雑文ラノベ「追放!追放!追放!もう、いっその事追放された回数でギネスを目指そうと思う今日この頃・・」
■□□□□失業しました・・□□□□□
「ダルタニアンっ!お前を俺のパーティーから追放するっ!ほらっ、これが今日までの給金だっ!これを持ってとっとと失せろっ!」
僕が所属する冒険者パーティー『漆黒の狂竜団』のリーダーである、Aランク冒険者ドランゲルフ・ナゲットが顔を真っ赤にして僕へ解雇宣告をする。う~んっ、ドランゲルフ無茶苦茶怒っているなぁ。普段は温厚で物静かな良い男なのに、これはあれか?普段温厚なやつ程一旦キレると歯止めが効かないってやつか?でも、ちゃんと給金はくれるんだ。そこら辺はやっぱり良いやつなのかも知れない。
まぁ、ドランゲルフが怒るのも無理はないか。だってこいつが大切にしていた聖剣ライトセイバーLv4を僕が道具屋に売っぱらっちゃたのだからな。
でも僕にも言い分はあるんだぜ?なんせ今回『漆黒の狂竜団』は潜ったダンジョンで大敗を帰したんだ。本来なら投資した資金の何倍ものお宝を持ち帰れるはずだったのに、予定外の魔物に遭遇してほうほうの体で逃げ帰ったのである。おかげで事前に準備した装備を全て捨ててくるはめになったのだ。
まぁ、パーティー全員の命は取りあえず助かったから良しとしなくてはならないのだろうけど、だからと言って装備を整える為に僕らが金を借りた金貸し屋は僕らのそんな事情を汲んで支払いを待ってはくれない。
と言うか、あのダンジョンのお宝ってSSランクドラゴンのコレクションじゃねぇかよっ!あのクソ情報屋めっ!知っていて僕たちに隠していたなっ!今度見つけたらただじゃすまさんぞっ!
まぁ、その件に関しては裏も取らずにほいほいと信用した僕たちにも落ち度があるから3発ぶん殴るくらいで許してやるか。やつも結構危ない魔物がいるとは言っていたしな。だから装備だけはしっかり準備しておけとも言われていた。
だけどさ・・、だけどね?ドラゴンは結構危ないって言葉で言い表す魔物じゃねぇーよっ!しかもSSランクってなんだよっ!どう足掻いたってAランク冒険者パーティーじゃ歯が立つわけないじゃんっ!あーっ、思い出したらまた腹が立ってきたな。うんっ、やっぱり10発はなぐろう。
しかし、胡散臭い情報屋の事は置いておこう。問題は借金だ。そう、『漆黒の狂竜団』は今回結構な額を金貸し屋から借りて装備を調達したのだ。そして世の習いとして借りた金は返すのが常識です。如何な理由があったとしても踏み倒すのは犯罪なんです。でも、僕らはその返済をダンジョンのお宝で賄うつもりだったからいきなりピンチに陥ったのだ。
ところが『漆黒の狂竜団』のリーダーであるドランゲルフはそこら辺の感覚がちょっと甘い。次のダンジョン探検で得る収入でちゃんと返すからと、金貸しに支払いを待つように言ったのだ。しかも上から目線で・・。
う~んっ、ドランゲルフ。金を貸す方と借りる方では借りる方が立場が弱いはずなんだけど?あなたはどうしてそこまで強気なの?
おかげで金貸し屋の後ろに控えていたごついお兄さんたちが無言で僕たちの前に進み出る事態となった。
そんな一触即発な状況を僕が双方を宥めて落ち着かせた。ドランゲルフがいると話がまたこじれるから僕と金貸し屋だけで話すと言ってドランゲルフを他のパーティーのメンバーたちと帰らせた後、金貸し屋に僕が提案したのが先ほど話した聖剣ライトセイバーLv4の件である。
そうっ、僕は別に私利私欲でドランゲルフの聖剣ライトセイバーLv4を売っぱらった訳ではない。止むに止まれぬ事情があったのだ。まぁ、確かにドランゲルフに相談せずに売ったのは悪かったと思うけど、でもドランゲルフさぁ、例え相談したとしても絶対納得しないだろう?
と言う訳で僕は今回のダンジョン攻略の失敗の全責任を負いパーティーを追放される事となった。いや、ダンジョン攻略に失敗したのは僕だけのせいじゃないよな?あれ?どこでそんなもんまでしょいこまされたんだ?
まぁ、あれから時間も経ったので今ではドランゲルフも落ち着いたのだろう。だから僕のとった行動も頭では理解していると思う。でも、緊急時の対応とは言え僕も独断で人のモノを処分したからね。売り言葉に買い言葉ではないけどドランゲルフも他のメンバーの手前、僕を処罰しない訳にはいかなかったのだ。そんなドランゲルフの気持ちが先ほど渡された給金の額にも現れている。うんっ、ちょっと多めに入っていました。
さて、かくして僕は所属していた冒険者パーティーを追放された。でも僕は気にしていない。だってパーティーを追放されるのって今回が始めてじゃないからさっ!だから僕はへこんだりしない。ちゃんとお金も貰った事だし、少しブラブラしたらまた新しい冒険者パーティーを探すさっ!
さて、そんな冒険者パーティーからの追放常連者である僕が初めて冒険者パーティーを追放されたのは15年前。以来、20以上の冒険者パーティーから追放を喰らって今に至っている。あーっ、正確には今回で何回目になるのかな?もう数えるのも面倒だよ。
そんな僕が1番長く在籍した冒険者パーティーでの期間は2年2ケ月っ!数えて5番目の冒険者パーティーだった。でもあの冒険者パーティーは辞めて正解だったと思う。だって誰がどう見たってブラックパーティーだったもん。
僕はなんであんな冒険者パーティーに2年もいたんだろう?まぁ、それまでに所属した冒険者パーティーから立て続けに追放を喰らったもんだから心が弱っていたのかも知れない。あの頃は、ここが駄目だったらどこにも行くところがないと思い込んでいたんだと思う。
でも、捨てる冒険者パーティーあれば拾う冒険者パーティーありで、冒険者パーティーを追放されても何故か次の冒険者パーティーはいつも直ぐに見つかった。最近と違ってあの頃は世の中景気が良かったんだね。だから冒険者たちはダンジョンでちょっと経験を積むと直ぐに独立して自分の冒険者パーティーを新規に組んだんだ。そんなだから冒険者の応募はいつもあった。そう、所謂売り手市場だったのである。
だけど昨今はいまいち景気が悪い。やっぱりこれはあれなのだろうか?後々の事を考えもせずにやたら滅多らとダンジョンを荒らし回ったツケが回ってきたのか?でも、ダンジョンを荒らしていたのって殆ど転生者だって聞いたけどなぁ。あいつらって本当に自分の事しか考えないアホらしいから困ったもんだ。まぁ、身にそぐわない能力をぽんと授けられて浮かれちゃったんだね。ぷぷぷっ、お子ちゃまみたい。だせぇーっ!
おっと、今はそんなアホたちの事を言っている場合ではなかった。今はお金に余裕があるけど無職となり収入のツテが無くなった現状では倹約してもいずれは蓄えが底をつく。だから就職情報にはちゃんとアンテナを張っていなけりゃな。
う~んっ、どこかにラクして高収入な仕事はないもんだろうか?えっ、小説家?そうなの?まぁ確かに椅子に座ってちょろっと文字を書き連ねるだけだから楽と言えば楽なんだろうけど果たして高収入なんだろうか?食べていけなくて結局バイトで食いつなぐんじゃ意味がないと思うんだけど?
まぁ、作家志望のやつらの事は置いておこう。どの道彼らに対して僕がどうこうできる訳ではない。したくもないしね。えっ、本を買ってくれ?それは僕が面白いと思えるモノを書いてから言ってくれよ。お金を出すのは僕なんだぞ?
う~んっ、なんだかまた脱線したな。もっと気を引き締めなくちゃ。
と言う訳で僕は僕だけの事に集中する。あーっ、組織に属している間は失念しているけど自由業ってなんでも自分で考えて、且つ自分で行動しなくちゃならないから面倒だ。そうか・・、組織に属するのって実はラクだったんだなぁ。まぁ、人との軋轢はあるけどね。今回の追放もそれが原因だし。
さて、それじゃ仕事探しだっ!とは言っても少しくらいのんびりしてもバチは当たらないだろう。なので僕はちょっと旅に出る事にした。ただ、旅と言っても観光ではない。この町はドランゲルフたちの拠点だ。だから彼らの冒険者パーティーを追放された僕としてはちょっと居づらいのである。だから新しい町で再起を図る為河岸を変えたいのだ。その為の調査旅行なのである。
よーっし、それではもう第何回になるか判らないけど、僕ことダルタニアン・ハインバーグの新たな生活の場を探す旅への出発だぁーっ!あっ、その前にご飯を食べよう。おばちゃんっ!デラックスハンバーグの大盛り頂戴っ!付け合せのポテトも大盛りにしてねっ!
□■□□□テンプレでもいい、出会いが欲しい・・□□□□□
ぴーひょろろ~
あーっ、トンビが空で輪を描いている。ふぅ~ん、得物を探しているのかな?それとも今日は天気が良いからのんびり翼を広げてくつろいでいるのだろうか?ああっいいなぁ、気持ち良さそう。僕もあんな風に空を飛んでみたいよ。
その時僕は雲ひとつない青い大空を見上げながらひとりそんな事を思っていた。でも実は空を飛びたいと言う願いは先ほど叶えてしまっていたりする。まぁ、あれは『飛ぶ』というより『落下』と表現するのが正しいのだろうけど・・。
そう、僕は今ひとり崖の下で大の字になって横たわっている。なんでと言われれば崖の上から足を滑らせて落ちたからだ。その高低差およそ30メートル。う~んっ、よく生きているな僕。地面が柔らかくて良かったぜっ!いててっ、でもやっぱり体のあちこちが痛いです・・。
でもおかしい・・。確か僕は冒険者パーティーを追放されて次の就職先を探すべく旅に出たんだよな?でもこうゆう場合、物語だと直ぐに前のパーティーより待遇のいい職が見つかって元居た冒険者パーティーに嫌がらせするのが定番だったんじゃないのか?なのに何で僕はこんなところで生きている事の素晴らしさを実感しているんだろう?あっ、ドランゲルフは良いやつだからテンプレに破綻が生じたのか?駄目だなぁ、ドランゲルフ。ちゃんとキャラを守れよ。
でもまぁ、お芝居でも嫌われ役って演じるのが難しいらしいからね。なんと言っても観客に負の感情を持たせなきゃならないらしいからさぁ。実は主役なんて誰でも出来るのよ。ちょっと耳障りの良いセリフを言って気に入らないやつらをぎったんぎったんにしちゃえばいいだけだからさ。まぁ、現実ではその実力行使が難しいんだけど、お芝居なら大丈夫っ!だってそうなるように脚本に書いてあるんだからっ!
そうっ、脚本にはそう書いてあるはずなんだ。でも人生とはお芝居ではない。だから全てアドリブとなる。計画を立ててもその通りにいかない事なんてざらなんだ。時には今の僕みたいにアクシデントに見舞われる事もあるしさ。くっ、膝小僧を擦り剥いている・・。あっ、こっちもだ。どうしよう、ツバでも付けておけば直るかな?
駄目だ・・、あちこち痛くて当分体を動かせそうにない。かと言って周りを見た限り誰かが通りそうもない。これはあれか?僕ってこのまま野垂れ死んで神様に異世界へ跳ばされるパターンなのだろうか?
おーっ、異世界転生っ!お子ちゃまたちが夢見てやまない最高のアトラクションっ!よーしっ、ならば僕も神さまから貰えるはずのチートを考えておこうっ!
とは言っても選択肢はそれ程ないよな。世のお子ちゃまたちの中には『経験値貯蓄』とか『注目度に極振り』とか『スキル創造』とか、何やらよく判らんものを注文するらしいがなんでそんなもんを貰うんだろう?だってそんなのはちょっと修行すれば誰でも手に出来るじゃんっ!
やっぱりさぁ、折角神さまからタダで貰えるならここは普通どんなに努力しても手に入らないものを要求すべきだろう?あっ、お子ちゃまたちって実は既になんでも持っているのか?だから本当はいらないのだけどそれじゃ折角出向いてきた神さまが不憫だから簡単に用意できるものを頼むのだろうか?だとしたら気配りが優しいね。うんっ、お子ちゃまなんて言ってごめんな。君たちは十分に『大人』だよ。
さて、人の事はいいや。問題は僕が貰うチートだ。まず世の中は『金』と『権力』がものを言うのは誰でも知っている。そしてそんな金と権力の両方を併せ持っているのは王族だ。だが、ここで安直に王族にしてくれなどと願ってはいけない。そうっ、何故なら権力には『責任』が伴うからだ。王族になったはいいがアホな部下の失敗で責任を取らされ失脚する事なんて事態になったら目も当てられない。自分の失敗ならともかく僕は人の失敗の尻ぬぐいには飽き飽きしているんだよっ!。もうっ、僕の人生そんなのばっかりだったからなっ!
だから直接権力を持つのは勘弁だ。でも権力は行使したい。権力をかさに気に喰わないやつらをぎゃふんと言わせたい。異世界ではそれを主題とした『副将軍諸国漫遊記』なんてやつが流行っているみたいだしな。
だけどあれは僕みたいなぼっちには無理だ。あれは周りに優秀な部下がいるからできる芸当である。僕があんな事をしたりしたら忽ち寝首をかかれるよ。おちおち寝てもいられない生活なんて真っぴらである。
と言う訳で、権力に関しては権力者のお友だちくらいの立場をお願いしよう。但し権力者は僕を凄く認めていて何でもほいほい聞いてくれる設定でお願いします。これなら命を狙われる危険もないし、失脚する事もないからね。
あっ、でもあんまりやり過ぎると他の取り巻き達から疎まれるか?う~んっ、中々うまくいかないな。と言うかこの設定って『悪役令嬢』におけるアホ王子の側近役じゃないの?王子の権力を盾に嫌味を言う嫌われキャラ。げーっ、そんな立場は願い下げだ。はぁ~、やっぱりラクしてみんなの上にふんぞり返るのは難しいんだねぇ。
となると後は『金』か。でもお金って使うとなくなっちゃうからなぁ。それにあり過ぎても盗難の危険があるし・・。誰か腕の立つ番人を雇ったとしてもそいつが横領したら意味ないし・・。あーっ、金持ちって人間不信になるんじゃないのか?誰もが自分の金を掠め取ろうとしているように見えているのかも知れない。だから性格が歪むんだな。はははっ、可哀想なやつらだ。
そうなると大金を貯蓄するんじゃなくてそこそこの金額を毎月貰う方が安心か。大きな買い物をする時は別枠で貰えるようにしておけば完璧じゃんっ!
???
これってサラリーマンと変わらないような・・。別枠の支給って巷ではボーナスって言いませんか?
あれぇ~、なんで神さまにお願いする事がサラリーマンにして下さいなんだよっ!そもそもサラリーマンなんて今まで十分にやってきたよっ!これからだって多分やってゆくよっ!自営業なんて根無し草なんだから嫌だよっ!庶民には生活の保障こそが大事なんだよっ!
くっ、自分で自分を庶民だと認めてしまった・・。あっ、そうだ。後、交通費と住宅手当もお願いします。ダンジョンに潜る場合は危険手当もはずんでね。残業はできればやりたくないけど月に40時間までなら我慢します。社員旅行は勘弁して下さい。僕、人見知りなんで。飲み会もパスしたいな。後、雨の日は休んでいいですか?
う~んっ、どこかにいるかも知れない無気力青年みたいな事を言ってしまった。社内の人との時間外コミュニケーションはともかく、雨の日は休みたいってどんだけ君は働くのがイヤなんだ?
まぁ、僕も色々な冒険者パーティーを渡り歩いてきたから心情は判るつもりだけど、さすがに雨の日に仕事を休みたいと・・、あっ、あるわ。うんっ、あるある。なんか雨の日って体調が優れない事が多いんだよね。だけど人にはそんな事判らないから『あいつは怠け者だっ!』なんて言うんだ。くっ、この体のだるさをあいつにも経験させたいぜっ!五月病って感染病みたいに移せないのかな。誰か研究してくれよっ!
はい、もう考えが支離滅裂だ。そもそも僕は一体どこの世界の言っているんだろう?この世界でそんな事を言っていたら忽ちお飯の食い上げだぞ?働かざる者、喰うべからずって格言を知らないのか?僕は知っているけど、いつ聞いても酷い言い草だと思ってる。そこは『働かざる者』じゃなくて『怠け者』って言わなくちゃ駄目なんじゃないの?働きたくても色々な事情で働けない人だっているんだぞっ!まぁ、最初にこの格言を言い出した人はそのつもりで言ったのかも知れないけど、言葉って時と共に意味が移ろうからねぇ。
しかしなんだな。こうやっていざ考えてみるとラクして暮らすのって難しいねぇ。権力を持っても失脚に怯えなきゃならないし、お金を持っても盗難されないかと心配ばかりするはめになる。やっぱり人生ほどほどがいいんだろうか?でもそれじゃつまらなくない?
僕は崖の下で寝転びながらしょうもない事に考えを巡らす。でも他にやる事もないしさ。あーっ、いてぇ~。まだ傷口が痛いよ。うわっ、なんか腫れてきていないか?もしかして骨が折れてる?やばいなぁ、今僕無職だから健康保険が使えないよ。いや、そもそも健康保険なんてこの世界にはないか・・。
さて、馬鹿話もそろそろ終わろう。だって、僕はここでひとつ重大な事に気付いてしまったからさ・・。その重大な事とはっ!
ここまでで話が進んでいるのにセリフが最初のドランゲルフの一言しかないよっ!後は全部僕の独白じゃねぇーかっ!なんなんだっ、これはっ!僕はぽっちかっ!いや、確かに今はぽっちだけどさ・・。
あーっ、誰かとお喋りしてぇーっ!でも出来れば女の子希望です。しかも可愛い子なら最高だっ!あっ、これを神さまにお願いすればいいのか?えっ、身の程知らず?はぁ~、そうですか・・。
□□■□□こちらが出会いの権利券となります。ついでにポテトはいかがですか?あっ、笑顔は0円ですので幾らでもお持ち帰り下さい。まぁ、愛想笑いですけどねっ!□□□□□
さて、崖の下で神さまを待つ事四半時。残念ながら神さまは現れてくれなかった。まぁ、神さまも忙しいみたいだからね。なんと言っても1日に何百もの仕事依頼が某素人小説投稿サイトから来るみたいだし。なので僕みたいに勝手に自分で崖から落ちたやつの処には来てくれないのだろう。なので僕は異世界転生を諦めて出発する事にした。
「あーっ、いてぇ~。でも血は止まったし骨も折れていないみたいだから何とか歩けるか。」
おーっ、もしかして今僕、初めて声に出して喋った?う~んっ、惚れ惚れするようなボーイソプラノだね。この声で口説かれたら女の子たちはイチコロだぜっ!
うんっ、嘘です。だって僕もう20歳だから・・。5歳で冒険者になって既に15年だもんな。あーっ、月日の経つのは早いなぁ。思い起こせば僕の青春って真っ暗だったよ。女の子と仕事以外で喋った回数なんて両手の指で足りちゃうもんね。はい、嘘です。片手でも余ります・・。
だけど20歳かぁ。色々あったけど僕もよくがんばったなぁ。しかし、なんで僕だけあんなにアクシデントが降り掛かったんだろう。同年代の冒険者たちと比較してもちょっと多過ぎだよな。もしかして僕って不幸体質なのだろうか?でも同年代の冒険者たちって少なくない数が死んでいるからなぁ。そう考えるとまだ生きている僕は強運の持ち主なんだろうか?
そう言えば昔ダンジョンでヒュドラに襲われた時もパーティーは全滅したけど僕だけは助かったな?まぁでもあれはみんなの荷物を背負わされた為に僕だけ少し離れたところにいたからだけどね。そう言えばあの時はみんなの荷物を律儀に持って帰ったから他の冒険者達から僕がやったんじゃないかと疑われたなぁ。荷物じゃなく仲間の遺体を運んでくるのが人としての道理だろうっ!なんて説教かますやつもいたよ。
でもねぇ、僕だって動転していたんだよ?それこそ荷物を捨てて逃げる事すら気付かずに死に物狂いで逃げたんだ。本当に現場の状況を知らずに後から見知った事だけで人を判断するやつっているよな。まっ、僕に文句を言ったあいつも、あの後ダンジョンでオーガに襲われて死んだらしいから気にしていないけどね。いいぞっ!オーガっ!君はいい仕事するねっ!
うんっ、昔話はもういいや。大怪我をしている今の状況だとなんか走馬灯を見ているみたいで気持ち悪いしね。
しかし、本当に誰とも会わないなぁ。魔物や獣にすら会わないよ。ここってどこなんだ?崖の上には道があったんだから人の行き来はあると思うんだけど?あーっ、やばいっ!日が暮れてきたよ。これはもしかして野宿ですか?いやいや、今まで魔物や獣に遭遇していないからってこの状態で野宿は駄目だろう。そもそもやつらって夜行性が多いんだから。こんなところで人知れず魔物や獣に喰われるのなんか真っぴらだ。
さて、そんな僕の願いが天に届いたのか遠くに明かりが見えてきた。おっしゃーっ!民家発見っ!助かったぜーっ!
痛む傷口を庇いつつも僕は明かりが見える方へと歩き始める。いや~、本当はすげー心細かったのよ。だから明かりを見つけた時は内心泣きました。しかし、なんだな。明かりに引き寄せられるなんて僕って昆虫みたいだ。
いや待てっ!なんかこんなシチュエーションに似た昔話があった気がする・・。確かあれって夜の山道で道に迷い、明かりに誘われて寄ってきた旅人を家の主が食べちゃう話じゃなかったっけ?あれ?何か今の僕と状況がすげー似ている気がするのは気のせいですか?
僕は明かりの灯った民家の前まで来て躊躇する。う~んっ、あれは昔話だよ、実際にはそんな事ある訳ないじゃんっ!でも昔話って戒め的な意味も含んでいるって言うからなぁ。戒めと言うからには本当にそうゆう事例があったのかも知れない。
どうしよう・・。野宿は怖いけど、だからと言って犯罪を企んでいる人間はもっと怖い。あいつらって表面上だけはニコニコして寄って来るからなぁ。食事に眠り薬を入れられてそのまま冥土に一直線なんて事は嫌だよ。
しかし・・、しかしである。ここは決断しなくてはならない。魔物と犯罪者、どちらと対峙するべきか・・。
魔物は怖い。だが僕だって冒険者の端くれだ。魔物には少しくらいなら対応できる。スライム?あんなぷよぷよしたやつなんか怖くはないよ。ぶんぶんっと剣で切り刻んでコインをゲットさっ!ゴブリン?おいおい、ゴブリンなんてやられキャラの筆頭じゃんっ!オークなんて火炎魔法で丸焼きさっ!
確かにこの程度の魔物ならどうって事はない。ちゃんと備えていればやられる事はまずないだろう。だけど、オーガやトロール辺りだと苦戦するかも知れない。ワイバーンやドラゴンは問題外だ。お願いだから夜は寝ていて下さい。
でも魔物の中でも今一番遭いたくないのはゾンビだな。夜に野外でゾンビに遭遇ってどんな罰ゲームだよっ!ホラー過ぎるぜっ!あっ、そうゆう意味ではレイズも嫌だな。と言うかお化け関係は勘弁して下さい。
その時である。僕が民家の前で声を掛けるのを躊躇っていると突然玄関の扉が開いた。そして中から出てきた人と目が合う。
「あら、びっくり。どうなさったの、こんな夜間に?」
僕はお姉さんの問い掛けに即答できない。だって僕も驚いたから。そう、家の中から出て来たのはそれはもうびっくりするくらい綺麗なお姉さんでした。
しかし僕はお姉さんの素敵なよく通る声を聞いて別の意味でも感動する。はい、お姉さんっ!あなたは今回漸く3度目を数える事となった『セリフ』をおっしゃりましたっ!よしよしっ、以降はこのまま怒涛の会話のみの展開に持ち込むぜっ!
まぁ、今のは冗談だから忘れてくれ。だけどお姉さんから不審者と見られないように早く説明しなくては。
「えーと、道に迷いました。すいませんが今夜一晩軒先をお貸し願えないでしょうか?」
はい、いきなり見ず知らずの人から今晩泊めてくれと言われて了承するのはテレビのバラエティ番組だけだ。普通は断られます。だから僕は室内ではなく雨風くらいは凌げる軒先を貸してと頼んだ。いや、これだって普通は断られるよな。だって家の外に知らないやつがいるなんて気味悪いじゃんっ!でもテレビのバラエティ番組ってなんだ?僕の世界にはそんなものはないぞ?
「まぁそれはそれは。あら、どうなさったの?凄い傷だわ!まぁ、大丈夫?」
お姉さんは僕のお願いに返事を返す前に僕の傷を見て驚いたようだ。うんっ、そうだね。確かに今の僕って凄いかっこだよな。ズボンなんかかぎ裂きだらけだし、右腕なんか血だらけだもの。顔だって額から流れた血が固まって見た目だけなら僕こそゾンビだよ?うんっ、お姉さんよく叫び声を挙げなかったもんだ。
「えーと、ここに着く前に崖からちょっと落ちまして。元の道に戻ろうとしたんですけど迷いました。」
「崖?あーっ、あそこね。あそこって地縛霊がいるから初めて通る人ってよく落っこどされるのよねぇ。」
なんとっ!僕が崖から落ちたのって地縛霊の仕業だったのかっ!道理で余所見していた訳でもないのにあんな所から落ちた訳だっ!くっ、地縛霊めっ!今度機会があったら除霊してやるっ!しかも一番苦しむ呪文でなっ!
しかし、地元の人も酷いな。悪さをするのが判っているなら除霊しておいてくれてもいいじゃんっ!と言うか地元の人たちは被害に会わないのか?もしかして何かしらかの協定が結ばれているのだろうか?例えば心霊スポットとして売り出しているとか?でも饅頭は売っていなかった気がする・・。
「さっ、軒先などと言わず中へお入りになって。傷の手当をしなくちゃね。」
「えっ、でも・・。」
「遠慮しないで。どうせこの家には私しかいなんのだから。」
「はぁ、それじゃお言葉に甘えさせて頂きます・・。」
う~んっ、お姉さん。ちょっと防犯意識が低すぎませんか?僕は確かにこんななりだけど一応男ですよ?あっ、実は誘ってます?参ったなぁ、だけど据え膳喰わぬは男の恥とも言うらしいしここはお姉さんのお誘いに乗るとしますかっ!うんっ、全然期待なんかしていませんよ?大体世の中そんなうまい話がある訳ないじゃんっ!
でも畳む前の洗濯物とかがあったら言って下さい。僕が畳みます。いえ、それくらいのお礼はさせて下さい。パンツなんか全ての皺を伸ばしてから畳みます。なんでしたらマッサージだって僕できますっ!えっ、傷の手当をする方が先?あーっ、はい、ありがとうございます・・。
□□□■□祝っ!脱童貞なるか?□□□□□
と言う事で僕は今、お姉さんとテーブルを挟んで食後のお茶を飲みながら楽しく会話をしています。当然ですが食事には眠り薬など入っていませんでした。
薬と言えばお姉さんに施して貰った傷薬は凄かったです。あれって魔法処理が施されているすげー高いやつなんじゃないですか?だって、薬を塗ってからまだ2時間しか経っていないのにほぼほぼ傷が塞がっています。地面に打ち付けた所だってすっかり腫れがひいているし。
だけど効果が強い薬って副作用も強力なんだよな。だから今、僕の体の一部は薬の副作用により非常に困った事になっている。うんっ、詳しくは言わないけど血液が股間にこれでもかという程集結してしまっているのだ。
はい、これは薬の副作用です。決して僕がエロ小僧だからではありません。お姉さんの胸がぷるんと揺れる度にどくんと血管が脈打つのはたまたまです。えっ、ならば目を反らせよって?おいおい、そんな事が出来る男がこの世にいる訳ないだろうっ!ちっ、これだからきれい事をいうやつは信用出来ないんだ。そうゆうやつに限ってむっつりなんだよっ!お前ももっと正直になれよっ!そしたら人生もっとラクに生きられるからさっ!
うんっ、僕は一体誰に説教しているんだろう?はい、僕自身にです。僕も結構ぽっち歴が長いからね。ひとり芝居は慣れたものなのさ。
さて、僕はテーブルの下になってお姉さんからは見えないであろう事を確認した後、股間でいきり立つ息子の位置をそっと直しながら今までの経緯なんかを話している。まぁ、内容はちょっと盛ってあります。だってドロドロの感情が渦巻く話なんて聞いても面白くないでしょう?
「まぁ、それは大変でしたわね。でも勘違いって確かにあるわねぇ。そして仮に誤解が解けても体面とかを気にして素直に謝れないの。私も経験があるわ。」
「あーっ、そうなんですか?でも多分ドラキュナさんの言う経験と僕のでは多分、天と地ほどの違いがあると思いますよ?」
そう、紹介し忘れていたけどお姉さんの名前はエリザベス・ドラキュナと言うそうです。因みにあの有名なドラキュラ男爵とは何の関係もありません。あれ?伯爵だったっけ?
「ふふふっ、ファミリーネームではなくエリザベスと呼んで。ここら辺ってドラキュナ姓が多いから殆どの人は名前で呼び合っているから。」
「あっ、そうなんですか。ではエリザベスさんで。」
はい、エリザベスお姉さんの言った事は田舎辺りでは結構メジャーです。凄いところなんて村の全員が親戚だなんて所もあるらしいです。
その後も僕は色々な経験談をお姉さんに聞かせた。中には実話ではなく人から聞いたヨタ話の主人公を僕に置き換えて話したりした。たって、お姉さんが笑ってくれるんだもんっ!そりゃ、内容もエスカレートするってもんでしょう?
まぁ、そこら辺はお姉さんも話半分で聞いているようだから良しとしよう。要はお喋りで楽しい時間を過ごせれば幸せなのだから。
しかし、楽しい時は時間が経つのが早いと言うけど実際に夜もとっぷりと更けてきた。なので僕は少しうとうとしてくる。
えーと、お姉さんとのお喋りは楽しく興味も尽きないのだけど、あまり遅くなると明日にひびきます。薬のおかげで傷も大分癒えてきたのでそろそろ僕は休んでいいですか?と言うかちょっとおトイレをお借りしたいんですけど。でないと僕の息子が興奮して眠れそうにありません。すいませんねぇ、泊めて頂いたくせにこんな事をして。でもこれって男性の生理現象ですから許して下さい。
「あら、ごめんなさい。お客様が来るなんて久しぶりなものだからつい長話をしてしまったわ。さぁ、こちらの部屋へどうぞ。続きはベッドの上でしましょう。」
は?ベッドの上?えっ?それってどうゆう意味でしょう?僕、男の子なので勘違いしてしまいそうです。ほら、股間の愚息は既に誰はばかる事なく準備万端で「いつでも、ばっちこいっ!」状態です。
あたたたたっ、あまりの成長振りにパンツの中で行き場をなくしたのか愚息が締め付けられて痛いです。う~ん、ここでズボンを切り裂いてにょきっと頭をだしたら漫画だね。いや、それどころかテーブルだって持ち上げられるかも知れないな。うんっ、それこそ漫画だ・・。
しかし、一体どうしたんだ僕の愚息は?如何に僕が童貞で、且つお姉さんが美人だからと言ってここまで張り切るものなのか?ずっと前に仕事先で若い奥さんが庭で行水していたのをたまたま偶然に覗いた時だってここまでにはならなかったぞ?いや、あれは直ぐに対処したから手遅れにならなかっただけか?
僕は血が股間に集中した為だろうか、しょうもない事を思い出す。いや~っ、若かったねぇ。あれこそ若気の至りってやつですか?はい、覗きは犯罪ですからね。まぁ、みなさんは紳士だろうからそんな事はしないと思うけどさ。
「さぁっ、こっちよ。いらっしゃい、ダルタニアン。」
「あーっ、はい・・。」
僕はお姉さんの言葉に抵抗できずに前屈みになりながら隣の部屋へと入った。そこには一人用としてはちょっと大き過ぎる、所謂一般にはダブルベッドと形容されるベッドが部屋の中央に鎮座していた。その枕元には多分香だろうか?とても芳しい香りを漂わせる器が添えてあった。
あーっ、隣の部屋にいた時もいい匂いだなぁと感じていたけどこの匂いだったのかぁ。やっぱり女性ってこうゆう所が男と違うよなぁ。
僕は香りの発生元を知り納得する。しかし今は隣の部屋で嗅いだ時とは香りの濃度が段違いだ。だからだろうか僕はその香りにぐらりと気を持っていかれそうになる。でも、これから始まるもしかしたらもしかするかも知れない、そうなったら嬉し恥ずかしのご褒美展開を堪能する為に胆にぎゅっとチカラを込めて意識を持っていかれるのを防いだ。だがそんな僕を見てお姉さんが言う。
「あら、すごいわダルタニアン。この香りを嗅いで意識を保っていられたのはあなたが始めてよ。」
えっ、そうなんですか?えーと、それって褒められているんですよね?でも、意識って・・。
あれ?もしかしてこの香りって睡眠薬?あれれ?これって実は僕が最初に懸念していた『食事に眠り薬を入れられてそのまま冥土に一直線』ってパターンのお香バージョンですか?
えーっ、もしかしてこれから僕を待ち受けているのはうふふな大人の時間じゃなくて、「ふふふっ、久しぶりの若い男の肉じゃ。どれ、まずは血抜きからじゃな。」っていう追剥山姥バージョン?実はお姉さんって変身を解くと皺だらけのばあさんだったってオチですかぁっ!
あっ、お姉さんっ!何ナイフとロープを取り出しているんですっ!駄目っ!だめだってばっ!僕はおいしくないよっ!
「ふふふっ、私ね、ダルタニアン。最初はこうゆうプレイで気分を高めるのが好きなの。」
そう言いながらお姉さんは僕の体をベッドに縛り付ける。だけど僕は抗えない。あーっ、多分お香のせいだな。まだ頭はなんとか働いているけど体の方はノックダウン状態だ。
次にお姉さんは僕の上着とズボンを脱がしに掛かる。だけど僕の下半身にそびえ立つピラミットを形成しているパンツはそのままだ。う~んっ、この場合逆に強調されて恥ずかしいんですけど?
「さぁ、ダルタニアン。どうして欲しいかおっしゃい。お姉さんが何でも適えてあげるわ。」
おおっ、何でもですかっ!例えばあんな事やそんな事もありですかっ?もしかしてあれもお願いしたら構わないの?くはっ、お姉さんは女神さまで有られたのですねっ!ならば拝んでおかなくてはっ!なみあみだぶつ、なみあみだ・・、いや、こっちの拝むじゃないな。うんっ、ちょっと今僕動転しています。
さて、何でも願いを叶えてあげると言われてはアレをお願いしない訳にはいくまい。僕らくらいの男の子たちが望んでやまない願望を。その願望とは・・。
「僕を異世界へ連れて行ってくださいっ!あっ、チートは万能系でお願いしますっ!」
・・。ちがーうっ!何言っているんだ、僕はっ!幾ら気が動転しているからってそれはないだろうっ!ほらっ、お姉さんもどうして言いか判らずに頭を傾けているじゃないかっ!
「あっ、すいません。間違えました。えーと、お姉さんの好意はとても嬉しいのですけど、ちょっと展開がテンプレ過ぎて逆に疑念が湧いてきます。通りすがりの僕にそこまでしてくれるのは何故なんですか?言っておきますけど、僕ってお金も権力もないですよ?」
おっと、今度は逆に頭が冷え過ぎたよ。この状況で何を聞いているんだ。だけどそんな僕の問い掛けに答えたお姉さんの答えは予想の斜め上をいってました。
「やだ、まだ気付かないの?実はね、私ってインキュパスなの。」
えーっ!驚愕のびっくり発言ですっ!お姉さんって魔物だったんですかっ!しかもインキュパスっ!うわっ、僕初めて会いましたっ!あっ、お噂はかねがね伺ってましたよっ!僕も是非とも一度はお会いしたいと思っていたんですっ!巷ではインキュパスは魂を吸い取るから気をつけろ?なんて言われていますけど、おいおいっ、それがどうしたっていうんだっ!それこそ男の本望じゃないですかっ!
「ふふふっ、まっ、ダルタニアンたら素直なのね。私そうゆう人が好きよ。」
あれ?僕、声に出していました?あらら、はずかしーっ!
しかし、インキュパスかぁ。確かにインキュパスは魔物に分類されているけど、今横たわる僕の上に乗っかっているお姉さんはどうみても人間だけどなぁ。ん~っ、そもそもインキュパスの身体的特徴ってどんなだったっけ?魔物図鑑が手元にある方は是非とも教えて下さい。
さて、お姉さんからの予想外の告白に僕は面食らったが、この時僕の中では人間としての常識と男の子としての本能が互いに争いを始めた。
方や、「魔物なんかと縁を結ぶんじゃない。それは神をも恐れぬ重罪だっ!」という教会の教えと、もう一方は「いいじゃん、いいじゃんっ!化け物みたいな風貌ならともかく、お姉さんはどこから見ても人間だよ。しかも飛びっきりの美人ときたもんだ。このチャンスを逃したらお前は一生童貞のままだっ!」というなんともその場限りの欲情に支配されている僕の男の子回路とのせめぎ合いだ。
まっ、結果から言えば男の子回路の圧勝です。ケリが付くまで2秒かかりませんでした。なので僕はお姉さんにお願いする。
「あの・・、初めてなので痛くしないで下さいね。」
こらこら、それは女の子のセリフだっちゅうのっ!
さて、以降は大人の時間なので良い子は読まないように。うんっ、絶対読むなよっ!読んじゃ駄目だからなっ!
う~んっ、あんまり念を押して言うと逆に興味を持たれちゃうか?そう言えばこうゆう芸を持ち芸にしている芸人グループがいたな。名前、なんて言ったっけ?
と言うか僕は誰に警告しているんだろう?もしかして初めての経験を前に頭が混乱しているのかな。
まぁ、芸人グループの事は置いておこう。と言うか今男の事なんかに頭を使いたくないよ。興が冷めちゃうじゃないかっ!
それでは不肖ダルタニアン・ハインバーグ。20歳童貞っ!恥ずかしながら人生最初の大人の時間を経験させて頂きますっ!
おっと、これ以降はぐるんぐるんに官能渦巻くR-18指定の時間だからね!だから子供はさっさと寝なっ!
□□□□■冒険者ギルド、またの名はハローワーク□□□□□
「それじゃ気をつけてね。この道を真っ直ぐ歩けば町へ続く街道にでるから。」
「はい、ありがとうございます。それじゃ行きます。エリザベスさんもお達者で。」
翌日の早朝、きぬぎぬの別れに後ろ髪をひかれつつも僕はエリザベスお姉さんにお礼を言って町へと向かう道を歩きだした。エリザベスお姉さんはいつまでもいていいと言ってくれたのだけど、それでは僕の男としての矜持が立たない。確かにエリザベスお姉さんの提案は魅力的だけど僕はもう子供じゃないんだ。女の人に養って貰うなんて事はできないのさっ!
えっ、R-18指定時間の描写はどこいったって?いやだなぁ、そんなのここで言える訳ないじゃんっ!そもそもこれってR-15タグ指定すらしていないんだから。いや、おっかないから指定しておこう。利用規約第14条6項に引っかかって強制削除されてもつまらないからな。
そもそもこの投稿サイトは健全なお子ちゃまたちの遊び場なのっ!だからエロ表現は厳禁です。と言うか何を僕は言っているんだろう?大体投稿サイトってなんだ?そんなのこの世界にあったっけ?
と言う訳で、エリザベスお姉さんとの怒涛の夜を過ごした後、後ろ髪を引かれる思いではあったが僕はサキュパスの誘惑に打ち勝って町へと向かった。いや、エリザベスお姉さんには本当に感謝しているんです。崖から転落した後、今いる場所が判らず途方に暮れていた僕に傷の手当と暖かい食事と寝るところまで用意してくれたのだから。
しかもベッドの上では人肌で暖めて貰ったしね。う~んっ、人生初の大人の営みが魔物相手だったと言うのはちょっとあれだけど、僕は気にしていませんっ!あーっ、20歳までに脱童貞が出来て本当に良かったよっ!これで僕も本当の大人への仲間入りだっ!ふっ、童貞どもよ、僕にひれ伏すがいい。僕はもう経験者なんだぜっ!おらおらおらっ、話を聞きたいかっ!話してやってもいいが興奮し過ぎて鼻血を出すんじゃねぇぞっ!
ふふふっ、さすがは一皮向けただけあって今の僕は怖いもの知らずだ。物言いが上から目線だね。しかし、男って別に女の子と違って身体的に変化がある訳じゃないのにこの根拠のない優越感はなんなんだろう?もしかしてこれが精神的な成長ってやつなのだろうか?
そう言えばなんだか今日の太陽はいつもと違って随分と黄色い気がする。そうかぁ、これが大人の階段を昇っちゃったってやつなんだなぁ。あれ?何か腰に力が入らないな。大して歩いた訳でもないのに呼吸も荒くなった。あれぇ、僕ってこんなに体力がなかったっけ?何だろう?折角大人になったというのに、こんなんじゃみんなに笑われてしまう。
はい、冗談だよ。判っているさ。そもそも脱童貞したから大人になったなんていつの時代の人間だよ。どうしても言い張るんなら、それ相応の『大人の責任』ってやつも背負って貰おうじゃないか。はい、まずは納税ねっ!えっ、納税だけじゃなく大人は脱税もやるもんだ?あれ?そう言えばそうだな。あれれ?となると僕も納税じゃなくて脱税しなくちゃならないのか?いや、脱税は犯罪だよ?でも大人はやっているんだよなぁ。だとしたら大人になった僕もやらなきゃならないのか?でも、そもそも脱税しなきゃならないような額を払っていない・・。
はいっ、僕はまた一人ぼっちになったので自分のボケに自分で突っ込んでます。でもこれって危ないんだよね。気を抜いていると人前でもやっちゃうからさ。そんな処を見られたら危ないやつって思われちゃうよ。うんっ、気をつけよう。
さて、そうゆう訳で僕は今町の冒険者ギルドに来ている。時間的にはお昼のちょっと前だ。そして何で僕が冒険者ギルドに来たかと言うと、それは僕が現在絶賛住所不定、無職、無所属だからである。ああっ、なんかこう言うと自分が犯罪者みたいに思える・・。いや、この考えは全国の住所不定、無職の方々に失礼だな。彼らの中にだって頑張っている人はいるはずだ。・・、いるよね?
まっ、僕以外の住所不定、無職、無所属の人たちの事は置いておこう。立場としては僕だって同じなんだから人の事は構っていられないのである。
う~ん、どこかで待遇の良い冒険者パーティーが欠員の募集をしていないかなぁ。出来れば週休二日制で、住み込み家賃がタダでプラスまかない付きがいいんだけど。後、パーティーのポジションは後方がいいです。もっと言うならばダンジョンの外で荷物番なんて最高です。はい、魔物になんか指一本触れさせませんよ。だから安心してダンジョンからお宝をかっぱらって来て下さい。
だけどそんな好条件の求人はなかった・・。そもそも待遇の良いパーティーをわざわざやめるやつはそういないだろうし、求人があったとしても競争が激しいだろう。なので僕にはちょっと無理だ。いや、勝ち取れる自信はあるのよ。だけどそこまでして採用されちゃうと雇用側からの期待も大きいじゃん。となると中々気が抜けなくなるからねぇ。僕は出世とかには興味がないんでパーティーの中では給料分だけ働きたいんです。がんばっていますっ!アピールなんてごめんです。そんなやつに限って上が見ていない所では思いっきり手を抜くからな。うんっ、見ていて実に見苦しい。だけどあれも処世術なのかな。生き方って色々あるねぇ。
次に僕は給料面を重視して冒険者パーティーを探す事にした。でもこの探し方には注意が必要だ。やたらと高額の給料を謳っているやつは『釣り』の場合が多いらしいからな。ほらっ、これなんか絶対そうだよ。なんだよ、歩合制って!これって出来高が上がらなけりゃ給料を払わないぞって言っているようなもんじゃんっ!
こっちの求人も怪しさ全開だ。何この募集人数?10人ってどんだけでかいパーティーを構築するつもりだよっ!これって絶対派遣だっ!他の冒険者パーティーから依頼を受けて短期の助っ人としてメンバーを貸し出す事を生業としているパーティーだよっ!こうゆうのは依頼がある時はいいけど、依頼がない時は何の保証もしてくれないらしいからな。アルバイト的にはいいかも知れないけど僕はごめんだ。そもそも、アルバイトならこの冒険者ギルドでも斡旋してくれるしさっ!
そう、僕は冒険者プレートを持っているから僕だけでもギルドから仕事は斡旋して貰えるのだ。だけどピンで請け負える仕事は殆どが単発なので、長い目で見ればどこかの冒険者パーティーに所属していた方が収入は安定するのである。
でも焦って変な冒険者パーティーに入っても失敗しそうだし、それなら単発のアルバイトをこなしつつ、じっくり腰を据えて僕に合った冒険者パーティーを探す方が後々の為かも知れない。ちょっと目立つような案件をさらりとこなせば補充を検討している冒険者パーティーの人たちにもアピール出来るしね。
僕がそんな事を考えながら求人票を眺めていると、ある求人に目が留まった。
【急募っ!後衛ポジションっ!短期ジョブを2ケ月こなした後に正メンバーへ昇格保証っ!】
うんっ、怪しいと言えば怪しい内容ではある。でも一応ボジションが僕が希望する後衛だしパーティーの実績一覧の内容も結構良い。このくらいなら僕の実力とも釣り合いそうだ。でもまぁ、ここら辺は書類ではどうとでも書けるから鵜呑みにはできないけどね。
さて、どうしたものか・・。確かに色よい事ばかり書いてある求人は怪しい。だけどあまり慎重になっても先には進めない。それに面接してこちらから相手を見定めるのも就職活動の基本だしな。こんな書類のデータだけで仕事は選ぶもんじゃないのよ。だからこの求人のように採用検討期間があるやつは、逆にもしもの時はこちらから辞退しやすいので試してみる価値はあるのだ。まぁ、これは僕の自論で誰しもが頷く方法ではないけどね。
よーしっ、決めたっ!まずは1回この求人に応募してみよう。なに、駄目だったらまた次のを探すさ。
しかしなんだな。確かちょっと前に、以降はこのまま怒涛の会話のみの展開に持ち込むぜっ!っていき込んだはずなんだけどまた僕の独り言ばかりになっている。もしかして、僕って本当にぽっちが染み付いているのか?
□□□□□何回受けても面接は緊張するなぁ■□□□□
と言う訳で僕は今冒険者ギルド内にある貸しスペースにて面接を受けている。大抵の冒険者パーティーは拠点となる場所を持っていないから今回みたいに面接や依頼主と話し合う時は、冒険者ギルド内の貸しスペースを使うのが通例である。まっ、スペースと言ってもちゃんと個室だけどね。
そして僕を面接してくれている担当の方はとても美人なお姉さんだった。所謂クール系ってやつだろうか?ビシっと着こなしたスーツときりっとした眼鏡ができる女ってやつを演出してるね。
でもこれは以外だったな。大抵は面接を担当するのってパーティーのリーダーなのに。でも彼女はパーティーのリーダーではなかった。聞いたところでは面接専属の担当官だそうです。これもまた僕には初めてだ。面接専属?えーっ、そんな人を置かなきゃならない程応募があるの?もしかして僕ってすごいパーティーに応募してしまったのだろうか?びっくりだね。
「以上が当パーティーが通常請け負うジョブです。ランクとしてはAクラスの依頼が主ですが、時には下のランクも請け負います。」
まず面接官のお姉さんは僕に色々質問する前にパーティーの仕事内容をざっくりと説明してくれた。ふむふむ、確かにAクラスだね。しかも達成率がかなり高い。これは話半分としても優秀なパーティーじゃないか。
だけど確かにこの冒険者パーティーは優秀な成績ではあるがその分損耗率も高かった。でも、そこら辺を隠そうとしなかったのは好感が持てる。いや、単に使い捨てにする新人に隠し立てしてもしょうがないと考えているのかな。
「ではこれまでの説明で何か質問はありますか?」
面接官のお姉さんは説明した事に対する僕の反応を見る為に問い掛けてくる。これもまた面接における求人側の選別テクニックだろう。ここでありませんなんて言ったら、こいつ何を聞いていたんだという事でたちまち不採用の文字が書類に書き込まれるはずだ。時には説明の中に明らかにおかしい所を含ませておいて間違い探しをさせる面接官もいるって話を聞いた事がある。そうじゃないとしても、説明された事に対して何も質問がないというのも雇用する側からしたら期待できる人材とは映らないらしい。なので僕は当たり障りのない事を聞く。
「そうですね、御社の仕事内容と達成率からすればこの損耗率はぎりぎり許容範囲だと思いますが、しかしだからと言ってそこら辺を冒険者個人の技量でカバーするのは昨今の冒険者パーティーのリスク管理と逆行しているように見えます。今は個のチカラではなくパーティー全体の連携でジョブをこなすのが主流でしょう。その辺の対応はどのようにお考えなのですか?」
はい、やたらと硬苦しい質問と思っただろうけど、これってテンプレだから。冒険者面接応答例題集って教本に載っています。だからこれは僕が考えた事ではありません。なので面接官のお姉さんの返答も型通りのものだった。なので割愛します。
その後も僕はテンプレな質問を幾つか繰り返し、お姉さんもまたテンプレな返答をする。はい、テンプレって本当に便利だよね。でもこのやり取りに意味があるのか?
そして僕からの質問タイムが終了すると今度はお姉さんの方から僕へ質問する時間となる。いや別にプライベートな事を聞かれた訳ではありません。お姉さんは雇用側の立場から必要と思われる質問をぶつけてきただけです。ここら辺がどこかの世界の下心だらけのおっさん面接官とは違うね。あいつら恥ずかしくないのかね。求人に応募してきた女子大生へのセクハラなんてバレたら懲戒免職もんだろう?えっ、社長自ら率先してパワハラ?それはそれは・・。はい、そうゆう場合は取引先に告発文書を送りましょう。出来れば音声データを添付してね。それで取引先が動かないようならその事をネットに公開だっ!
いや、僕は何の事を言っているんだろう?そもそもネットってなんだ?
僕は緊張からか何だかよくわからん事が頭の中を駆け巡る。だけどそんな状態の僕に対してお姉さんは構わず質問してきた。
「この履歴書を見た限りではかなりの数の冒険者パーティーを渡り歩いているようですが、それらのパーティーをお辞めになった訳をお聞かせ下さい。」
お姉さんは僕が提出した履歴書を見ながら痛いところを突いてくる。はい、すいません。それでも実際よりかなり減らして書いてます。実際にはその3倍はあります。しかも辞めた理由は全部追放です・・。でも恥ずかしいから書類には『一身上の都合』と書きました・・。なので察してもらえると嬉しいです・・。
だけどお姉さんにはそんな僕の心の声は聞こえないようだ。実に事務的に問い掛けてくる。まっ、当然か。そりゃそうだよな。誰が見たってちょっと多過ぎるもんね。くっ、ちくしょうっ!これでも減らした方なのに・・。
「えー、それをお話しするにはまず私の生い立ちからお話しする事となります。履歴書を見ていただければ判りますが、私が最初に冒険者パーティーに加わったのは5歳の時です。」
そう言って僕は、僕が冒険者パーティーを渡り歩く事になった経緯を話し出した。まぁ話はかなり美化してあります。大体冒険者パーティーを辞めたのは止むに止まれぬ事情があった事にしてあります。中には僕以外全滅してしまった事にしたパーティーもあります。まぁ、これは僕が追放された後に本当に全滅しているから丸っきりの嘘ではない。だから仮に裏を取られたとしてもばれる事はないだろう。
そして20分後。僕は自分の生い立ちを語り終わる。う~んっ、もしかして僕って作家の才能があるんだろうか?よくもまぁ、ある事ない事ぺらぺらと喋れたもんだ。いや、これって作家と言うより詐欺の才能か?
「判りました、ご苦労なさったのですね。」
僕の話を聞き終えるとお姉さんは優しく僕を労ってくれた。でもまぁ、これは言葉だけだな。内心では僕の話を信じてはいないだろう。何故かって?だって彼女、面接官だよ?その程度事が見破れなくちゃ務まらないでしょ?
その後もお姉さんは事務的に次々と鋭い質問を僕にぶつけて来る。う~んっ、クールだ。かっこいいねぇ。でも僕だって負けないよ?所詮履歴なんてどうとでも改ざんできるからね。まっ、細かいところを突っ込まれるとボロがでるけど大丈夫っ!そんなのは愛想笑いでカバーだっ!いや、それじゃ駄目だろう・・。
「ではあなた様の採用に関してはもう一度パーティー内で検討した後ご連絡致します。ご連絡先は冒険者ギルドでよろしいですね?」
「はい、結構です。ではよろしくお願いします。」
「はい、本日はおいで頂きありがとうございました。お気をつけてお帰り下さい。」
こうして僕の面接は終わった。手ごたえとしては五分五分と言ったところか。あのお姉さんも中々のものだ。もしかしたらエキスパートなのかも知れない。でもまぁ、その事に関しては僕は逆に感謝している。何であれプロの仕事ぶりを見るのは参考になるからね。いや~、実に勉強になりました。ありがとうございます。
その後、僕は空いた時間にちょこっと簡単なジョブを受けて手持ちのお金が減らないようにしながら何件かの面接をこなし合否の連絡を待った。
そしてとうとう僕が加わる新しい冒険者パーティーが決まった。その名も『ドラゴンプレス』だっ!はい、『ブレス』じゃないからね。『プレス』です。うんっ、紛らわしい。
『プレス』の意味が報道機関を意味する『プレス』なのか、はたまた物を圧縮する事を意味する『プレス』なのかは判らないけど、多分どちらも違うと思う。これって絶対『ブレス』の誤植だよ。だって書類なんかでは確かに『プレス』って書いてあるけど、メンバーたちがパーティー名を言っているのを聞くとみんな『ブレス』って言っているもん。はははっ、何とも大らかな人たちだ。もしくは単なる馬鹿か?なんでスペルミスに気付かない?
もうひとつ説明しておくと、『ドラゴンプレス』は先に面接風景を紹介した冒険者パーティーではない。あのパーティーからはあの後、実に丁寧な不採用通知が届きました。あなたの今後に幸多からん事を祈りますだってさっ!ちっ、何が幸多からんだよっ!そんな事を願ってくれるんだったら採用しろってんだっ!
後、僕が冒険者パーティー『ドラゴンプレス』に加わる事にした本当の理由は面接してくれた女の子がすげー可愛いかったからです。うひょ~っ、あんな可愛い子と仕事が出来るんなら僕はなんだってやっちゃうよっ!はい、お嬢さん洗濯物を出してね。えっ、自分で洗うからいい?駄目ダメ、洗濯は新人の仕事って決まっているんだからさ。あっ、今履いているやつも洗いましょうね。さぁ、早く脱いで下さい。何だったら手伝いますよ。あっ、他の男共は腐るまで履いていろ。いや、それはそれで臭いから嫌だな。
そう言えば、先に面接した冒険者パーティーのお姉さんも十分に美人だったな。何だろう、ここの冒険者ギルドに求人を出す冒険者パーティーってどこかのコンパニオン派遣会社と面接官の契約でもしているのか?でもそれって面接官詐欺ではないのだろうか?いや、まんまと釣られた僕が言うのもなんだけどさ・・。
あれ?そうだとすると冒険者パーティー『ドラゴンプレス』で面接してくれたあの子も実はパーティーとは無関係?あれれ?もしかして僕、失敗しました?
□□□□□新人は色々大変です□■□□□
「みんなそのままで聞いてくれ。こいつが今日からウチのパーティーに加わる事になったダルタニアンだ。ポジションは後衛だが、正式な配置は暫く能力を見てから決定する。なので当分は何でも屋として色々使ってくれ。但し、こう見えてもキャリアはかなりあるらしいからな。ぼやぼやしているとポジションを取られるぞ。」
今僕は新しく加わる事となった冒険者パーティー『ドラゴンプレス』の仲間達へリーダーから紹介をして貰っている。因みに場所は宿屋の一室だ。どうも『ドラゴンプレス』はここを定宿とし活動しているらしい。まっ、それに関しては自社ビルなんつうものを持っている冒険者パーティーの方が少ないからな。普通ちゃ普通です。
「それじゃまずダルタニアンから自己紹介しろ。」
「あっ、はい。えーと僕の名前はダルタニアン・ハインバーグです。冒険者ランクはAプラス。経験は今年で15年目になります。ポジションの希望は後衛ですが、大抵のポジションは経験していますので必要な時は遠慮なく言って下さい。ただ、ここら辺のダンジョンはまだ未経験なので皆さんにご迷惑を掛けないようにがんばります。よろしくお願いします。」
「・・。」
リーダーに促がされて、僕はありきたりではあるが正直に自分の実績と要望を説明した。そう、何事も初めが肝心なんだ。なんと言っても今回が初顔合わせだからね。舐められないようにガツンと言うべき事は言っておかないと後々問題が発生しやすい事を僕は経験から知っているのさ。それに先輩方に遠慮して変に実力情報を下方改ざんしてもすぐばれるしさ。
さて、多分今までの僕の行動と冒険者パーティーを追放されまくりという情報から、みんなは僕が駄目だめな精々Dランク辺りの平凡な冒険者だと思ったかも知れないけどさにあらず。僕の冒険者ランクはAプラスなのである。これってこの業界ではトップクラスに属します。これより上位のランクって基本ありません。ときたまSとかSSとか言うランクを耳にする事があるかも知れないけどあれは尊称です。賞賛に値する実績を残した冒険者へ敬意を現す為にみんなが使う呼称です。なので冒険者ギルドが定め認定するランクではAプラスが最上位なのだよ。
でも、そんな僕のランクと経験年数を聞いてもみんなの反応は薄い。さて、これはどちらだろう?「そんなのありえねぇ、こいつ幾らなんでもはったりを噛まし過ぎだっ!」と呆れているのか、はたまた「Aプラスね、まぁウチで働くならそれくらいは当たり前だな。」と思っているのか?もしくはびっくりし過ぎて口も聞けなくなったのか?
そんな暫しの沈黙の後、リーダーを除いてふたりいたパーティー仲間の内、年長者とおもしき人物が漸く自己紹介を始めた。
「俺はオーキ・アミデニスだ。ポジションは後衛。ランクはAだ。サブリーダーを務めている。」
「はい、アルデニスさん。よろしく願います。」
うんっ、握手すら求めてこないよ。やりづらいなぁ。
「おいらはミジン・コードギアス。ホジションは遊撃。ランクはB。」
「はい、コードギアスさん。よろしく願います。」
ミジンはもしかしたら僕より若いな。15歳くらいだろうか。とは言ってもそんなのは冒険者パーティーでは普通だけどね。
「最後に俺も言っておこう。俺の名はエリック・プランクトン。この冒険者パーティー『ドラゴンプレス』のリーダーだ。ランクはB。」
「はい、リーダー。よろしく願います。」
僕はそれぞれ相手の自己紹介に対して挨拶を返した。しかし、なんともぶっきら棒な挨拶だ。これはかなり警戒されているんだろうか?
「以上が冒険者パーティー『ドラゴンプレス』の構成員だ。それじゃ紹介も済んだ事だし早速仕事に取り掛かろう。ミジン、新人に説明してやってくれ。1時間後には出発する。」
「了解、リーダー。それじゃ新人、付いてきな。」
「あっ、はい。」
僕はミジンに促がされ宿屋を出て裏手の馬小屋へと連れて行かれた。そして馬の準備をミジンと一緒に始める。
「この馬がリーダーので名はタイガー。こっちがサブリーダーのでパンサー。で、こいつがおいらの愛馬でジャガーだ。ところでお前、馬を持っているのか?」
「いえ、持ってません。」
「そうか・・、なら準備しないとな。お前今幾ら持っている?」
「金ですか?えーと、5万ギールくらいです。」
ミジンはいきなり僕の所持金を確認してきた。おーっ、もしかしていきなりカツアゲですか?やるな、ミジン。君は期待を裏切らない追放系における小者嫌われキャラだったのかっ!
えーと、今のは冗談だよ。多分ミジンは僕用の馬を調達する為に所持金を聞いてきただけだ。どこぞの別世界では会社の仕事で使う足は社用車として支給されるなんて話を聞くけど、この世界ではそんな優遇措置はありません。全部自分持ちが普通です。そうっ、結構厳しいのだよ、冒険者生活ってやつは。
そうゆう訳で、僕はミジンに連れられて町のレンタル屋へと向かった。そう、この世界にもレンタル業はあるのである。しかもその貸し出す種類たるや何でもありだ。中には奥さんや妹だってレンタル出来るんだぜっ!
いや、今のは嘘だから信じないように。
「おっちゃん、馬を1頭借りたいんだけど。期間は1週間くらい。用途はダンジョンまでの足として使う。」
店に入るなりミジンは店の主人とおもしき人物に用件を伝えた。
「おうっ、ミジンか。なんだ?もしかして新しいやつが入ったのか?」
「ああ、こいつが今日仲間になった・・、えーと、名前なんだったっけ?」
「ダルタニアンです・・。」
うんっ、こいつ馬鹿なのか?ついさっき、自己紹介したばかりだぞ?
「そうか、今度は長く続くといいな。大体、お前の新人イビリがキツイからみんなすぐにいなくなるんだ。もう少し自重しろよ。」
うんっ、ご主人。そうゆう事をイビラレる本人の目の前で言うのはどうなんですか?冗談だとしても笑えないぞ?
「オーキやリーダーに比べたらおいらなんて可愛いほうさ。で、馬はあるの?」
「あーっ、あるある。そうだな、1週間なら3万ギールにまけておいてやるよ。」
うんっ、会話の流れでスルーされたけど、ミジンのやつなんか凄い事言わなかった?もしかして、今回の冒険者パーティー『も』ハズレなんだろうか?
「3万か・・、どうする?ダルタニアン。」
う~んっ、3万かぁ。ちょっと高いな。でもここいら辺ではそれ位が相場なのか?ミジンも何も言わないし僕も仕事をする上で馬は必要だ。しょうがない、手を打とう。
「はい、それで結構です。」
「それじゃ馬は裏小屋に繋いである。1日くらいなら期間を過ぎても過料は取らないから安心して借りてくれ。」
「はい、ありがとうございます。」
僕はそう言うと主人にお金を前払いしてミジンと一緒に馬を引き取った。
さて、後で知ったけどここら辺で馬を1週間レンタルする相場は2万だそうです。つまりレンタル屋のおやじはぼったくった訳だ。でもミジンはそれに何も言わなかった。つまり、ふたりはグルだったんだね。多分ミジンはおやじからキックバックを貰っているんだろう。はははっ、カモにされてしまった。
「よしっ、準備はいいなっ!それじゃ出発だっ!」
レンタル屋から僕用の馬を借りてくると宿の前では既にリーダーとアミデニスが待っていた。そして直ぐに出発となる。いや、リーダー?僕、まだミジンから今回の仕事内容を聞いていないんですけど?えっ、ダンジョンに潜るの?えっ、僕食料とか準備していないんですけど?途中にコンビニがある?みんなもそこで調達する?ああーっ、それは良かったっ!いや、いいのか?なんだか随分ラフなパーティーだな。
でもお金を得る為に冒険者パーティーに入ったのに金ばっかりが出て行く気がする・・。これって本末転倒なんじゃないのか?うんっ、世の中厳しいねぇ。
□□□□□初仕事はいきなりダンジョンっ!□□■□□
さて、ここで冒険者パーティーにおけるポジションってやつを説明しておこう。まず冒険者がパーティーを組む場合それぞれに役割を持たせるのが普通だ。でないと多人数で組むメリットがなくなるからね。
後、多分みんなは先ほどの自己紹介でパーティーのリーダーであるエリックのランクがBと言われて首をかしげたと思う。だって冒険者パーティーのリーダーって普通は仲間内で一番ランクの高いやつがなると思われているからね。でもそれは間違いである。リーダーとはパーティーを統率する役職の事だ。だから別にその能力さえあれば本来ランクは関係ない。
だけど人間って自分よりランクが下のやつを見下す傾向があるんで、その弊害を避ける為大抵のパーティーでは上位ランク者がリーダーを務めているだけなんだ。そうゆう意味では、リーダーってのは自分の能力に特化した仕事だけでなく、パーティーの統率なんていう面倒な仕事もこなさなきゃならないハズレ職とも言える。
でも何故か冒険者はみなリーダーになりたがる。何故かって?そりゃパーティー内で威張れるからさっ!所謂権力の座ってやつだね。
だからリーダーの資質がないやつが、ランクが上だという理由だけでリーダーになったりするとそのパーティーは大抵は失敗する。仮に失敗しないパーティーがあるとすれば、それは相当優秀なサブリーダーがいるか、もしくは懸案事項を【みんなの協力】ではなく【個のチカラ】で弾き飛ばしてしまうだけの本当の実力者がリーダーだった場合だけだろう。
因みに金持ちや権力者のボンボンがリーダーをやっていて、そこそこうまく回っている冒険者パーティーは前者だ。うんっ、ご苦労様です、サブリーダー。宮仕えは大変だ。
後、ポジションに関しては前衛は盾役で近距離戦闘特化、後衛は支援役で遠距離戦闘に特化、そして遊撃が前衛と後衛が敵をかく乱している間に敵の親玉を潰すってのが定石です。ただ確かにこれが定石ではあるけど絶対ではない。魔法使いなんか大抵は後衛を担当するけど、中には武闘系なんてゆうおっかない魔法使いもいるからね。
因みにポジションによる区分け以外にも冒険者個人の能力や特性で区分する事もある。その区分とは戦士や剣士、騎士などの剣術系と弓を主武器とする弓使い。それと魔法を駆使する魔法使いである。僧侶や錬金術師、猛獣・魔物使いや召喚士なども大きく分けるなら魔法使いの系統だ。もっと言えば盗賊や商人、斥候も魔法使い系になる。つまり、鍛錬のみではなくなにやら得体の知れない方法で能力を修得、発揮するのは全部魔法系にされるのだ。
で、僕はどの区分に入るかというと、なんと驚けっ!『勇者』であるっ!はははっ、びっくりしたかっ!びっくりしただろうっ!ふっ、今までの展開で僕を舐めていたやつは懺悔するがいい。今なら特別に許してやるよ。
そうっ、僕は勇者なんだっ!この世界に100万人しかいないと言われている、全ての男の子たちが憧れてやまない最高の肩書きっ!
うんっ、勇者多過ぎだ・・。インフレだよ、価値が激減するじゃん。もっとも僕も初めて冒険者ギルドに登録した時に、受付のお姉さんに「どの区分になさいますか?」と言われて「勇者でお願いしますっ!」と言って勇者にして貰ったんだけどね・・。はははっ、若かったな、あの頃の僕。まっ、確かに若かったよ。だって5歳だったもの。だから仕方ないよね、あの頃はまだ世間を知らなかったからさ。勇者になって世界を平和にするんだっ!なんて青臭い事を言っていたんだもん。魔王をぶっ倒したら全て解決と思っていたんだもん。あーっ、はずかしぃーっ!
はい、それでは以上を持って説明を終了します。判らない事があったら各自wikiかラノベで調べて下さい。もしくは独自に設定を考えるのも楽しいかも知れません。まぁ、それが他の人たちに受け入れられるかどうかは判らないけどさ。でもwikiってなんだ?突然頭の中に出てきたんだけど?もしかして僕の頭の中って異世界と繋がっているんだろうか?
はい、そうこうしている内に僕らは目的のダンジョンへと到着しました。勿論途中のコンビニでお弁当も購入しました。キャンペーン中だったらしくオニギリが安かったので僕は具がシャケと辛子明太子と五目御飯のやつをそれぞれふたつずつ買いました。当然飲み物はお茶です。
「よしっ、それでは今回のジョブをもう一度確認しておく。今回の目的は第7階層にあると言われている古代文明の技術が書かれている書物を持ち帰ることだ。これは既にいくつかのパーティーが挑戦しているが今まで成功したやつらはいない。だから気を引き締めていけよっ!」
リーダーの言葉にアミデニスとミジンが生唾を飲み込みながら頷く。しかし、第7階層かぁ。このダンジョンの階層構造がどうなっているのか知らないけどそうとう危険な場所なんだろうな。くーっ、なんかお腹が痛くなってきたよ。帰っていいかな、僕。あっ、もしくはここで馬番をしていますよ?
だけど僕の願いは叶わなかった。だってダンジョンの入り口脇に無料の馬預かり所があったんだもん。ただで馬を預かって貰えるなら誰も馬番なんか僕に頼んでくれないよな。
そうゆう訳で僕は仕方なくみんなに続いてダンジョンへと足を踏み入れた。そして暫く行くとリーダーが立ち止まる。そこには何やら石の扉とその扉の番人とおもしき老婆がいた。
そしてリーダーはその老婆へ話しかける。
「第7階層まで往復、4人。」
「はいよ、8000ギールだよ。帰りの追加荷重は一人当たり30キロまでだ。それを超えると追加料金が発生するからね。1キロ当たり500ギールだ。気を付けな。」
「判っている。」
そう言ってリーダーは老婆へ金を渡した。因みに追加荷重とはダンジョンに入った時の重量と出る時の重量の差だそうです。ほら、基本ダンジョンって何かを持ち帰る為に潜るでしょ?だから帰りは大抵入るときより荷物が多くなるのさ。
まぁ、食料とかはダンジョン内で消費するからその分も差し引けばちょっとだけ追加荷重より多くお宝を持って帰れるのは冒険者たちの間では常識です。ぎりぎり追加荷重より重くなりそうな時は、ダンジョン内で糞をして軽くするのもテクニックのひとつだ。おかげでダンジョンの入り口付近は臭くて嫌になるんだけどね。なんでみんなでお金を出し合って公衆トイレを設置しないんだろう?冒険者には公共の利益って概念がないのかね?
まぁ、その話は置いておこう。リーダーから受け取った金を数え終わった老婆は石の扉の横にあるスイッチらしきものを押す。
するとそれまで閉じていた石の扉が音もなく開いた。
「よしっ、行くぞっ!気を引き締めろっ!次に扉が開いたらそこは既に第7階層だからなっ!モタモタしているやつは置いていくから覚悟しろっ!」
リーダーは扉の中に入る前に僕らへ激を飛ばした。
はい、リーダーっ!質問がありますっ!この扉ってもしかしてあの超有名な『どこにでも行けちゃうドア』ってやつですかっ!と言うか、そもそも、なんでそんな便利なもんがダンジョンの中にあるんだよっ!あんたら本当に冒険者なのかっ!
うんっ、声に出しては言えませんでした。だって僕は下っ端だからね。黙って付いていくだけです・・。だけど本当にそれでいいの?あんまり便利になり過ぎるといざと言う時に対応できなくなっちゃわない?
はい、今のは只のきれい事です。便利いいじゃないですかっ!こんな便利な物があるなら使わない手はないでしょっ!苦労は鉄の草鞋を履いてでもやれ?いやいや、そんなのは低技術文明社会での上位統治者が民へ重過酷労働をさせる時の方便だよ。誰がわざわざ苦労を背負い込むかってんだっ!
と言う訳で今僕たちは四角い箱の中にいる。そう、あの石の扉は『どこにでも行けちゃうドア』ではなかった。扉の向こうは今僕らがいる箱だったのである。うんっ、でもまだ気を抜いてはいけない。多分再び扉が開いたらそこは第7階層だ。何故って?だって、そうアナウンスがあったからさっ!
ぴんぽーん
「本日はだろうダンジョンへお越し頂きありがとうございます。当エレベーターは第7階層へ直行致します。所要時間は7分程度です。それでは皆様のご検討をお祈りしております。」
・・。
・・。
・・っ!エレベーターかよっ!
はい、ちょっと溜めが長かったけど突っ込みました。しかし、エレベーターとは・・。さすがは『だろうダンジョン』だ。なんでもありだな。
僕はエレベーターの中で今の状況に突っ込む。いや、別に誰がボケたという訳ではないのだけど突っ込まなくてはいけないと思ったのだ。だって他のメンバーは全員無口なんだもん。
そしてえらく長く感じた7分が過ぎる頃、またアナウンスがあった。
ぴんぽーん
「本日はだろうダンジョンへお越し頂きありがとうございます。第7階層へ到着致しました。扉の開閉のタイミングはお客様に委ねられております。もしもこのまま戻る場合は入り口の右にあります赤いボタンを押して下さい。左にある青いボタンを押すと扉が開きます。仮に扉を開いた後でも、3分以内でしたら赤いボタンで戻ることが出来ます。それ以上時間が経ちますと強制的に当エレベーターから外部へ排除されますのでお気をつけ下さい。それでは皆様のご検討をお祈りしております。」
うんっ、このアナウンスの女の子の声、可愛いね。もしかして声優さんなんだろうか?一回お喋りしてみたいなぁ。
はい、僕がそんな暢気な妄想に浸っていると軽いショックの後、エレベーターが停止した。だけど、リーダーは動かない。閉じた扉の前で腕を組んで仁王立ちである。
なんだ?何を躊躇しているの?着いたらしいよ。ほら、左の青いボタンを押さないと扉は開かないってさっきアナウンスがあったでしょ?あっ、もしかして寝てた?だから聞き漏らしたのか?もしかして勝手に扉が開くと思っているの?駄目だねぇ、リーダー。リラックスし過ぎだよ。もっと緊張した方がいいよ。ほら、なんだったら僕がボタンを押そうか?
だけどリーダーはリラックスしていた訳ではないらしい。だって堪らずサブリーダーが声を掛けたからね。
「リーダー、ここまで来たら腹をくくるしかない。大丈夫、いきなりは襲って来ないはずだ。」
「・・、そう・・だな。よしっ、開けるぞっ!」
サブリーダーの言葉に漸く決心がついたのかリーダーの震える指が右の赤いボタンへ伸びる。
ちが~うっ!右は戻るボタンだっちゅうのっ!扉を開けるのは左の青いボタンってアナウンスされたでしょっ!もうっ、そんなボケはいらないからっ!とっとと扉を開けてくれっ!
うんっ、中々鋭い突込みをしてしまった。まぁ、僕は下っ端だから声には出さなかったけどね。だからリーダーに注意したのはまたまたサブリーダーだ。う~んっ、大丈夫なのかね、このリーダー。実はボンボン系なのか?
まぁ、ちょっとしたボケ展開はあったがとうとうエレベーターの扉が開く。その外には大7階層空間があるはずだ。さてさて、リーダーがビビリまくっている第7階層。一体どんな困難が僕らを待ち受けているのかな?それは来週までお預けだっ!
いや、直ぐに続きが始まるっての・・。
□□□□□えっ、あなた方もしかして追放系のプロですか?□□□■□
さて、第7階層である。うんっ、ここダンジョンの中なんだよな?でもなんでこんなに明るいの?しかも天井もやたらと高い・・というか無いし、なんか太陽すら見えるんですけど?しかも、その広さたるや地平線が見える程だ・・。はい、もうこれくらいじゃ突っ込まないよ。ダンジョンが洞窟だなんて言うのは風説に過ぎない。そもそもなんでもありがダンジョンじゃんっ!
そうっ、地球の中は空洞になっていてその中心には小さな太陽が鎮座しているってのが、とある世界の空想小説ではちょっと前まで定説だったらしいからね。まっ、ここは地球じゃないから僕は信じていないけどさ。
えーと、もう一回整理しよう。僕らはエレベーターで第7階層まで降りてきた。あれ?降りてきたんだよな?あれ?もしかして実は昇ったのか?そして外に出た?あれ?ならこの風景も変じゃないのか?だって外だもの。
おーっ、まさかの思い込みだったのかっ!でも普通ダンジョンの階層って下に向かって番号が大きくなるもんじゃないの?えっ、それこそ思い込み?デパートでエレベーターの7階ボタンを押したらエレベーターは上に向かうのが当たり前?あらら、そう言えばそうだな。なら第7階層って言ったら上に7階層目って事になるのか・・。というかデパートってなに?
・・。うんっ、もうどっちでもいいや。気にしたら負けな気がしてきたよ。
さて、第7階層である。そこはよくある暗い鍾乳洞のような場所ではなく、休みの日に家族連れがピクニックに来てお弁当を広げて食べるのに絶好のシチュエーションっぽい、白や黄色の草花が咲き誇る野原だった。はて?一体リーダーは何をビビっていたのだろう?ここって、どこを見渡しても魔物一匹見つからないんだけど。
「ダルタニアンっ!お前が先頭を行けっ!向かう先は向こうだっ!」
僕がエレベーターを降り周囲の風景に呆れていると、リーダーが見渡す限り何もない方向を指差して命令してきた。手には既に抜き放たれた剣を持っている。
なんだ、リーダーはここ来た事があるの?と言うかよく方向が判るな。あっ、太陽の位置で割り出したのか?
しかし、確か僕って後衛を希望したはずなんだけど?だけどまぁ、仕方ないか。何せ僕はこのパーティーでは新人だしね。それに一応パーティー内におけるリーダーの命令はほぼ絶対だし・・。うんっ、ほぼね。でも勿論例外はあるよ?だからあらゆる組織の上役の人たち、あんまり立場を利用して酷い事ばかり下に押し付けていると暗闇で刺されちゃうぞ?
さて、僕はまだこの冒険者パーティーに入ったばかりなのでリーダーの命令に素直に従います。そして言われた通りになんの目標物のないところをリーダーが指差した方向へ向けて歩きだしました。あらら、よくみたらサブリーダーとミジンも抜刀してらぁ。えーっ、ちょっとちょっとぉ。一体何に対して備えているのさ。僕にも教えてよっ!
はい、なんか3人とも緊張で目が釣りあがっているので危なくて聞けませんでした。ん~っ、あんたら本当にAとBランクなの?もしかしてそのランクって国会議員の口利きで不正取得したんじゃないのか?おっと、ここは貴族と言い換えないと駄目だったな。はい、ここは異世界だからね。
さて、こういった目標物がない場所を進む時に気をつけなければならない事がある。それは空間失調だ。これは吹雪の雪山なんかで陥りやすい所謂方向感覚の麻痺である。自分は真っ直ぐ歩いているつもりでも、いつの間にか同じところをぐるぐると回っている事があるそうです。まぁ、確かに目印がないからね。少しづつずれだすとそのずれが積もり積もって大きな円を描く事になるのだろう。
えっ、草を踏み倒した後を振り返れば曲がっているかどうか判るだろうって?はははっ、そうだね。100メートル、200メートル程度なら判るだろうけど1キロの向こうまでは見えないよ?つまりさっき言った円ってのはキロ単位の半径を持った円の事なのさ。
なので僕は目印代わりに500歩歩いたら周りの下草を少し大きめになぎ倒す事にした。でもその為に剣を抜刀したら他のメンバーが悲鳴を挙げたのにはびっくりだ。あっ、すいません。驚かしましたか?別に何かを見つけた訳じゃないので安心して下さい。と言うか、あんたらどんだけ小心者なんだっ!
だが、ビビリまくるメンバーのみんなをちょっと馬鹿にしていた僕も漸く彼らが恐れていた原因を知る事となった。その原因っとはっ!
ぎょえーっ!この見渡す限りの草原ってドラゴンの背中の上だったよっ!確かになんか上下にゆっくり地面が上がり下がりしているのは気がついていたけど、それってドラゴンの寝息だったよっ!と言うか、どんだけでかいんだっ、このドラゴンっ!よくもまぁ、重力で押し潰されないなっ!さすがは反則生物だっ!
はい、なんで僕がその事に気づいたかと言うとドラゴンが伸びをしたからです。ぐらっと地面が揺れたかと思うと、遥か向こうに巨大なドラゴンの首がにょきにょきっとそびえ立つのが見えました。ドラゴンの口がぱかっと開いて大きくあくびをしたようだけど、30秒くらい経った時、凄まじい轟音と衝撃が僕らを襲いました。う~んっ、あくびでこれかよっ!こいつが本気でブレスを吐いたら世界が終わっちゃうんじゃないか?
はははっ、しかしでかいねっ!一体どのくらいでかいんだろう?エレベーターのところからここまで凡そ1万歩は歩いたから1歩30センチとしても3キロは進んだはずだ。そしてあのドラゴンの首までは少なく見積もっても10キロはあると思う。エレベーターがドラゴンのどの部位にあるのかにもよるけど、少なくとも20キロ以上の全長はあるね。う~んっ、そんなにでかくて果たしてドラゴンは歩けるのか?あっ、歩けないから背中が草原になっちゃったのかな。
さて、突然の規格外ドラゴンの出現・・、いや元々僕らはドラゴンの背中にいたんだから出現って言うのはおかしいか?えーと、正しくは認識っていえばいいんだろうか?
まっ、とにかく僕がドラゴンに驚いていると、僕の後ろで腰を抜かしているリーダーがこれまた驚愕の命令を僕に指示してきた。
「ダっ、ダルタニゃンっ!古代文明の技術が書かれている書物はあのドラゴンの首にあるっ!お前、行って取って来いっ!」
おいおいっ、取って来いって本気で言ってるの?しかもひとりでかよっ!あんたら何の為のパーティーなんだっ!後、僕はダルタニゃンじゃねぇっ!お前は猫好きの飼い主かっ!
しかし、そうは言ってもこの3人はもはや使い物にならないのは明白だ。サブリーダーも手で頭を隠して震えているし、ミジンに至っては泡吹いて気絶してやがる。
う~んっ、どうしよう・・。こんなパーティーの為に危険を冒すのは真っぴらなんだけど、あのドラゴンには興味をそそられる。なんとかして友達になれないかな。ほらっ、ファンタジー系の物語では主人公がドラゴンと友情で結ばれるってのは定番じゃない。しかもこれだけでかいドラゴンなら世界すら征服できるよ?そしたら僕は冒険者なんてやらなくても一生左団扇だ。
うんっ、物語で主人公がドラゴンと熱い絆で結ばれるのは主人公が純粋だからです。だけどこんな欲まみれの僕では絶対役不足だ。おっと、僕もちょっと興奮しているのかな。この場合、力不足って言わなきゃ駄目らしいね。
さて、どうしよう。今の僕には選択肢がふたつある。まずひとつはリーダーに言われた通りにドラゴンの首にあるという古代文明の技術が書かれている書物を取りに行くだ。ここ、間違えないでね。取りに行って『来る』ではないから。絶対っ、帰って来れないからっ!
そしてもうひとつはこのパーティーに見切りをつけて、とっととここを去るである。でもこれは後々面倒な事になるのが目に見えている。絶対町に帰ったら、こいつら難癖つけて来るに決まっているのだ。その挙句に僕に浴びせられるリーダーからのセリフはもう判り過ぎるだろう。
そうっ、「ダルタニアンっ!お前を俺のパーティーから追放するっ!」だっ!
まぁ、それだけならいいけど多分こいつら僕の事をあちこちでボロクソに言いふらすだろうな。もしかしたら苦労して手に入れた古代文明の技術が書かれている書物を僕がかっぱらったとか言うかも知れない。うんっ、言いそう。特に依頼主には絶対言うな。けっ、全部僕に擦り付けかよっ!
よしっ、決めたっ!こいつらは殺そう。なに、どうせここでなら誰にも判らないんだ。こいつらの親族に訴えられても冒険者ギルドは現場検証すら出来ないだろうからね。いや、出来たとしても誰もやりたがらないだろう?だってここ、ドラゴンの上だぜ?死にに来るようなもんじゃん。
はい、今のは冗談です。うんっ、半分冗談です。いや、1/4くらいが冗談です。ムカついて、ちょっと本気になった時もあったけど、基本冗談です。でも事故はいつでも起こりえるからね。そう、事故は突然やって来るんだよ?
と言う事で結論が出ました。ドラゴンの首の所へ行って技術書を取って来ます。なんでかと言うと、リーダーたちったら僕がちょっと決断を迷っている間に逃げちゃったんだもの・・。さすがに追いかけて行ってまで殺すのはさめざめです。僕はジェイソンじゃないしね。チェーソーも持ってないし。
そもそも今から追いかけても追い付ける気がしない。多分今計測したらあいつら、絶対世界記録を塗り替える速さで走っているよ。追い込まれた人間ってのはすごいからねぇ。
「さて、またぽっちになったことだし行くとするか。」
僕は自分を奮い立たせる為に敢えて声に出して歩きだす。そうっ、これは決意表明なんだ。だから決してセリフの水増しではないよ?そんな事をするつもりならもっと徹底的にやるもんっ!例えば
「「「「「「「「「「今日はいい天気です」」」」」」」」」」
とかね。あっ、ちょっと古い例えかも知れないけど
「キンキンキンキンキンキンキンキンキンキン、ガキーンっ!」
とかもいいね。いや、キンキンキンはセリフじゃないか?
でも本当にでかいドラゴンだな。首のところへ着く前に日が暮れそうだよ・・。
□□□□□ああっ、運命とは言え嫌な予感しかしない・・□□□□■
「グワーーーーーッ!!!」
どか~んっ!ビリビリビリっ!
はい、これはドラゴンがあくびした音です。因みにどか~んっ!はその際に発生した衝撃波です。ビリビリビリっ!は吹き戻しで空気が震えたのを表現しています。うんっ、漫画だと擬音文字として一目で理解できる表現なんだけど文字だけだとねぇ。うんっ、説明されないと判らないところが辛いところだ。
しかしまぁあくびしただけで衝撃波かよ・・。はははっ、10メートル以上吹き飛ばされたぜっ!あーっ、いてぇーっ!
まっ、あくびの音と衝撃波の到達に秒差がないって事は、僕はかなりドラゴンの首に近づいている証拠だ。うんっ、音と衝撃波って伝達速度がほぼ一緒らしいからね。いや、だからこそ到着に差がないのか?あれ、到着する差で大体の距離が推測できるのってカミナリだっけ?
しかし、なんとか近づいたのはいいが、やっぱりこのドラゴンでかすぎ。しかも首がなげぇーよっ!お前は首長竜かっ!でもまぁ、ヤマタノオロチとかキングなんちゃらみたいに首が何本もあるやつよりはマシか・・。
うんっ、僕の例えも絶好調だね。殆ど異世界の情報で状況を説明しているよ。そもそもヤマタノオロチなんて、こっちの世界の人に言っても???だもんな。
ふふふっ、僕って実はインテリだったのだよ。因みに情報源はテレビとラノベだっ!
はい、嘘です。僕の頭の中の知らない人が喋っただけです。あらら、僕って中二病だったのか・・。
だけどやっぱりこいつでかすぎ。やっとこさ首まで辿り着いたけど、古代文明の技術が書かれている書物はどこにあるんだよっ!歩いて探していたんじゃ何日かかるか判らんぞ!
いや待て・・。その前に古代文明の技術が書かれている書物ってどんななの?百科事典みたいなやつなの?それとも巻物なの?まさかマイクロチップって事はないよな?そんなの探しようがないぞ?
いや待てっ!逆にこのドラゴンの大きさが基準になるサイズだったらどうしよう・・。実は既に見えているんだけどでかすぎて本だと僕が気付いていないだけだとか・・。あらら、それはそれでまた持って帰れないじゃんかっ!あっ、写せばいいのか?でも1万ページとかあったら一生かけても終わらんな。
はい、嘘です。1ページだって写したくないです。う~んっ、確かものを小さく出来る魔法があった気がするんだけど・・。あっ、でもあれってガサが小さくなるだけで重さは変わらないんだった。ならやっぱり持てないな。
僕はまだ見ぬ古代文明の技術が書かれている書物に思いを馳せながら、取り合えずドラゴンの首の辺りをうろちょろと動き回る。
「おーいっ、古代文明の技術が書かれている書物ぅ~。隠れてないで出ておいでぇ。出てきたらいいのをあげるよ~っ!」
僕は声に出して技術書に呼びかける。はい、これは周りに誰もいないからできる事です。もしも人に見られたら酔っ払っていると思われて通報されます。いや、危ないやつとして逮捕されるか?
そもそも、本に呼びかけるってなんなんだよっ!本が応える訳ないだろうっ!
だけど今、僕はここがダンジョンだという事を失念していた。そう、ダンジョンでは常識が通用しないのだ。だからこんなでかいドラゴンも存在できるのだろう。故に僕は次に起こった事態に直面しても平常心を保っていた。
「誰かわしの事を呼んだか?」
・・。
「おかしいな、誰かに呼ばれた気がするんじゃが・・。」
・・、・・。
「もしかして空耳じゃったか?あーっ、たまには耳掃除をせんといかんなぁ。」
・・、・・、・・。って、ちがーうっ!なんで本が返事するんだっ!幾らダンジョン内だからって非常識すぎるだろうっ!後っ、本に耳があるんかいっ!いや、言葉を喋るくらいだからあるのか?
「あーっと、あなたを呼んだのは僕です。」
僕は気を取り直して古代文明の技術が書かれている書物に声をかけた。まぁ、どこにいるかは判らないんだけどね。
「おっ、やっぱり聞こえるぞ。はて、どこにいるのじゃ?」
「えーと、このやたらと大きいドラゴンの首の辺りです。あなたがこの辺にいると聞いてやって来ました。」
うんっ、本相手に二人称で呼ぶのはどうかと思うけど、まぁ、擬人化されていると思えば何とかなるか。
「首とな?むーっ、それはまた面倒なところにいるのぉ。どれっ、どっこいしょ。」
その時、古代文明の技術が書かれている書物の声に呼応するかのようにドラゴンの頭がぐるりと回転して僕の方へと向かってきた。
「おっ、おった、おった。ほうっ、人間に会うのは久しぶりじゃ。お主、名はなんと申すのじゃ?」
はい、察しの良い人は既にお判りでしょうけど僕と話をしていたのはドラゴンでした。ああっ、成程ね。確かに首の辺りにあったよ。ってか、ドラゴンが古代文明の技術が書かれている書物なのかよっ!そんなの判るかっ!
ついでに言うとドラゴンは僕との会話に声帯を使っていません。そもそもこの距離であのサイズの大気振動で喋られたら鼓膜が破れるっうの!
さて、あまりの展開に僕はちょっと唖然としたが気を取り直してドラゴンの問いに答えた。うんっ、人間ってあまりにも予想外の事に出会うとパニクる事すら忘れて逆に冷静を保てるのかもね。
「僕はダルタニアン・ハインバーグと言います。以後、お見知りおきを。」
「ふむっ、イタリアン・ハンバーグとな。変わった名じゃな。」
ちがーうっ!ハンバーグはともかく、イタリアンは絶対わざと間違えただろうっ!アンしか合ってないぞっ!
「いえ、ダルタニアンです。後ハンバーグではなくハインバーグです。」
「おっ、そうかそうかっ!すまんすまん。ダルターニゃンじゃな。」
古代文明の技術が書かれている書物改めドラゴンは自分のボケがスパっと決まった事に気を良くしたのか、言葉とは裏腹に嬉しそうに謝ってきた。でも、追加したボケは既に冒険者パーティー『ドラゴンプレス』のリーダーである・・、あれ?あいつ名前なんて言ったっけ?まぁいいか、リーダーが既に噛ましている。なので残念ですがあなたがそれをやると芸の窃盗と捉えられます。お気をつけ下さい。
「ところであなたのお名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」
僕はドラゴンの天丼ボケを無視して話を進めた。
「・・。」
ちっ、だんまりかよっ!でもこれは多分僕がドラゴンの天丼ボケを無視したからだな。決して神聖なドラゴンの名前を聞くとは不埒なやつめっ!という展開の沈黙ではない。いやはや、まさかドラゴンが素人芸人だったとは驚きだ。でも絶対的なアドバンテージは向こうにある。だから僕はドラゴンの機嫌をとるように言い直した。
「あっ、もしかして僕の名前と被ってたりします?ダルメシアンとか?」
「ぷっ、がははははっ!成程っ!その語呂合わせがあったかっ!それは気付かなかったわいっ!」
ふぅっ、なんとか機嫌は治ったな。しかし、このドラゴン。ダルメシアンが犬の犬種名だって知っているのか。一体どこで情報を得ているんだ?
「よしっ、いいであろうっ!わしは今とても気分がいいっ!なので特別に貴様にわしの名を教えてやる。耳の穴をかっぽじってよく聞くが良い。わしの名はダーク・オブ・ダークネス・ドラゴニウス。またの名を漆黒の闇と言うのじゃっ!ほれっ、かっこいいであろうっ!」
ダーク・オブ・ダークネス・ドラゴニウス・・、なんとなく予想はしたいたけど、なが・・。後、センスが中二。
僕は口には出さずに心の中で突っ込む。いや、ドラゴン相手だとそれすら危ないかな?う~んっ、こいつはなんか大丈夫な気がするけど・・。
「後な、久しぶりに楽しませて貰った礼として貴様にはわしに対してタメ口を使う事を許してやる。くくくっ、喜びのあまりションベンを盛らすでないぞ。そこはわしの首なんじゃからな。」
・・ショボ。もしかしてこのドラゴン、友だちがいないのかね?もしかして僕と友だちになりたがっている?だとしたら図らずしも僕が最初に思い描いていた『ドラゴンと友達になって世界征服をしようっ!計画』が一歩前進した事になるな。いやはや、人生どう転ぶか判んないねぇ。
「あーとっ、そりゃどうも。それじゃダーク・オブ・ダークネス・ドラゴニウスってのは、ちょっと長過ぎるので、あんたの事はダクネスって縮めて呼んでもいいか?」
僕はドラゴンが言うので早速フランクな物言いで新たな提案をした。でもさっきまでビビリまくっていた相手に、すらっとタメ口を使えるなんて僕って実はすごいやつなのか?まっ、実際冒険者ランクはAプラスだけどね。おっと、さらりと自慢してしまった。くーっ、はずかしーっ。
だけどダーク・オブ・ダークネス・ドラゴニウス・・、うんっ、やっぱりなげーよっ!
まっ、名前の事は改善案を出したから何とかなるかな。それにドラゴンは僕の提案をなんかすごく喜んでいるみたいだし。
「なにっ!ダ、ダクネスとなっ!そっ、それってもしかして親しい間柄のみで交わす、あっ、愛称っというやつかっ!」
う~んっ、どもる程嬉しいのかね。うんっ、なんか逆にこっちが痛々しく感じてしまうな。そうか・・、こいつぽっちだったんだなぁ。
「ドラコでもいいけど。」
「ドラコ?ぬ~んっ、ドラコはイマイチじゃなぁ。」
はははっ、さすが中二センス。許容範囲が狭いぜ。
「それじゃダクネスと言う事で。僕の事もダルと呼んでくれ。」
「うむっ、ダルじゃな。ぐはははっ、なんかそんな名のベースボール選手がいたのぉ。お前、もしかして親戚か何かか?」
ぬーっ、これはドラゴンがボケたんだろうか?判断が難しいな。そもそもベースボールってなんだよっ!
「では改めて、よろしくな、ダクネス。」
「うむっ、こちらこそよろしくだ、ダルよ。」
かくして僕は古代文明の技術が書かれている書物改め、超弩級サイズドラゴンであるダーク・オブ・ダークネス・ドラゴニウスことダグネスとマブダチとなった。でもなったんだけどこれからどうすればいいんだ?このダンジョンの空って外の空と繋がっているのかね?もしかして僕はダグネスに会いに来る度にあのエレベーターの番人ばあさんに2000ギール払わなくちゃならないのか?だとしたらおいそれとは会いに来れないなぁ。
□□□□□永遠の繰り返し□□□□□ ■
「ダルタニアンっ!お前を俺のパーティーから追放するっ!そのツラ、二度と見せるなっ!」
ダンジョンでパーティーの仲間たちから置いてけぼりを食らった後、ひとりとぼとぼと町へ戻った僕に対して冒険者パーティー『ドラゴンプレス』のリーダーはお決まりのセリフを僕に投げつけてきた。
しかし、労いや謝罪の言葉もなくいきなりかよ。あんたもしかして誰かに操られてない?もしくはそれしか言えない呪いを掛けられているとか?
まっ、今回に関しては僕にも少なからぬ収穫があったから良しとしよう。なんせ、僕は超弩級サイズドラゴンであるダーク・オブ・ダークネス・ドラゴニウスことダグネスとマブダチになったからね。これってしょぼい冒険者パーティーを20回以上追放されたのを補って余りある収穫だよね?
だから今回の僕はニコニコしながらリーダーのセリフを聞き流す事が出来た。ふふふっ、やっぱり人間、心に余裕があると寛容になれるんだねぇ。だけどリーダー。ダンジョンに繋いでおいた僕のレンタル馬を勝手に持って行っちゃった事はちょっと怒っているからな。おかげで歩いて帰ってくる破目になったじゃねぇかっ!
えっ、あれは延滞金の発生を防ぐため?あっそうか、そう言えばそんな取り決めがあったな。はい、すいません。ご配慮ありがとうございました。
かくしてまた僕は冒険者パーティーを追放された・・。えーと、何回目だっけ?もしかしてギネスに申請したら世界記録として登録されるかな?でもギネスってなんだ?
しかし今回の冒険者パーティーは追放されて正解だったかも知れない。何故ならば・・。
だってメンバーに女の子がいなかったんだもんっ!何だったんだよ、面接の時のあの可愛い子はっ!はっ、やっぱり客寄せ用の雇われコンパニオンだったのか?僕ってそれにまんまと騙されて契約書類に判を押しちゃったの?くーっ、青少年の純情を利用するとは許せんっ!よしっ、今回の冒険者パーティーは絶対に殲滅するっ!どこかにいるはずの追放された僕に何故かぞっこんになってしまう追放系テンプレの呪いにかかっている姫様っ!無給でいいから僕を雇ってっ!そしてご命令をっ!ブラック企業に正義の蹄鉄を打ち込んでやるぜっ!
まっ、その件に関してはまた今度としよう。この手の復讐って急いては事を仕損じるからな。ふふふっ、入念な計画を練ってからひとり、ひとりと削ってやるぜっ!くくくっ、泣いて許しを乞うても許してやらない。僕は根暗じゃないけどねちっこいからなっ!負の感情ってやつはおいそれとは消えないから覚悟しろよっ!
うんっ、自分で自分を根暗と言うやつも珍しいな。俺はやれば出来るんだ。ただ今は時期を見ているだけっ!と嘯くやつと、どっちが珍しいだろう?
さて、一通りリーダー及びパーティーの仲間たち・・、いや既に『元』仲間だな。そいつらからテンプレ感満開の罵倒を背に受けながら、僕は冒険者パーティー『ドラゴンプレス』を退社した。会社側の都合で退社したのだから雇用保険が適用されるはずなんだけど、そもそも冒険者は雇用保険に加入していないので失業保険は支給されません。
う~んっ、結局今回のパーティーは赤字だったな。手持ちの金が減っただけだよ。これなら単発のクエストをちまちま請け負っていた方が良かったかも知れない。あっ、でもそれだとダグネスとも出会えなかったか。うんっ、出会いってやつは一期一会だからねぇ。
よしっ、今までの追放はダグネスに会う為の試練だったと前向きに捉えよう。まっ、だからと言って僕を追放した冒険者パーティーに感謝なんかしないけどね。僕はそこまで偽善者じゃないのさ。
僕は今まで冒険者パーティーを追放された後は落ち込んで1週間くらいはぐちぐちと呪いの言葉を吐き続けていたもんだけど今回は違う。そう、僕は今回の経験によって成長したんだ、つまり大人になったのさ。ふっ、色々な意味でね。
さて、これからどうしよう?ダグネスに会いに行くとしてもネタを仕込んでおかないとあいつの機嫌を損ねかねないし、だからと言ってこの町でまた別の冒険者パーティーの欠員を探すのもなんか嫌だ。町中で『ドラゴンプレス』のやつらに会ったりしたら気まずいからね。
まぁ、手持ちの金はまだある。だから少し休んでこれからの身の振り方を考えるとするか。あっ、とり合えずエリザベスお姉さんの所に行って慰めて貰っちゃおうかなっ!
「えーんっ、エリザベスお姉さんっ!冒険者パーティーがまた僕を追放したよーっ!悔しいよぉーっ!何か未来のチートアイテムで仇をとってよぉーっ!」
「またなのかい?ノビ・・いやダルタニアン君。しょうがないなぁ。まぁ、君にも何か落ち度があったんだろうけど、そんな事を言っても君には判らないだろうからねぇ。仕方ない、ちょっとだけ懲らしめておくか。君は単純だからその程度で満足するはずだし。じゃじゃ~んっ、雑巾の絞り汁転送装置ぃ~!これは雑巾の絞り汁を復讐したい相手の湯飲みに転送する装置だよ。」
「わーっ、それは凄いねっ!さっそく試してみようっ!」
うんっ、なんか未来のネコ型ロボットのテンプレみたいだ。いや、みたいじゃなくてまるパクリだな。まずい、下手したら権利関係の保護法令に引っかかるかも知れない・・。だからこれは却下だ。
でも、だとするとどうやってエリザベスお姉さんに慰めて貰おうか?いや、待てっ!そんな事でどうするんだ、僕っ!エリザベスお姉さんは僕の初めての人なんだぞっ!会いに行くならもっとどかーんと成功してから行かんかいっ!そもそも慰めて貰うなんて甘っちょろい事を言うんじゃないっ!
よーしっ、ならば新しい冒険者パーティーを探さなくちゃ。あっ、これなんかどうだろう。
【急募!経験問わず、手っ取り早く稼ぎたい人っ!仕事内容は面接にて説明っ!高給保証っ!】
うんっ、僕も懲りないね・・。
-パーティー追放編 完-
さぁ、みんなっ!続きが気になるかな?気になると答えた人は選挙に行ってトランプ大統領に投票しようっ!えっ、選挙権を持ってない?あっ、そうなの?なら駄目じゃん。えっ、代わりに評価ポイントを投票する?えっ、君、アカウントを持ってるの?うおっ、しかもひとりでそんなにっ!うわ~っ、全部のアカウントを使って投票されたら1万ポイントを軽く超えちゃうね。これはもしかしたら初の日間ランキング1位の座を射止められるんじゃないかっ!あっ、でも運営にはバレないようにしてね。僕まで連座で処分されるのは真っぴらだからさ。
はい、嘘だからね。信じないように。