38.ジェラルドとの出会い
「やっと、話は終わったかい?」
聞き慣れない声がして驚いて振り向くと、この世界で唯一まだ会っていなかったサブキャラクターの一人、隣国フィデス王国の第一王子であり王太子の、ジェラルド・オーウェンスがにこにこしながら立っていた。
「兄上、いつから聞いていたんだ……」
セオドアが目を細め困った顔をしている。
いきなり弟キャラになったわね……。
そういえば、ゲームでは共通ルートで一回くらいこの三人で会話をした気がする。
とりあえず、立ち上がっておこう。
「うーん、セオドアがヨハネスはどうしたんだと聞いていたあたりからかな」
「ほぼ全部じゃないか、趣味が悪い」
「セオドアが何かに気をとられている時に気付かれない間合いを、僕は兄として熟知しているからね!」
「本当に趣味が悪い」
話に入りにくいけれど、そろそろ挨拶をしておこうかしら。
「お初にお目にかかります、ライラ・ヴィルヘルムと申します。セオドア様のお兄様、ということは、ジェラルド様ですわね。お会いできて光栄ですわ」
両手でスカートの裾を持ち、腰を落として礼をする。
「いらないよ、そーゆーのは。ジェラルドでいいよ、セオドア相手の時みたいに話して。さっきの会話を聞いた後じゃ、気持ち悪いよ」
この人もこの人で、いい性格しているわよね。セオドアよりもアンソニー寄りだ。
緑がかった銀髪に、エメラルドグリーンの瞳。ヨハン同様、見るからに王子様。セオドアが父親似で、ジェラルドは母親似だ。
そうゲームの文章に書いてあった。
弟のことだけが大好きで、他はどうでもいいと思っている。わざと挑発するのも好きで、癖が強い。
共通イベントでは人がいない場所でしか話していない。自国や、他の生徒がたくさんいる時にはきちんとしているのかもしれないけれど……。
さて、どうしようか。
セオドアにはヨハンと仲よくなってほしかったし、人となりも知っていた。王子であることを隠し、他の親切そうな男子生徒と仲よくなって名前だけで呼び合うシーンもあった。
ジェラルドはサブキャラで、イベントも少なかったし人となりも掴めていない。その他エンドがあるくらいだし悪い人ではないのだろうけど……、対応に悩むわね。
「フィデス王国の王太子様に、それは……」
「弟と差をつけないでよ」
「先輩、にも当たると思いますが……本当によろしいのですか?」
「ああ、いいって言っているだろう。しつこいな」
面倒くさそうに、手を振られる。
うーん、こういった態度をとられるのは久しぶりね。というか、ライラの人生では、なかったんじゃ?
まぁ、いいって言っているのなら、いいか。半年過ぎてしまえば嫌でも公的な関係でしかなくなる。今の内に仲よくなっておくのも、悪くはない。
「では、ジェラルド。今聞いた話は、内密にお願いしたいのだけど」
「お安い御用だ。ヨハネス以外には内緒にするよ」
これよ、この性格の悪さ!
仲よくならない方がいいのかな……。
「ヨハンに言うつもり?」
「あれ、恋人に言っちゃまずい内容でも、しゃべっていたのかい?」
「……まずくはないけど」
「それはよかった」
まずいに決まっているでしょ、この馬鹿王子!
あー、苛々する。
「でもさ、話を聞いていた限り、君たちすごく気が合うんじゃないか? セオドアがあんなに人に助言をするのも初めて見たよ」
「……いい友人だとは、思っている」
「ヨハネスなんかよりセオドアの方が相性がいいんじゃないか? 婚約、解消したんだよね。ちょーどいいじゃないか、くっついちゃえば」
あー、ムカムカする!
この、空気をあえて読まない感じ!
相手が嫌がるド急所を突いてくるところが、もー!
ゲーム内のメルル相手の時よりも、酷いわね……。卒業後、外交で関わる可能性もあるから私から仲違いしにくいことを踏まえている気もする。
「私はヨハンしか考えられないし、セオドアにも、もっといい相手がいるわ」
「メルルちゃんのことかな。さっき会ったよ」
おお、着々と共通イベントが進んでいるわね。最初はセオドアを探すジェラルドに会うだけのイベントだったものね。
「セオドアを探してるって言ったら知り合いだって言うから軽く話をしたんだけど、科目選びを手伝ってあげたんだって? 人嫌いなセオドアがどうしたんだと思ったら、セッティングしてくれた人がいたってことだね、ここに。世話焼きで……なんだっけ、年寄りじみたパワーだっけ? これからも頼むよ」
あ〜もう、セオドアが頭を抱えて目を閉じている。あなたの兄でしょ、この人。
なんとかしてちょうだい。
「……私が何もしなくても着々と友人は増えていくと思うから、大丈夫よ。基本的に親切で律儀だもの。少しずつ皆それを知って、寄ってくると思うわよ」
「あー、それも心配だな。ライラちゃんだっけ? セオドアと付き合って、変なのは追っ払ってよ」
こいつ、話を聞いていない……!
「兄上、ヨハネスはこの女にベタ惚れだ。目の前で言ったら殺されかねないと思うがな」
「それは面白い。僕が死んで戦争勃発か。後は頼んだよ、セオドア」
疲れた……。
誰か、癒しを…………。
「戻りましょう、セオドア」
「そうだな、私の兄がすまない」
これ以上相手をするのは、限界だ。
今日は寮で昼食をとれるように予約してある。ヨハンもいないのに男性と歩くのは躊躇するけれど、三人なら人に見られても、その時点で離脱すれば大丈夫でしょう。
女子寮に、逃げ込もう。
「えー、もう行くのか。つまんないなー」
でも……彼もまた王太子なのよね。
ふと、昔のヨハンを思い出す。
日頃は自国で好き勝手なことを言えないからこそ、ここで憂さを晴らしているのかもしれない。ヨハンの王太子モードのような状態をずっと続けていたのなら、同情はする。
半年だけの交換留学生だ。隣国ではっちゃけたい気持ちも分かる。
学生時代は貴重だ。
その時にしか築けない関係がある。
前世での私は人生半ばだった。卒業して就職、子育てなどで疎遠になった友人の中には、事故で亡くなった人もいた。
私も……その一人になってしまっただろうけど。
――過ぎてしまえば二度と手に入らない輝きを、ジェラルドにも……。
つい、目の前にいる若い十八歳を見ると、そう考えてしまう。
それでも将来の国王だ。
外交で、いずれ変な圧力をかけられても困る。王妃に他国の息のかかった団体が近づいて、変な思想を植え付けて足を引っ張らせて国力を弱める、なんてことも……よくある話。
……強気で仲よくなっておきましょうか。
駄目だったら、セオドアがフォローしてくれるでしょう。そういうの得意だもの。
「ジェラルド」
「なんだい、ライラちゃん。未来のお兄様と、もっとしゃべりたくなったのかい?」
「私はヨハンのものよ。でも、遊びたくなったら一緒に遊んであげる。もちろん二人きりでは駄目よ。そうでない時なら、相手してあげるわ」
「えー、セオドアとは二人きりだったじゃないか」
「偶然だったし、そもそもあなたが後ろにいたのなら二人きりじゃなかったわよ」
「ああ、確かにそうだ。頭がいいね。そうか、僕の相手をしてくれるのか」
……早まったことを言ったかな。
「なるほどね、セオドアが年寄りじみたパワーとか言ってた理由が分かったよ!」
「言っとらん!」
お、セオドアが声を荒らげるのは初めて見たわね。この調子なら強気で接してもよさそう。
うーん、この関係性での学園生活。
いったい、どうなっていくのだろう。
ヨハン以外には内緒にするという、さっきのジェラルドの言葉だけが気がかりね……。
王宮からヨハンが戻るのは、寮の施錠前に間に合いそうなら今日の夜遅く、そうでなければ明日の早朝だ。
寮で朝食を食べてからすぐにヨハンとは会うし……、その時に伝えておけば大丈夫だと信じよう。











