第2話 いざ、ヨーロッパへ
真っ暗な夜空に星がチカチカと瞬いている。本当ならば今頃部屋でゲームをしていた頃だろう。しかし今夜のトニーは違った。今は夜汽車に揺られているのだ。しかも、この時間に汽車に乗っているということだけでも驚きなのに、その驚きすらもかき消してしまう驚きがあった。なんとこの汽車は雲より高いところを走っているのだ。そんなことが考えられるだろうか。レールなど決まった道は一切なく活き活きと月を横目に走っている。とても幻想的な感じだった。
電車は全部で10両。外観は朱色をベースとしており、ゴシック風で惜しげなく金を使い、細かなところまで作り込まれている。中の様子は、中世ヨーロッパの華やかな様式を思わせる装飾だ。座席は真っ赤なつやつやのシートで、黒光りしている枠組み。天井には豪華絢爛なシャンデリア。窓と窓の間の壁には天使が優しい笑顔でこちらを見ており皆、格好が違った。弓を持っている者がいれば、鏡を持っている者もいる。
汽車自体にばかり気を取られていたトニーは今頃乗客がこんなにも乗っていたのかと驚く。ざっと見渡したところこの車両には20~30人程乗っている。こちらも皆、様々な格好をしている。ゴージャスなドレス、シルクハットを被っている老紳士、烏帽子を被った狩衣姿の人までいる。多種多様で色々な時代、世界から来たのだろう。
ふっと、トニーは皆の手元にある“玉”に目がいった。隣に座っているシュテロンに聞いてみる。
「ねぇ、みんなが手に持っているあの“玉”ってなに?」
「ん?あぁ、あれは【パルエット】と言って切符のようなものじゃ。あれを買って、車掌に見せるのじゃ。ほれ、トニーの分もあるぞ。」
と言ってシュテロンは懐から透明でほんのり虹色がかった綺麗な珠を取り出した。
「【パルエット】の原料は、“パールハーブ”という植物になっている実なんじゃ。その実は最初、緑色をしているのじゃが3分間、沸騰しているお湯で茹でてからじっくり時間をかけて冷やしていくとこんな綺麗な色になる。何色になるかは冷やしてみないと分からないのじゃ。だから【パルエット】を貰うためだけに買ってコレクションしている人もいるくらいじゃ」
「へぇ〜!確かに綺麗な色してるもんなぁ。僕のパルエットの色はとても綺麗だ!シュテロン!!ありがとう!」
「ほっほっほっ!パルエットはその人の人生を映すなんてことを言うがそれは本当かもしれんなトニー!ほっほっほっほっ!」
「?」急に笑出して変なの、とトニーは思った。
しばらくして、外の明るくなってきた空を眺めているとアナウンスが鳴った。
『次は、ハーカルド入口。次は、ハーカルド入口。ご乗車いただきありがとうございました!このあとの旅もお気を付けていってらっしゃいませ!』
「さて、着いたか」と、シュテロン。
ドアが開く。
トニーは期待に胸を躍らせ、開いたドアのその先に待っている世界へと駆け出した──