表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

大阪環状線発車メロディー 玉造駅・寺田町駅・天王寺駅 編

作者: 尾塚うどん粉

1598年 豊臣秀吉の死後、

1600年 家来であった家康と、石田三成が関ヶ原で戦い家康が勝ち江戸幕府開く

1614年 大阪冬の陣

1615年 大阪夏の陣

徳川家康と豊臣一族(側室淀殿、息子秀頼 優秀な家来)の戦いで、家康が、一族を滅ぼし、完全に天下を取った、

2015年、、大阪環状線(JR西日本)は、ドアが閉まるタイミングを、より分かりやすくするために、発車メロディーを導入した。


朝、四天王寺前の「うどん前田」のカレーうどんを、美人女優さんが美味しそうに食べているのをテレビで観て、あれは演技だと思いながらも、急に食欲をそそわれ、封筒に入れてある5000円をリュックに放り入れて家を出た、普段の道紀みちのりだと、あてもなく、ぶらっと駅に行き、先に出発する電車に乗ってから、ひらめきで行先を決めるのだが、(行先は、どこのパチンコ店にするかである(笑))今日は、目的を持って、環状線外回りのプラットホームで待った。電車が到着し、ドアが開くと、4~5秒で、「メリーさんの羊」が流れ出した。この曲が、この駅の発車メロディーである、何事にも、興味を示さない道紀だが、ほとんどの駅は、発車メロディーとの関連性を理解出来ているが、玉造駅と、メリーさんの羊の関係が、どうしてもわからず、駅員さんに聞いても、首を横に振るだけ、仕方なくネットで調べると、①2014年に出来た商業施設、ビエラ玉造2階の窓の高さが、バラバラになっているのは、ドレミの音階に見立てると、メリーさんの羊になる、②近くに、保育園があり、保育園とメリーサンの学校をかけている ③周辺にミッションスクールが多いので、アメリカ民謡を選んだと言う書き込みが多かったが、どれも明確な回答ではなく、いまだに疑問が残っている。

10分で、天王寺駅に到着した。薬のダイコクドラッグの横で、信号待ちをしていると、ちょうど10時になり、正面のパチンコ店が開店し、誘い込まれるような音楽が流れて来た。大学も卒業して、現在24才になる道紀が、この時間帯に、こんな所に立っているが不思議である、道紀は、中学の時から、「自分のやりたい事を見つけなさい、何がしたいの」と親、先生から百回以上言われてきた、高校の文化祭で、有名なスポーツ選手が、講演をしてくれた時、「人生は一度しかない」「やりたい事を見つけて」「目標を持って」「夢に向かって」を繰り返し何度も言ってくれ、皆は感動していたが、道紀一人が手を挙げて「どうしたら、やりたい事が見つかるのですか、僕はそれを聞きたいです」「僕は、あなたのような、素晴らしい選手になりたいと夢見て、向かったら、なれるでしょうか」と質問をした。

「うううう~ん」と返答に困っていた。

結局、大学でも、自分の生きる方向を見つけることが出来なくて、就職活動もせず、週2回のコンビニのバイトで、親のスネをかじりながら、だらだらと生活をしている、ニートに近いフリーターである。

今日は、朝食を食べてきた、昼食には,まだ時間が早すぎる、条件が揃った、今日の運試し、うどんは2000円もしない、3000円だけ、パチンコで時間を潰すつもりで店に入ると、店員さんが、並んで、丁寧にお辞儀をして迎えてくれた、1円パチンコ確率99.9分の1の甘デジ海物語で勝負をかけた、隣のおばちゃんが、座ったと同時に、亀の絵柄が揃い、これみよがしに道紀を見ている。

「くそー、悔しい」

思った瞬間、、魚群が流れ、マリンちゃんが、画面の向こうから手を振っている、

「あっ、はずれた」

「何でやねん、ブラジャーはずしたろか」

ショックで腹がたった

「あっ、また流れた」

直ぐに魚群が流れ、また、マリンちゃんが手を振っている、道紀は手を合わせて拝んだ

「頼む、マリンちゃん、あんた可愛いよ」

ジュゴンの絵柄が揃い、大当たり

2時間ほど粘り、最終決算は5000円の勝ち、機嫌よく、四天王寺に向かった、天王寺公園エントランスエリアであるテンシバの横を通り、大阪のパワーースポットと、のぼり旗が立てられている、、堀越神社に着いたが、興味がなく、チラリと中を覗くだけに留めた。その横に、コンビニと広いコイン駐車場があり、うどん前田は、すぐそこだが、ちょうど12時、お客さんが大勢押しかけていそうで、少しここで待機しようと、駐車場の奥まで移動すると、木々で囲まれた丘が目に留まった、「茶臼山」と、石碑が出ている、茶臼山は、標高26mで、大阪低山の5位で、1位は有名な、天保山の4.53mである、早速、登ると頂上は土俵を大きくしたような円形で、案内板はあるが、椅子以外なにもない、周囲を見渡しても、木々で覆われ、近くの通天閣や、あべのハルカスも見えない、今、歩いてきた谷町筋は、車の往来も激しく、騒々しいが、7~80m中に入っただけなのに、静寂で癒される。頂上に立つと気持ちがいい、大きく手を上に伸ばし深呼吸をしていると、椅子に座っていた老人が、突然声をかけてきた、

「気持ちいいやろ」

「はい、気持ちいいです」

老人とは、関わりたくないので、軽く返事を返した。

「君、大阪夏の陣って、知ってるやろ」

何か変な事を言っているようだ、、適当に聞いた。

「大阪の夏のニンジン??食べた事ないと思います」

道紀は、歴史に興味もないし、さっぱりである

「大阪のニンジンちゃうがな、夏の陣や、分からんか」

老人は驚いて、笑った

「分かりません、どこのニンジンなんですか、僕はニンジンが嫌いなんんです」

うっとうしい老人や、少し腹が立ち、強い口調で言った

「困った奴やな、ニンジンと違う、ジンと言って戦う人達が、集まる所やがな、まあ選挙で例えれば、立候補者の選挙事務所のような所かな」

老人の、穏やかな話し方は、不思議と人を引き付ける力を持っていた、あの、嫌がっていた道紀が、自然と耳を傾けるようになってしまった。

「へぇー、選挙事務所が、陣か」

老人は、話を続けた

「1615年、4月、徳川家康が、今、君が立っている場所に居たんやで」

さすがに、家康は知っている

「えっ、徳川家康って、あの家康ですか」

「そうや、あの家康や、夏の陣では、ここを本陣として、豊臣秀吉一族(側室淀殿、息子秀頼、優秀な家来)と戦ったので、ここから、大阪城を見ながら、家来に指示を出していたと思いわ」

道紀の立っている所を指さした。

いつもの、道紀なら、こんな難しい話が始まると、逃げてしまうが、今日は、続きを聞きたくなってきた、本当に不思議な老人である。

「なぜ、大阪城を見ていたのですか」

「何!、君はそんな事も知らないのか、何を勉強してきたんや」

「すみません、僕は、大学は、経済学部でしたから、あはっはは」

頭を掻きながら、笑って応えた、老人も、あきれて、笑いながら話を続けた

「豊臣秀吉が、大阪城を作ったんや、だから、そこに居たからやろ」

「へぇ、秀吉は大工やったんですか」

「なんでやねん、大工ちゃう、黒田官兵衛に命じて作らせたんたや、秀吉は武将や、天下を取った武将や」

興味が、湧いてきた

「それで、二人の試合はどうなったんですか」

「試合ちゃう、いくさや、先に言っておくわ」

老人は笑いながら言った

「先に言っておくわ、いぐさ(い草)とちゃうで、イグサは畳の材料や、いくさは戦争のことや、なんで、お前とここで漫才をせなあかんねん、ここはNGKと違うわ」

「家康が勝ったんや、そして天下を取って、大阪城を地下に埋めたんや」

「えっ、地下にですか」

「そうやで、今の大阪城の地下に、秀吉が作った城の石垣が発見されているから、間違いがない」

「あいつ、えげつない、凄い事やりますね、あはっは」

「凄い奴や、江戸幕府が200年も続いた基礎を作ったんやからな、今の阿部さんなんか、ちょろいもんやろな、あははは、こんな事言ったら怒られるわ」

「家康も、桜を見る会を、開いたんですかね」

「君は、しょうもない事は、知っているんやな」

道紀は、また頭を掻いた

[私は、東京が嫌いや、特に、大阪の秀吉を破った家康は憎いけど、凄い奴に間違いない、だから、ここに立つと、家康気分になり、何か勇気が湧いてくるので、悩んだり、弱気になった時には、必ずここに来るんや」

老人は、しみじみと語った。

たかが、26mの貧弱な山だが、老人が言うように、ここに立っているだけで、優越感に浸り、勇気が湧いてくるような気持になってくる。高校時代、高い講演料を支払ったスポーツ選手の話より、老人の方が、感動して楽しかった。

「ところで、君は、今頃こんなところに居ると言うことは、働いていないのと違うか、大きなお世話やと思うかもしれないが、そんなんあかんで、何をしていいのか、わかれへんねやろ」

「はい、そうなんです」

「出来ないのと違って、分からないだけやったら、チャンスや、何でも出来るがな」

何を言っているのか、理解できなかった、老人は、下で、落ち葉を集めている清掃員を見ながら

「君は、掃除は出来るか」

「はい、出来ますけど」

「そら、見てみろ、出来ることがあるやろ、君が、清掃員にならなかったのは、汚いイメージを持ち、格好悪いと、思っているからやろ、それは、我儘だけや、落ち葉を集めるのと、仕事をしないのと、どちらが格好が悪いか、わかるやろ」

この老人、説得力があるなと感心した、

「今は、ネットでも、いくらでも仕事が見つけられると聞いているし、皆、仕事がない、、ないと言っているが、ハローワークに行けば、一杯ある、仕事がないと言っている奴は、それをやりたくないだけで、我儘や、何でもいい、この仕事は、格好が悪いからやりたくないと思っているやつを、一度やってみろ、結構面白いかもよ、やる勇気がでなかったら、茶臼山に登り、家康になったら出来るわ」

と言いながら、老人はニコニコして、手を振りながら山を下って行った、

何か、吹っ切れた感じがした、一度考えてみようと思った瞬間、下で、大きな音がした

「ガチャン」

「ああ、痛い」

老人が、駐車場の車止めにひっかかり、自転車ごと転倒しているのを見て、慌てて下山した。

「大丈夫ですか」

「あはっはは、君に偉そうなことを言った罰や、コケてしまったわ、足をくじいたようや、痛いわ」

老人は、顔をしかめながら足をさすっている

「それは、大変ですわ、救急車を呼びましょう」

「アホ言うな、大丈夫や、家から迎えに来てもらうわ、15分くらいかかるけどな」

「コンビニで、氷を買ってきますから、アイシングしましょう」

「アイスクリームは、いらん」

「アイスクリームと違います、アイシングです、局所を冷却する、応急処置です、また漫才になりそうですね」

急いで、コーヒーと、氷を買い、老人に渡した、老人は、美味しそうにコーヒーを飲み、道紀はアイシングをしてやっていると、「大阪108」のナンバープレートをつけた、軽トラックが到着し、老婆が降りて来て、丁寧に、お礼を言ってくれた。

老人が車に乗る寸前に

「親切にしてくれたお礼に、先程買ってきた、年末ジャンボ宝くじを、一束差し上げるわ」

宝くじの束を10冊みせた

「これ連番と違うけど、好きな束を一つ、持って帰って」

トランプのように扇状に開いて見せた、道紀は、少し迷ったが、一番端の束を抜き取り、リュックに入れた。この老人、名前も、職業も知らないが、神様、仏様のように見えた。

老人は、去っていったが、急に、やる気が出てきて、長年抱えていた、無職のプレッシャーから、解放されたような気分になり、嬉しくて、うどんを食べるのも忘れ、家に戻り、あと、数日で今年も終わりだ、来年早々にでも、ハローワークに行こうと決心した.

12月31日、11時59分、道紀は、ベッドで横たわっていると、ここは、騒音と、ビル、マンションしか見えない都会のど真ん中だが、遠くから除夜の鐘が聞こえてきた。

「ぼ~ん」「ぼ~ん」

なんとも言えない、心に浸みる、いい響きである、よく聞くと「ぼ~ん」「の~お」とも聞こえ、自分のこころの底にある、煩悩を祓ってくれそうな気持になって来た、道紀は、就職もせず、だらしなく、世間から見捨てられたような人間でも、鐘の音を聞くと、心が洗われ、清々しい気持ちになるが、この音が、うるさいと言う人がいると聞いて驚いた、その人こそ、鐘の音を聞いて、煩悩を祓わなければならないと思った。

新年を迎えた、昨年は、就職のことをいわれるのが嫌で、わざと、年末年始のコンビニのシフトを入れたが、今年は、家族5名が揃って雑煮を食べた。兄の一紀は、学校の成績もよく、国立大学に進み、いつも兄と比べられ、引け目を感じて、あまり好きではない、兄嫁も、有名大学を優秀な成績で卒業し、エリート意識が高く、道紀のような、ぐうたら男が大嫌いで、いつも、小馬鹿にされ、軽蔑のまなざしで見られるので、苦手で、近寄りがたい。

兄は、5年前、近所に売りに出された廃倉庫を買い取り、改造して、スポーツ、文化教室を開き、駅にも近い事が幸いして、生徒数も多く、経営は順調のようだ。

「道紀、おまえ、就職は、どうするんや」

食事の途中ではあるが、道紀が逃げないうちにと、兄は先手を打ってきた、いつもなら、黙って席を離れるのだが、今年は違った

「もうすぐ、ハローワークに行こうと思ってるんや」

家族全員、予想外の言葉に、驚いた顔で、道紀を見ている、母は涙顔であった。

「そうか、ハローワークか、それなら、俺の教室で働けや、何を担当するかは、後で考えたらいいからな、可愛い女の子もいるで、彼氏がおるかも知らんけどな、あはっは」

「兄貴の教室でか、嫌やは、また兄貴と比べられて、笑われるわ」

「何、言ってるねん、就職もしてない今のお前に、皆、笑っているいわ」

兄の言葉で、はっと、気づいた、茶臼山で老人が言ったのと、同じセリフだ、老人はこうも言った

「やりたくないと思うやつを、一度やってみろ、結構面白いで」

まさしく、これだ、兄と一緒の仕事はしたくないと思っている、更に老人は言った

「それは、我儘だ」

教室に1度も行ったこともない、何をしているのか、内容も知らないのに、勝手に嫌だと思っていただけで、老人が言う通り、我儘かもしれない

「ちょっと、考えさせてや、明日、必ず返事するわ」

翌日

「ちょっと、出かけてくるわ」

向かったのは、茶臼山だった。老人に会えるかもと期待したが、姿はなく、がっかりした、しかし、頂上は気持ちがよく、家康の場所に立つと、「よし」という気持ちになって来た。

「兄貴、やるわ、迷惑をかけると思うけど、頼むわ」

家族、全員拍手をしてくれ、感動した、両親は、もう泣いている、兄嫁は、道紀と同じ職場になるのが、嫌そうだが、家族の手前、仕方なく、苦笑いをしながら拍手をしていた。自分が、どれほど、家族に心配をかけていたかがよく分かった、

「そうか、やってくれるか、7日が、今年の初日や、頑張れよ、最初は子供のスポーツ教室でも手伝うか、子供は好きやろ」

「子供か・・・作るのは好きやけどな、へへへ」

冗談を言った。

「もう、ええ、お前、首や」

兄は、笑っていたが、兄嫁は、顔をしかめ、睨んでいる、彼女は関東の出身で、なかなか関西の冗談について行けないようだ。

1月7日、初出勤

壁に、「メリーさんの羊カルチャーセンター」と書かれていて、驚いた、駅に近いから、このネーミングにしたのだろう、面白い、いい名前だ、さすが兄だと感心した。

道紀が担当する、スポーツ教室は、1階の体育フロアーで行われ、今日のスケジュールは、10時~12時エアロビクス、13時~16時ママさんバレーボール、16時~18時社交ダンス、18時~21時ジュニアバドミントンと、ぎっしり詰まっている、聞いた話では、チーム名をママさんチームは「メリーさんクラブ」ジュニアチームは「羊ジュニア」の名称で、各競技の協会に登録をして、試合や競技会に出場しているとの事である、2階は、3つ部屋があり、一つは調理専門教室で、あとの二つで華道、英会話、中国語、折り紙、絵手紙、ヨガ、他、多くの教室を開いている。

道紀は、今日一日中、体育フロアーで、講師の助手を務めたが、ママさんや、子供達が、一生懸命に、練習をしている姿を見て、感動した。「自分のやりたい事を」「目標を持って」「夢に向かって」とは、こういう事だったのかとわかり、いままで、だらだらと過ごして来た自分が恥ずかしかった、人生で初めて、こんな充実した一日を送れたことを、兄に感謝した。しかし、一つだけ、がっかりした事があった。エアロビクスで、ママさんのハイレグレオタードを期待したが、全員、ジャージか、短パン姿であった事である(笑)


あっという間に1か月が過ぎた、今日は休みである、以前、食べそびれた、カレーうどんを食べに、天王寺に出かけた、アベチカのパールガーデンを通る事にするが、そこは、「たちんぼ」と呼ばれている、売春婦のおばちゃんに、よく、声を掛けられるのが、嫌なので、滅多に通らないが、今日は、2月上旬で風が強く寒いので、仕方がない。今日も2、3人のおばちゃんが、こおちらを見ている、出来るだけ、目を合わさないように、端の方を歩いていると、宝くじ売り場があった、今日は列は出来ていない、売り子の女性二人が暇そうにしている、美人で可愛い子で、タイプである、目があった、

「そうだ、リュックにいれていた、老人からもらった宝くじがある、」

これを口実に話が出来そうだ。

「すみません、これまだ有効ですか」

「まだまだ有効ですよ、調べてみましょうか」

ニコリと笑ってくれた、とてもかわいかった

「一応、調べて下さい、300円は誰でも当たるのでしょう」

女性は、機械を通して番号を照合している、3枚目の札を横によけた、たぶん300円当選札だと予測した、6枚目、女性の手が止まり、顔色が変わり、二人が、こそこそと話ながら、何処かに電話をしながら、道紀を睨んでいる、

「あれは、偽宝くじだ、老人に騙された、今、警察に電話をしている、どうしよう」

逃げよかと、迷っていると、、女性が、顔を引きつりながら出て来て

「高額当選です、金額は言えませんが、係の者が来ますので、少々、お待ちください」

「えっ、高額当選、100万ですか」

偽くじだと思っていた矢先に、高額だと伝えられ、気が動転した。

「これ、何処で買われたのですか」

女性は、顔をひきつりながら、聞いてきた

「実は、これは、ある方から頂いた物で、何処で買ったかは知りませんが、恐らくこの近辺だと思います」

女性達は、、再びこそこそと話しはじめ

「たぶん、キューズモールだと思いますわ」

そわそわ、落ち着きがないような様子で教えてくれた。10分程で、二人の男性が、血相を変えて走ってきて名刺を渡してくれた。

[みずほ銀行の者です、ここでは、都合が悪いので、すぐそこですので、銀行に来てもらえないでしょうか、そこで詳しくお話させていただきます」

興奮しながら話してくれ、銀行に向かったが、車中では、彼らは、緊張してか、一言も話さなかった。

応接室に通され、支店長が、興奮気味に出て来た。

「1等、当選です、おめでとうございます、私、初めての経験です、嬉しいです、これ、連番で買われていたら、9億でしたね、わっはっはっは、でも7億って凄いです」

この人が、何を言っているのか、理解に苦しんだ。

「・・・・・・7億?何が・・・」

「あなたの、この宝くじが、1等当選の7億です」

支店長が大声で叫んだ

「はあ~、これが、うそやろ、7億って、・・・・ええ、財布に入れへんで」

驚き、興奮して、自分で何を言っているのか、分からなかった。

[今日、直ぐには、お渡し出来ません、準備もありますし、長井さんの身分証明書と、印鑑を持参していただいて、後日お渡しいたします」

どえらい事になってしまった、まだ信じられない、嬉しいより、不安の方が大きい、これからどうしよう、僕みたいな者に当たるなんて、世の中、どうかしている、老人に申し訳ない、家族に、言おうかどうか迷っているうちに、受け取り日になった。

銀行で、まず「その日から読む本」を渡され、必ず読んで下さいと言われた、次に、7億を現金で渡すと、危険なため、定期預金か、口座を開設して欲しいと、お願いされた、道紀は、少し考えてから、宝くじを得た経緯を説明し、大阪108の軽トラに乗る老人を捜してくれるならと返事をした。

この2~3日、老人の事で悩んでいた、7億円の扱いについて、道紀の気持ちを確立で示すと

①全額もらう・・・1%

②半分もらう(3億5千万)・・・19%

③3分の1もらう(2億1千万)・・・30%

④全額返す(7憶)・・・・50%

まだ、結論は出ないが、あの時、声をかけてくれていなっかったら、7億どころか、就職もせず、ぶらぶら過ごしていたと思う、就職の報告もしたい、どうしても会いたくて、銀行に口座を開設する事を条件に、老人を捜してもらい事を約束した、


1週間後、自分なりに、結論を出して、リュックに通帳を入れて、最寄りの駅である寺田町駅に向かった、電車の中で、乗客が、リュックを狙っているような気がして怖くて胸に抱きかかえてて座った。駅に到着すると、発車メロディー「Life goes on]が聞こえてきた、意味は人生が続くてある。

この7億円を持って、これからの人生を続けるほうがいいのか、0のほうがいいのか、どちらが幸せなのか、また悩み出しながら歩た、玉造筋を通り、南河堀口を右に曲がり、上町筋に入ると、直ぐに、兆京寺ちょうけいじを見つけた。老人の実家は、お寺である。プレートナンバーが108は煩悩の数だ、さすが,お寺の車だと感心した。

谷町筋、上町筋、松屋町筋には、有名で、立派なお寺が数多くある、兆京寺は、壊れそうな門が閉まっていたが、隙間から覗くと、境内は広いが、廃寺のような雰囲気で、侘しかった、「たにまち」という言葉がある、このタニマチは、ここである、大阪市中央区谷町に住む、相撲好きの医者が、力士から、一切治療費を取らなかったことに由来して、ひいきにしてくれる客、後援してくれる人の事を「たにまち」と呼ぶようになったらしい。境内に、住居があり、吉川義詮と表札がかかっているので、あの老人の名前のようだ、勝手口から黙って境内に入った、蜘蛛の巣は張っていないし、掃除も行き届いているが、時代劇で、悪党が隠れ家にしているような、壊れかけた小さな本堂(伽藍)があり、中央に阿弥陀如来像が祀ってあったが、何かが欠けていて切なかった。住居のチャイムを鳴らした。

「は~い、何方様でしょうか」

老婆が、じっと、道紀の顔を見ている、覚えていないようだ、無理もない、あの時、老人のことで、頭が一杯で、しっかり顔を見ていなかったからである、

「私、昨年末、茶臼山で、いろいろお話を聞かせて頂いた、長井と申します」

丁寧に、お辞儀をした、以前では、考えられなかった事である。

「ああ、あの時の男性でしたか、その節は、主人が 大変お世話になりました」

と言いながら、奥に入っていった。

「よく、ここが分かったな、嬉しいよ、もう足は、大丈夫や」

老人が、奥から、小走りに出て来て、嬉しそうだった。奥に通され、お茶を入れてくれた、

「やはり、吉川さんは、お坊さんだったんですね、弘法大師のように見えましたもん」

「アホ、そんな偉い人物ではないわ、ただの、廃寺の貧乏住職じゃ」

弘法大師と言われ、嬉しそうに、ニコニコしている、

「今日は、二つ、報告に来ました」

老人夫婦は、秀吉は大工かと言うような男の報告を、あまり期待していないようで、笑っている。

「一つは、兄貴の会社で、働く事になりました」

「ああ、そうか、よかった、よかった、やはり、出来る事があったやろ、家康も喜んでいると思うわ」

嬉しそうに道紀を見つめて、フンフンと頷いている。

道紀は、悩みぬいて、昨夜、最終的な結論を出して、ここを訪れた。

結論

やっと、仕事をする気になった矢先に、こんな大金を手に入れると、また元の自分に戻るような気がして怖い、毎日、パチンコの事しか考えなかった最低男に出会っていなければ、7億円は老人の物だったのだ、あの老人なら、7億円を有意義に使うだろうし、あの年で、もう、生活は乱さないだろう、絶対に返すべきだ、これから自分の力で、7億円を貯めるように頑張ろう

家康が、聞いたら驚くような結論を出していた、

「吉川さん、これ、お返しします」

夫婦の前に、通帳を置いた。

「わしは、君に、通帳など渡した覚えはない、そんな貯金があるわけないやろ、あったら、この寺を修理しているわ、あはっは」

通帳を見ながら、冗談を言って笑っている、つられて老婆も笑った。

「これ、前に頂いた、宝くじの当選金です、開いて金額を見て下さい」

老人は、恐る恐る通帳を開いたとたん、驚き、0の数を数え出した

「えっ」

再度、数え、真っ青になりながら、老婆に渡した

「お前、ちょっと数えてくれんか、わしは、老眼で、小さな字は苦手じゃ」

老婆も3回数え、黙ってしまった

「何度、数えても同じです、7億です、頂いた宝くじが、1等だったんです」

「ええ、これ1等の7億・・・・・」

夫婦は、何も言葉が出ず、黙ってしまった

「この前、キューズモールに行った時、大きく、この売り場から1等7億が出たと、旗が立っていて、

誰が、当たったのかと思っていたら、君だったんや、びっくりするわ、」

「これは、吉川さんの宝くじです、僕は、何も考えずに受け取っただけです、もっと早く、発表前に、お返しすべきでしたが、遅くなりましたが、お返しするために、今日、ここに来ました」

姿勢を正して、正座をし、老人をしっかり見つめて話した

「何、言ってるねん、アホな事言うな、あの宝くじは、君が親切にしてくれ、心を打たれたから、お礼に差し上げた物だ、これは君のお金だ、わしが、もらう筋合はない」

老人は、怒ったように言い、通帳を押し返した

「でも、僕が使っても、無駄金になります」

「金に、無駄金はない、この7億を使って、家康になり、天下を取ってみろ、本陣は茶臼山に置いたらいい、そこで、いろいろ考え、行動すれば、秀吉に勝てる、天下も取れる、城も地下に埋められる」

また、この老人の言葉に感銘を受けた、何かまた、もやもやとやる気が出て来た。結局、7億全部、道紀がもらうことになり、Life goes on 人生7億を持って、再出発が決まった。

「よし、君の門出を祈願して、本堂で、お祈りしよう」

通帳を仏像の前に置き、お経を上げてくれた、いい響きで、心に浸みる、しかし、このお寺には、心に浸みる大事な物が欠けている。

[吉川さん、僕は、梵鐘の音が好きなんです、是非、このお寺に寄付させてください」

「何、言ってるねん、この寺には必要ない、あと数年で、廃寺になるのに、そんなこと気を使ってくれんでもいい」

「この、お寺を廃寺にしたら嫌です、継続の方法を、茶臼山に行って考えて下さい、お願いします、今日から僕は、このお寺の檀家になります、だから梵鐘は寄付します、そうだ、檀家だから、本堂(伽藍)も修繕します」

「おいおい、勝手に決めるな、それこそ、無駄金になってしまうぞ」

「金に無駄金はないと、今、言ってましたやん、あと20年は、頑張って住職をしてください、僕は、明日から通信教育で、僧侶の資格取得が出来るように、勉強しますから、20年後に、後を継いでもいいです、だからお願いします」

自分でも、凄い事を言ってしまったと驚いたが、本心だった。

この寺の近くに、金剛組がある、聖徳太子の命を受けて、678年に創業した、世界最古の企業で、社寺建築専門の会社である。ここで相談すると、梵鐘は約400万、伽藍修理は5000万だと説明を受けた、1か月後、兆京寺の修復工事が始まり、梵鐘は、富山県高岡市の梵鐘製作所にお願いをした、近所では、遂に廃寺になり、ここにマンションが建設されると噂が広がったが、修復完了まで、3か月を要するが、楽しみである。

兆京寺を、訪問した帰り、茶臼山に登り、今後の事を考えた、僧侶の資格取得のために、勉強する気持ちは揺るぎないが、老人は、家康になれる、秀吉に勝てると言ってくれたが、今の自分は、兄や、生徒さんに迷惑をかけないように、兄嫁に、皆の前で、ぼろくそに怒られないように、まずは、仕事を覚えることが先決で、家康のことは、まだまだ先の話だと思っているが、わずかだが、心に秘めた野望が芽生えてきた。家で、7億の話は誰にもしていない、気付いてもいない、おまけに宝くじの話題すら出なかった。

ある日

「一紀(兄)の会社は、生徒数も増え、上手く行っているように見えるが、廃倉庫購入の借金が多額で、返済に苦労しているようだし、講師、指導者の人件費もかさみ、収入が少ないと嘆いていたわ」

母が、ぼそっと話してくれた。

現在、スポーツ、文化教室が36あるメリーさんの羊カルチャーセンターの、講師、指導者が40名いて講師料が平均10万として、1か月400万、兄貴夫婦、道紀を含め、事務、庶務の常勤職員の給料が平均22万とすると、1か月110万で計510万の人件費がかかる、生徒さんは、678名が登録していて、平均月謝が8000円で、542万の収入となる。

「えっ、これだけ」

改めて計算をして、驚いた、利益はほとんどない

「あっつ、まだ借金返済がある」

完全に赤字経営だ、兄の事だから、こんな数字にはならないと思うが、決して楽ではないはずで、少しショックだった。

後日、兄に聞いてみた

「兄貴よ、あの廃倉庫は結構広いが、いくらかかったんや」

兄は、言うのを渋ったが、仕方なしに応えてくれた

「お前に言っても、しょうないけどな、この倉庫は自体は、古くて価値は全くないが、土地は、駅に近いし、不動産屋を通すと、そうとう高いが、持ち主が、売却を急いでおられて、直接交渉できたので2億3千万で済んだわ、でもな、倉庫の1階の天井を繰りぬいて2階を潰し、体育フロアーに、3階(現2階)をリフォームして、部屋を作った費用が7千万かかったから、合計3億やわ、あははは、家を抵当に、全額銀行から、借りたんやで」

道紀は、黙って聞きながら、大阪城崩落計画を考えていた。

「お前は、いつも、パチンコか、女の事しか、話さなかったが、今日はどうしたんや、働き出してから、少し変わってきたな」

一紀は、嬉しそうに言ったが、道紀の野望は、全く気付いていなかった。


3か月が経過した、兆京寺の修復が完了した、敷地も広く、周囲のお寺に、引けを取らない立派なお寺になった。その中でも、釣り鐘が自慢できる、宗派の、お坊さんや、檀家、近所の方々に披露した。

老人、吉川さん夫婦は、満面の笑みを浮かべ、道紀を傍に呼び寄せ

「彼が、将来、この寺を継いでくれるかもしれません、それまでは、私が頑張ります」

参加者に、吹聴しまくっている

「釣り鐘は、彼が寄付してくれましたので、一番に撞いてもらいます、決して騒音ではありません、近所の皆様、心を込めて撞きますから、よろしくお願いします、また後で、皆様にも撞いてください、煩悩が、お祓い出来ます」

道紀は、思い切り、力を込めて撞いた

「ゴ~ン」

どこかの、社長の名前ではない、心に浸みる、いい音が、騒音しか聞こえない、都会の真ん中に響いた、涙が出て来て止まらなかった、、近所の方々も、初めての経験らしく、珍しさも兼ねてだが、多くの人が撞いてくれた

「何で、これが騒音やねん、ええ音やんか」

皆、同じセリフを言って帰って行った。

式の帰り、天王寺駅から電車に乗った、「あの鐘を鳴らすのはあなた」の発車メロディーが流れた、

環状線まで、僕を応援してくれていると、嬉しくて、再び涙が出てきた。

僧侶の資格取得まで3年かかる、仕事の合間に勉強をして、休みの日は、兆京寺に出かけて修行しているが、まだまだ道は険しい、仕事は、最初はミスの連続だったが、やっと慣れてきて、今はもう、完全にセンターのスタッフの一員として、兄嫁以外の人に認められ、子供達からは「お兄ちゃん」と慕わママからは「道紀君」と可愛がられて、女子会に招待されたり、お菓子を持ってきてくれたりするので、、事務の女の子から妬みを買っている(笑)しかし、兄嫁は違った、相変らず、些細な事でも、人目を憚らず、怒りとばす、先日、バレーボールの空気が減っているのに気づかず、ママさんが、空気入れを借りにきたのを見て,皆の前で、こっぴどく、仕事の怠慢を指摘され、謝罪させられた、ママ達は、驚き、呆然と見ていた、勿論、差し入れのお菓子を皆で分けても絶対に食べてくれない、まだまだ認めてくれないので悲しい。

まだ、宝くじの話は誰にもしていない、家族は道紀が6億4千万(お寺で5500万使用)も、持っているとは思いもしていないだろう、バレた時の顔を想像すると、嬉しくなってくる、特に兄嫁の顔が見たい、お金の力は凄い、持っているだけで、心に余裕が出来、自信もでてくる、お金って不思議だ。

5月、父親の誕生日に、兄嫁も含め、家族とホテルで食事をした。途中で、兄が話しだした。

「会社、しんどいわ、もう辞めたいわ、サラリーマンをしていた方が、よかったかもしれんわ」

しみじみと語った

「借金返済がきついんか」

母親が尋ねた

「それが、一番ネックやな、生徒数が多くても、月謝を上げると、他の所に移るし、今のように、安いと利益が上がらないのに、借金返済金は、変わらないからな」

誰も、何も言わない

「兄貴よ、毎月、返済はいくらやねん」

たまりかねて、道紀が質問をした

「月、80万で、年間960万や、だから32年かかる」

全員下を向いている

「今、夫婦で給料を44万ちょっと貰っているが、全部借金返済で消えて行く、会社の利益も返済に当てて、ちょうど80万になる、借金返済のために、働いているようなもんや、子供も学校に通わせられへん、だから、こいつ、今24間営業のスーパーで夜勤の仕事をしてるねん、内緒にしていたが、生活費は両親から援助をしてもらっているし、2階に住ましてもらっている、道紀すまんな」

兄夫婦の、同居の理由もわかったし、お金のことで、兄嫁はイライラして、、そのはけ口を、僕に、ぶつけているのかと思うと、気の毒になってきた。楽しい食事会が、一転して、お通夜のようになってしまった。兄は、昔から、エリートコースを歩んできて、全て順風満帆に行っていると思っていたが、意外だった。

翌日、茶臼山に登り、いろいろ考えた、兄には申し訳ないが、いよいよ、僕が家康になり、兄が秀吉になる時がきたかもしれない、血が騒いだ、機が熟した。

それ以後、茶臼山に本陣を置き、たびたびここに登り、綿密な、大阪城崩落計画を練った、道紀の夏の陣の始まりである。

まず、借金を肩代わりして払い(3億出費)あのセンターの経営権を奪う、

建物は、2階のリフォームと、3階を増設し(1億5千万出費)その3階に、今人気のフィットネス、トレーニングジム(設備、器具1億5千万出費)をつくり、会員制の利用者を募る事で、収入増が見込まれる、また受講者の少ない、書道、編み物、他の教室をやめ、TVで人気がでている、俳句、消しゴムハンコ(調査中)を新しく開講して、生徒数を少しでも増やす、家康は、秀吉の側室の淀君や、息子の秀頼を自害にまで追い込んだが、そこまで、むごい事は考えていない(出来れば、正室の兄嫁を自害・・・笑)

自分は、経営者兼理事長で、天下を取る、兄貴は社長でいてもらいたい、いくら経営者になっても、20年以内に、僧侶になりたいと言う気持ちにブレはない、兄の経営放棄をじっと待った。まさしく家康の「鳴かぬなら、鳴くまで待とう、ホトトギス」の心境である。


3か月が過ぎた。兄から重要な話があると、リビングに集まった。

「会社は、建物の広さを考えると、これ以上の生徒募集は難しく、収入増は見込めなく赤字の連続で、経営は苦しい、なんとか、給料は出せているが、今後、どうなるか、全くわからない、でもよくなる見通しはない、従って、誰か、後を引き受けてくれる人が出てくれば、4月から経営を、その人に譲るか、いない場合は3月末で閉めようと考えている」

道紀は、この話を待っていたが、ドキドキしながら、何度も唾を飲み込み、黙って、皆の反応を見た、誰も何も言わない、結論のでないまま、沈黙の時間が延々と続き、皆、雰囲気に耐え切れず、部屋に戻って行った。ついに、兄と二人になった。

「兄貴、ちょっと話があるねん、僕の部屋に来てくれへんか」

「なんの話やねん、彼女に子供でも出来たんか」

[ なんでやねん、彼女もいないのに、子供なんかできるわけないやろ」

二人だけになると、さすがに話し難い

「・・・・・・」

「何やねん、早く言えよ」

「兄貴、会社、僕が買うわ」

勇気を出して、はっきり言いきった、兄は本気にせず、笑っている、当然だと思った

「こんな時に、冗談言うな、俺、帰るで」

立ち去ろうとした

「待ってや、本気や、3億は、僕が払うから、僕が経営者になる、兄貴は社長になってくれ」

兄は、まだ理解出来ていない、唖然と立っている

「他人に譲るより、いいやろ、僕が会社を買う、本気やで」

「犬のハウスを買うのと違うで、3億やで、強盗でもして金を奪うんか、それでも3億は難しいで」

馬鹿にして笑った

「ちょっと待ってな」

机から、通帳を取り出し、見せた

「これ、どうしてん、オレオレ詐欺でもしたんと違うやろな」

真っ青になって怒った

「怒るなよ、これ、宝くじで当たってん」

「僕な、この金で、会社を大きくしたと計画をたててるねん、そのためには、兄貴の力がいる、僕がいろいろ考えるから、アドバイスをしてくれたらいいし、兄貴も、いい考えがあれば、言ってくれたらいいやん、僕はアホやから、会社は潰れるかもしれんが、兄貴がいてくれれば、絶対に大丈夫や、頼むは、社長になってくれよ」

「・・・・・」

3階増設案、文化教室の新設案の計画書を見せた、兄は真剣に見て、頷いている。

「後を継ぐ人がいれば、経営権を4月から譲ると言っていたやろ、あれ、うそか」

「・・・・」

「僕に、譲るのがいやだったら、兄貴はサラリーマンをしたらいいがな、でも僕は買うよ」

長い間沈黙が続いた

「お前、成長したな、この計画は凄いわ、感心したわ、アホ違うで、俺は、小さい時から、お前には何をしても負けないと自負していたが、今日は負けたわ、でも嬉しいわ、もう一度、皆を呼ぶから、今、俺に言ったんことを、自分の口で言え、俺も後押ししたる」

吹っ切れたように、元気をとり戻し

「ここに、もう一度、集まって」

と大きな声を出した

「まだ、何を話したいのですか、暗い話は、もう嫌ですよ」

家族が、迷惑そうに集まってきた

「今、兄貴と話し合った結果、僕が、この会社を買うことになった」

道紀の話を聞いて、皆、お互い顔を見合って笑っている、特に兄嫁は、完全に馬鹿にした顔で鼻であしらっていた。

「借金の3億は、僕が返して、ここの経営者になる、兄貴は社長や」

父親が怒った

「何、冗談を言っているんや、一紀、なんとか言え」

「道紀の言う通りや、あいつが借金を肩代わりしてくれる、だから、俺は経営から退く、でも、道紀が、俺を社長になってくれと言ってくれた、ありがたく受け入れるつもりだ」

父親は、更に怒った

「一紀まで、何冗談を言っているんや、1万円札をコピーでもするんか、警察に捕まるわ」

「皆、これを見て」

兄は、道紀から預かっている通帳皆に見せた

「ええー」

全員、黙ってしまった、兄嫁は、通帳の名前と、金額を何度も確認しながら、真っ赤な顔で困惑していた、僕は、この顔を見たかったのだ、これからは、僕は、あなたの上司になるんやで、えへへへ。

「これ、道紀が年末ジャンボで1等を当てた金や、7億あったんや」

家族全員、道紀が家康に見え、何も言う事が出来なかった。

道紀の人生を、一瞬にして変えた、お金の力は凄かった。ついに道紀は、夏の陣で、秀吉一族(兄、妻(に勝った、お城は埋めることは出来なかったが、元の城の上に、新しい城を築き、メリーさんの羊幕府を開いた。

「もう一つ、皆に報告したいことがある、遅くても20年以内に、あるお寺の住職になるつもりや、住職でも、経営は出来るやろ、公務員と違うからな、今、僧侶資格取得の勉強をしているんや」

と教科書を皆の前で見せた、誰も、唖然として聞いていた。


20年が経過した、兆京寺の本堂から、道紀の読経の声は聞こえてくるが、老人夫婦の姿はなかった。

お寺の名前に、兆と京がつき、高額金のイメージがあり、縁起がいい、更に、ここには、住職が宝くじで1等を当てて購入した梵鐘があると有名になり、この寺は、金運のパワースポットだと噂が広がり、全国から、鐘を撞きに来る人が絶えない、「宝くじで100万円当たった」と10万円のお布施を供えに来てくれた、北海道の人もいた、寺の横には「鐘の音カルチャーセンター」の立派なビルも建っていた、

玉造駅前には、スパ併設のオシャレな5階建ての「メリーさんの羊カルチャーセンター」があり、朝から利用客が絶えなかった、、センターの横に、国会議員、長井一紀事務所の本陣ビルがあり、秘書は息子さんだが、議員さんは、奥さんが自害して、今は独身だと、生徒達は言っている。






お金を手に入れていなかったなら、どうなっていただろうろ、人生が変わっていただろうかと想像すると興味がある、お金の力をみせつけられた感じがする、これが現実かもしれない

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ