第1章 第1話 マジックディメンショントラベラー
その日の夜、トニーはもう一度あの本を観察してみた。すると立派で豪華な装飾が所々にあることがわかった。他にもなにかないかとページをパラパラとめくっているとフッと何かが落ちた。拾い上げてみるとそれは【羽ペン】だった。大きな大きな羽が付いており、この本のどこにそんなものがあったのかと驚いた。どう考えても収まりきらない大きさだ。羽を折り畳んだあともない、、、思考が停止してしまいそうな気がして一度冷静になって考えようとペンを本に挟み込んだその時、信じられないことが起きた。本がしっかりパタンと閉じたのだ。間違いなく【羽ペン】を本に挟んだはずなのに、その挟んだはずの【羽ペン】がどこかへ消えてしまった。トニーは慌てて本を開いて確認してみた。すると、、、さっき羽ペンを挟んだはずのページには、、、、、あの大きな羽の付いたペンの、、、、絵が描いてあった、、、。
全く同じペンだった。どういうことだ?またまた頭がオーバーヒート寸前にまでやってきたところでそのペンの絵の下に文字が書いてあるのに気が付いた。《魔法の羽ペン》そう書かれてあった。
「魔法の羽ペン、、」
なんだかその名前がふさわしいような気がする。なんたって今、目の前で羽ペンが一瞬にして消えてしまうというマジックを見せられたんだから。
するとトニーはある事を考えた。
「もしかしたら、この本はなんでも飲み込んでしまう本なのかもしれない!あの【大きな羽ペン】が消えたんだから!」と。
期待に胸を膨らませ持ってきたのは、今日学校で出された宿題。これを飲み込んで絵にしてもらえば宿題をやらなくて済む。ワクワクしながらトニーはプリントを構える。、、、ゴクリ。トニーは構えていた宿題を本の奥の奥にやるかのように思いっきり振りかぶり、そして、、、
「痛ってぇぇえ!!!」
なんと宿題は絵にはならず堂々と計算式をこちらに見せ付けてきていた。
「うぅぅ、、、」
せっかくの野望が潰えてしまったトニーはやけくそになっていた。学校で使っている文房具を次々に本に向かって投げ込んだ。
しばらくして落ち着いたトニーは投げた数々の文房具達がただただ本の上に積もっているだけだと理解した。どうやら絵になるのは【決まったもの】だけらしい。こういうことになるとトニーは頭がよく働く。勉強はさっぱりなのに。降り積もらせた文房具の山から本を掘り出そうとしたその時、ものすごい光が本から溢れ出てきた。
「うわぁっ!」
トニーは咄嗟に目をつぶった。目を閉じていても明るいのが伝わるくらいに明るかった。その光はみるみるうちに消えていくのがわかり、完全に消えたところでトニーが目を開けた。
、、、、さっきの光で目が眩んでよく見えない。、、、トニーはとにかくさっきの本を探そうと手を前に出し辺りを探りながら進んだ。すると突然、自分の頭の中の部屋には何も無いはずの所で何かに手が当たった。
「布、、?」
何かを探るためにトニーは色々と触ってみた。上の方まで行くと何かとんがったものに触れた。
「なんだこれ?」
そのとんがったものを引っ張ろうとしたその時、
「やめんかぃ!!」と目の前から大きな声が聞こえてきた。
「うわぁぁぁあ!!!」
トニーは驚きのあまり、腰が抜けその場にへたりこんだ。
「まったく。いきなりなんじゃローブにしがみついたと思ったら今度は帽子を掴みおって」
「?!」
少しずつ目が慣れて、ようやく目の前の何かを見ることが出来た。
そこには不思議な格好をしたおじいさんが立っていた。
「お前さんがトニーか?」
おじいさんは淡々と、しかし心が温かくなる様な声だった。
「、、はい、、」
トニーは何が起こっているのか理解できない様子だった。
「トニー、【 D i m e n s i o n ・ t r a v e l 】を持っているじゃろ?」
「えっ?」
トニーが何のことかさっぱりな顔をしていると、不思議おじいさんは、
「それじゃそれ、お前さんの目の前にあるそれじゃ」
不思議おじいさんが指さしたものはトニーの目の前に落ちていたさっきの本だった。
「この本?」
「ああ。その本はいわゆる【魔法のガイドブック】じゃ。魔法の世界に流れておる時間の流れを行き来できる特別な本じゃ。誰もが手に入れることができるわけじゃない。この本がトニーの前に現れたということは、、」
「現れたということは、、?」
「【マジックディメンショントラベラー】に選ばれたという事じゃ」
「【マジックディメンショントラベラー】???」
「うむ。【マジックディメンショントラベラー】とは、魔法の世界で巻き起こっておる“謎”を解き明かす次元旅行者のことじゃ。そしてその”謎”は必ずしもこの世界軸にいるとは限らぬ」
「どういうこと??」
またまたトニーがさっぱりわからないというような顔をしてると、不思議おじいさんは続けた。
「別の次元からの救難信号があるという事じゃ。その信号をこの本が受け取ると、その場所をマップ化してくれる。そしたらお前さんはその場所へ冒険に行き、探索をするんじゃ」
トニーは思った。冗談じゃないと。そんな勝手なことあるか、、と。
「なんで僕が行かなきゃならないのさ!何がなんだかさっぱりだよ!」
「トニー。お前さんはもう【こっちの世界】に入り込んでおる。」
「えっ?」
「よく思い出してごらん。見たことも無い文字だったはずのガイドブックの文章をお前さん、さっき読めたではないか。」
トニーは、ハッとした。よくよく考えてみればそうだ。なぜあの【羽ペン】を《魔法の羽ペン》だとわかったのだろうか。それはその下の文字を”読んだ”からだ。
「ほっほっ、わかったようじゃな」と不思議おじいさんは笑いながら言う。
「【マジックディメンショントラベラー】に選ばれた者は皆、一度イギリスへ来てもらわなければ行けないことになっておる」
「え?!イギリス?!?」
「別世界への入口がそこにあるのじゃ、、まぁトラベラーをやめようとしてもどのみち一度、《ハーカルド》へ来てもらわねばいかんがのぉ」と、意地悪をする時の顔で笑ってみせた。
「ちょっと待ってよ!僕が急にいなくなったらお母さんとお父さんが気付くんじゃないの??」
「お前さんは“次元・時間旅行者”じゃろう?」
「この本で、出発した時間に戻って来れるってこと?」
「そういう事じゃ......それと、トニー。さっきからわしのことを心の中で『不思議おじさん』と呼んでいたな。」
「?!」
「わしの名前はシュテロンじゃ。『不思議おじさん』ではないぞ」
「心の中まで読めるの、、?」
こうしてトニーはイギリスへ向かう事となった。