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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

未来

作者: 穴沢暇

 ドアノブを捻り扉を開けると、こちらに背を向ける位置で田町が椅子に座っていた。

「おい、青木はどうした」

 俺は携帯を取り出して青木からのメールの画面を映し、ひらひらと田町のほうへ向け揺すってみせた。

 そこには「話しがあるから奥の部屋へ来てほしい」という内容の、青木から送られた文章が写っている。

「おい」

 田町は答えない。それから二、三度繰り返しても同様だった。

「どうしたんだ。腹でも痛えのか」

 俺は田町の背のほうへ近付き、肩に手を触れて揺すった。しかし、それでも反応が無い。

 その時、もぞりと田町の肩の肉がうねった。まるで中になにか別の生き物が巣食っているような。

 俺は慌てて腰を抜かしその場に倒れ込んだ。その勢いで田町も、何も言わぬまま椅子から転げ落ちて床に倒れ付した。

 もぞもぞと動いていた肉の波。その瞬間田町の背から血が吹き出し、俺は全身から血を浴びた。田町の背の肉はぱっくりと割れ、中から人間のような生き物が現れた。

 人間のよう、と言うのは語弊かもしれない。それは、俺のよく知ってる顔だった。

「山本……?」

 田町の体を引き裂き現れた山本は、何か呻き声のようなものをあげて俺に飛び掛かってきた。

 俺は叫び声を上げて、咄嗟に身をかわした。山本はその勢いで大きく体勢を崩して床に転がった。ごきり、と不気味な音がすると、山本の顔は百八十度回転して背後にいた俺のほうを向いた。そのとき、

「血の臭いがするぞ!」

 松木の大声が聞こえ、そのまま激しく扉を蹴り付けるような音が聞こえると、扉は一撃で留め具が外れて吹き飛び、山本にぶつかった。

「何だこれは」

 松木は俺のほうを向いて言った。

「わ、分かんねえ……」

 俺はやっと絞り出して、人差し指を田町だった肉塊へ向けた。

 事情を察したような表情をした松木へ山本が飛びかかった。松木は咄嗟に右腕で庇うと、山本はその右腕に噛みついた。

 松木は右腕に噛みついた山本を左腕で殴り飛ばした。しかし山本は口を放さず、松木の右腕は引きちぎれて山本ごと部屋の隅に吹き飛んだ。

 山本はすぐに松木の腕を吹き離し、飛び上がると壁を蹴って松木に飛び掛かった。

 松木は引きちぎれた右腕の傷口を山本へ向けた。吹き出た血しぶきが山本の全身に掛かり、山本が一瞬怯むと、それを見逃さず松木は山本の上顎を掴み、山本の首を引きちぎった。

 頭を失った山本は、それでも倒れずにまるで黒板を引っ掻くような不気味な鳴き声を発すると、窓ガラスに飛び掛かりそのまま割って逃げて行ってしまった。

「見ろよ」

 松木が山本の首の断面のほうをこちらへ向けて俺に見せた。その中は空っぽだった。脳みそも、まるで食い散らかされたように肉片が少し残るばかりで、頭蓋の中には何も無かった。

「ニュースで最近やってるだろう。日本に入り込んだ四匹の寄生生物。三匹は駆除されたらしいが、残りの一匹が行方不明って話しだった。おそらく、山本はもうな」

「宿主を田町に乗り換えようとしてたのか」

「わからん。ただの食事かもしれねえ。それにしても、青木の奴から大事な話しがあるからと呼び出されてみればこの有り様だ。お前も呼び出されたのか」

 俺は松木に対して頷いてみせた。その時、青木が部屋へ入ってきて、そのまま膝から崩れ落ちて、

「何だこれ……」

 と枯れるような声を出した。松木が粗方事情を話すと、

「俺の、俺の子は……」

 と言った。

「俺と田町は、一緒になろうと誓いあったんだ。そのことを今日お前たちに伝えたくて、あいつの腹には俺の……」

 松木が田町の死体を仰向けに転がして、服を剥いででっぷりと太った腹を確認した。

「何か刃物はあるか」

 俺は部屋にあった文房具のはさみを探して渡すと、松木は片腕で器用に田町の腹を裂いた。

 中には、まだ小さな赤子が入っていた。

「まだ生きてるが、死ぬのは時間の問題だろう」

「何とか生かす方法は無いか」

 俺が言うと、後ろで聞いていた青木が、

「俺が育てる」

 と言って自分のへそに両手の指を掛け、そのまま腹を裂いた。

 松木は頷いて、田町の腹から赤子を取り出して青木の腹に突っ込んだ。

 青木はそのまま腹を塞ぎ、松木で片手で強く傷口を握るとその握圧で傷を塞いだ。

「これからどうするんだ」

 俺は青木に問うと、 

「分からない」

と言った。無理も無い。

「酒はあるかね」

 松木が言うと、青木は部屋の隅の棚を指差した。

「上等じゃねえか」

 棚を開け、銘柄を確認して言った松木はそのまま瓶の蓋を食いちぎって開けると中身を右腕にかけた。

 松木はライターを取り出して傷口を炙ると、松明のように右腕が燃え上がった。

「これで消毒は出来たな」

 松木は続けて懐からパイプを取り出し加えると、

「おっと、妊夫の前だったな」

 と言ってまたしまった。

「とりあえず、どこか。そうだ、ここからなら伊那の家が近い」

 俺の提案に松木は頷くと、まだ心身定まらない青木の肩を抱えて、俺たちは伊那の家へ向かった。

 伊那の家であらましを伊那に語ると、伊那は悲しそうな顔をして言った。

「山本、あいつは俺の親友だった。そうか、もう」

「こうなった以上、他に頼れるような人はいねえかな」

 俺がそう言うと、伊那は戸棚の引き出しをがさがさと探して名刺を一つ取り出した。「高田」と書いてあった。

「こいつなら、必ず守ってくれる」

「そいつはどこにいるんだ」

「長旅になるが、案内しよう」

 そう言って伊那が立ち上がった瞬間だった。天井が崩れて落ちてきて、そこから首の無くなった山本が現れた。

 山本はそのまま青木の首をへし折って引きちぎり、翻って伊那の腹に手を入れてぐりぐりと回した。頼みの松木は、たまたま立っていた位置が遠く、間に合わなかった。

 松木が飛び蹴って山本を吹き飛ばすと、伊那は

「俺の首を!」

 と叫んだ。頭の無い、腹に子を宿した青木、腹に大穴を開けられ臓器をぐちゃぐちゃにかき回された伊那。松木は一瞬でその意味を理解すると、そのまま持ってきていたはさみを振るって伊那に首をきれいに裂き、青木の胴体に押し繋げた。

「これで、ともかくこの子は助かる」

 伊那が言うのと同時に山本が再び飛び掛かって松木へ飛び付いた。松木の背にへばりついた山本を、松木はそのまま後ろに下がって壁に押し付けた。すると山本の首のところから何やら虫なようなものが現れ松木の耳へ伝って入った。

「だろうと思ったぜ」 

 松木は服をはだけて胸をさらした。そこには大穴が空いていて、いつやったのか、心臓が無かった。

「俺に入ろうとしてるのは分かってたんだ。だから、さっき潰しておいた」

 松木は不敵に笑うと、俺と伊那に、

「離れろ!」

 叫んだ。言われた通り俺たちが後ずさると、そのままうつ伏せに松木は倒れこみ、どうやら絶命したようだった。

 しかし、寄生生物はまだ生きているようだった。松木の男根がひとりでに離れて、こちらへ向かって芋虫のように這ってきた。 

「そんなに生きたいか」

 伊那はそう言うと、その男根を踏み潰した。その中に潜んでいたであろう寄生生物も、さすがに死んだようだった。

 そのあと、俺と伊那は二人で高田の元を訪れた。あいつは事情を語ると何も言わずに、俺と伊那を招き入れてくれた。 

 その後、俺と高田で伊那の出産を見届けると、伊那はそのまま産後の肥立ちが悪く、息を引き取った。その翌日には憲兵が訪れて、俺は全ての殺人の嫌疑を掛けられて逮捕された。

 俺は寄生生物のことを語ったんだけどな。あの生物は死ぬと灰になって残らないらしい。だから研究が進まずに往生してるらしいんだが、ともかく証拠が無いから俺はいまだに獄のなかと言うわけだ。

 ヤスシ、お前のことは手紙で聞いてるよ。そうか、高田はお前の生まれたときのことについて何も語ってくれなかったのか。

 ともかく、俺の知ってることはこれで終わり。さあ、もう面会時間も終わりだ。よければ、また来てくれよ。

実話(大嘘)

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