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セカイにきせつを咲かせよう。  作者: 吉田 樹
第五章「僕の心と君の気持ち」
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第3話「振り返らずに」

 また、日をおいてしまった。でも今なら、いや今だからこそ彼女の所へ行く必要がある気がした。慣れた道のりにもかかわらず足が重く、なかなか前進できない。





 こんな獣道は初めてだった気がする。ただ僕の気持ちが歩幅を縮ませているだけなのは分かっているが、それでもきっと僕にとっては少し違った道のりになっていたのだ。





「……基くん」





 彼女はやっぱり桜の下に一人でいた。僕も彼女がここにいないなんて考えもしなかった。





「こんにちは」





 僕から挨拶したのは初めてのことだった。それでも今日は、それが当たりまえな気がした。





「こんにちは。……基くん。顔付きが、変わったね」


「そうかな?」





 桜の下に、彼女の元へ歩み寄りながら考えてみる。基本的に変化はないと思うのに、彼女は僕の何を感じ取ったのだろうと。





「よかった。安心したよ」





 そう言って、久々に見せてくれた彼女の笑顔にいつかのような純粋さを感じて、僕は嬉しくなった。





「僕は別に何をしたわけでも、何が出来るようになったわけでもないんだ。単純に言えば社会に背を向けたくないと思っただけなんだよ」


「そっか。でも、きっとそれだけじゃないんだよ。基くんは自分自身から逃げないように意識している。それがきっと大きいんじゃないかな」


「自分自身から逃げない……」





 そんなふうに考えたことはなかった。他のものから逃げないようにする、とは、考えていた。だからといってすぐに実行できているわけではなかったが。





 僕の中でほんの少しでも何かが変わったのだとしたら、それが彼女の笑顔に繫がったのだと思う。でも、僕はどう反応していいのか、どう思ったらいいのかがわからなかった。





「私、心配だったの。私が余計なことを言ったせいで基くんが傷付いてしまったと思って。だから、いろいろ言葉を重ねたんだ。でも、結局それは基くんを傷つけるだけで……。私自身も失敗ばっかりだった」


「……そうだったのか」





 ずっと彼女は僕のことを見透かしたようで、試しているのかと思っていた。でも違ったのか。彼女も悩んでいたんだ。





 僕に教えてくれた、言葉が与える影響。





 彼女の言葉が僕に与えた影響。それが、彼女の望んだ結果とは違ってしまったから。





「でも、基くん。これからが大変だよ。自分がどんなに納得していても、受け入れられなければ、大衆は容赦なく攻撃をしかけてくる」


「……」





 彼女はこうやって、僕のことを見透かしたような言葉をいつも発する。それが少し悔しかった。でも、今までの彼女の言葉に間違いはなかったように思う。


 僕も覚悟をもっていじめの循環に水を差したのだ。でも、平常ではいられなかった。不安があったからこそ、ここに足を運んだのだから。





「やっぱり僕はいじめられるのかな?」





 わかっているのに、答えが聞きたかった。僕以外の人間の、いや、彼女の答えが。





「そんなこと、わかってるんでしょ?」


「うん」





 でも、他人の言葉より自分で自覚したほうが、きっと僕の力になる。





「それで?」





 それで、今の僕はどうするのか。言葉にしないと、きっと僕はまた逃げ道を探すかもしれない。だからこそ、ここで彼女に言葉で伝えるのだ。





「大丈夫。真っ向からぶつかるつもりだから。遠回りして、逃げ回るつもりはない。そんなことをしたって何もできないってわかったから」


「……そうだね」





 僕の言葉に対して見せた彼女の笑顔。それは、もしかしたら自分自身を安心させるためのものなのかもしれない。はじめて見た彼女の笑顔との違いが、僕にはそう映った。





「ねえ基くん。答えはみつかった?」


「……いや、みつからないよ」





 そうだ。僕にはまだ、答なんて見いだせない。それでも、





「でも、少しずつみつけていくよ」


「……そっか」





 彼女は笑っていた。喋ることがそんなに楽しいのだろうか。いや、僕のほうこそ楽しかったし、嬉しかった。まだ、理解の及ばない相手の心の奥を理解できるときは来るのだろうか。いや、きっと来ない。僕は僕で、彼女は彼女だ。だからきっと、全てを理解することはできない。でも、考えることはできるんだ。僕がすることの意味とその影響を。彼女の気持ちとその行動を。





「そろそろ行くよ。明日のために策を考えておきたいんだ」


「そっか。……ねえ、基くん」


「なに?」


「まだ、聞きたいことが、話したいことがあるんじゃない?」


「……」





 茜のことを話したかった。どうしたらいいか聞きたかった。きっと彼女なら僕が考えるより、いい案を思いつくのだろう。それでも、僕が満足するために、自分の実力で最後まで挑みたかった。彼女に助けを求めるのは、手を尽くしてからでも遅くはないはずだ。





「またくるよ」


「……そっか。うん。またね」





 きっと、彼女は僕のことをわかっているのだろう。なんとなくそんな気がしていた。僕がわかりやすいだけなのかもしれない。沙織にもあんなに見抜かれるぐらいだ。でも、なんとなくだけど、彼女は特別な気がしていた。それは、僕がそうあってほしいと望んでいるだけに過ぎないのかもしれないけど。





 山を下りながら考える。茜に何かを話すべきか。いや、まだだ。明日、いじめの洗礼をうけてから、それから話さないときっと僕は茜の言葉を受け止めきれない。


なんとなくそんな気がした。


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