始まりの目覚め
……痛い。
焼かれるような痛みを覚えながら、俺は起き上がろうとしてよろけ、草の上に倒れる。
草の上……だと?俺は一体どこにいるんだ。
二足歩行をしようと立ち上がろとして、倒れ、気づいた。
……人の手ではない。獣の手と呼ぶものか。
俺の眼に写る手は黒と白が混じった毛に覆われ、掌には肉球がついている。爪は鋭くて黒い。
どこをどう見ても人ではない。どちらかと言えば、狼や犬、猫の類いか。
「グルゥ……」
しかも、言葉を話せないときたか。まあ、そこら辺もこの身体では仕方ないことかな。……というか、案外冷静でいられるものだな。人間だった俺が、獣になったというのに。いや、予想外過ぎて逆に動じなくなったとか、そういう感じか?
それにしても、喉が渇いた。水分を補給しないと。
痛む身体を引きずり、辺りを散策すると小さな川があった。そこ身体を引きずりながら向かい、水を飲んでいく。
ふう……生きた心地がする。……はっ、なるほど、な。
小川の水に写る自分の姿に俺は納得し、嘲るように笑う。
俺の今の姿は……狼だ。白と黒の毛を持ち、縦に割れた瞳孔の赤い瞳の中に十字架が写る、珍妙な狼だ。
はは……まあ、構わんか。人間であろうとなかろうと、俺は俺だ。そこに善悪好悪何て関係ない。俺は俺らしく生きる、それだけに過ぎない。
それにしても、この身体は……一応成体か?まあ、一人立ちできる程度に成体なのは助かる。まだガキだったら母狼を探す必要があったからな。
そして、この脇腹の痛みは……間違いなく、これだな。
脇腹に出来た横一文字の傷に頭を向け、舌で舐めて血を拭き取る。
血は止まっている。……が、この大きさから考えて大きなナイフか剣で切られた、と考えて良いだろう。
眼に十字架が写る狼なんて地球には居なかった。となれば、異世界だと考えて良いだろう。剣やナイフが狩りに使われている時点で少なくとも文明レベルは地球には及ばないだろう。
……あれ?俺は人間だった。何で人間だった時の記憶が消えてんだ?いや、正確には思い出が失くなっている。知識は残っているし、問題ないかもしれないが……思い出がないのは困るな。
思い出と言うのは、絶対の行動指針だ。人間の行動が過去の記憶から無意識的に基づいている訳だから、無いというのはどう行動すれば良いか分からないということにも繋がってしまう。
……まあ、そこら辺は新しく積み上げていくしかない、ということか。はあ……だが、一つだけ分かる事がある。
『俺は、この世界で生きていく』
それが現状俺が分かることだ。なら、それに見合うような行動をとっていくしかないな。