行こう。予定と申請まで出しておいてほしい。僕たちには分かりにくい形で護衛が山のようについて範囲も限られるけれど、そこは気にしないでくれると助かる。その翌日の朝、ジェラルドはこの学園を去る」
半年間は、あっという間だ。
ジェラルドとの別れが近い。
皆、寂しい思いを抱いていると思う。
それだけ、ジェラルドの存在は大きくなっていた。
ヨハンも言わないけれど、定期テスト終了後から委員会を毎日開催することに決めたのは、ジェラルドを仲間だと思ってのことよね。
王子が三人も一緒に学園外に出るには根回しも相当大変だったでしょうし……それを実行できるように動いたことからも伝わってきた。
「寂しくなるわね」
いつもの東屋でヨハンと二人きり、いつものように話す。
「君は、ずいぶんとジェラルドと仲よくなったみたいだからね」
「……ごめん」
「いいよ、力になりたかったんだろう?」
「ええ……、色々と相談されるから」
「あいつが、ね。心を開いたものだな」
ジェラルドとの会話の内容はヨハンにも報告していいと許可は得ているので、ある程度話すようにしている。
誤解されたくはない。
「ここでの皆との時間も今までにないものだったみたいで……母国でも誰かと築くことはできるのかな、とも少し辛そうに話していたわ」
「……難しいだろうな。僕も、君がいなければ無理だったはずだ」
「せめて、婚約者の子と仲よければね……」
「上辺だけの関係とか、前にも言っていたよね。耳が痛いよ。僕だって、君が踏み込んでくれるまで何もしなかった」
それはゲームの設定だったのだから仕方ないわよと、言いたくなるわね。
「ライラはどう答えたの?」
「前に談話室で話した『はぁって言うゲーム』を、もう少し詳しく教えておいたわ。婚約者の子とやればって。他にも仲を深められそうな、あっち系のゲームを少しね」
「はは、アレか」
「そんな中で、ジェラルドらしく話してみればって。色んな感情をお互い見せられれば、より仲よくなれるんじゃないかしらって。こっちで皆と話している時みたいに、恐れずに自分を出しなさいと発破をかけておいたわ」
「……あのジェラルドを、婚約者の子は受け入れられるのかな」
「あっちでは、格好つけちゃっているみたいだものね。むしろ出した方がいいでしょう」
私がこんなふうに話しているから身近にも感じているのかもしれない。だから、色々と手配してくれたのかな。
ヨハンが何を考えているのかは全然分からないのよね……。私のことを好きだと言い始めた頃から、分かりにくくなった気がする。
「婚約者とメルルの関係への配慮も……ね。卒業後にセオドアが連れて来るかもしれないとか、今の時点から婚約者くらいには伝えておいた方がいいのかな……とか」
「難しい問題だな」
「ええ。まだ付き合ってはいないから動けないでしょうけど、事前に色々と考えておかないといけないものね」
いきなり連れていって婚約、結婚とは簡単にはいかない。
身元の確認は必要だし……心配はしていないけれど、この学園での優秀な成績も持っていかなくてはならないだろう。
両親の処遇も決めなくてはならないし、どんな人材かというのも、あらかじめジェラルドが周囲に伝えておく必要がある。
最低限の貴族としてのマナーも、卒業前に休暇を利用して習得する話も出てきそうだ。恋人関係になるのが学園祭後だとすると、三年生になる頃には国に伝えて何かが大きく動き始めるはず。
ジェラルドが私に聞きたかったのはそんな実務の方ではなく、婚約者の子の精神的な部分を考えて……のことだけれど、それもなかなか難しい。
「あ、それでね。午後にはメルルと一緒だったのよ。また女子会をしたの」
「君は本当にメルルの話になると、楽しそうだな」
「だって、可愛いんだもの。あのね、私の大親友よって言ったら、目をうるうるさせて喜んでくれたの。いいでしょ!」
「それは妬けるな。僕だって、君の大親友にもなってみたいよ」
「……恋人じゃない」
「でも、大親友ではないだろう? 両方になれたらいいのにな。彼女にしか見せない顔だってあるはずだ。嫉妬せずにはいられないよ」
メルルとは、ヨハンやセオドアの話以外にも、勉強のことも含めて色んな話をしている。ジェラルドの婚約者にどう説明しておきたいかも聞いたけれど、当然悩んでいた。
それぞれに、未来に向けた考え事がたくさんある。
そんな皆の姿を見るたびに、やはり考えてしまうのは前世での息子、拓海のことだ。
日中は色んな出来事があり、四六時中考えているわけではない。でも……夜寝る前になると、どうしても思い出す。
この世界に私が来てから同じように時間が経っているとしたら、拓海は皆とほとんど同じ年齢だ。
進路は決めた?
友達は増えた?
恋人はできた?
ちゃんと笑えている?
そう考えるたびに、自分を異質な存在のようにも感じる。
私の心は若くない。
同じ時を過ごしているようで、皆とはきっと、見え方が違う。
――私がヨハンの隣にいてもいいの?
そんな心の声が……どうしても拭えない。










