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セカイにきせつを咲かせよう。  作者: 吉田 樹
第七章「恋は思案の外」
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第3話「気持ちの揺らぎ」

 どんなに首をひねり続けても簡単に答えは出ないし、何より時間が過ぎるだけだった。茜には悪いけど、今日は沙織と話せそうにない。時間もだけど、何より僕自身がこんな状態で、まともに話せるとは思えなかった。





 ともかく、長居に意味はない。僕も早々と空き教室を後にする。下駄箱へと向かい階段を下りていると、偶然沙織の姿があった。





「あ……基」


「沙織」


「昨日はごめん。謝りたくって」





 どうやら、僕が来るのを待っていたらしい。僕が出向くべきだったのに待たせてしまった。





「僕こそ、立ち聞きなんてして悪かった」


「ううん。……私、昨日言いすぎちゃって。茜ちゃんにも謝った方がいいよね」


「茜も沙織に謝りたいって言ってたから、今度家に顔を出したらいいんじゃないかな」


「そっか。うん、わかった。ありがとう」





 そこで、安堵の表情を見せた沙織の顔が、不思議そうな疑問形へと変わっていく。





「基、何かあった?」


「え?」





 茜とのことだよな。うん、間違いないよな。さっきの告白ではないよな。そうだ


よな。うん。





「茜ちゃんと仲直りしたとか?」


「……うん。やっとお兄ちゃんになれた気がする」





 ちょっと気恥ずかしいセリフだけど、それは本当にうれしいことだった。だから、沙織にはつつみ隠さず伝えるべきだと思った。





「そっか。よかったね、基」


「うん」


「それに何より、何か吹っ切れたようでうれしいよ」


「……うん」





 その時見せた沙織の笑顔は、濁りのない真っ直ぐなもので。





 最近、こんな笑顔をみていなかった。それは、きっと僕が拒み続けていたから。沙織はいつも手を差し伸べてくれていて、その手を僕が掴まなかっただけなのだと、今になってはじめて気付いた。





「ありがとう。沙織」


「え、なに? どうしたの、基」


「いいや」





 素直に出た、僕の気持ちだった。僕の世界がまた変わったような、そんな気がしていた。勿論いい方向に。





「それじゃあ、私は部活行くね」


「あ、うん。がんばって」


「うんっ!」





 手を振り走り去るその元気な姿は、昔の沙織を見ているようだった。でもそれは、今まで僕が沙織のことをちゃんと見ようとしてこなかったことのあらわれだった。変わらなきゃならない。もっと、自信が持てるように。自分を誇れるように。





 でも、小鳥遊さんの告白は想定外で。頭の中がまとまらないまま、僕の足は桜へと向かっていた。





「こんにちは、基くん。……何か困ったことが起きたのかな。そんな顔してる」





 桜の場所に着くと、開口一番そう言われた。やっぱり僕は感情が顔に出やすいみたいだ。





「いや、あのさ。聞いてもいいかな?」





 いつものように、桜へと歩み寄りながら口にする。なぜだか彼女に聞くべきことでないような、でも聞きたいような、不思議な感覚だった。





「なに?」


「これは、仮の話なんだけど。女の子に告白されたら、どうしたらいいかな?」


「告白されたんだ?」


「え、いや」





 さすがに、いきなりこんな質問をして、ばれないほうがおかしいだろうことは、わかっていた。それでも、彼女の問いに肯定したくなくて。なのに、答えは聞きたかった。





「可愛い娘なら付き合ってみればいいと思う。勿論性格が良ければだけど」


「……そうかな?」





 何故だかわからないけど、否定されなかったことがどうにも納得できなくて。でも、なぜ否定されたかったのかは、疑問だった。





「いやなの? その娘と付き合うの」


「……いやとか、そういうことじゃないと思うんだけど」





 けど、心のどこかで何かが引っかかる。そんな感覚がどうにも落ち着かない。





「きっと、人に聞いても答えはでないよ。誰かから与えられた答えなんて本当の答えじゃない」


「……そうだね」





 彼女の言うことはもっともだ。だけど、それでも答えがほしいと思ってしまうのは、僕の心が弱いせいなのだろうか。





「茜さんの時も、結局は自分で答えを出して、そして乗り切ったんでしょ?」


「うん」





 でも、そんなの最後の話であって、多くの支えがあったことの方がきっと大きい。





「だったら、また考えればいいんじゃない? 告白をしてきた女の子としっかり向き合って話してみれば、おのずと答えはでてくるよ」





 今回のこれは、きっと自分一人で決めて答えを出すべきことなのだ。助けてもらうような、そんな話じゃない。





「……そうだね」





 なのに、なぜだろう。見える世界が変わったからだろうか。目の前に広がる風景は、僕にはとても苦しいもので。





 彼女の顔が悲しく映った。桜と共に悲しんでいるように見えたんだ。





「茜さんが家で待っているんじゃない? あんまり長居するのはよくないよ?」


「そうだった」





 茜に買い物を頼まれていたんだった。





「ごめん。帰るよ」


「……またね」


「うん。またくるよ」





 心にしこりのようなものを感じながら桜の元を後にする。





 長居するのはよくないよ。彼女のそんな言葉が、どうにも引っかかった。僕と話す時はいつも真剣で、楽しそうだったり、何かを伝えようとしていたり。彼女はいつも、僕と真摯に向き合っていた。





 なのに、今日はそっけなくって。冷たく感じて。それがどうにも辛かった。たまたま今日、彼女の気分がいつもと違ったという、それだけなのかもしれない。なのに、彼女の言葉が頭から離れてくれなかった。






***






 茜にダメ出しをくらいながらもどうにか夕飯を作り、料理の自信を失いそうになりながら、美味くも不味くもない夕飯を胃にいれた。





 それでも、今までにはなかったような家族のだんらんを感じられたような気がして、これはこれで良かったような気もする。食事中や、食後にかわす何気ない会話。それだけで、茜と兄妹として近くなれた気がしていた。でも、告白の話は口にできなかった。





 さっきの彼女の態度がどうしても気にかかるからだろうか。僕は適当に話を切り上げると、自室のベッドへ寝転がった。明日が来る前に、しっかりと考えておくべきだと思った。小鳥遊さんの為にも、何より自分自身の為にも。





「どうするかな」





 ふとこぼれる独り言。どうするも何もないのだが、それでもつい考えてしまう。小鳥遊さんとは付き合えないと、どこかで思っている。でも、なぜだかハッキリと断る勇気もなくて。





 付き合ってしまった方が、わだかまりなく済む気がする。でも、そんなのは駄目だろう。好きなのか、そうでないのか。それが、小鳥遊さんの求めている答えなのだから。





 やっぱり、事前になんて決められることじゃない。明日会って話して、それから考える。桜の下で、彼女にもそう言われたのだから。





 実際、僕は小鳥遊さんのことをよく知らない。だから、もしかしたら明日には好きになっているかもしれないのだ。それもまた、一つの可能性なのだから。





「お兄ー。先お風呂入るからー」


「わかったー」





 下から聞こえる茜の声に返事を返しつつ、相談したいと思ってしまった。茜の声を聞くと、まだやっぱり甘えたくなってしまう。頼ることと甘えることは違うのだ。





 これは、自分で解決するべき問題。でも、だからと言って、相手の気持ちを無視してはいけない。自分の尺度と思い込みで発言をしてもいけない。





 やっぱり、考えがまとまらなかった。





 その日の夜は落ち着かなくて、うまく寝付けなかった。おかげで翌日の朝、見事なまでの失言をしてしまう。いや、それは失言とは言わないかもしれないが、僕は別にこんなことを言うつもりはなかったのだ。






「お兄がデート⁉」


「……あ、うん」


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