表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約解消を提案したら王太子様に溺愛されました ~お手をどうぞ、僕の君~【書籍化・コミカライズ】  作者: 春風悠里
後編 学園入学後

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/122

32.入学式当日

 とうとう、入学式の朝が来た。

 あの、「王立学園の秘密の花園」の舞台に、私はようやく足を踏み入れたんだ。


 涙ぐむ両親と抱擁し、ミーナにも最後にぎゅっと抱きついた。

 ローラントは騎士学校だ。休日に別れの挨拶は済ませた。私よりも身長は高くなったものの、ものすごく寂しがってくれた。


 ミーナとシーナについては、せっかく私が四年間もいなくなるのだし、好きにさせてあげてほしいと、両親には頼んだ。

 それでも公爵家に残ることを希望するのかなと思ったものの、どうやらミーナは私がいない間、各国を回って見聞を広げるそうだ。定期的には戻るらしいけれど、いずれ私が王太子妃、王妃となることを前提に考えてくれている気がする。


 ただ、思いの外、嬉しそうでもあったのよね……。実は旅行とか、好きなタイプだったのかもしれない。


 シーナは、最近姿を見なかった。

 誰に聞いても教えてくれなかったので気になるけれど、私のために何かしてくれているのかなと思っている。

 

 でも最後くらい、挨拶したかったな……。


 真新しい制服と靴で、入学式の行われるホールまで歩いていく。

 護衛のいない、初めての朝だ。


 でも、緊張感はない。

 びっくりするほど、ない。

 理由は、一つ。


 隣に、異常にベタベタしてくるヨハンがいるからだ。


「ライラ、とうとうこの日がきたね」

「……そうね」


 入学式当日から、腰を抱かれて学園に入る女性って、他にいたことあるのかしら……。


 ちょっと早めに来たから人が少ないとはいえ、噂されている。


「もしかして、あの御方って……」

「ヨハネス様よ、ヨハネス様!」

「隣にいるのは、ライラ様ね」

「仲よさそう。婚約者だものね」

「それが、解消したらしいわよ」

「え、あんなに仲がよさそうなのに?」

「自由恋愛の中で、ライラ様に選んでほしいんですって!」

「きゃー! そんな台詞、言われてみたーい」


 も、もう駄目だ。

 むずむずするー!

 それに、お互いが選ばれたいという話だった気がするものの、少し変化している。あの場で話したのも根回しをしたのも、ヨハンだったからだろう。


「ヨハン、どうしてあなたは人の視線が気にならないの」

「恋人といえば僕たち、みたいな存在を目指しているからね」

「……変な存在を、目指さないでちょうだい」

「君が注目されるのは、気分がいい。僕の恋人はこんなに可愛いんだと、自慢できる」

「楽しそうで羨ましいわね。私は注目されすぎて、高らかに歌い出したい気分よ」

「お、さすがライラ。付き合うよ」

「……冗談だから」


 入学式からこのようなことではもう、メルルとの未来は絶望的なのではないだろうか。

 私といるより幸せになれる可能性があるのかもしれないのに、自分でその可能性をへし折ってどうするのよ。


「私と一緒でなければ、話しかけてくれる人もいたでしょうに。友達百人計画を実行するなら、もう少し離れた方がいいわよ」

「そんな計画立てないよ。君さえいてくれれば、それでいい」


 そう言って、小さく囁いた。


「卒業後に仲を利用しようとされるのは、面倒だ」

「……そうね」


 確かに、役職面でも取引などでも、優遇を求める人は出てきそう。

 そういった事を要求しなさそうな人とだけ、仲よくならなければならないのか。まだ学生なのに、そこまで考えなければならないなんて、可哀想だ。


 ゲームのオープニングに寂しがりやの王太子様と出てきたし、恋愛イベントでもやたらヒロインに会いたがっていたけれど……友達がいなかっただけなんじゃないの?


 でも、第二王子のセオドアなら対等な立場だから、仲よくなっても問題はなさそう。外交的には、むしろその方がいい。


 それに、この世界では彼と仲よくなった。


「ヨハネス様とライラ様ーーー!」


 底抜けの明るさを持つ彼、リック・オスティンがいてくれる。


「久しぶり、リック。立派になったわね」

「まだまだですよ。お二人の姿が見えたんで、走ってきました!」

「相変わらずだな、リック。……背が高くなったな。僕をはるかに越えているじゃないか。ちょっと縮んでくれないか」

「もー、ヨハネス様も相変わらずで、安心しましたよ」


 私たちのイチャつき(?)に慣れていて、声をかけてくれるのは、リックしかいない。

 ……それにしても、本当に大きくなったわね。

 ここ一年近くは、騎士学校の卒業試験に集中したいからと会っていなかったけれど、まさかその間に、こんなことになるとは。

 ゲームでは画面の中にいるせいで、見上げないものね。


 そこかしこから、やはり噂話が聞こえる。


「誰かしら、あれ」

「知らないけど、お二人の世界を邪魔するなんて、ちょっと失礼よね」


 ううーん。

 これはちょっと、よくないわね。


「リックは、私たちの幼なじみだもの。一緒の学校に通えて嬉しいわ」

「僕たちの、兄弟みたいなものだからな」


 あえて強調して幼なじみと表現したら、ヨハンも合わせてくれた。やっぱり、リックが悪く言われるのは嫌なようだ。


 友情ね……!

 ああ、ヨハンにも友達ができて、本当によかった。


「そ、そんなふうに言ってもらえるなんて、俺、感動で泣きそうです!」


 まぁ、ちょっと天然入った友達だけど。絶対、噂話聞こえていないわよね。


「小さい頃からの、知り合いみたいね」

「あー、だからあんな距離感なのね」


 うん、噂話も好意的なものに変わったようだ。このまま私たちの幼なじみ的存在だと広まれば、平民出身だとおおっぴらに馬鹿にする者は出てこないでしょう。


「でも、お二人の門出を邪魔しちゃ悪いですよね、俺は先に行きます」


 えー、もう?

 もうちょっと、ヨハンと会話してからでも……ローラントがいれば、気を利かさずにもう少し会話も続いただろうに。


 あ、あれは!

 ちょうどいいところに!


「ちょっと待って、リック。メルルー!」


 しゃべっていた私たちの歩みはいつの間にか遅くなっていて、後ろから来た生徒たちに抜かされていた。

 その中の一人に見知った髪型の女の子を発見して、つい叫んでしまってから後悔した。


 私は、阿呆かーーー!!!


「あ、ヨハネス様とライラ様! 初日からお会いできるなんて、嬉しいです!」

「も、もー。同級生なんだから、ライラって呼んで」

「えへへ。それなら、ここではライラさんって呼んじゃおうかなぁ」


 天使のような笑顔で喜びをあらわにするメルルに、私は会話を続けながらも、青ざめていた。


 リックとメルルの初対面イベント、奪ってしまったわ……。あんなに気を付けようと、誓ったのに。


 ここはもう、なんとか挽回するしかない。


「メルル、彼はリック。あなたと同じ平民出身で、騎士学校の首席卒業者よ」


 メルルが、すごーいという顔で、瞳を輝かせている。

 

「それから、彼女はメルル。同じく平民出身で、特待生入学者。家の仕事の手伝いもしていた働き者よ。きっとお互い気が合うと思うわ。すごくいい子で、すごく優秀だから」


 それぞれを紹介して、二人にしてあげよう。共通イベントの代わりくらいには、なることを祈ろう。


「リック・オスティンです。すごいですね、仕事に勉強。尊敬します」

「いえいえ、大したことないですよ。騎士様なんですね、私の方こそ尊敬します。私は、メルル・カルナレアです。これから、よろしくお願いします」


 よし、二人の世界に入ったことだし、ヨハンと一緒に離脱しよう。


 彼らの歩みと少しだけテンポをずらすと、相変わらず腰を抱いたままのヨハンも、気付いてそうしてくれた。


「ライラ……、君が何をしたいのか、よく分からなくなってきたよ」

「うん、安心して。その感想は間違っていないわ。私が阿呆なことをしただけよ」


 自分のミスを、自分で尻拭いってね。

 我ながら、酷すぎる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ