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プロローグ

初めて書きました。完結まで頑張ります。


 鮮やかな新緑が車窓の外を流れていく。電車内は乗客もまばらで、長い座席には空白が目立った。


 春日井創馬(かすがい そうま) は、今どき珍しい紙媒体の書籍を読みふけっている。登下校中は読書に勤しむのが彼の日課だ。低すぎず高すぎない身長と、容姿端麗とまでは言わないが、比較的整った顔立ちを持つ。若干、色白で華奢な印象を受けるが、どこにでもいる高一男子と言えるだろう。


 ガタン……ゴトン……と走行音が響いている。程よい雑音が、彼の集中力を上げる。ページをめくろうとしたその時、突然の声が、創馬を物語の世界から現実へ引き戻した。


「よっ! 創馬」

 顔をあげると、同じ制服を着た少年が立っていた。半袖のワイシャツから伸びる腕は筋肉質で、何かしらのスポーツ経験者であることが想像できる。

 創馬の幼馴染で、現在同じ高校のクラスメイトでもある、神田哲平(かんだ てっぺい) は、ニヤニヤしながら言った。


「健全な高校男子なら、他にもっと没頭すべきことがあるんじゃないのか?」

 創馬は少しムッとした表情を浮かべ、言い返す。

「健全な高校生男子が読書して何が悪い。」

 と言いつつ、気のおけない昔からの友人に、隣へ座るよう促した。本をパタリと閉じて一呼吸おく。 

「それに、俺が好きなのは読書だけじゃないさ。知っているだろ?」

 二人は顔を向き合わせてニヤリと笑った。


「創馬、悪いんだけど今夜からは琴音も一緒に……いいか?」

 琴音とは哲平の小六の妹だ。哲平の両親は共働きで、なにかと哲平が妹の世話をみている。世話といっても哲平自身が負担に思っている様子はなく、むしろシスコン一歩手前まで来ているのではないかと感じるほどの溺愛ぶりだった。

 創馬も琴音とは何度も遊んだことがあったし、琴音から 『二人目のお兄ちゃん!』と呼ばれるくらいに懐かれている。断る理由なんてなかった。


「ああ、勿論OK。琴音ちゃんとは最近会ってなかったし、楽しみだ。今夜は10時には就寝予定だから、、、」


 会話の途中で、創馬の最寄り駅に到着してしまった。

 慌てて座席から立ち上がり、哲平に軽く手を振りながら扉へ向かう。


「琴音に色々教えてやてくれよー? お前のほうが詳しいんだからさー」

 哲平の声を背中で受け取りながら、創馬は電車から降りた。

 振り返ると既に、今降りた電車の扉は締まり始めていた。

 完全に扉が閉まりきる寸前で、


「りょーかい!」


 とだけ創馬は哲平に答えた。






 スーパーの買い物袋をどさりと床に置く。続けて照明をつけ、購入した食材を冷蔵庫に手早く詰め込んだ。

「今日も、うどんでいいかな。」

 夕食を一人で簡単に済ませるのは、幼少期から母子家庭で育った創馬にとって日常であり、特別寂しいと感じる事ではなかった。むしろ、仕事を掛け持ちして深夜まで頑張っている母に、何か作っておきたいと思う余裕すらある。

 だが、「そこまでしなくていい」という母の言葉も無下にはできない。


 金銭的に余裕がない生活をさせている上に、これ以上家事手伝いをさせてしまうのは母親としても歯がゆいのだろう。そんな思いを汲み取り、創馬は今以上、手出しすることは控えている。

 とはいえ、洗濯物を取り込んで畳み、風呂掃除から湯船の用意。シンクに入れたままの食器の片付けなど、世の主婦がこなしている一連の家事を、帰宅後に済ませていく。


 一段落すると、簡単に夕食を済ませて宿題に取り掛かり、それも終えると風呂、あっという間に午後9時を過ぎていた。


 ――流石に寝るにはまだ早いかな……

 読みかけの本を手にとってベッドに寝そべるが、ペラペラとページを捲るだけで、いまいち集中して読む気にならない。


 ――先に行って待ってるかな。

 そう考え直し部屋の明かりを消すと、勉強机の横に置いてある<ドリーム・ポッド>に手を伸ばした。ヘッドフォンを少しゴツくしたような見た目の装置を、なれた手付きで装着する。


 装着が完了すると同時に起動音が鳴り響いた。といっても、実際の鼓膜を通して聞こえる音ではない。ドリーム・ポッドが脳内に直接電子信号を送り込み、音を聞いていると認識させているだけに過ぎない。しかし、リアルの音との差異は全くなかった。


 創馬は横になり、そっと瞼を閉じる。真っ暗の視界に本来あるはずない文字が浮かんできた。


『WELCOME TO THE DREAM WORLD !!』


 ――接続完了。えっと、設定確認。

脳内でそう唱えると、また視界に別の画面が表示される。





<バッテリー残量>  98%

<総睡眠時間>    21:30~5:30(8H)

<レム睡眠時間>   4H





 ――いつもより更に早起きだな。ま、洗濯物をゆっくり干せるからいいか。

 そんな事を考えながら、創馬は眠りに落ちていった。


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