55.委員会始動
「全員揃ったわね! それじゃ、皆でゲームをわいわい楽しもう活動を始めましょう」
わーっと皆が拍手してくれる。
「……一応、企画・開発を目的としているからね。万が一誰かに聞かれたら、適当に誤魔化してほしい」
確かにそうね。
ヨハン、ナイスアシスト!
皆の目がキラキラしているわね。
「今日はジェラルドもいるし、カードゲームの一つ『ファイブアライブ』にするわ」
「え、なんで僕を名指ししたの」
「立て続けに、ボコボコにされるゲームだからよ」
「それがなんで僕がいると!? そんなのを記念すべき一回目にするの!? ライラちゃんの感性は謎すぎるよ」
反応がいい人がいると楽しいのよ。
ゲームバランスがややアレだけど。
うん、今日も今日とていつものジェラルドね。よかったよかった。心配していたけど、談話室でもいつも通りだった。
「まずは五体ずつの小さい人形を配るわ。同じものを五つ持っていってね」
「うわぁ~、可愛い! 可愛いです、ライラさん」
「それは皆の命よ」
「ふぇー」
前世では、筋肉むきむきの男がプラスチックの板に並んでいたはず。
ヨハンたちと遊んでいた時には、なんでもいいかと色のついた小さな木の円柱を使っていた。せっかくなので、今回は適当に動物の人形をシーナに用意してもらった。
上を見上げている犬や猫、兎に熊、狸に狐だ。それぞれ同じものが五体ずつある。
「僕は熊にするよ、強そうだからね。ヨハネスは狐にしたらどうだい? 狐っぽいからさ」
髪の色の話かな。
「狐っぽいってなんだよ。僕は残ったのにするよ」
「それなら、私は兎ちゃんにします」
「俺は猫だなー」
そういえばリック、昔は猫を飼っていたらしいものね。
「この中なら、犬にしておくわ」
私も、犬を五体手元に取る。
狸と狐が残ったわね。
どちらもセオドアっぽくないなぁ。
「私は狸にしよう」
さっきのジェラルドの言葉に配慮したのね。
……配慮? なんか言葉が違う気がするけれど、まぁいいか。
「やっぱりヨハネスは狐になる運命だったんだよ。僕はそれを見抜いていたってことだね!」
ほんっと楽しそうね、ジェラルド。
「次にゲーム内容を説明するわ。まずは十枚ずつカードを配るわね。数字が書いてあるカードは足し算をしていくのよ。順番に出していって、合計二十一を越えたらバースト。人形を一体倒してね。次の人からは、またゼロからの足し算になるわ。誰かの手札がなくなった時も、その人以外の全員の人形が一体倒れるわ。もう一度手札も含めてカードをシャッフルして十枚ずつ配り直しよ。五体倒れたら命が燃え尽きて、そのプレイヤーは退場。生き残った一人が勝ち。まぁ、やりながら覚えましょう」
特殊カードの説明もして、ゲームを開始した。
「最初のスタートの人は……そうね、半年しかここにいられない可哀想なジェラルドからにしましょうか」
「ちょ、ライラちゃん!? いきなり悲しいこと言ったよ!?」
他のメンバーもくすくすと笑いながら、どうぞと手を軽く前に差し出した。
いじり甲斐があるわよね……。
「ちぇー、いいよいいよ。最初にこれを出しておきたかったし、ありがたく僕からにさせてもらうよ」
と言ってジェラルドが出したのは【7】のカードだ。
それ……一枚しかないんだけど。引きが悪すぎじゃない?
「いきなりそれか……兄上の次で助かった。私は【5】を出そう。合計十二だな」
「それなら、私は【4】です。十六ですね」
まずいまずい。ジェラルドをスタートにしたの、間違っていたかしら。
ジャンケンにすればよかったかも。
「俺も【4】で。二十ですね」
これは……【1】を出すか、特殊カードを出すか、どちらかしかないじゃない。まずい……【6】と【5】のカードが手札に残ったままでもう二十一だとは。
「……【1】を出すしかないわね……」
「ライラー? もう数字が出せないんだけどー?」
「僕をスタートにしたからさ! 恋人に嵌められるなんて、愉快極まりないね」
「仕方ないな。【0】を出して、合計二十一のままだ」
「そこで僕は、もう一度お前にまわす! リバース、順番は逆だ!」
「チッ。リバース返しだ!」
「なにぃ!?」
楽しそうね、よかったわ。
ボードゲームって童心に戻るわよね。
「兄上も【0】で二十一のままか。仕方ない、私は【10】に戻すカードを使おう……」
「やったぁ、セオドアさん。助かりました〜!」
「俺も、めちゃくちゃ助かりましたよ」
「私は助かっていないわ……」
「僕もだよ。数字カード、一枚も出せていないんだけどね」
「人数が多いほどそうなるのよねー。【0】に戻すカードを使ってあげるわ」
「助かったライラ、延命できるよ。かろうじてだけどね」
「ライラちゃん! 僕を勝たせるために僕をスタートにしてくれたんだね! やっと君の意図が分かったよ」
「いえ、ちょっといじめたかっただけよ」
自分がいじめられているけど。
あー、駄目。
この数字カードたちを使う未来が見えないわ。
このゲーム、天国の人と地獄の人が、はっきり分かれるのよね……。
わいわいしながら何巡もまわっていく。
「また命の灯火が消えたわ……」
「ライラのお陰で、生き長らえることができるよ」
「早くヨハネス、出してよ。あと一枚で手札が無くなるんだ! さぁ早く!」
「そこで二枚取りだ。ジェラルド、泣いて喜びながら二枚取るといい」
「ぎゃー!」
「私は二枚取りたいわよ……」
「お、それなら私の手札がなくなるな」
「えー、私ももうちょっとだったのに〜」
「俺だって使いたいカードがあったんですよ。セオドアさん、どうしてくれるんですか」
「どうもこうもしない。ほら、命を全員落としていくといい」
「もう駄目ね、死が目前よ私……」
「俺なんてキラーカードを使わないまま手放しですよ。ショックだなー」
「そんな凶悪カードを持っていたの、リック」
経験者にしては出し時を逸しているわね……。
最初の一回目だし、出すかどうか迷っているうちに残ってしまったのかもしれない。
ゲームを通して、普段なら絶対に言わないような言葉を口にしながら、皆テンションが上がっていく。
二転三転しながら、今回はセオドアが生き残った。
「まだ時間があるし、もう一度やる? 他のにする?」
「私はもう一度やりたいです〜!」
「はい、もう一度やりたい人ー! ええ、それならもう一度やりましょうか。次は隣のセオドアからね。最初の人は右回りで交代していきましょう」
こうして委員会初日は、大いに盛り上がって終わった。
熱も冷めやらぬ様子で、まだ少し顔を紅潮させながらジェラルドがルンタルンタと廊下を歩いて行く。
その横で、リックも楽しそうに歩いている。
二人を眺めながらヨハンと歩いていると、後ろからセオドアが私のすぐ横に並んだ。
あれ、メルルは?
「……ライラ」
え、セオドアが初めて私を名前で呼んだ!?
「今日はありがとう。あんなに楽しそうな兄上は、初めて見た」
ああ……セオドアもやっぱり、ジェラルドを気にかけているのね。
「ええ。半年しかないけど、楽しい思い出を持って帰ってくれればと思っているわ」
「本当に感謝している」
そう言うと、また後ろへ下がっていった。
「リックはいいよなー、あんなに楽しいことを小さい時からしていたんだろう? ヨハネスとライラちゃんとさ」
「そうですね。ライラさんの弟さんも一緒でしたが、とても楽しかったです。卒業試験のために一年参加するのをやめていましたが、入学が決まってから後悔しましたよ。参加しても入学できたかもしれない、あの時間を取り戻したいって。だから、本当に嬉しいんです」
「いいないいなー、ずるいなー」
「また明後日がありますよ。次は日の曜日だから、もっと時間がありますし」
「だね。今から楽しみだよ」
子供っぽくはしゃぐジェラルドに、リックも好感を持ったようだ。ジェラルドを見る目が、私の弟のローラントを見る目に似てきた気がする。
……保護者の目に近いわよね。
ジェラルドは二つ学年が上だけれど、そうは見えない。幼い頃に過ごしたかった時間を取り戻そうとしているのかもしれない。
隣にはヨハンがいてくれて、この世界では初めて六人でのボードゲームができる。
談話室に行けば、いつだって皆がいて……。
まだ学園生活が始まってから三週間くらいしか経っていない。
でも、きっとこれからものすごく楽しい学園生活が待っている。
――そんな予感がした。











