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エピローグ

「おはよう、咲良」





 あれから、何日たっただろうか。梅雨も目前に控えた五月。今日も僕は、この場所を訪れていた。





「沙織の試合見てきたよ。すごかったんだ、次々にシュート決めてさ。今度は県予選だって。僕も何かやってみようかな、なんて、最近考えてるんだよ」





 何かあったら、咲良にも伝える。きっと、知りたいだろうから。つらいことを相談するのもやめようとは思わないけど、楽しいことを今まで伝えられなかった分、伝えていきたいんだ。





「最近、茜が学校のことを楽しそうに話すんだ。本当に良かったなって、茜の話を聞くたびに思うよ」





 別に、繕っているとか、そういうのではなく、坂本千秋とうまくやっているらしい。ついこのあいだも、坂本千秋が茜に振り回されるという珍しいものが見られたくらいだった。





「あと、最近なぜか佳奈と喋ることが多くなったような気がするよ。商店街に行くたびに顔あわせてるし……。まあ、相変わらずなんだけどね」





 でも、すこし距離が縮まったような気もしている。気のせいかもしれないけど。





「さてと、そろそろ行くよ。学校あるから。また放課後に……そうだ、買い物頼まれてるんだった。じゃあ、また明日かな」





 完全に散った桜の木には緑一つついていない。寿命を迎えた大木に笑顔を向け、いつものように獣道をおりた。この場所に来ると咲良の力を分けてもらえるような、そんな気がしていた。ずっと、こうして通い続けるのは逆に心配かけるかもしれないとは思いつつ。





 あの後も、僕は問題なく生活をおくっている。あんなに心配させたのだから、これ以上恥じるような生活はおくりたくなかった。





 因みに、咲良のことは沙織にだけ話した。おいおい話す必要はあるだろうが、佳奈と茜にはまだ伏せている。僕が話そうと思ったときに言えばいい、と沙織もいってくれた。どうやら、咲良から何かを言われていたようで、僕が伝えなくても沙織は事情をわかっていたようだ。





 だから、何も言わない僕を慰めてくれたのも沙織だった。





「基」


「……沙織」





 獣道を下りた先に沙織は待っていた。あの日以来、どうにも話す回数が減っている気がしたので、丁度よかった。





「どうしたんだよ?」





 とはいえ、少し様子がおかしい。何か言いにくいことでもあるのか、沙織は身構えていた。





「あのね、基」


「ん?」


「私はずっといるから。基の傍に」


「ぁ……」





 ずっと、心配をかけていたんだろう。あの日からずっと、咲良の元へ通い詰めていたから。沙織には悪いことをしたな。


 でも、どうして僕の周りにはこんないい人しかいないのだろうか。本当に恵まれていると、実感してしまう。





「ありがとう。沙織」





 これからも、多くの困難が待ち受けていて、それを乗り越えていかなければならいのだろう。そんな時には、また壁にぶつかって、僕はその前で立ち往生してしまうかもしれない。





 僕は、少し前までスタートラインにすら立っていなかった。同じ場所に立って、周りと自分を比べるのが怖かった。いざ、走り出しても、目の前の障害から逃げることばかり考えていた。避けて通ることを考えていた。でも、咲良は教えてくれた。その障害を乗り越える方法を。





 僕は恐る恐る走り出した。でも、気付けば僕を支えてくれる人はいっぱいいて。茜や沙織や佳奈に助けられながら、今も見えないゴールに向かって走り続けている。





 少し前まで、我儘で傲慢で偽善者だった。後ろばかりみて、下を向いて、決して前を見ようとしていなかった。でも、今は前を向いていられる。立ち止まってしまっても、ずっと前を見続けていられる。僕が誇れる自分になるために。





 ある日少年はとある少女と出会った。少女は多くの贈り物をして去って行き、少年は気付くのだ。自分がどうありたいのかを。自分の決意と答えを求めて、前を、先を見ることを諦めてはいけないことを。そうして、少年のセカイは色づいた。それが、僕の物語。





 ……いや、物語の序章と言うべきかもしれない。


 


 これから、めぐる僕の人生。それは、きっと今まで以上につらいものであるだろう。それでも、僕は進んでいく。その為の目印を咲良がくれたのだから。






小さなセカイに、美しいきせつを咲かせる。そのために――


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