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魔物の存在

よし……見つけた!


何時ものように気配を消し、兎の背後から跳びかかる。


……え?


視界が一気にぶれると共に兎に体当たりをかます。兎は大きく弾かれ、木に叩きつけられ、絶命する。


すぐに地面から起き上がり、兎を咥えるとそそくさと立ち去る。


んー?妙だな。何時もと同じような感覚で跳びかかったら勢い余って体当たりしてしまった。


何時も通り、食べては食糧を探し、見つけては捕まえ、捕まえては食らうを繰り返していたから速度が上がるような事は無い筈だけど。


【世界〈スフィア〉の基礎知識】


あん?一体なんだこの機械音声は。


どこからともなく聞こえてくる声に咥えていた兎を地面に下ろし、周りを見回す。


人間の気配はしないし視覚内にはいない。となれば、これは一体どこから。


【この世界に住まう生物は魔力を保有しています。生物が他者の魔力を取り込むと僅かながら能力を向上させる事ができます】


なるほどねぇ……だけど、僅かって事は殆んど伸びる事は無いって事だよな。俺の感覚を置いてけぼりにする程なんて、どうなっているんだ?


【ごく稀に通常以上に魔力を取り込んだ際の能力向上率が高い生物がいます。それが〈魔物〉。個を持って高みに至る事を許された存在です】


ふーん……それじゃあ、俺はこの〈魔物〉に該当する、ということか。兎の瞬発力はこの能力向上の蓄積によって眼に見える形で発現したと言って良いわけか。


【〈魔物〉は通常の生命体以上の生命力と寿命、魔力、知性を有しており、その肉だけでも極めて高い値段がつくこともあります】


人間からしてみたら、口から涎が落ちてしまうほどに欲しい食材、ということか。生命力と寿命、あとは魔力?が多いのは助かるな。


ていうか、この声は何だ?お前は誰だ?


俺が質問を頭の中で考えるが、応答はなかった。


……あ、この質問には答えてくれないのか。まあこれはゲームのヘルプ機能みたいなもの、なのかもな。


でも、この世界における俺の立ち位置は理解する事ができたのは僥倖だ。


個を持って高みを目指せる。本来なら何代も積み重ねて登るべき高みに一匹で登ることができる存在、というべきか。


まさに、一匹狼ということか。……笑えねえ。


ていうか、俺が目覚めた時に群れにいなかった理由はこれが原因だろ。


人間以外の生物のコミュニティは人間以上に異端者を排除しようとする傾向にあるという話を聞いたことがある。このパターンだろ。


まあ、群れの中でボス狼に頭をヘコヘコと下げるのは真っ平ごめんだからメリットとして考えよう。


っと……お客さんかな。


向けられた殺意に気がつき、向けられた方向に唸るとのっそりとした動きで熊が現れる。


……?熊なら何匹か狩った経験があるけど、雰囲気が……!?


「グルアッ!!」


なっ!?


熊がのっそりとした動きから一変、凄まじい速度で突進してくる。咄嗟に右に転がって躱すと反転する。


熊は見た目にそぐわない軽やかな動きで反転し前足で地面を引っ掻いて勢いを殺し俺を睨んでくる。


「グルルル……」


何て速度だ……。これは、かなり厄介だぞ。


威嚇しながら熊の周りを円を描くように歩く。半円を描いたところで地面を蹴り接近する。


熊は「グオオオオッ!」と吠え右前足を袈裟斬りのように振り下ろす。


反射的に左に移動して攻撃を躱け、左前足で通り過ぎ様に切り裂く。


「グルッ!?」


僅かに熊はたじろぐがすぐに反転し爪で俺の背を切り裂く。


ぐっ……!


頭に焼けるような痛みを覚えながら熊の方を向く。熊の方は……やっぱし、傷が軽いな。それに、もう塞がってる。


やはり、か。あの熊は魔物だ。しかも、俺より長く生き、多くの生き物を喰らった魔物だ。


高い瞬発力で迫ってくる熊に向かって地面を蹴りその顔面に頭突きする。


突然の攻撃に怯んだ隙を突いて首に噛みつく。熊は大きく身体を動かして抵抗し俺を引き離す。


首の付け根から流れ落ちる血を見て熊は俺の方をより剣呑な空気を纏わせて睨み付ける。


ちっ……!やっぱし、肉が固いし身体が大きいから並みの攻撃じゃ一撃で殺せない。それに、向こうも俺を獲物から敵として認識しやがった。


「グオオオオオオオオオオッ!!」


熊が大きな声で吠えると地面を蹴って接近し避ける間も無く体当たりをぶちかましてくる。


がっ!?


大きく吹き飛ばされて木に叩きつけられる。揺さぶられたような奇妙な感覚の中左に転がる。


それと同時に熊の突進で俺が叩きつけられた木がへし折られる。


骨が折れてないだけまだマシか。骨や内臓も見た目以上に強固なのか。魔物の肉体はそれなりに強固だと考えて良さそうだ。


頭を振って感覚が元に戻すとジグザグに駆け熊に接近。熊の両前足の攻撃を後ろに跳んで躱し、隙を作ると跳躍、肩に噛みつき肉を食いちぎる。


「グルッ!?」


血が吹き出る肩に熊は手を当てるが、手から血が溢れる。それと同時に食い千切った肉を呑み込む。


へぇ……兎の肉よりは上手くないが、力が漲る感覚がする。そう思うだけかもしれないが、まあどっちでも良いか。


さて……どう勝とうかな。


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