第6話 ベルツ・リンドベリ
大本堂に向かう廊下からガーランの庭園が見えた。そこには大きな樹が生えていた。紫色に光っている。その下には無数のお墓らしきものがあった。
「そこへ座りなさい」
大本堂に着いた。ここは普段は閉まっており、入れなくなっているそうだ。かなり広く、作りは本堂とあまり変わらない。仏像も立派なのが置かれていた。
ジャクイン老師がお茶を出してくれた。
トニーとシュテロンは並んで座布団に座り、ジャクイン老師はその向かいに座った。
「ではさっそく、ベルツと話をしてみよう」
そう言うとジャクイン老師は懐から数珠を取り出し片方の手にかけ念仏を唱え始めた。
ふと、トニーがシュテロンに小声で聞いた。
「ガラン経って2人以上で唱えるんじゃないの?」
今は1人で念仏を唱えている。
するとシュテロンはうっかりしたという顔をして、「すまんすまん、説明不足じゃったな。ガラン経は“2人以上で唱えれば魂を次の道へ導く”と言われておるのじゃが、これが1人になると“逆にこちらへ呼び寄せる”のじゃ」
「えっ、、!今1人で唱えてるけど大丈夫、、なの?」
「もちろん。お前さんのおじいさんをこちらに呼び出すんじゃから」
「そっか、、そうだった、、」
トニーは不思議な感覚だった。
自分のおじいさんとこんな形で再会することになるとは。
そうこう話しているうちに辺りにどこからともなく“ぼんやり光る玉”が一つ、浮かび上がってきた。それはやがてジャクイン老師の口の中へと入っていった。
目を瞑る。
そして、、、、
「、、、トニー。俺を覚えているか?」
「じいちゃん、、」
声色はかなり優しく、口調も変わった。
「そうだ。俺はずっとお前の事を見守ってきた。立派になったな。トニー」
「、、うん!もう小六だもん!立派な大人さっ」
と、腰に手を当ててみせた。
「はっはっはっ!もう大人だな!トニー!」
とベルツ・リンドベリは大声で笑った。
「そして見逃しはせんぞ!友よ!」
とシュテロンに向かって言った。
「ベルツよ元気そうでなによりじゃ」
「あっはっは!冗談キツイぞ!俺はもう死んでおる!元気もなにもあるかっ!はっはっは!」
と、すごく楽しそうに言っていた。相当仲が良かったのだろう。
「ところで、俺に何か用があったのか?」
「トニーもいよいよトラベラーになるのじゃ。その前に『トラベラーのベルツ』に合わせたくてな」
「、、、」
ベルツは数秒間沈黙した後に、
「そうか。トニーも遂にトラベラーになるのか」
「まぁ本心じゃないけどね」
と、おどけて見せた。
すると急にベルツは真剣な顔になり、
「くれぐれも無理だけはするな。俺の二の舞を踏むなよ」
「え?二の舞?」
「俺はトラベラーを引退しようと“最後の旅”に出た。そこで大きなミスをしたんだ。そして、命を落とした。だからトニー。くれぐれも気を付けて、“慎重に周りを見るのだ”。きっと何か助けになるものがあるはずだ」
「、、、」
トニーは急に怖くなった。自分のおじいさんが命を落とした『旅行』にこれから行こうとしているのだから。
「大丈夫だトニー。俺が見守っててやる。そしてシュテロンもいるではないか。一緒に『旅行』に行くことは出来ないがしっかりとみててくれる」
「、、え? 一緒に行けないって、、え? 」
「なんだ。聞いてないのか?」
「聞いてないよ!?」
トニーはシュテロンの方に叫んだ。
「すまん!いずれ言おう言おうと思っておったがタイミングがなくてな、、すまんの、、」
珍しくシュテロンが弱々しくなっていた。本当にタイミングを逃していたのだろう。
「というわけでトニー。お主には1人で『次元旅行』に行ってもらうことになる」
「いやだよ!1人でなんてムリだよ!」
「無論、わしはずっとお前さんを見守っておる。ほれ、これを首から下げておきなさい。本当に助けが必要な時は、これを握って強く心の中で叫ぶのじゃ。よいな?」
「本当に来てくれないの、、?」
「すまん。次元旅行はわしは行けぬのじゃ。」
「大丈夫だトニー。俺に出来たんだ。お前にも出来る」
ベルツがトニーに言った。
強く、手を握り締めた。
強く、歯を食いしばった。
強く、覚悟を決めた。
トニーなら出来る。心の中で誰かがそう囁いたような気がした。
「やるよ。一人で」
「そうか。よかった」シュテロンは安心した様子だった。
ベルツはしっかりとトニーの目を見て言った。
「この先色々な事がトニーに襲いかかるだろう。だがその度に仲間が出来る。忘れるな。お前は決して孤独ではないぞ」
「うん!!」
「よし」とベルツは笑ってトニーの頭を撫でた。
「それじゃあ俺はこのへんで失礼するよ。」
「ありがとう!おじいちゃん!」
「おう!頑張れよ、トニー!」
「うん!しっかりやるね!」
「それでこそ我が孫だ!」
少しずつジャクイン老師の体から光の玉が出てくる。
「ベルツ。今日は突然呼び出してすまぬな」
「いいんだシュテロン。顔を見れてよかったぞ」
「ありがとう。ではまたな」
「おう!またな!」
声が遠のいていく。光の玉が体を出て次々に上へと消えていった。そしてジャクイン老師が目を覚ました。
「どうだった?ベルツ・リンドベリとは色々話せたか?」
「うん!しっかり話せたよ」
「そうか。それは良かったな。では万事順調ということで良いな?」
「ほっほっ!そうじゃな」
「うん!大丈夫だよ!」
ジャクイン老師は『よし』と言うように頷いた。
シュテロンがトニーの方を見て言った。
「しかし、血は争えんのぉ。最初はあんなに嫌がってたのに、今では1人でも頑張ると言っておる」
「なんか色々な人が応援してくれるから勇気が湧いたんだっ」
「うむ。そうじゃな。心強いじゃろう」
「うん!」
こうしてトニーとシュテロンはガーランを後にし、本部へと向かった。