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セカイにきせつを咲かせよう。  作者: 吉田 樹
第八章「気づいた答え」
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第3話「自分の自覚」

 それきり、茜は一言もしゃべらなかった。かくいう僕も言葉をもたない。これ以上の会話は何も生まない。それをお互いが自覚しているから。


 でも、やっぱり気持ちの整理はそう簡単につくものじゃなかった。その日の夜も結局まともに寝れなくて、少しの睡眠と共に夜はあけた。二つの決意を胸に秘め。





「いってきます」





 日が差し込む薄暗い玄関に変な趣きを感じる。きっと、気持ちのせいなのだろう。





「うん。いってらっしゃい。シャキッとしてね、お兄」


「うん」





 まだ登校にはだいぶ早い時間。日が昇り始めてから、そう時間は経過していない。少し薄暗いようにも感じられる早朝の通学路を、妹に送り出された僕は進む。


 奈央のように教室にまで赴いたり、呼び出したりできれば格好もつくと思うのだが、如何せん僕にそんな勇気はなかった。校門前で捕まえる方がはるかに楽だ。心の準備をしている余裕がないかわり、目の前に現れたら行動をおこさざるおえなくなるのだから。





 学校が視界に入ると、胸の鼓動が高まり始める。こんな落ち着かない状態で人を待つなんて出来るのだろうか。いや、またなきゃ何も始まらない。言葉にするには、その機会が必要だから。





「あ……」


「え……」





 だけど、待つはずだった人物はそこにいた。校門の影に半分隠れるようにして、奈央は立っていた。





「もと……桐原先輩。おはようございます」


「……おはよう」





 そこにいるなんて思わなかったからだろうか。言おうと思っていた言葉が、頭から抜けていく。何をどうしたらいいのか分からなくなっていた。





「桐原先輩。昨日はすいませんでしたっ!」


「あ……」





 頭を下げてきた奈央を見て気付いた。僕は安心していたんだ。奈央が昨日のことを忘れようとしていたら、きっと話すのは難しい。そう思っていたから。


でも、そこに奈央がいて、そして期待したんだ。奈央が何か言ってくれるって。





 こんなのダメに決まってる。結局奈央にまで甘えるのか。昨日傷つけておいて、いざ謝られたらこの立場に甘んじてしまうのか。違う。以前の僕ならそうだったかもしれない。でも、今はそれが何の意味もないと、逃げだと理解した、自覚したんだ。





「奈央」


「っ!」





 名前で呼ばれることへの異常なまでの反応。昨日のことが奈央の心に大きな傷を与えたのは、確かだった。





「場所を移してもいいかな。奈央に話したいことがあるんだ」


「……はい」





 顔を上げた奈央の顔にあったのは恐怖心だった。





 その表情は僕の行動の結果だと見せつけられたかのようで、ただ、無言のままあの教室へと向かった。後ろから奈央がついてくるのを確認しつつ、歩調を合わせて向かう先は、四階別館空き教室。奈央が僕に気持ちを打ち明けた場所だった。





「ここでいいかな?」


「……はい」





 相変わらずかび臭い教室内に、奈央と入りドアを閉める。今度は僕から気持ちを伝えるのだ。だからきっと、ここしかない。そう思った。





「……奈央」


「はい」


「昨日はごめん。無神経だった」


「……」





 奈央は顔を伏せたままで、その表情はうかがえない。だけど、笑っていないことぐらい僕にだってわかる。





「僕は、君とはつきあえない。……好きな人がいるんだ」


「っ!」





 奈央の肩が小さく震える。これ以上何も言えなかった。必要以上の言葉は逆効果にしかならないから。でも、辛くて仕方がなかった。人の思いを断ち切るという行為は、心が張り裂けそうで。





 奈央の気持ちや勇気を考えると、僕のしたことがどれだけのものなのかがわかる。だからこそ、僕は答えを出さないゃならないと思った。





 僕の答えを告げた結果、奈央のこんな姿を目にしたのが、苦しくて仕方ない。言葉には出来ない思いがこみ上げてくる。


 でも、奈央はもっとずっと辛いんだ。


 僕のことを今まで見てきて、それでも好きという気持ちをもっていてくれた。


 僕のことを考えて、僕のことを思ってくれた。


 それを、言葉にしてくれた。


 なのに、僕は断ることしかできない。


 好きでもないのに付き合うのは失礼だ。でも、ふられるのだって辛いはずだ。


 そんなの、わかってる。


 結局、僕のただの自己満足なのかもしれない。


 それでも、これは僕が出さなきゃならない答えで、その結果だって受け止めなきゃならないのだから。





「あのまま、うやむやにしてくれても良かったんですよ? そんな、そんなハッキリ言わないでくださいよ……」





 奈央の顔には涙が流れていた。それでも、逃げずに自らの気持ちを口にしてくれたんだ。だからこそ、ただひたすら感謝するしかなかった。





「基先輩ってよんでもいいですか……」


「え?」





 奈央は涙を必死にこらえながら、笑顔を作って見せる。きっと、それが答えなんだ。





「うん。こちらこそ、奈央ってよんでもいいかな?」


「はいっ! お友達からってやつですね?」





 友達から。でも、それ以上にはならない。それをわかっていながら、奈央はそういった。これ以上、僕がここにいるのは奈央にとってもつらいだけだろう。





「それじゃあ、また」





 一言残して、教室を後にしようとドアノブに手をかけた時だった。





「基先輩は、うまくいくと、いいですね。私っ、応援してますっ!」


「……」





 嗚咽にまみれたその声は、奈央の心からの言葉だと、僕はそう受け取った。





「ありがとう」





 でも、奈央の顔を見ることはできなかった。






***





 


 放課後の訪れと共に僕は学校を飛び出した。咲良への思いを今言わなければ、二度と告げることができないようなそんな気がして。


 部活動に向かう生徒よりも早く教室を出ると、そのまま僕は走り出した。通学路をぬけ、獣道を駆け上がる。膨れ上がる気持ちを抑え込むことができなかった。





「そんなに急いでどうしたの?」





 そこには、桜と咲良の姿。上がった息を整えつつ、咲良の元へと歩み寄る。でも、一向に落ち着かない。咲良を目の前にして、気持ちを自覚したからだろうか。息が詰まるような感覚だ。





「咲良」


「……何?」


「大事な話がある」


「……ダメ」


「え?」





 一大決心と共に口にした言葉を何も聞かず否定された。そんな反応は予想もしていなかったし、どうしたらいいのか見当もつかない。





「基くん。あなたの気持ちはどこにあるのか。その答えはまだ聞けない。聞いたら、その内容がどうであれ、私はひけなくなってしまう」


「……どういうことだよ」





 咲良は僕以上に僕のことをわかっている。そんな気がしていた。でも、だからといって退ける話でもない。奈央を傷つけて、なおも突き通したこの気持ちを伝えるまでは。





「ダメなものは駄目なの。お願い」


「いやだ」


「っ!」





 気づけば僕は咲良の肩をわしづかみにしていた。驚き戸惑う咲良を目の前にして、気持ちが昂るのがわかる。でも、これ以上は駄目だ。いま、僕がするべきことは決まっている。





「好きなんだ、咲良。……僕と付き合ってくれ」


「……」





 咲良の顔に浮かんだ表情は不安と困惑。いや、少し違うかもしれない。でも、それが告白された人間の反応と違うことだけはわかった。





「基くん」


「何?」





 思いを告げた後の気持ち。焦りと緊張、そして恐怖。名前を呼ばれただけなのに、これから判決を言い渡される被告のような気分だった。





「高校生の恋愛はほとんどの場合、一生のものじゃない」


「そんなことは」





 かえってきたのは意外な言葉で、そんなことはないと、そう言いたかった。僕の気持ちはそんなに小さなものじゃないと。でも、咲良は僕の言葉を打消した。





「だから。だから、これは、今だけの気持ち。それでもいい?」


「……」





 僕の話を最初から否定してかかった咲良の姿を思い出す。何かに怯えるような、そんな目をしていた。





 理由があるのかもしれない。だったら、今は咲良の気持ちを受け入れることが先決だ。





「いいよ。咲良の思う形で構わない」


「……うん」





 なぜ、そんなにも寂しそうな顔をするのだろうか。好きとか嫌いとか、ましてや他に好きな人がいるとか。そんなふうじゃない。自分自身を責めるような表情で、咲良はそこに立っていた。





「ありがとう、基くん。嬉しい」


「あ……」





 その時みせた咲良の笑顔は、不安の混じった寂しそうな笑顔で。確信した。咲良は僕のことを拒んでいるわけではないと。こんなことで繕うような人ではないから、きっと嘘はついていない。






 でも、知ることが出来なかった。咲良の顔を曇らせるものの正体までは。


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