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ゲリラ豪雨

<金次郎>

夏。

あの夏をさかいにボクの周りの世界はどんどん変わっていった。

日本が戦争に負けた。

あの子との最後の別れは、その前の年の夏だった気がする。

集団疎開することになって、ここにはいられないと言いに来た。

違う地域に行って、空襲を受けずにすんだだろうか。

どこかで生きている。生きていて欲しい。

青々と茂る公園の緑に、夏の日差しが照りつける。

まぶしくて目を細めた。

「どうしたの、二宮? 泣いてるの?」

「え」

 ボクの目から涙が流れていた。石像にはない感覚だ。

「うん。なんかまぶしくて」

 本当は違う。

 なんだろう。これは人間だから感じる痛みなのか。

「それだけ? なんかテンション下がってるけど、平気? もしかして日焼けとかしちゃいけなかった?」

「大丈夫。ただ、あの子は生きてるかなって、思ったら」

「生きてたらおばあちゃんでしょ」

「おばあちゃんに、大人にもなれてなかったら、ってちょっと想像しちゃって」

「どういう意味?」

「戦争で、ちゃんと助かったかな」

「戦争?」

 その言葉に何を思ったのか、佳夏は黙って空を見つめていた。

 ボクはあの子の姿を佳夏に重ねた。

人間になったお地蔵さんみたいに、あの頃の君と、こうして平和な夏の日を過ごせる日をずっと夢見ていた。

「大丈夫。生きてる」

 ボク自分に言い聞かせるように言った。

「そうだね」

「それに、今は、嬉しいから」

「嬉しい? 何が?」

「佳夏といるだけで、嬉しい」

 佳夏の顔がどんどん赤くなっていった。

 それを見て、ボクも恥ずかしいことを言った気がしてきた。

「あの、そういうセリフ、さらっと言わないでくれる。初めて会った時も、ずっと会いたかったとか。あ、アメリカではあいさつみたいなもんか」

「うん。そうそう」

 ボクは涙をぬぐってごまかした。



<佳夏>

 わたしは青い空を見つめた。

 国語の教科書に載ってた「ちいちゃんのかげおくり」を思い出した。

戦争があって、空は爆弾をつんだ飛行機が飛んでくる怖い所になってしまったって。

 あのお話は、最後、ちいちゃんがお父さんお母さんお兄ちゃんに会えたけど、でも、幸せになったってことだよね。

この空を見てると、そんな時代があったなんて信じられない。

戦争か。でも、戦争って、七十年以上前のことだよね。わたしも、お父さんもお母さんも、おばあちゃんやおじいちゃんさえも生まれてない頃の話。

 二宮の会いたい人の話。

 どこまで信じればいいんだろう。

 それに、何が、佳夏といるだけで嬉しい。だよ。

あいさつだって分かってても、ドキドキだよ。

何、泣いてんのよ。

赤ちゃんみたいに抱きしめたくなっちゃうじゃない。

 わたしは恥ずかしくて、空を見つめ続けた。

 二宮も空を見ていた。

「降るかもね」

 二宮が遠くの空を指さした。うっすら灰色になってきた

「雨?」

「うん」

 最近、天気予報じゃ分からないゲリラ豪雨が多い。

 一応、折りたたみ傘持ってきたけど、早めに避難しておいた方がよさそうだ。


結局、行くところがなくて図書館に行くことにした。中庭を挟んで区民センターと同じ敷地内にある。図書館に入ると雨は激しく降り始めた。

わたしは、戦争について、この辺の地域はどんなだったかを調べてみるのはどうかと提案した。この地域の資料があるエリアは、貸し出しカウンターからちょっと離れてて時計が見えない。

日本の図書館は珍しいのか、ちゃんと読めるのかはよく分からないけど本に興味を示してくれた。写真だけ見るのもアリだし。

絶対にここから動かないでねと言って、わたしは談話室に行った。

わたしはお腹がすいてしまったので、家から持ってきたパンを談話室で食べることにした。ご飯を食べない二宮がそばにいると食べにくいので、さっさとここで済ませよう。

クリームパンを口に入れながら、今後の予定を考える。

雨は勢いよく降ってるが、空が明るくなって、もうすぐ止みそうな感じだ。

花火大会に影響はなさそうだ。

壁にプラネタリウムのポスターが貼ってあった。

 頭の中で、衣梨菜の台本のセリフを思い出す。

<本当は花火大会一緒に行きたいけど、二宮は無理だって言ってたから、じゃあプラネタリウム行こう。夜まで一緒にいる気分になれるから。一晩中ずっと、夜明けまで>

そんなこと言えるわけないでしょ。

絶対ママの愛読書まで引っ張り出してきてるよ。

でも、プラネタリウムは今日の夕方から明日の夜明けまでの星空を見せてくれるから、確かに一緒にいた気分にはなれる。

どうやって、誘おうかな。


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